転生したら当て馬王子でした～絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい～

チュート殿下 ３１ 名付けをしたら、やっぱりテンプレ！

「情報はとっても大事‼」

 　ということを実感して、全力を使うことを誓ったアーク。

　そうです、全力を出すことにしたのです。

　転生特典ともいえるテンプレ展開を恐れて、名前を付けることに躊躇していた、鑑定の超上位交換のような、聞けば答えてくれる、以前は聞かなくても答えてくれたことすらあった『スキル君』。

　長生きするためには何でもしようと決めた時に、まず初めに浮かんできたのがスキル君のことだった。

　名前を付けたらもっと能力が上がるかもしれないと……。

　でも……名前を付けたら……実体化したりしないよね……。

　なんとなく、心の中に問いかけたら、初めの質問には『是』の答えが、二番目の問いには『……』の答えが返ってきたのだが……。

　なんとなく悪い予感がしたのだ、二番目の答えに……。

　なんとなく、そこはかと知れない期待のような、喜びのようなそんな気配をかんじたのだ。

　しかし、生き延びることに躊躇はしてられないのだから、少しの不安に目を瞑って、名付けを決心。

　誰も近くに居ない、一人になれる寝室のベッドの中で寝たふりをしながら、全く近くに気配がしないことを確認してから、スキル君に問いかけた。

　『今から名付けをするけど……。俺の名付けのセンスに文句はいうなよ』

　何と言っても前世の俺は、ペットに名前を付けようとして、そのセンスを姉鬼に全否定された男だからな！

　『スキル君だからスー……』

　にしようかなぁ、と考えた瞬間背筋に冷たい何かが走った気がした……。ので、止めて……。

　『……そうだ、スキル君って男なの？女なの？』

　そう言う概念はない！そりゃそうか。

　でも近くにというか俺の中に居るのだとしたら……。女の子だったら恥ずかしいよな……。

　ってことで、男の子の名前にするかな。そもそもスキル君って呼んでいたし……。

『……スキル君の名前は、【キール】にします』

　スキル君だからスーではなく、キール。

　男の子の設定にします。

　これから思春期も来るし、女の子として考えるとまずいこともあるかもだから。

　全然意味がないことかもしれないけど……。

　なんてこと考えながら、ベッドの上でゴロゴロしていたら、一瞬体がピカッと光って、ベッドの横に何かの気配が突然生まれたことを感じたのだ。


『グギャァ⁉』

　自分でも考えられないような変な声が喉から生まれ出たのだけれど、それはこの寝室から外に漏れることはなかった。

　キールが早速いい仕事をしてくれたらみたいだ。

『消音結界を張っておきました』

　やっぱり名付けたことで実体化したのだろう、俺と同じくらいの大きさの人影がベットの横に立っていたのだ。

　『簡単すぎる名前に、文句の一つも言いたいところですが，主あるじにそこを求めることは無駄であることを理解しておりましたので、名前を付けてくれたことで良しとしておきます』

　口が全く動いていないのに、言葉が聞こえてくる違和感。なんか怖い……。

　俺の心が読めるキールは、今の俺の心情もわかったのだろう、一つ大きく息をついて、念話ではなく声を出した。

「わざわざ声を出す必要性を感じないのですが、仕方ありませんこれも訓練することでお互い慣れて参りましょう」

　表情の変化はない。この面の訓練が必要ということかな？と、俺が考えていると

「違います、念話で違和感なくコミュニケーションをとることにです。勿論、主が求めるならば私の表情についても善処致します」

　しっかり、眉間にしわが寄ってます。表情作れてますぜキールさん……。

　キールによると、この実体化した姿は俺にしか見ることはできず、したがって声を出して話しても、声が聞こえるのも俺だけであること。

　つまり、普通に俺とキールが会話していたとしたら、端から見れば俺が一人ごとを空に向かって大声で話しているようにしか見られないと、教えてくれたのだ。

「私としては、主がこれ以上変な人間に見られないようにするためにも、私の姿が見えていたとしても、普段から念話で会話することに慣れていただかないと、と考えております」

　俺と変わらないというか、前世の俺の纏っていた色と同じ、黒髪・黒い瞳、彫りは深いが肌の色も日本人に似た、この世界の人間の欧米人のように白くはなく、象牙色の肌をした、男の子だ。

「私のこの姿は、主の一番見慣れている姿というか、安心できる姿を具現化したものです」

　一応同じ性別のモノの形をとっております。

　これからは、俺だけの情報ではなく自分で見聞きして感じた全てから、自分のスキルを発揮できると喜んでいた。

「私としては、もっと早くから実体化することに吝かでなかったのですが、何故かそのことに対して主が異常なまでに忌避感を持っていらしたので、私からは求めることを控えておりました」

　随分と、歯がゆい思いも致しました。

　俺と意思疎通ができないときもあったから。お互いすねちゃって……。

　若かったね、ってことで和解。

　俺が長生きするために、乙女ゲームに巻き込まれないことがベストだけれど、巻き込まれて例え当て馬になったとしても、辺境に送られて消息不明で死亡になりたくない。

　王子でいることに執着はないから、消息不明でもいいけど、死にたくはないな。

　死なないための生きていくスキルを身に付けるためにも、キールと共に頑張ろうと決めた8歳の時から、それまで以上に情報収集を中心に、誰にも気づかれないように隠密行動に磨きをかけたのだ。