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マーシュ・スリート  18 前国王陛下と今上陛下

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 前国王陛下がご存命であり、今上陛下がまだ王太子殿下であったころ、王立学園で色々やらかして、その尻拭いに寝る暇もなかったその時に、この国のある意味根幹を担っているかもしれない王族のために仕えるのではない、王国のために仕える集団の存在を聞かされた。

 そして私もその集団の一員になる様に求められた時に、私自身がこの王国の為になる人物となり、自分が心から仕えたいと思える人物の為にこの命を捧げようと決めた。

 そしてその人物は、大恩があり、心から使えたいと思っていた王太子殿下ではないことは、国王陛下が次代の国王たる王太子ではなく、力量も未知数の自分にその集団の統轄をしろと求める時点でわかってしまったことだった。

 国王陛下はある時点でもう王太子殿下を見限っていたのだ、しかし後を継がせることができる存在が王太子殿下しかいないことと、もしも彼以外を求めた時の予想されるこの王国の混乱具合を考えて、今まで国王ならば完全に任されるこの国の半分、この国の裏側を任せることを良しとしないことにされたのだと。

「次代は仕方がない、王太子あれしかいないのだから、しかしその次は。このままでは王太子あれ以下の、神から託されたこのアミュレット王国の正当なる王権を継ぐ資格のない者が立つようなことになりかねない。我が目の黒い間は良いが、寿命ばかりはいかな偉大なる王でもどうにもできぬこと。我が不甲斐ない故に年若く、本能に流されるあれしか跡取りがおらぬのだから」

 私は詳しく知ることがなかった、王太子殿下の父王子のことだろうと推測はできた。誰の言の葉にも上がらないそんな王子の父である国王陛下は、そのことについてはどの様な存念がおありになるのか……。

 結局、直接的にも間接的にも聞く機会のないまま、王太子殿下が戴冠され、今上陛下となられた。

 前国王陛下が愁いられた様に、表立っては出すことのできない次代候補の存在と、正当なる跡取りをないがしろにするという暴挙のうちに現在があるのだ。

 私は今上陛下のほぼ全てを見つめながら、アーク殿下と初めて御目文字がかなった時に、私の命をかけてお仕えする存在は、この方であるのだと言う天啓を受けた。

 アーク殿下は確かに傍から見れば、国王を継ぐことがおできになるようには全く見えない。

 しかし、前国王陛下に在って今上陛下に足りないと思える何か。

 その何かが確かにこの何もできないと思われている幼子に在る、と感じることができたのだ。

 帯剣の儀までの5年間は全くの伏在の時間であった。

 そして、精霊契約の儀までの5年間はまた雌伏の時間であった。

 この10年間を経て、王国内の見えなかった腐った部分が、腐敗臭を放つまで育ったことで、排除しやすくなったこともまた事実。

 腐った根元からすべてを排除するまでにはまだまだ時間がかかるかもしれないが、その排除するための力を持ちつつある殿下にこの数年でもっと動きやすくできるようにすることが私の務めである。

 殿下の力を理解することができない愚か者たちを、この数ヶ月で特定することはそう難しいことではなかった。

 殿下が力のほんの一部を見せつけるだけで、自らその馬脚を表す愚か者たち。

 これがこの国の初級教育の頂点といわれる学び舎の実情だ。

 殿下が入学される前年までの因習をそのまま持続できる、いや持続しようとした者たちの学習能力のなさに頭が痛くなる。

 このようなことが次の学び舎でも繰り返されるのか。

 直にその目で見なければ理解できない頭の固い、自分のことしか考えていない連中は、きっと繰り返すことになるのだろう。

 今よりもっと、錦の御旗を自分たちが持っていると思われる次の学び舎の方が、きっと面倒くさいことになることは確かなのだろうが……。


 
 今回の試験で行われた、行われようとした不正は、衆目の知る所となった。

 学校というある種の閉ざされた聖域といわれる中だけで過ごしてきた腐った者たちは、自分たちの放っている腐臭に気付くことなく、指摘されることもなくのうのうと過ごしてきて、一般的な常識に欠けていたのだ。

 その一般的な常識も貴族たちの一般常識で、この国に住む大半の者たちの常識とも違うものであるのだが……。

 殿下が入学するにあたり、あまりにも目に余る前校長たちの掃除が済んだ、その余韻も消えぬうちに、何を血迷ったのかそれよりも一層小物であったから目こぼしされていた輩が、殿下に直接嫌がらせをし、衆目のまえで恥までかかそうとしたことには、膿をある程度纏めて出すためとはいえ、忸怩たる思いがある。

 表立って何もできなかったことは、殿下に負担をかけたことに他ならず、これから尚更学び舎というある種の聖域といわれる中では、より一層殿下ご自身のお力でこの国の腐った部分と闘っていただかなければならないことは確かなことで、これからどのような形で支えることができるのか、今まで以上に気を張らなければならないことを実感した出来事であった。
 
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