転生したら当て馬王子でした～絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい～

チュート殿下 １４ 転生者のテンプレ、チートはあるのかな？

　心情的に助かったことに、ここの寝台の天井には鏡が張っていなかった（全面鏡張りってなんか嫌）。だから、着替える時に近くに在った大きな姿見でもう一度確かめたけど、ゲームの設定の色と髪の毛は同じだったね。瞳の色は……なぜか聞こえるようになった心の声が、「設定とは違うよ～」と言ってくる。

　聞こえてくるこれは、元のアークつまり『僕』の方がすご～く頑張って獲得したスキルの一つらしい。『僕』は生まれてすぐにこの世界のことを理解して、魔力の循環と使い切る、と言う一種の転生ものにはテンプレの行動をして魔力量を増やし、この並列思考とも言える『声』を友として、端からはボーッとしているようにしか見えないが、心の中では会話していると言う状態だった、との事（スキル談……？）。

　そして行動が薄かったのは、やはり『俺』の心が伴っていなかった事が原因の一つであることは間違いないらしい。

　魔法は10歳の精霊契約が終わるまで使えないものとされているんだよね。この世界の魔法は言うなれば全て精霊魔法になる訳で、精霊と契約できなければ使える事がないわけだから、魔力循環の末にスキルを手に入れて、鑑定の魔法を使いまくっていたアークがおかしいんだよ。

　常識的にこの歳で魔法を使えるわけないんだから、誰もアークが魔法を使えると思ってないわけで、何時も近くに居て、超完璧超人執事（侍従だけど）であるだろうマーシュもきっと全く気がついていないだろうから。

　だから、ゲームの設定資料集には絶対乗っていない所謂、モブと言われる身の回りの人々の名前もその属性も勿論年齢も性格もわかるのだから。

　設定と言えば、アークは王族であるから魔力量は多く、かろうじて王家の特殊属性と言われる光を持っている、性格は生まれた時から俺様何様王子様、顔だけの残念イケメン。て、ところだけれど、生まれた時からの性格は全く違うよねぇすでに。そしてこれからも、『俺』がベースである限り、俺様にはなれないよ、きっと……。

　……美味しいものを食べている時に、下手に面倒くさいことは考える事じゃないよね。

　食後は美味しいコーヒーが欲しいところだけれど、体がまだお子ちゃまだからコーヒーは出てこない。オレンジジュースによく似た、オレンジより甘さの強いジュースが出てきて、そのうまさに思わず笑顔。

　そういえば考え事しながら食べ始めたから、いただきますを言い忘れてた。食事が終わったらこれは言わないとね。

「ごちそうさまでした」

　パチンと手をあわせるのもつけて、きちんと声を出して小さく頭を下げた。

　なんかこの声にもなれなくてはいけないんだよね、やけに可愛いソプラノボイス。

　顔を上げて周りを見回すと、マーシュもリフルも少し頬を赤らめてフルフル小さく震えている。まるで笑うのをこらえているみたいに。

　そんな状態をいち早く脱出したのはやっぱりマーシュの方で、小さく咳払いをしてから、どこからか取り出したナプキンで私の口周りを拭った。

「殿下、食事に対して感謝を表せれるのは大変よろしい事ですが、殿下は無闇に頭を下げてはいけません。この場には私達しか居ませんから、まぁ今は構いませんが、頭を下げる事が当たり前になってはいけません。ですから、普段から頭を下げることはお慎み下さい」

　言葉とは裏腹なとても柔らかい表情で、食卓から立ち上がるように促され、そのまま、日当たりの良いサンルームのようなところに先導された。