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チュート殿下 24 今日は夏至!10歳児の運命の日‼
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この世界は日本のゲーム……ゲフンゲフンなのに、梅雨のようなものは存在していない。
四季はある。が、梅雨のような雨がダラダラ続くような日はないし、台風も来ない。二十四節季全てはさすがにないが、夏至や冬至はその名のままあったりする。
いつものように、中庭でストレッチを行う。緑の背の低い芝生のような柔らかい背の低い草が、一面敷き詰められている。周りで葉を茂らせている木々の影は短い。
もうすぐ夏至がやって来る。
俺の横でやっと一緒にストレッチをするようになったリフルは、やはりまだこれを踊りの一種だと思っているようで、気づくと鼻歌が聞こえてきたりする。
この身体でまだ激しい運動はできないので、最近は前世で見た太極拳(もどき)をゆっくりと反復して行っている。
両手を肩の高さに上げてゆっくりと右手を前に左手を後ろに動かす。右足も前に出すと体重を左足にかけながら、ゆっくりと腰を下ろすように足を曲げる。
俺の場合こんな動きでも体幹ができていないら、フラフラとしてしまう。
「酔拳か!」
一人ツッコミ。声に出ていたらしく、リフルがびくりと肩を揺らす。
爽やかな風がうっすらとかいた汗を冷やし、のどの渇きを教えてくれる。
おれが何か飲みたいなぁ、と感じたタイミングでマーシュが飲み物を盆にのせてこちらに向かって来たことに気が付いた。
「もうすぐ正午になります。一息つかれましたら軽く昼食をとられますように」
マーシュは俺の目の前で膝を折ると、取りやすい位置に盆を掲げ、冷えたリンゴジュース(のような物)を渡してくれた。
のどを潤しながら、何気なく天中に射している太陽の方を見やる。
真夏のギラギラ太陽には及ばないが、春の柔らかな日差しからは随分と勢いを増した明るさに目を細める。
「明日は夏至にございます」
俺の目線に気付いたのか同じく太陽の方を仰ぎ見て、マーシュがポツリと呟いた。
立ち上がり、なお上にあるマーシュの表情は陰になって俺には見えなかった。
今日は夏至、10歳になる子供の運命を決める日だ。
俺はまだ8歳なのであと二年はこの離宮での軟禁生活が続くのだ。
この世界のこの季節には似合わない雨が、今日は朝からシトシトと中庭の緑を湿らせている。
毎日のルーティーン、お日様の光の下で行うストレッチは今日はお休み。
普段雨の日は室内で行うのだが、なんだか今日はこの離宮を含めて、城内の雰囲気がピリピリしている感じがする。
特に侍従長であるマーシュが、隠しているようで隠しきれていない殺気を体に纏わせているのだ。
そう魔力に敏感でないリフルも、本能で感じているのだろう朝から顔色があまり良くない。
仕様がないから、部屋の隅に積んでいた本を手に取る。何気なくとった本は精霊契約のことが書かれた本だった。
(精霊契約は10歳に成る年の夏至の日の太陽が天中に来る正午に、神の間において行われます~)
「今日はお日様見えないけど……もうすぐ正午だな……」
最近は食欲もそれなりに覚えるようになって、俺の腹の虫はほぼ正確に正午を教えてくれたりする。時間とか体外的事象に関してスキル君が働くことはない。時計持ってるわけでもないし。
本のページをめくりながら、マーシュがピリピリしている原因について思考を向けると、最近あまり仕事を求めることをしていなかったせいか、食い気味にスキル君の声が聞こえて来た。
《ヴォーテックス・カウント・ウィンド ウィンド伯爵家養子 茶金の髪 薄青の瞳 アースクエイクの異母兄》
「にょッ⁉」
思わず変な声が出ちゃったよ!
「……」
よし誰も聞いてなかった。マーシュもそうだがリフルも周りの空気に飲まれて心ここにあらずって感じだから。
(スキル君、声出す?時はなんか前触れほしいなぁ。いきなりだとびっくりしちゃうから。……返事ないし!)
この所スキル君も鑑定をあまりつ使う機会が減ったこともあってか、ご機嫌斜め。どうすればもっと成長するかもわからず停滞気味。魔力量は増えていると思うけど、地下でやることにも限界があるし、何よりマーシュの得意属性以外は書物から知識を得るしかできないから難しい。スキル君は自身のことは教えられないみたいだし……。
って、そんなことじゃなくて、そうかアースクエイクの異母兄。
異母ってことは王様の子供ってこと。伯爵の養子だけど、一皮むけば王子ってことでしょ。
兄なんだからこっちが第一王子じゃないの?
……うーん、思い出せってことね、前世のゲームのことを。子供の時のことはほぼ無かったからなぁ。
それに、親世代のこともゲームでは関係ないから、異母兄の『母』が誰だかわからない。養子ってことはこの伯爵家の誰かと関係あるかもはっきりしないし。
親世代ってことはマーシュの世代ってことだ。確かマーシュは『王の忠臣』なわけだから、きっとこの『母』のことも知っているはずで……。
あぁ……ヴォーテックスは2歳上!
10歳か!
今日精霊契約の日なんだ!
今から精霊契約……。
「だからマーシュは……」
この精霊契約でヴォーテックスが王の子供ということがはっきりすれば、王たちから厭われている俺の立場がもっと悪くなるから、そのことで気をもんで朝からあのような調子なのだ。
この数時間後、マーシュの感じている悪い知らせは現実になる。
四季はある。が、梅雨のような雨がダラダラ続くような日はないし、台風も来ない。二十四節季全てはさすがにないが、夏至や冬至はその名のままあったりする。
いつものように、中庭でストレッチを行う。緑の背の低い芝生のような柔らかい背の低い草が、一面敷き詰められている。周りで葉を茂らせている木々の影は短い。
もうすぐ夏至がやって来る。
俺の横でやっと一緒にストレッチをするようになったリフルは、やはりまだこれを踊りの一種だと思っているようで、気づくと鼻歌が聞こえてきたりする。
この身体でまだ激しい運動はできないので、最近は前世で見た太極拳(もどき)をゆっくりと反復して行っている。
両手を肩の高さに上げてゆっくりと右手を前に左手を後ろに動かす。右足も前に出すと体重を左足にかけながら、ゆっくりと腰を下ろすように足を曲げる。
俺の場合こんな動きでも体幹ができていないら、フラフラとしてしまう。
「酔拳か!」
一人ツッコミ。声に出ていたらしく、リフルがびくりと肩を揺らす。
爽やかな風がうっすらとかいた汗を冷やし、のどの渇きを教えてくれる。
おれが何か飲みたいなぁ、と感じたタイミングでマーシュが飲み物を盆にのせてこちらに向かって来たことに気が付いた。
「もうすぐ正午になります。一息つかれましたら軽く昼食をとられますように」
マーシュは俺の目の前で膝を折ると、取りやすい位置に盆を掲げ、冷えたリンゴジュース(のような物)を渡してくれた。
のどを潤しながら、何気なく天中に射している太陽の方を見やる。
真夏のギラギラ太陽には及ばないが、春の柔らかな日差しからは随分と勢いを増した明るさに目を細める。
「明日は夏至にございます」
俺の目線に気付いたのか同じく太陽の方を仰ぎ見て、マーシュがポツリと呟いた。
立ち上がり、なお上にあるマーシュの表情は陰になって俺には見えなかった。
今日は夏至、10歳になる子供の運命を決める日だ。
俺はまだ8歳なのであと二年はこの離宮での軟禁生活が続くのだ。
この世界のこの季節には似合わない雨が、今日は朝からシトシトと中庭の緑を湿らせている。
毎日のルーティーン、お日様の光の下で行うストレッチは今日はお休み。
普段雨の日は室内で行うのだが、なんだか今日はこの離宮を含めて、城内の雰囲気がピリピリしている感じがする。
特に侍従長であるマーシュが、隠しているようで隠しきれていない殺気を体に纏わせているのだ。
そう魔力に敏感でないリフルも、本能で感じているのだろう朝から顔色があまり良くない。
仕様がないから、部屋の隅に積んでいた本を手に取る。何気なくとった本は精霊契約のことが書かれた本だった。
(精霊契約は10歳に成る年の夏至の日の太陽が天中に来る正午に、神の間において行われます~)
「今日はお日様見えないけど……もうすぐ正午だな……」
最近は食欲もそれなりに覚えるようになって、俺の腹の虫はほぼ正確に正午を教えてくれたりする。時間とか体外的事象に関してスキル君が働くことはない。時計持ってるわけでもないし。
本のページをめくりながら、マーシュがピリピリしている原因について思考を向けると、最近あまり仕事を求めることをしていなかったせいか、食い気味にスキル君の声が聞こえて来た。
《ヴォーテックス・カウント・ウィンド ウィンド伯爵家養子 茶金の髪 薄青の瞳 アースクエイクの異母兄》
「にょッ⁉」
思わず変な声が出ちゃったよ!
「……」
よし誰も聞いてなかった。マーシュもそうだがリフルも周りの空気に飲まれて心ここにあらずって感じだから。
(スキル君、声出す?時はなんか前触れほしいなぁ。いきなりだとびっくりしちゃうから。……返事ないし!)
この所スキル君も鑑定をあまりつ使う機会が減ったこともあってか、ご機嫌斜め。どうすればもっと成長するかもわからず停滞気味。魔力量は増えていると思うけど、地下でやることにも限界があるし、何よりマーシュの得意属性以外は書物から知識を得るしかできないから難しい。スキル君は自身のことは教えられないみたいだし……。
って、そんなことじゃなくて、そうかアースクエイクの異母兄。
異母ってことは王様の子供ってこと。伯爵の養子だけど、一皮むけば王子ってことでしょ。
兄なんだからこっちが第一王子じゃないの?
……うーん、思い出せってことね、前世のゲームのことを。子供の時のことはほぼ無かったからなぁ。
それに、親世代のこともゲームでは関係ないから、異母兄の『母』が誰だかわからない。養子ってことはこの伯爵家の誰かと関係あるかもはっきりしないし。
親世代ってことはマーシュの世代ってことだ。確かマーシュは『王の忠臣』なわけだから、きっとこの『母』のことも知っているはずで……。
あぁ……ヴォーテックスは2歳上!
10歳か!
今日精霊契約の日なんだ!
今から精霊契約……。
「だからマーシュは……」
この精霊契約でヴォーテックスが王の子供ということがはっきりすれば、王たちから厭われている俺の立場がもっと悪くなるから、そのことで気をもんで朝からあのような調子なのだ。
この数時間後、マーシュの感じている悪い知らせは現実になる。
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