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マーシュ・スリート 22 明らかになる殿下の力の一端に……
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この場にも幾人か居る初級学校に我が子が通っている保護者は、この前見た醜悪なる校長たちの態度を改めて目にしてどのように感じたのか。
初めて目にしている者たちの批判の声が聞こえる中で、「この状態を見て何も感じていなかったのか?」と言う問いかけに、自身の姿が白い布の上に映し出された上位貴族の者たちは、この暗闇の中顔を赤らめているのか、青ざめているのか……。
貴族であっても自身の子供は可愛い。学校という閉じられた世界の中に、ある意味人質のように囚われているとも考えられる我が子。その世界の中心に聳え立っている、外の世界では自分よりも身分が低いが、その世界の中での絶対王者のような存在に、何も言い返すことができなかった、こっちの世界の権力者たち。
改めて見る歪な世界の一面の中に取り込まれている自分たち大人の姿に何を思うのか。
殿下の目線の映像は、
「私の実技試験の場所はここであってますか?」
と言う、殿下が発せられた声から、殿下の実技試験に移っていく。
嘲るような笑みを口の端に乗せた教師らしき者の、普段殿下のことを敬称をつけずに呼び捨てで呼んでいるだろう様子がわかる発言に、驚きの声が漏れる室内。
私は殿下が眼鏡に施してくれた『あんしきのう』によって、薄暗い室内もはっきり見える事と、気配を限りなく薄くできるスキルでこの室内を動き回り指示を出す。
そして、もちろん両陛下の表面に浮かべられる表情と、隠しきれていると思われている心の奥底を一瞬も見逃さないように気配りは怠らない。
映し出される殿下の実技試験の様子から、魔法能力の高い者からそのよう試験場所の不備や、狙う的のおかしさに気付くものが出始める。
「なぜ、この場所だけ全く結界が張られていないのだ?」
「このままでは、下手に魔法を放てば、その先に居るものに被害が出るぞ」
「元々、何もできないと考えてのこの配置か?」
「しかし、それであればなぜ的だけ上級使用になっているのだ!」
この場にも両陛下が居ることにも気が配れないほど、魔法が得意な家の魔術師と呼ばれている者たちが声を上げる。
この声を上げた中には私の手の者もいるが、見るものが見ればすぐにわかる程度の、どう見ても『いじめ』に他ならない行い。
殿下はこれまで魔力に関する試験は受けたことがないから、この様な場合に使われる的についても初見のはずである。しかし、自分にあてがわれた的と、これまで使われている的との違いは目視するだけで気付かれたようで、もたもたと試験開始の合図を送らない屑教師を無視する形で、実技試験を始められた。
使われる魔法は水属性の物を。これは試験を受けられる前に話し合って決めていたものだ。
まだ魔力操作を始めたばかりの一年生は、その場にとどまって魔法を放つことが精々である所だが、殿下の目線を映し出すそれは、的の周囲にめぐらせた円周上をゆっくりと動きながら水魔法を放つものだ。
放つという言葉ではおかしいかもしれない。殿下の生み出された水は、絶え間なく放出され的に当たり物凄い水しぶきを上げて弾け飛び、そこに光が当たって虹ができているのが見える。
殿下はゆっくりと歩みを進めながらも、高威力の水の噴出は止めず、気づけば殿下の狙う的の真後ろに、校長たちの座っている観客席が……。
射線が重なった。
すると、それまで的に当たり聞こえてきた音と明らかに違う音が響いてきたのだ。
カーンカーンカーン……カンカンカンカン……カカカカ……キーンキーン……キューン
ただの水ではない、少なくとも氷。低い音から高い音へ。これまで見たことがない方法で打ち出される水魔法に。それまで聞こえてきていた様々な呟きが一切消えて、ただ目の前に広がる映像とその音に食い入りように注目する大人達。
そして
シュッ!という音と共に、殿下の狙っていた的の中央をその魔力の塊が打ち抜いて、穴が開いたことが確認できた。
それでも殿下はその魔法を止めることはせず、正確に自身が生み出した穴を正確に打ち抜きながら、射線の向こう側、校長たちの座る観客席前に張られている結界に魔力の塊を当てている。
この競技場の結界は、まぁはっきり言ってその結界につかう魔石の量つまり払う金額の高さで、強度の強さや仕様が変わってくるものだ。
校長は懐も小さく、一番低価格な結界を張っただけにしたのだろう。
今回の催しが、初級学校の一年生の実技試験であったからそれで事足りると考えたのだろうが、どの様なものであっても王族が参加する行事でこのような結界を使用することはいかがなものか。
結界の薄さに気づいた者たちもとても渋い表情で映し出される殿下の姿とその先の校長たちを見つめる。
高等試験に使われる的を撃ちぬいた魔力が、そんな紙のような結界を破ることは容易いだろうが、魔力操作に長けている殿下は、結界に罅を入れるだけにして自身の試技を止めた。
そこで映像も止まり、部屋の明かりがともり、静まり返った室内の大勢の大人たちの表情が露わになった。
中央に座って見ていらした、両陛下は表情を露わにしないという貴族の基本も何のその、魂が抜けたような表情であることは共通しているものの、その瞳に浮かぶ色は対照的だった。
明るくなった部屋の中、今までの映像の中でふんぞり返って映っていた者とその取り巻きたちは……小さく背を丸め顔を伏せ、何とかこの場から逃げ出そうと試みているようであるが、その席から立ちあがることも許されず、衆目の視線の先、ただ震えていた。
この場の取り纏めである宰相から合図を受けて、先ほどこの場のことを仕切った小役人がまた大きな声でこの余興の終了を宣言すした。
初めて目にしている者たちの批判の声が聞こえる中で、「この状態を見て何も感じていなかったのか?」と言う問いかけに、自身の姿が白い布の上に映し出された上位貴族の者たちは、この暗闇の中顔を赤らめているのか、青ざめているのか……。
貴族であっても自身の子供は可愛い。学校という閉じられた世界の中に、ある意味人質のように囚われているとも考えられる我が子。その世界の中心に聳え立っている、外の世界では自分よりも身分が低いが、その世界の中での絶対王者のような存在に、何も言い返すことができなかった、こっちの世界の権力者たち。
改めて見る歪な世界の一面の中に取り込まれている自分たち大人の姿に何を思うのか。
殿下の目線の映像は、
「私の実技試験の場所はここであってますか?」
と言う、殿下が発せられた声から、殿下の実技試験に移っていく。
嘲るような笑みを口の端に乗せた教師らしき者の、普段殿下のことを敬称をつけずに呼び捨てで呼んでいるだろう様子がわかる発言に、驚きの声が漏れる室内。
私は殿下が眼鏡に施してくれた『あんしきのう』によって、薄暗い室内もはっきり見える事と、気配を限りなく薄くできるスキルでこの室内を動き回り指示を出す。
そして、もちろん両陛下の表面に浮かべられる表情と、隠しきれていると思われている心の奥底を一瞬も見逃さないように気配りは怠らない。
映し出される殿下の実技試験の様子から、魔法能力の高い者からそのよう試験場所の不備や、狙う的のおかしさに気付くものが出始める。
「なぜ、この場所だけ全く結界が張られていないのだ?」
「このままでは、下手に魔法を放てば、その先に居るものに被害が出るぞ」
「元々、何もできないと考えてのこの配置か?」
「しかし、それであればなぜ的だけ上級使用になっているのだ!」
この場にも両陛下が居ることにも気が配れないほど、魔法が得意な家の魔術師と呼ばれている者たちが声を上げる。
この声を上げた中には私の手の者もいるが、見るものが見ればすぐにわかる程度の、どう見ても『いじめ』に他ならない行い。
殿下はこれまで魔力に関する試験は受けたことがないから、この様な場合に使われる的についても初見のはずである。しかし、自分にあてがわれた的と、これまで使われている的との違いは目視するだけで気付かれたようで、もたもたと試験開始の合図を送らない屑教師を無視する形で、実技試験を始められた。
使われる魔法は水属性の物を。これは試験を受けられる前に話し合って決めていたものだ。
まだ魔力操作を始めたばかりの一年生は、その場にとどまって魔法を放つことが精々である所だが、殿下の目線を映し出すそれは、的の周囲にめぐらせた円周上をゆっくりと動きながら水魔法を放つものだ。
放つという言葉ではおかしいかもしれない。殿下の生み出された水は、絶え間なく放出され的に当たり物凄い水しぶきを上げて弾け飛び、そこに光が当たって虹ができているのが見える。
殿下はゆっくりと歩みを進めながらも、高威力の水の噴出は止めず、気づけば殿下の狙う的の真後ろに、校長たちの座っている観客席が……。
射線が重なった。
すると、それまで的に当たり聞こえてきた音と明らかに違う音が響いてきたのだ。
カーンカーンカーン……カンカンカンカン……カカカカ……キーンキーン……キューン
ただの水ではない、少なくとも氷。低い音から高い音へ。これまで見たことがない方法で打ち出される水魔法に。それまで聞こえてきていた様々な呟きが一切消えて、ただ目の前に広がる映像とその音に食い入りように注目する大人達。
そして
シュッ!という音と共に、殿下の狙っていた的の中央をその魔力の塊が打ち抜いて、穴が開いたことが確認できた。
それでも殿下はその魔法を止めることはせず、正確に自身が生み出した穴を正確に打ち抜きながら、射線の向こう側、校長たちの座る観客席前に張られている結界に魔力の塊を当てている。
この競技場の結界は、まぁはっきり言ってその結界につかう魔石の量つまり払う金額の高さで、強度の強さや仕様が変わってくるものだ。
校長は懐も小さく、一番低価格な結界を張っただけにしたのだろう。
今回の催しが、初級学校の一年生の実技試験であったからそれで事足りると考えたのだろうが、どの様なものであっても王族が参加する行事でこのような結界を使用することはいかがなものか。
結界の薄さに気づいた者たちもとても渋い表情で映し出される殿下の姿とその先の校長たちを見つめる。
高等試験に使われる的を撃ちぬいた魔力が、そんな紙のような結界を破ることは容易いだろうが、魔力操作に長けている殿下は、結界に罅を入れるだけにして自身の試技を止めた。
そこで映像も止まり、部屋の明かりがともり、静まり返った室内の大勢の大人たちの表情が露わになった。
中央に座って見ていらした、両陛下は表情を露わにしないという貴族の基本も何のその、魂が抜けたような表情であることは共通しているものの、その瞳に浮かぶ色は対照的だった。
明るくなった部屋の中、今までの映像の中でふんぞり返って映っていた者とその取り巻きたちは……小さく背を丸め顔を伏せ、何とかこの場から逃げ出そうと試みているようであるが、その席から立ちあがることも許されず、衆目の視線の先、ただ震えていた。
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