転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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マーシュ・スリート  1 精霊契約

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 私の人生の転機は、10歳で行われる精霊との契約の儀であった。

 我がスリート家は、代々武門の家として伯爵位を拝命し、攻撃魔法に長けた『火の精霊』と契約を結ぶ事によってその地位を磐石な者としてきた。スリート家に生まれてきた者は強弱の差はあれど火の精霊と契約を交わし、その代の一番強い者が当主となる慣わしすらあった。

 私はその現当主の長男として生まれ、物心ついた頃から学業に武術にと同年代の従兄弟達と切磋琢磨し、頭二つ分ぐらいは飛び抜けていると自他共に認め。ほぼ次期当主も私ではないかと、囁かれ始めた頃、私は10歳になった。

 精霊との契約の儀は、その年10歳になる子供が男女身分問わず居住地の神殿に集められ、一年で一番昼が長い夏至の日の太陽が天中に昇る時に、一斉に精霊との契約を結ぶ儀式である。

 我がスリート家は王都にあるので、王都にある神殿で、その上上級貴族であるので王城の中にある大神殿で契約の儀を受ける事になった。

 精霊との契約の儀自体は一瞬のうちに終わると聞いた。神殿の床に描かれた魔法陣の中に足を踏み入れた瞬間、精霊の方から契約者の体の中に飛び込んで来るそうなのだ。

 魔法陣から出た時に髪や瞳の色が変わった事で契約が成立したこたが判断できる。

 契約が成されなかった人間は、今までと全く変わらない姿で魔法陣から出てくる事になる。

 私が契約を行う事になる王宮内の大神殿は、上級貴族の子弟がほとんどであるから、精霊と契約できる人間の確率も王国内で一番高いと言われている。

 精霊の方から飛び込んできて契約が交わされる、と言われている以外契約の条件などわかっていない事が多い。10歳で契約の儀を行うようになったのも、精霊からの取り決めではなく、精霊と契約を結ぶ事に人間側が試行錯誤した結果である。

 10歳以前に契約が成立をした者の存在は一つもなく、また11歳になってから契約を成立をした人物の存在もなかった。それぞれの10歳の誕生日に必ず契約が成されるわけでもなく、中には誕生日の朝に契約が勝手に終わっていたという猛者もいたが、10歳になってから毎日のように神殿に訪れるという上級貴族子弟もいて、神殿側も随分とその扱いに困惑したと言う話も聞いている。

 何年?何十年?と契約の成功例の統計を取り、一番契約成功率の高い夏至の日の昼に、神殿でその年に10歳になる子供を集めて契約の儀を行う事になるなったという事だ。

 特に王宮にある大神殿には低級から上級、様々な精霊が集まり、適性がある子供を待っているのだと言う噂が流れてから、王宮に契約の希望者が集中したため、今では契約確率の高い上級貴族の子弟のみの入場が許可されているという。しかし、最近の研究では、どんなに田舎の小さな神殿でも上級の精霊と契約した平民の子もいた事から、どの神殿で契約の儀を行っても受ける子供の適性によるものであるという正式な見解が出ているが、王宮の大神殿で契約の儀を希望する者は後を絶たない。

 私もその時初めて王宮内の大神殿には足を踏み入れた。あわよくば『火の大精霊』との契約を、と思わなかったといえば嘘になる。その頃の私は周囲の扱いと自身の力に対する過信から、それが当たり前の事と思っていたのだ。

 普段訪れる事のある、邸近くの神殿より以上に、荘厳で静謐な空気の中、同い年の上級貴族の子供たちと一塊になって魔法陣の置かれている奥の間に向かう。同輩には私より身分が上の侯爵の子息子女、そしてこの国の第一王子がいた。

 奥の間の入り口には遠目にしか見たことがなかった神官長の姿がある。緊張に震える足を叱咤して入り口まで歩を進める。入り口前に揃った我々に向かってと言うか第一王子に向かって、神官長はただ扉を潜っても足を止めず向かい側の扉から外に出るようにと伝える。

「……さすれば、輝かしい未来が待っていることでしょう」

 笑顔で頭を下げた神官長は、横にいた神官に合図をし恭しく奥の間の扉を開けた。

 第一王子を先頭にして、ほぼ親の身分の順番で奥の間に足を踏み入れる。私は上級貴族としては一番下の伯爵家の者、伯爵位を持つ者の子としては先頭で、全体で言えば終わりに近い順番で、魔法陣の外縁から中に飛び込むように勢いをつけて足を踏み入れた。

 魔法陣のの中であったことの記憶は殆どない。神官長に言われたようにただ真っ直ぐに、もう一つの出口に当たる扉に進んだだけだ。

 はっきりとした意識が戻った時に私は、奥の間のさらに奥にある控えの間の中で、ぼんやりとつっ立っていた。

 私以外の子供達もぼんやりと立っているだけで、誰も言葉を発する者はいなかった。

 ただ、奥の間に入る前と今とでそれぞれの纏っている色に大きな違いが生まれているという事に気がつくまでは……。
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