転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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チュート殿下 80 王立学園に入学するまでに…… 2

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 逃げ出そうと思ったこともあった。

 

 冒険者として力をつけ始めたころ、この国以外の所にも瞬間移動で行けるようになって、少し調子に乗っていたのかもしれない。

 

 逃げ出せるかもしれない。

 心の中のどこかで、この理不尽な、現実に思いたくない現実から目をつぶりたかったのだ。きっと……。

 そしてそれだけの力を俺は自分の手に入れたと思っていたんだ。

 
 それまでは長くても3日は開けずに離宮に帰っていたのだが、この時は7日以上離宮に帰ることなく、アミュレット王国では聞いたこともない国にまでやって来ていたと思う。

 それまでの旅は順調で、そう苦労することもなく魔獣を倒し、誰も俺のことを知らない自由な空気に酔っていたのかもしれない。

 ところが、いきなり何の前触れもなく、ある村の宿に泊まった朝、全く身体が動かなくなってしまったのだ。

 キールも何故か実体化ができなくなっていたし、随分と鄙びた村だったため医者などこの地に居ない。

 最近は余り行っていなかった鑑定を自分に掛けたキールは、その直後俺にも鑑定をかけて、思いもよらない今回の身体の不調の原因を突き止めたのだ。

「アースの存在自体がこの世界から弾かれようとしている」

 それに伴い、キールの力も奪われようとしていた。

 そもそもの俺の存在について、これまでも何度か危機はあったのだ。

 まず始めに、前世の記憶を持った俺の魂?がこの世界のアースクエイクの中に入り込んだことで、ゲームのシナリオから外れることを恐れたのか、5歳の帯剣の儀までは、俺の意識と共にアークの意識まで閉じ込めれれていたこと。このことが、未だ根強く付きまとう、何もできないポンコツ王子という評価が生まれてしまった原因。

 次に、その帯剣の儀で異常状態であると捉えた俺の意識を消すために、一種の治癒魔法的なものを浴びせられ。

 結果は、そのおかげで俺の意識が表に出てこられたわけだが、それから何かにつけて俺の存在を消そうと試みる存在があることは確かだった。

 そのような中でも何とか俺が消されなかったのは、俺がこのゲームのチュートリアルを努めなければならないそれ以降の物語ゲームが進まない為であろうと、キールと結論付けたこともあった。

 そのことを金科玉条として、王国を離れる冒険に出たところもあったのだが……。

 ここに来て、俺がアミュレット王国から長く遠く離れたことを好機として、俺自体の存在を消すことを物語ゲームが選択したのかもしれないというのだ。

 俺の存在を消す。

 俺の代わりに新しい俺を置く。

 俺の代わりを他のキャラクターにやらせる。

 その方法はいくつも考えられるが……。

 どの方法をとるにしても、今までうまくいかなかったことがここに来て、何か仕掛けられているようでもないのに実行されようとしているのはなぜなのか?

 今まであえて目をつぶっていたような、俺の存在というものについて考えた時、これまでこの世界に鑑定魔法をかけまくっていたキールの導き出した一つの推測。

 前世の記憶、それもこの世界の根幹にかかわるような記憶を持ってこの世界にやってきた俺は、異物であることは間違いないが、この世界に存在しているということに関しては、他の者達と同じくくり。

 この世界の法則に全くとらわれずに生きていくことは不可能なのかもしれない。

 一部であろうが全部であろうがこの世界の生き物の魂はどこかでこの世界に確かに囚われており、ある程度のこの世の理シナリオに乗っていなければこの世界から排除されてしまうのではないか?

 俺が何の前触れもなくこの状態になっているのもそれが原因ではないのか?

 俺の知っているこの世界のシナリオ。

 俺の関わるシナリオ。

 それは、長くても「ドキ恋」の2作目の初めまで。

 二年生になれても、三年生になれない、それくらいの時間。

 俺は断罪されて、辺境に送られるそのシナリオの通りに進まなければ、この世界の頸木から解放されないのかもしれない。

 余りにもシナリオと違う自由過ぎる者は排除。この物語からあらゆる意味で消されるのかもしれない。

 
 排除を行う基準となるのは、距離なのか、時間なのか、行動自体なのか……。

 行動に関しては、王国にいたころから結構外れたことをしていた、というか外れたことしかしていなかった。

 距離に関しては、ここよりも遠くまで行ったこともあった。

 しかしその時にも今回のようなことは無かったのだ。

 残るは……今回のこの現象に関係あるのは、時間か?……。

 今まで3日は開けたことがなかった、離宮への帰還。

 それが今、7日以上帰っていない。

 このことが原因であるとすれば、とにかくすぐにアミュレット王国まで戻ることで、存在を消されるまでには至らないのではないか。

 これが今回のことに関してのキールの結論。

 名も知らぬ国の名も知らぬ村から、いつもよりも慎重に魔法を編んで、アミュレット王国王城の俺の離宮に飛翔とぶ

 

 離宮の嗅ぎなれた空気に包まれた瞬間、これまでの体の不調が噓のように無くなった。

 そして、いつもは俺が居なかったとしてもきっちりと整えられているはずの部屋が、ここ数日誰も入っていないような、うっすらと埃が載っているテーブルを見た瞬間、キールの言っていた『あらゆる意味での俺の存在がなくなる』一歩手前であったことを実感して、背筋が凍えた。

「もしかしたら……」

 思わず口から洩れた弱々しい声音に、俺自身が驚いたその時。

「殿下ぁ!遅れてしまって申し訳ありません!何故か目が覚めなくて……」

 いつもと変わらないリフルの慌て顔を見た瞬間、それまでの杞憂がすべて晴れた。

「あれ?なんでこの部屋こんなに埃っぽいの?」

 飛びつくようにして開けられた窓から、心地よい風が流れ込んできて、この部屋に溜まっていた物語の悪意も一掃された気がした。

 リフルの前ではまだ実体化して見せないキールが、少し難しい顔でこの辺りに自分の力を行使していることがわかる。

 新たに分かったことがあれば、後で教えてくれるだろう。

 俺は、早速今気が付いた空腹をリフルに訴えることにしたのだった。

 
 
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