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マーシュ・スリート 17 王国を支える影たち
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殿下が初級学校に通学を始められて初めての試験が行われた。
初級学校には入学試験棟がないため、子供たちの実力は頭脳も魔法の能力も全くの未知数、家族以外にそのことを知っているのは各家の家庭教師だけ。その家庭教師も守秘義務というか、何でも外にばらすような者では次の就職先がなくなるため、よほどひどい扱いを雇い主から受けない限り、教え子の能力を話すことは無い。
子供の頭脳についてはその家が教育にどの程度力を入れることができるか、つまり財力が有るか無いで決まる。優秀な家庭教師を雇うにはそれなりの金額がかかるものなのだ。
家格が高い家でも、経済的に逼迫しているところや、逼迫まではいかないが、子供の教育にまで掛ける余裕のない家は、初級学校に入学するまでにそれなりの教育しか与えることができないので、初めての学力試験の時にそのメッキがはがれることが多いのだ。
魔法に関しては、属性は精霊契約の有無で身体の色に現れてしまうから隠しようがないのだが、その魔法操作能力に関しても教育の一環として、その属性にあった優秀な教師を得ることは学力以上に難しい。
であるので、魔力操作に関しては学校に入学後から初めて学ぶと言う子供も少なくない。
そのことを逆手にとって、殿下に魔法操作の授業を全く受けさせることがなかった校長たちは、なんと愚か者たちなのだろうと、初めに影から報告を受けた時にはあきれたものだった。
いくら父親に気に入られていないとしても、殿下はまごう事無きアミュレット王国の王子。陛下個人に忠誠を捧げている者だけが近衛に居るわけでもなく、王国に忠誠を誓う様々な職業につき王城に勤める者の存在もまたある事を、ほとんどの人間は知らない。
校長たちも殿下のある状態を、外から聞く内容だけで判断して侮り、己の行為を正当化していたのだろうが、陛下の意に従わない者たちが居ることを、当の陛下も思いもしていないに違いない。
そこは小さい頃から、変にまっすぐで融通が利かないところのある陛下であるから、その周辺の者たちにも前国王陛下は伝えることはしなかったのかもしれない。
私は直々にまだ王太子であった陛下の側近であった折に、ただ一人その時の国王陛下である、王太子の祖父に当たる前国王に呼び出されて説明を受けたのだ。
今の陛下の父親つまり前国王の息子に当たる殿下は、私が王城に上がった時には既に噂にすら上がらない人であった。
陛下が成人したときに直ぐに王太子になられたのも、その時に王太子に当たる方が居なかったからであり、それ以前に第一王子と呼ばれていたのはもちろん皇子がお一人ではなかったからで、その他の王子殿下は一応王子殿下の扱いを受けられていたようだが、正妃からお生まれになったのは第一王子殿下お一人だったのだ。
はっきり言ってほかの殿下たちは、本当に王家の血を引く王子王女であるのか?
そのような状態をもたらすような王子様であったのだ、今上陛下の父上は……。
結局、それぞれの殿下たちは、10歳の精霊契約において、王家のあかしともいえる光属性に能くする者は、今上陛下しか当たらなかったようで、王立学園時代に大層やらかした陛下が王太子になれたのも、陛下以外に該当する人物が居なかったことも大きく、つまりそのころには陛下のお父上も既に身罷られていたということだ。
お小さいころには、自分の父親のことを反面教師にしてとても自制的で賢い王子殿下で在らせられた陛下も、お年頃になられた時には、「さすがあの父在ってこの子在りだ」と年長の者たちから言われていたことを、私は随分後に聞いた。
大なり小なり王家の男子にはこのような傾向が現れることがあるらしく、これは王家の独自ともいえる光属性からくる弊害なのか、血が濃すぎることからくる病気のようなものなのか、あくまでも個人の資質からくるものなのかわからない。
私が前国王陛下から影たる者の存在を聞かされたのは、学園でやらかした陛下やその側近の尻拭いに奔走していたその時であり、このような不祥事を冒してもなお、陛下しか跡取りが居ない王家の病理の深さを表しているものかもしれない。
私もまだ成人して間がない、世の中のことをよく知らない小僧でしかなく、また伯爵家から出奔した身であり、身分的にもただの騎士爵、とてもその時の国王陛下に御目文字する身分ではなかった。
しかし、内密に呼び出されたそこで、陛下(その時は王太子)の不始末についての報告を求められているのかと思っていたその場に、陛下がお出ましになり、次の王になるだろう王太子殿下にも内密にするようにと、影について聞かされた時に、自分に課せられた役目に意識を失いそうになったものだ。
通常であれば、国王たる陛下が掌握するはずの「影」。そのことを、全く次期国王には伝えることなく一介の侍従に伝えた、次代は統括せよと言う。
せめてそれは次代の宰相になるだろう侯爵子息に伝えるものでは無いか、と訴えてみたが、陛下首を縦には振ってくださらなかった。
「あ奴らは信用できぬ。きっとまた繰り返すことになる。そしてそれはこの王国存亡にかかわることになるやもしれない」
愁いの籠った瞳で宙を見つめている国王陛下の表情は、何十年経っても忘れることができないものの一つである。
初級学校には入学試験棟がないため、子供たちの実力は頭脳も魔法の能力も全くの未知数、家族以外にそのことを知っているのは各家の家庭教師だけ。その家庭教師も守秘義務というか、何でも外にばらすような者では次の就職先がなくなるため、よほどひどい扱いを雇い主から受けない限り、教え子の能力を話すことは無い。
子供の頭脳についてはその家が教育にどの程度力を入れることができるか、つまり財力が有るか無いで決まる。優秀な家庭教師を雇うにはそれなりの金額がかかるものなのだ。
家格が高い家でも、経済的に逼迫しているところや、逼迫まではいかないが、子供の教育にまで掛ける余裕のない家は、初級学校に入学するまでにそれなりの教育しか与えることができないので、初めての学力試験の時にそのメッキがはがれることが多いのだ。
魔法に関しては、属性は精霊契約の有無で身体の色に現れてしまうから隠しようがないのだが、その魔法操作能力に関しても教育の一環として、その属性にあった優秀な教師を得ることは学力以上に難しい。
であるので、魔力操作に関しては学校に入学後から初めて学ぶと言う子供も少なくない。
そのことを逆手にとって、殿下に魔法操作の授業を全く受けさせることがなかった校長たちは、なんと愚か者たちなのだろうと、初めに影から報告を受けた時にはあきれたものだった。
いくら父親に気に入られていないとしても、殿下はまごう事無きアミュレット王国の王子。陛下個人に忠誠を捧げている者だけが近衛に居るわけでもなく、王国に忠誠を誓う様々な職業につき王城に勤める者の存在もまたある事を、ほとんどの人間は知らない。
校長たちも殿下のある状態を、外から聞く内容だけで判断して侮り、己の行為を正当化していたのだろうが、陛下の意に従わない者たちが居ることを、当の陛下も思いもしていないに違いない。
そこは小さい頃から、変にまっすぐで融通が利かないところのある陛下であるから、その周辺の者たちにも前国王陛下は伝えることはしなかったのかもしれない。
私は直々にまだ王太子であった陛下の側近であった折に、ただ一人その時の国王陛下である、王太子の祖父に当たる前国王に呼び出されて説明を受けたのだ。
今の陛下の父親つまり前国王の息子に当たる殿下は、私が王城に上がった時には既に噂にすら上がらない人であった。
陛下が成人したときに直ぐに王太子になられたのも、その時に王太子に当たる方が居なかったからであり、それ以前に第一王子と呼ばれていたのはもちろん皇子がお一人ではなかったからで、その他の王子殿下は一応王子殿下の扱いを受けられていたようだが、正妃からお生まれになったのは第一王子殿下お一人だったのだ。
はっきり言ってほかの殿下たちは、本当に王家の血を引く王子王女であるのか?
そのような状態をもたらすような王子様であったのだ、今上陛下の父上は……。
結局、それぞれの殿下たちは、10歳の精霊契約において、王家のあかしともいえる光属性に能くする者は、今上陛下しか当たらなかったようで、王立学園時代に大層やらかした陛下が王太子になれたのも、陛下以外に該当する人物が居なかったことも大きく、つまりそのころには陛下のお父上も既に身罷られていたということだ。
お小さいころには、自分の父親のことを反面教師にしてとても自制的で賢い王子殿下で在らせられた陛下も、お年頃になられた時には、「さすがあの父在ってこの子在りだ」と年長の者たちから言われていたことを、私は随分後に聞いた。
大なり小なり王家の男子にはこのような傾向が現れることがあるらしく、これは王家の独自ともいえる光属性からくる弊害なのか、血が濃すぎることからくる病気のようなものなのか、あくまでも個人の資質からくるものなのかわからない。
私が前国王陛下から影たる者の存在を聞かされたのは、学園でやらかした陛下やその側近の尻拭いに奔走していたその時であり、このような不祥事を冒してもなお、陛下しか跡取りが居ない王家の病理の深さを表しているものかもしれない。
私もまだ成人して間がない、世の中のことをよく知らない小僧でしかなく、また伯爵家から出奔した身であり、身分的にもただの騎士爵、とてもその時の国王陛下に御目文字する身分ではなかった。
しかし、内密に呼び出されたそこで、陛下(その時は王太子)の不始末についての報告を求められているのかと思っていたその場に、陛下がお出ましになり、次の王になるだろう王太子殿下にも内密にするようにと、影について聞かされた時に、自分に課せられた役目に意識を失いそうになったものだ。
通常であれば、国王たる陛下が掌握するはずの「影」。そのことを、全く次期国王には伝えることなく一介の侍従に伝えた、次代は統括せよと言う。
せめてそれは次代の宰相になるだろう侯爵子息に伝えるものでは無いか、と訴えてみたが、陛下首を縦には振ってくださらなかった。
「あ奴らは信用できぬ。きっとまた繰り返すことになる。そしてそれはこの王国存亡にかかわることになるやもしれない」
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