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マーシュ・スリート 15 再びの襲撃‼
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神殿にいる下級貴族や平民出身の若い神官たちに根回しをしていたこともあり、この神殿の裏口にはほとんど人が居ないが、儀式の時間になると尚更神殿の裏側には人気が全くなくなった。
念には念を入れて、馬車には隠蔽と結界を重ねて掛けている。
普段静謐なこの神殿も、今日はどこか落ち着かない雰囲気が満ちており、儀式が終了し悲喜交交な状況が繰り広げられているだろう今、届いてこないはずのこの神殿の裏側まで、その喧騒が届いているような気がした。
「もうそろそろ、殿下がお出ましになってもよいころあいだが……」
一人きりの馬車に自分の声が漏れ聞こえて、独り言をつぶやいていたことに気が付いた。
いつもならば決して起こさないことに、自分も結構緊張している事がわかり、深く呼吸をして外の様子に意識を集中させる。
すぐ近くの扉が、ゆっくりと開かれた。
案内を頼んでいた若い神官の顔が扉の隙間から覗かれる。
やけに顔色が悪いことに、何か不測の事態が起きたのかと身構えるが、続いて殿下の顔が覗かれたのを見て、一番最悪な事態が起こったわけではないと、一つ大きく息をついた。
……殿下の様子がおかしい?いや……色か?
御者に合図を送り裏口のすぐ近くまで馬車を寄せて、扉を開けて殿下をすぐに受け入れられるように準備する。
それにしても、案内役の神官の疲れ果てたような様子はどうしたことだろう?
扉から一歩出てこられた殿下は、扉の前で一度後ろを振り返り案内役の神官に何か声をかけられた。
一言何か答えたその若い神官は、深く頭を下げると、この馬車から見えなくなるまで頭を上げることはなかった。
早速、馬車に乗り込まれた殿下に着替えをしていただく。この馬車も、離宮も守りの硬さには自信があるが、人の目はどこにあるかわからない、このような目立つ格好で殿下と認識されることは避けるためにも着替えていただく。
暗い馬車の中でも、殿下の纏う色の変化に気が付いてしまうほど、金色の髪色の輝きが増している。
魔力量がいきなり増えるということではなく、契約をした精霊の格が上がったからか?
その時、殿下のすぐ控えているであろう『キール』からか、直接頭に言葉が降ってきた。
『殿下の瞳を見てみよ』
殿下にはそれが聞こえている様子はなく、キールが態々私にだけ伝えてくれた言葉だとわかった。
薄暗い馬車の中では、とても注意を払はなければ気が付くことはできなかっただろう。
しかし、気が付いてしまえば、驚かずにはいられない変化が、殿下のその瞳に起きていたのだ。
今までの常識は殿下に当てはまらないことは覚悟をしていたが、目の当たりにすると己の覚悟の程を再認識させられる。
これ以上何もないことを、思わず願ってしまう自分の小ささに気が付いてしまう……。
私は自分の鼓動の速さを気づかれないように平静を装う。
そして、我々と変わらない服装に着替えていただいた殿下に、薄いストールを被っていただく。
元々離宮について馬車から降りられた後に、その途中誰にも見られないようにする必要があることも考えてはいたが、一度殿下に会ったことがあるものには直ぐに分かってしまうかもしれない変化に、頭からすっぽりとストールを被って隠していただくことに決めた。
殿下は、ご自身の変化に気が付いていらっしゃらないのか、ストールを被るのも不本意という表情を浮かべられている。
中央神殿から王城内の離宮まではごく近い。
神殿を出てからつけてくるような気配は感じられていた。離宮の裏門の近くには隠し切れない殺気も幾つか。
裏門に入るときにはどうしても速度を落とす必要があるが、ここは王城内、見ているだけで手を出すことはできないだろう。
様々な思惑を持つものが、殿下の存在を、その価値を勝手にしようとしている。
用心することに手を抜いているわけではないが、私は少しこの平穏な日常に浸りきっていたのかもしれない。
ドガン‼
攻撃魔法を、王城内で受けることを想定していなかったのだから!
この王城内ではどのような攻撃魔法も使用することができない。
しかし、どのような事にも例外があるのだ。特にこの国のような専制国家であれば……。
「……モイヒェルメルダー……王の手の者か……」
思わず言葉が漏れてしまったようだ。殿下には聞かせたくなかったのに……。
ドガン!ドゴン!
火属性の攻撃魔法。ファイアーアローあたりか。さほど強くはない。
この馬車にも全く影響はない。うまくいけば、御者を落としてこの馬車を暴走させるか、奪うかしたいのだろうが、私が育てた馬と御者。このくらいのしょぼい攻撃ではどのようなこともない。
馬車は何事もなかったように離宮に入る。この中は消音魔法がかかっているから中に入れば静かなものである。
広くはない離宮、車寄せにはほどなく到着する。
普段は出迎えなどしない少数精鋭の使用人たちが、特別な日である今日は表玄関の両脇に並んで待っていた。
疑うことのない使用人たちにも自身の姿を見せることなく、ストールを巻いて出ていくことに不満げではあるが、殿下には何も言わずに室内の殿下の居間までその姿で移動することを、半ば強制して向かってもらった。
念には念を入れて、馬車には隠蔽と結界を重ねて掛けている。
普段静謐なこの神殿も、今日はどこか落ち着かない雰囲気が満ちており、儀式が終了し悲喜交交な状況が繰り広げられているだろう今、届いてこないはずのこの神殿の裏側まで、その喧騒が届いているような気がした。
「もうそろそろ、殿下がお出ましになってもよいころあいだが……」
一人きりの馬車に自分の声が漏れ聞こえて、独り言をつぶやいていたことに気が付いた。
いつもならば決して起こさないことに、自分も結構緊張している事がわかり、深く呼吸をして外の様子に意識を集中させる。
すぐ近くの扉が、ゆっくりと開かれた。
案内を頼んでいた若い神官の顔が扉の隙間から覗かれる。
やけに顔色が悪いことに、何か不測の事態が起きたのかと身構えるが、続いて殿下の顔が覗かれたのを見て、一番最悪な事態が起こったわけではないと、一つ大きく息をついた。
……殿下の様子がおかしい?いや……色か?
御者に合図を送り裏口のすぐ近くまで馬車を寄せて、扉を開けて殿下をすぐに受け入れられるように準備する。
それにしても、案内役の神官の疲れ果てたような様子はどうしたことだろう?
扉から一歩出てこられた殿下は、扉の前で一度後ろを振り返り案内役の神官に何か声をかけられた。
一言何か答えたその若い神官は、深く頭を下げると、この馬車から見えなくなるまで頭を上げることはなかった。
早速、馬車に乗り込まれた殿下に着替えをしていただく。この馬車も、離宮も守りの硬さには自信があるが、人の目はどこにあるかわからない、このような目立つ格好で殿下と認識されることは避けるためにも着替えていただく。
暗い馬車の中でも、殿下の纏う色の変化に気が付いてしまうほど、金色の髪色の輝きが増している。
魔力量がいきなり増えるということではなく、契約をした精霊の格が上がったからか?
その時、殿下のすぐ控えているであろう『キール』からか、直接頭に言葉が降ってきた。
『殿下の瞳を見てみよ』
殿下にはそれが聞こえている様子はなく、キールが態々私にだけ伝えてくれた言葉だとわかった。
薄暗い馬車の中では、とても注意を払はなければ気が付くことはできなかっただろう。
しかし、気が付いてしまえば、驚かずにはいられない変化が、殿下のその瞳に起きていたのだ。
今までの常識は殿下に当てはまらないことは覚悟をしていたが、目の当たりにすると己の覚悟の程を再認識させられる。
これ以上何もないことを、思わず願ってしまう自分の小ささに気が付いてしまう……。
私は自分の鼓動の速さを気づかれないように平静を装う。
そして、我々と変わらない服装に着替えていただいた殿下に、薄いストールを被っていただく。
元々離宮について馬車から降りられた後に、その途中誰にも見られないようにする必要があることも考えてはいたが、一度殿下に会ったことがあるものには直ぐに分かってしまうかもしれない変化に、頭からすっぽりとストールを被って隠していただくことに決めた。
殿下は、ご自身の変化に気が付いていらっしゃらないのか、ストールを被るのも不本意という表情を浮かべられている。
中央神殿から王城内の離宮まではごく近い。
神殿を出てからつけてくるような気配は感じられていた。離宮の裏門の近くには隠し切れない殺気も幾つか。
裏門に入るときにはどうしても速度を落とす必要があるが、ここは王城内、見ているだけで手を出すことはできないだろう。
様々な思惑を持つものが、殿下の存在を、その価値を勝手にしようとしている。
用心することに手を抜いているわけではないが、私は少しこの平穏な日常に浸りきっていたのかもしれない。
ドガン‼
攻撃魔法を、王城内で受けることを想定していなかったのだから!
この王城内ではどのような攻撃魔法も使用することができない。
しかし、どのような事にも例外があるのだ。特にこの国のような専制国家であれば……。
「……モイヒェルメルダー……王の手の者か……」
思わず言葉が漏れてしまったようだ。殿下には聞かせたくなかったのに……。
ドガン!ドゴン!
火属性の攻撃魔法。ファイアーアローあたりか。さほど強くはない。
この馬車にも全く影響はない。うまくいけば、御者を落としてこの馬車を暴走させるか、奪うかしたいのだろうが、私が育てた馬と御者。このくらいのしょぼい攻撃ではどのようなこともない。
馬車は何事もなかったように離宮に入る。この中は消音魔法がかかっているから中に入れば静かなものである。
広くはない離宮、車寄せにはほどなく到着する。
普段は出迎えなどしない少数精鋭の使用人たちが、特別な日である今日は表玄関の両脇に並んで待っていた。
疑うことのない使用人たちにも自身の姿を見せることなく、ストールを巻いて出ていくことに不満げではあるが、殿下には何も言わずに室内の殿下の居間までその姿で移動することを、半ば強制して向かってもらった。
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