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マーシュ・スリート 11 悪夢の後の歓喜 

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 アーク殿下にとっても我々お付きの侍従にとってもとても大きな出来事である初めてのお披露目である『帯剣の儀』で、起きた前代未聞の王族殺人未遂テロ?事件。

 狙われたのは儀式を受けた5歳児の一人であり、主役とも言えるアーク殿下だと思われるが、直接攻撃を受けたアーク殿下も命に別状はなく、その事には心の底から安堵の溜息が出たものだ。ただ、このような王宮のほぼ中心部の警備も一番厳しい場所で、王族が一同に介している席で行われた暴挙であるにもかかわらず、今だ犯人が特定されていない事に憂慮の念が否めない。

 アーク殿下の対外的な初お披露目も、有耶無耶のまま殿下の回復具合を考慮して、再び行うかどうかも含めて決められる事になっている。

 陛下及び妃殿下も今までのアーク殿下の状態を知らしめる事がなくて胸を撫で下ろしている風情がして、心の奥の方にモヤっと黒いモノが少し湧き上がった気がした。

 アーク殿下を狙い済ませたように襲い掛かった閃光に、その広間の中にいた全ての人間の視界と意識が暫くの間奪われていた。気が付いた時には中央の『帯剣の儀』の為に造られた小さな祭壇の前で、アーク殿下ただ一人何時迄も目を覚まさずに倒れたままだったのだ。それもあのような姿になって!

 すぐに診察をした耄碌侍医は、体にはどこにも不具合は診られないという。ただ、意識が戻らない限りはっきりはわからない、と言うものだった。

 ジリジリと、殿下の意識が戻る事を待っている時の事は、あまり思い出したくない。顔や態度には一切表さなかったが、心の中は目を赤くして神に祈っているリフルと全く同じだった。

 地獄の様な時が過ぎ、殿下が目を覚まされた時は、その事だけで何度神に感謝の祈りを捧げた事か!

 その殿下の様子が良い意味で、以前と全くの別人の様になっている事に気づくのは、何かに追われるように慌しく後宮から離宮に殿下の住まいを移された翌日の、嵐の日の朝だった。


 私の人生は他の人から見ればどう見えるものなのか。恵まれているように見えるのか、苦労続きの不幸な者に見えるのか。

 かかわった時期や、相手の私との対面する位置の違いで、大きく違って見えるだろう。

 総じて、そう恵まれた順風満帆なものでないことは、自分も含めて多くが認めることだろう。

 しかし、今私は、自分自身にも、これまで知り合ったすべての人物にも、声を大にして言いたい。

 大げさでなく、どのような高価な宝石を積まれ、どのような高い地位を与えられることよりも、今この瞬間が何よりもありがたく、これ以上のことを神に望むことなく、またこのこと以上感謝することはないと。

  お生まれになってから5年、周りから何を言われ、どのような仕打ちをされようとも、精一杯慈しみ信じてお見守りさせていただいた、アースクエイク殿下に、お言葉を発していただけたのだから……。

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