転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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マーシュ・スリート  23 断罪・校長やその腰巾着

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 宰相が、あくまでも両陛下に報告をするという形で話し始める。

「今回の余興はいかがでございましたか、とても珍しい『ろくが』の『じょうえいかい』というのだそうです。この魔道具を作られたのは、恐れ多くも先ほど素晴らしい魔力操作能力をご披露いただいた、アースクエイク殿下です。殿下のお姿を全く見ることができなかったのは残念でありますが……」

 両陛下の様子を窺うと、王妃殿下の方は既に平常を取り戻されているように澄ました仮面顔で、その内面をうかがい知ることはできないが、国王陛下の方は、まだ事態が理解できない様子で、瞳は胡乱で顔色も青いままだ。

 そんな両殿下の様子にはお構いなしに宰相は話を続ける。

「私事になるのですが、私の息子もアースクエイク殿下とは学年が違いますが初級学校に通っておりまして、生徒会長を拝命しているのですが……生徒間の噂や相談事は学年関係なく持ち込まれるのだそうです」

 宰相の話にこの広間の中にいる招待客たちのほとんどが興味を持っているようで、部屋の中は咳き一つ立てられることなく宰相の言葉に耳を傾けている。

「その中で、面白いことを聞きまして……殿下は全く魔力操作の授業を受けさせてもらっていないと。……いつも見学だけで授業に参加することがない、そのことに疑問を持った生徒が担当教師に尋ねたところ、それは『殿下の我儘だ』と答えたそうなのです。……が、ある時その教師が殿下ご自身に話している場面を目にしたそうで、その時には殿下に、『まだ生徒たちの魔力操作はあまりにも未熟。殿下に何かありましたら大変なことになりますので、いつものように見学でお願いいたします』と言って殿下をその場から追いやったのを見てしまったということです」

 そこで宰相は一度言葉を切ると、例の固まって座ったままの一団に目をやり、さも今気づいたように声を上げた。

「あぁ、よく見てみれば、殿下の魔力制御担当の教師がこの場に、その上司である校長も、おぉそこには先程の『ろくが』に映っていた方々がいらっしゃるようだ。丁度いい、いくつか疑問があるのだが、両陛下もご子息たる殿下のことですので一緒にお聞きいただくことにしよう」
 
 少し宰相の様子は大げさでわざとらしくも見えるが、そこは誰も指摘することなく、腰を折る発言をする者は誰も居ない。

 校長たちも今の『ろくが』を見せられたところで、下手に反論もできない。確かにあの場であのような態度をとっていたのは本人たちで、それを知っている当日競技場に居た保護者もこの場には数多く居るのだから。

「まず一つ目の疑問なのですが……殿下に魔力制御の実技させず全て見学させていただけ、というのはどういうことなのですかな?」
 
 宰相は校長の周りに固まるように座り、青を通り越して白い顔になっている集団の中の一人に視線を当てて問う。

 視線を避けるように下を向いていた当の魔力制御担当の教師に、仲間であるはずの校長自らその回答を促すように、担当教師の胸ぐらをつかみ俯いた顔を挙げさせる。

「宰相閣下のご質問だきちんと答えるように」

 鬼の形相も格や、真っ赤な顔の味方のボスに強要されて、担当教師は泡をはいて白目をむき気絶した。

 これには会場全体が驚いた。もちろん校長が、答えさせないために彼を気絶させたわけではないだろことは誰の目にも明らかなのだが、そこは海千山千の貴族そのようなある意味良いチャンスを逃すことは無い。

「あぁ!いくら答えさせたくないと言えども、気絶させて口封じは……」

 大げさに声を上げる宰相に対して、当の校長は気絶した自分の部下から慌てて手を放し、顔色を無くし口角泡を吹きながら弁明する。

「いいえ!これは!そのような……」

 手を離された魔力制御の担任教師は、そのまま頭を床に打ち付けて、違う力でも気を失ったであろう扱いで、ピクリとも動かない。

「では、代わりに上司であり学校の監督責任のある校長に答えていただきましょう」

 傍から見ればどちらが悪役なのかわからない構図のまま話は進められる。

「それは……殿下が授業を受けたくないと……」

 これほどすぐに顔色がころころと変わるのかと思えるぐらい、今度はまた真っ赤な顔をした校長が汗を拭きだしながらしどろもどろに声を出す。

「ふむ……それでは校長は先程私が聞いた話はうそ・・であると言われるわけですね?」

 宰相の言葉に我が意を得たりと校長は

「はい、それはあくまでも噂話でありまして、面白おかしく噂を立てるものや……そう……教師の気を引きたくて虚言を申し立てる愚か者も少なくないのですよ……まだ子供ですからね」

 これはうまく返答で来たぞ、という雰囲気を隠しもせず、醜い笑みを浮かべながら、宰相に阿るような声を出す校長。

 宰相はその返答に大きくうなずいて見せた後、見るものが見れば静かに激怒しているとわかる、薄い笑みを口の端にのせて幾分低い声音で校長の返答に言葉を返す。

「その、教師の気を引くために虚言を申し立てる愚か者……でしたかね。その生徒の名は、フォスキーア・マルケーゼ・ゲイル。私の娘です。あぁ、確かにまだ子供ですがね……」

 宰相の言葉に、校長は返す言葉もない。また、真っ白に変わった顔色でその場で震えるばかりである。

 私は壁際ですっかり気配を消して傍観者に徹する。

 今回のこの茶番劇には、初級学校を浄化するという目的の他に、私にとってはこれからも現れるだろう殿下の為に害にしかならない者の選別の下地作りも兼ねている。

 すでに出ている毒芽に対しては、これ以上蔓延らせないためと、その芽を狩る準備のため……まぁこの壁際からこの劇を面白おかしく見ている輩のその心の中まで探る様に、すべての所作に気を配り記憶する。殿下にお借りしているこの『びでおかめら』も『ろくが』で動かしている。

 宰相が国王の目の前で行う断罪を、自分には全く関係のない物としてただ興味のある出し物として見る者。

 競技場で殿下の扱いに疑問を持ちながらも傍観者に徹していたある意味関係者ともいえる生徒の父兄達。

 競技場の殿下の扱いに、ある意味賛同していた自分を、知られたくないと顔色が悪い貴族達。

 せっかく自分の持ち駒として利用しようとしていたのに、失敗した校長小者に見切りをつける者。

 殿下の能力に対してどのように判断していいのか混乱している者。

 殿下の能力に対して懐疑的で、認めようとしていない者。

 等々……。

 この場にいるほとんどの者が殿下に対して否定的な考えを持つ者達だ。その者たちの中にどれだけ楔を打ち込めたかはわからない。

 どのようにしたところで、この中にいる者のほとんどが敵であることには違いはないのだ。

 今、殿下の側に立って断罪を行っているように見える宰相にしても、ただ初級学校にある病巣を取りにぞいただけ。

 何といっても一番の敵は、この広間の真ん中。立派な椅子に座って、この断罪を静かに見つめている四つの瞳の持ち主に他ならないのだから……。
 

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