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第二章✬生まれつきの主人公
生まれつきの主人公
しおりを挟む「ん...」
亜紀は真っ白の布団の中で目を覚ました。
「あっ!起きた?」
ボヤけた亜紀の視界に、アコスの顔がうつる。
「アコスさん...」
亜紀はすぐに身を起こし、辺りを見渡した。
とても立派な布団で寝かされていて、部屋は8畳程しかないが、豪華な造りの一室だった。
刀や鎧が飾られてる。
(うわぁ...映画のセットみたい..織田信長が出てきそう...)
「おい、あき?大丈夫かぁ?
一体、何があったんだよぉ」
アコスが不安そうに話かけてくる。
ずっと亜紀の側にいてくれてたようだ。
「それが...」
亜紀は難しい顔をして、先程のことを思い出した。
(..なんか、集団リンチを見てるみたいだったな...
結局、あの土色をした人はどうなっちゃったんだろ...)
「あきぃぃ~!俺達、本当に大丈夫かなぁ??」
アコスが亜紀の腕にしがみついてきた。
「え?」
「...亜紀が寝てる間に、また一人増えたんだよぉ!」
アコスが『ムンクの叫び』のような顔をする。
「なにが、増えた..?」
相変わらずの亜紀のカタコトな言葉にアコスは苛立つ。
「ディアマのメンバーだよっ!!!」
ディアマのことを、亜紀もなんとなくは知っている。
『ディアマ』というチームに、クラーザは所属していて...
とても強くて有名で...
イルドナさんもアコスさんもそのチームに入りたいって憧れていて....
「ディアマの6人が、俺達と同じ屋根の下にいるんだよ――っ!!!!」
「えっ..!」
亜紀も驚いた。
メンバー全員が集結したのだ。
「どどどどどうしよう...!」
アコスが慌てている。
「アコスさん、落ち着く。クラーザいる、大丈夫...」
クラーザがいれば、なんとかなると思っている亜紀。
「ばかっ!ベルカイヌンだって、ディアマの一員なんだぞ!」
脅えまくるアコス。
「....」
亜紀はなんて言っていいのか返事に困った。
すると、アコスが亜紀に顔を近付けて、声を潜めた。
「...いいか、あき。
ディアマの連中は他の奴らと違って、一本どこか切れてんだ。
どんな時に、いきなり何を起こすかわからない」
(一本切れてるって...
頭がブッ飛んでる...ってことかなぁ..なんかわかるかも..)
「だから油断禁物だ!
いくら、あきはベルカイヌンに気に入られてるかといって、いつ飽きられるかわからないしな!
ディアマじゃない俺達ふたりは仲間だ!
助け合おうな!わかったか?」
アコスは亜紀を説得する。
「うん..助け合う」
亜紀は頷いた。
弱者同士の同盟を結んだ。
「よし!」
アコスも深く頷いた。
そして...
「...ところで、あき。
不運なお知らせがあるんだけど...」
「え??」
亜紀は身を乗り出してアコスの言葉に詰め寄る。
「実は...」
アコスは言葉を濁す。
「アコスさん、なに?」
「あきが目覚めたら、晩餐会に来るように....ってグラベン様が」
「えぇぇえぇ――っ!!!!」
亜紀はのけ反った。
「ア...ア...アコスさんは...?」
「俺は行かないよ。呼ばれてないもん。
ディアマの宴会に入っていける訳がないよ」
アコスはホッとした顔をしてる。
対象的に、亜紀は取り乱すように慌てた。
(晩餐会ってことは...!
お酒をついだり、少しお話をしたり―――っ!!!!?
そんなホステスみたいなこと、アタシごときが上手にできる訳ないよ―――っ!!!!)
しかも、一度亜紀は失敗をしている。
新羅に脅されながら、宴会に出させられたのもあるが、緊張し過ぎて酒をひっくり返してしまった。
その時は、クラーザがフォローしてくれたが、今回はクラーザはいない!
オロオロと不安になる亜紀に、アコスが更に追い打ちをかけた。
「...失敗したら、ただじゃ済まされないと思うから気をつけて...」
「えぇ...?」
「下手なことも言っちゃダメだぞ?
ディアマ様の皆の機嫌をおだてて、うまくやれよ?」
「...アッ..アコスさぁん...」
亜紀はほぼ半泣きになった。
「どうしよう...!」
髪を整えるにもクシがない。
正装できる服もない。
この世界に戻ってきた時に着ていた派手に汚した服は、洗って干してある。....デニムにTシャツだが。
今はアコスの服を借りている。
....所々、穴が空いているが。
「あきは美人だから、格好なんてどうでもいいよ!
それより、ずっと待たせる方がマズイから、早く行けよ」
アコスが急かす。
「応援はしてるから!」
何とも頼りない言葉を付け加えて。
「う...うん」
亜紀は立ちくらみしそうな身体を奮い起こした。
...ギッ...ギッ...ギッ...ギッ...
亜紀は急ぎ足で、長い渡り廊下を歩いた。
(まずは、挨拶をして..
上座に座ってる方からお酒を注いでいく??
いや...グラベンさんが1番偉いんだから、グラベンさんにまず挨拶をして...)
亜紀が気絶して寝ている間に、日は落ちていた。
夜はかなり涼しい。
(アタシは下座に座って...お酒は右手で持って..??
あぁあぁ!!!全然わかんないよー!!!!)
亜紀は頭をひねらせた。
...ギッ....ギッ.....ピタ
何も解決できぬまま、部屋の前に着いてしまった。
後ろを振り返ると...
「.....」
アコスはいなかった。
仲間だとか言いながら無責任だなぁと思った。
宴会場の部屋は、
外から見ただけでも、とても広く見えた。
カタッ..
ドキドキしながら戸に手をかける。
「わははははははっ」
すると、中からグラベンの豪快な笑い声が聞こえてきた。
(...楽しい宴会に、
これからアタシが水を差してしまうんだろうか...)
気を重くしたまま、亜紀は戸を開けた。
「しっ...失礼しますっ...」
ガッ.....
亜紀は膝をついて、部屋の中を覗いた。
「おっ!紅乃亜紀!やっと来たか!早く中に入れよ」
グラベンがすぐに亜紀に気付いた。
(えっ....!??)
亜紀は、目を疑った。
なぜなら...
「もう、食うモン、なくなるぞ」
アダが鼻で笑う。
「....」
亜紀は口をポカァンと開けた。
だだっ広いその部屋に、グラベン、フッソワ、アダ、ランレートと、そして初めて見る顔の人を含めてたったの5人、
...小さな円になって、だべっていた。
(晩餐会だったんじゃ....)
5人の中央には、皿の代わりに紙が広げられ、その上に色んな種類のつまみがゴチャゴチャと入っている。
酒や杯が、無造作に転がっていた。
....まるで、誰かの部屋に集まって、コソコソと夜更かしして騒いでいる様子に似ていた。
スナック菓子をパーティー開けして、皆でつっついて、
若者がダラダラと、たむろしているようだった。
『晩餐会』とは似つかわしくない。
これなら、こんなに広い宴会場でなくても、6畳の狭い部屋で十分だ。
上座だとか下座とか、全く気にしている様子ではなかった。
「ぼーっと突っ立ってねぇで、早くどっか座りな」
そう言うグラベンは、上座ではなく下座に座っていた。
皆が胡座や足を崩して、楽な格好で散らばっている。
「は...はいっ..」
とりあえず亜紀は、グラベンの隣に正座した。
(..こんなんで、いいのかなぁ)
亜紀が中に加わっても、
皆は、賑やかに話を続け始めた。
話を聞いていると『ディアマ』のメンバーが揃うのは、
とても久しいらしく、思い出話や近況話で多いに盛り上がっていた。
礼儀や作法など考えて頭を爆発させそうになっていた亜紀は、輪の中で浮いた存在になってしまい、同じ場所にいながら、孤立した感じになってしまった。
カチカチに固まっている亜紀に飲み物をすすめてくれたのは、右横にいたアダだった。
「ずっと眺めていたって、何も食えないぞ」
そう言って、酒の入った杯を亜紀に手渡した。
「...」
亜紀は受け取り、アダの顔を見た。
アダは一見、クールな顔つきに見えて、些細な気遣いをしてくれる。
(近くで見ると...お肌ピチピチ...アタシと同年代なのかも..)
そんなアダの横には、気に食わない顔をしたフッソワが偉そうに寝っ転がり、肩肘をついて亜紀を見てきた。
「ケッ...気に入らねぇな。
うまいコト、猫でも被ってんじゃねーかぁ?
気絶したのも何かの演技だろ」
亜紀に視線をよこしたまま、
フッソワは乾き物を口にし、クチャクチャと音をたてて食べた。
「えっ...」
亜紀は『猫を被る』という言葉がわからずキョトンとしたが、『演技』と言われて、今言われようとしていることに気が付いた。
(アタシ、演技で気絶したんじゃないのに....!)
「わはは!なぁんだよ、フッソワ!
まだ負けが認められねぇのか!」
グラベンが爆笑する。
「え..?え...?」
亜紀は訳がわからず、グラベンとフッソワの顔を交互に見た。
すると、亜紀の困惑した顔に、またアダが助け舟を出す。
「..俺達だけのゲームの話だ」
「ゲーム??」
亜紀がそう繰り返すと、皆が一斉に亜紀に視線を集めた。
アダの言葉に便乗して、1番遠くに座っているランレートがやっと口を開く。
「あのね、今日みたいにね、下級妖怪が私達のことを知らずに、たまにふらりと私達の前に現れることがあるんだ」
まさか『ディアマ』のメンバーがいるとは知らずに、
結界を越えてきてしまう下級妖怪。
そんな時、決まりきったようにさっさと片付けてきたのだが、
ある日、ディアマの6人が揃っている時に、片手でも捻り潰せそうな下級妖怪が一匹フラフラと現れたことがあった。
「で、誰が殺るか、一瞬迷っちまった時があったんだよ。
まさか俺達6人でかかる必要はねぇしな」
グラベンがニタニタと話を付け足した。
一瞬、タイミングを逃してしまうと、誰が殺るのか皆が迷った。
当の下級妖怪は、目の前にいる6人が、まさか彼の有名な『ディアマ』だとは思いもせず、生意気な態度。
...そんな時に、出た言葉がグラベンの
『なぁおめぇ..『ディアマ』って知ってるか?』
だった。
すると、下級妖怪は驚いてわななき震え出した。
その様子を見て哀れに思ったメンバーは、
『俺が楽に死なせてやる』とそれぞれがかって出た。
しかし、そんな相談をしているうちに、下級妖怪は泡を吹いて気絶してしまったのだった。
「...んで、そんな手があっんだって気付いたワケだ」
グラベンが白い歯を見せる。
つまり、手を下さずに敵を倒す方法だ。
「それが段々とゲーム化していって、
誰の言葉で気絶するかっていう勝負をしているんだよ」
ランレートが苦笑いして言った。
だが、ランレートもまんざらではない様子。
ゲームを重ねるたびに、色んなルールを付け加えていって、
今では、グラベンが
『なぁおめぇ、ディアマって知ってるか?』と言ったらゲーム開始で、敵から近い順に、一言ずつ、恐がらせる台詞を言っていく、というわけだ。
「...最後は...どうなる..?」
亜紀は敵の結末を尋ねた。
「ランレートは記憶を曖昧にする魔術が使えるからな。
その下級妖怪の記憶を一部消すんだ。
俺達の顔やイメージ、居場所をな」
アダが答えた。
「そんなこと...できる..?」
「全てを消すことはできないけど、ある程度はね」
ランレートが亜紀に優しく微笑む。
すると、グラベンがまた言葉を挟んできた。
「それがいいんだ!
その下級妖怪が生き残って、俺達の顔はいまいち覚えてねぇのに『ディアマ』は怖かったって頭に焼き付いて、色んな奴に言いふらすからな!
それで『ディアマ』って名がドンドン広まっていくんだよ!わははっ」
その時、亜紀はとても恐ろしく思っていた『ディアマ』が、やんちゃな子供の集まりのように感じた。
「今日は完敗だな。
グラベンの言葉で、二人も気絶してしまうんだから」
アダが亜紀の顔を見た。
「ケッ...!」
負けず嫌いのフッソワが唾を吐く。
「あぁ...アハハ...すっすごく...怖かった....ハハッ...」
亜紀はグラベンに笑顔を返すつもりだったが、
不自然なほど、気持ちの悪い笑みになってしまった。
「わははははははっ!こいつぁ最高だなっ!」
上機嫌になるグラベン。
そこに、ムキになってフッソワが顔を突っ込んだ。
「今回のグラベンの台詞なんざ、ちっともビビること言ってねーじゃねぇか!なにが怖んだよ!?」
「えっ...あ...えっと..」
亜紀は目線を天井に、言葉を考えた。
「フッソワのぶぁか!『殺す』って直接言うより、間接的に言った方が迫力があんだよ!頭を使いな!ばか!わははっ」
グラベンが笑い転げる。
それを見たランレートもアダも声を出して笑った。
「んだとぉ!!!次は見てやがれってんだ!」
フッソワも口は悪いが、その場を楽しんでいるようだった。
亜紀はその場に馴染むように、こうなったら、たくさん酒を飲んでしまえとばかりに、酒を煽った。
「ふぅ...ハッハハ...あはっ..」
おかげで陽気な気分になってきた。
「おめぇ、妖魔女のクセになかなか飲めるじゃねぇーか」
フッソワが亜紀の酒豪ぶりに関心した。
『妖魔女のクセ』というところは、嫌味だが。
「...お酒、好き」
亜紀はフッソワに笑みを返した。
「ゾードと、どっちが強ぇーかな」
グラベンがニヤニヤと、亜紀とゾードと呼ばれる新顔を見比べた。
ゾードは、亜紀が見る『ディアマ』の最後の一人で、人の話を聞いているだけで、全く口を開かない。
亜紀は、ゾードをチラ見した。
「.....」
「.....なんだ?俺はくだらない勝負なんぞせんぞ」
ゾードの声は低いが、女のような声だった。
背はやはり高く、体格もガッチリとしている。
....見た目は、男だ。
「おいおい!競争心がねぇー奴は伸びねぇぞ!」
グラベンが笑い飛ばす。
するとランレートが、気の抜けそうな間抜けな声を上げた。
「もぉ~グラベン君は何でもかんでも勝負にしたがるんだからぁ~」
「お前らだけでやってろ」
ゾードが口元を緩ませ、笑いながら言った。
「冷めたヤローばっかだなぁ!」
グラベンは口を尖らせた。
「なぁ?妖魔女、おめぇ俺らのことどう思うよ?
クラーザ以外のディアマはどうよ?」
いきなりフッソワが、亜紀に話を振ってきた。
「..こんな馬鹿ばっかの奴らが、
クラーザの仲間で驚いてんじゃないのか?」
ゾードが他人事のように言う。
「馬鹿とはなんだ。
ゾードだって、完全に『ディアマ』の一員じゃないか」
アダが突っ込みを入れる。
「ちょっと待ってよ~。
『ディアマ』だからって全員を一緒にしないでよー」
ランレートが批判するが、またそこにグラベンが言葉をかぶせる。
「なぁんでだよ!俺達、皆同じじゃねーか!がははっ」
「あえて振り分けるなら、
五月蝿いのはグラベンとフッソワとアダ、
大人なのは、ランと俺だな」
さっきまで黙っていたゾードが話を仕切る。
「クラーザは.....?」
亜紀がゾードにすかさず、たずねた。
クラーザの様子だと『ディアマ』はクラーザにとって、唯一、安らげる居場所のようだ。
そのディアマでのクラーザがどんな存在なのか、亜紀は知りたい。
「んー...クラーザか...」
ゾードが少し頭を悩ませた。
「いやいや、ウルサイ組だろ」
グラベンが迷わず言う。
「えっ?」
亜紀は驚いた。まさか、あのクラーザが??
「なんてったって勝負にこだわるのは、あいつだしな!
カンに障るぜ!」
フッソワが野次を飛ばす。
ランレートが笑顔でそれに頷いた。
「そうだね!弱者気絶ゲームでも、いつも勝ちはクラーザかグラベン君かって感じだしね!」
(うそ...まさかあのクラーザが..)
亜紀は目を丸くしながら話に聞き入った。
次にアダが酒を口に含んで言う。
「クラーザは頭がいいからな。
心理作戦じゃ、あいつを越える奴はいないよ」
(そうなんだぁ...)
「おめぇも黙されねぇーように気をつけるこった!」
フッソワが亜紀を上から目線で見る。
「はぁ...」
皆がニヤニヤと笑う。
そして亜紀は、とても気になっていることをやっと口に出した。
「あのぅ...」
皆が亜紀に注目する。
「...ディアマのリーダーは、グラベンさん??
グラベンさん、1番偉い??」
グラベンは下座に座っていても、常に話の真ん中にいる。
皆のグラベンに向ける視線が特別な気がする。
....だが、何故か下座で、何故かあまり偉そうでない。
「知ってどうすんだ?ゴマでもするつもりかぁ?」
フッソワが揚げ足をとる。
「そんな違う!...でも..」
亜紀はすぐに否定するが、
リーダーが誰なのかは知っておきたい。
するとグラベンは、急に真顔になった。
「このチームにリーダーはいねぇよ。
皆が1番で、誰も偉くねぇ」
グラベンの言葉に皆が耳を傾けた。
「見ての通り、全員が個性豊かで、全員強え。
でもディアマは信用できる奴しか集まらねぇ。
そんな奴しか、チームには入れねんだ」
「...」
亜紀はグラベンの明るいオーラに惹かれた。
何事も前向きで、嫌味がなくて、楽しそう...
「だけど、リーダーはお前しかいないだろ」
ゾードがグラベンに言った。
「こんな変わり者ばかりの、我がままで勝手気ままな連中をまとめられるのは、グラベンしかいないな」
アダも同意する。
「俺はリーダーじゃねぇ」
だが、グラベンがそう言い切る。
賑やかな夜は、長く続いた。
話題が途切れることなく、笑いが耐えることなく、
静かに夜は更けていった。
酔っ払い、遂に部屋中を走り回るグラベンとフッソワ。
それを見て、
指を指して笑い転げるゾードとアダ。
「不思議でしょ..」
皆の様子を楽しそうに眺める亜紀に、
ランレートが話かけてきた。
「グラベン君には、なぜか引き付けられるんだ」
「..ランさん」
亜紀は両手で杯を持ち、ランレートの目を見つめた。
「クラーザもフッソワ君も、アダもゾードも、そして私も、
グラベン君に出会わなければ、ずっと一人だった..」
ランレートは、フッソワを追いかけ回して跳び蹴りを食らわして爆笑しているグラベンを見ていた。
「...ひとり...?」
「...そうだよ。私達に仲間は必要ない」
個々でも強い者たち。チームを組む必要はない。
たったひとりで生きていける。
だが、グラベンと出会った。
「私達は、寄り添う為に集まった訳じゃないんだ」
―――じゃあ何の為?
「皆、グラベン君の不思議な魅力に惹かれて集まったんだ。
...グラベン君には人を寄せ付ける不思議な力がある」
―――不思議な魅力??
「グラベン君の側にいると、つまらないことでも毎日がすごく楽しんだ。それに、自分が輝く」
――――輝く....
「グラベン君は人を引きつける星の下に生まれた人なんだね」
ランレートが言ったことが、亜紀にも自然とわかった。
魅力がある人...
誰もが憧れる人....
初めて彼を見たときに、明るいオーラを感じた。
それは、霊感とかそういうのではなく、その人が持っている魅力なのだろう。
確かにすんなりと頷けた。
勝手気ままな、自己意識の強い、フッソワ。
クールでニヒルな、アダ。
掴みきれないサド的な、ゾード。
フワフワしていて奇妙な、ランレート。
そして、飄々と生きる切れ者の、クラーザ。
そんな5人が、自ら歩み寄るとは到底考えられない。
「...グラベンさん..」
皆、グラベンに引き寄せられて、
自然に仲間意識が沸いたのだ。
(すごい人...)
それを明るくやり通してしまうところが。
亜紀はグラベンを想った。
偉そうでもなく、だからといって変に謙虚なわけでもない。
(きっと、楽しんでるんだ...)
好きな者を集めて、好きな者と騒いで、
自分の力で好きなように生きている。
...だから、無邪気な子供の集まりに見えたのか。
心の底から楽しんで気を許せる、
信頼した仲間たちだけの集まりだから。
コトン....
夜明け頃、
クラーザのすぐ近くで物音がした。
「...」
クラーザは目を覚まし、音がした方に目をやった。
「.....う...ん.....」
クラーザのすぐ側で、
酒の匂いを漂わせた亜紀が寝込んでいた。
床板に寝心地悪そうに包まっている。
「...」
グッ...
クラーザは亜紀を引き寄せ、布団の中に入れてやった。
亜紀は目を覚ますことなく布団に入り込んだ。
「....う..ん..大丈夫...飲め...る..」
「...」
クラーザはそっと亜紀に手を回し、腕枕をしてやった。
「...はい...グラベ..ンさ....は...い....大丈夫...」
夢の中ででも、グラベンとしゃべっているようだ。
亜紀は出会った頃も寝言をしゃべっていた。
あの頃は、クラーザのわからない言葉だったが...。
「..グラベン..さん....すごっ.....はい...信じ..る....信頼す...る」
亜紀は思っていても口に出せなかった言葉を、夢の中で、一生懸命に話しているのだろう。
クラーザは、空いた方の手で、亜紀の髪をのけ、柔らかい頬に触れた。
「..ん....」
亜紀の寝言が止まる。
「...」
クラーザは手をあてたまま、親指で亜紀の頬をなぞった。
グン..
亜紀は寝返りをうち、クラーザの方を向いた。
「....ん....ク..ラーザァ...」
寝ぼけたまま、クラーザに擦り寄ってきた。
先程と打って変わり、甘えた声を出す亜紀に、
クラーザは、かすかに微笑んだ。
「...」
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