転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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チュート殿下 36 大神殿・儀式の間・前室

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 扉の先には、俺と同じ形の聖服を着た、若い修道士が立っていた。

 俺は馬車を降りる前に深くフードを被っているし、彼よりも随分と背が低いから俺の容姿などは全く見ることはできないだろう。

 ただ、何といっても金色を身に着けていることと、今年この儀式を受けるのが誰であるか解っていれば自ずと俺の正体は知れるものだ。

 彼はそれなりに期待されている存在なのだろう。

 個室の控室に案内される上級貴族も今年は例年より多いはずで、俺の案内につくことは、ハズレくじ扱いだったかもしれない。

 なぜならば、余りにも俺に興味をある事を隠さないその様子から、一番期待されている修道士には見えないからだ。

 なぜフードを深くかぶった俺が外の様子がわかるかといえば……フードを透過してみることができる魔法を使っているからです。

 他人の着ている服を透過してその中身を見ようなんてことはしないよ。

 この魔法はあくまでも自分が触れている物を透過して見ることができる魔法。今回はたった一枚の布だから至極簡単。

 サングラスをかけているくらいの違和感で外の様子を見ることができている。

 もっと魔力コントロールができるようになって訓練すれば、エコーとかレントゲンと同じようなこともできるかもしれないが、この世界の医療事情とか知らないし、目立つことはしないつもり。

 一応貴人の使用する部屋らしく、室内にしつらえられている家具はシンプルながら質のよさそうなもので、ソファーの座り心地も悪くない。

 もう既に今年この大神殿で儀式を受ける10歳の子供は俺以外の全員、儀式の間の手前の大広間に集まっているようだ。

 儀式の始まる時間と、儀式の進行を確認してマーシュに促され、入ってきたものとは違う扉から部屋の外に出る。 

 こちらの廊下は、きっちりと足の長い絨毯が敷き詰められている。

 足音をすっかり吸収してくれる絨毯の上を、小走りに近い速度でマーシュの後ろについて歩く。

 迷路のような道程を、マーシュは迷わず進んで行く。

 そんなに長い距離ではないと思うが、やはり儀式に対してナーバスになっているのか、口の中が乾いて仕方がない。

 胸の奥でキールがそんな俺の様子を笑っている感じがして、すこしムカついた。

  
 装飾の激しい大きな扉の前でマーシュが足を止めた。

 扉の向こうから、話し声は聞こえないが、大人数の人間がざわざわと動いていることが感じ取れた。

 マーシュが薄く扉を開けて、中の様子を覗き確かめる。

 扉を開けてもその先の部屋の壁には紗のような薄い布が張り巡らされている様子で、こちら側は見られることができないようになっている。

 中にいる人々も誰もこちら側に意識を持っている人は居ないようで、みなこことは違う扉の方へ意識を向けている。

 マーシュに肩を抱かれ、扉の隙間に押し込まれるように導かれた。

 紗の向こうには、俺と同じ10歳の子供達が落ち着かない様子で、一つの大きな両開きの扉を注視しているのがわかる。
 
 マーシュは壁に垂れている紗の布の境目を見つけ出すと、近くに立っている子供に気づかれないように、ゆっくりと隙間を開けて、俺をその隙間からあちら側へ押し出した。

 一応これからの手順をしっかりとレクチャーされている。

目立たないような位置をキープすると、まだ紗と壁の間で立っているだろうマーシュに頷いて、俺も身体を大きな扉に正対させた。

 この部屋を含めて、ここから先に神官以外の大人は居ない。

 言葉は発しないまでも、ザワザワとしている子供たちの視線の先、大きな扉の両脇に若めの神官二人が立った。

 神官はそれぞれ扉に手をかけると、重たそうな大きな扉をゆっくりと儀式の間の方に押し出した。

 こちらの部屋より明度が低い儀式の間の真ん中には、白く輝く一本の柱が立っているのが見える。

 気がつくと、あれほどざわざわとしていた室内が、水を打ったように静かになっている。

 いつの間にか、扉と光る柱の間に、一人の老人が立ってる。

 聖服の刺繡の色は金色。王族を表していることと共に、現在神殿にいる王族は前国王の弟殿下ただ一人である神官長であることを示している。

  さすがにこの大神殿で精霊契約の儀式を受けることができる貴族の子供たちである。この目の前にいる人物が誰であるかは判断できたのだろう、次の間への興味はあるが、声を出して騒ぎだす者は居なかった。

 
 

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