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閑話 ある冒険者ギルド受付嬢「彼女」の話 2
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カウンター内から反射的に扉の方に目をやると、外の明るさに徹夜明けの目が染みた。
さっきとは違う涙に滲んだ先には、こちらに近づいてくる二つの影。
いつもの笑顔を顔に張り付けて、こちらもルーティーンの言葉を二つの影に投げかける彼女。
「こんにちは、冒険者ギルドにようこそ!本日は何の御用ですか?」
彼女のすぐ目の前までやってきた二つの影が陰でなくなった時に、顔に張り付けていた笑顔が違う意味で張り付いた……。
これまでこの場で見たこともないどう見ても上級な男が、これまた将来はいい男になりそうな子供を連れて立っていたからである。
(さっきまで欠伸してたけど……まさかよだれとか口元についていないよね……)
先ほどまでの自分の行動に後悔しつつ、いつもの営業笑顔ではない、心からの笑顔で接客に励むことにした彼女。
ただの依頼目的の人たちだとしても、依頼の書類から名前は知ることができるかもしれない。
それにもしかしたら……。と言う下心満載の接客だ。
十中八九、貴族街に近いこのギルドではこのように上品な人物の場合、平民のような恰好をした貴族で、少し厄介な依頼を出されることが多いのだが、厄介な思いをするのは依頼を受けた冒険者であって受付嬢である自分ではない、それに今はいつもならばこのような美味しい依頼の時に必ず邪魔をしてくるお局受付嬢が居ない。
(今日はなんていい日なの!)
心の中で歓喜して、いい男の発言を待つ。
「ここに来た目的は……」
(きたあぁ~!いい男は声もいい!)
変態な心の中を顔に出さないのはこれまでの積み上げてきたスキルのたまものか、表情を変えることなく男が必要であろう依頼用の書類を準備しながら、笑顔で待つ。
「……冒険者登録をしたくて来た。ここで受付してもらえるのか?」
「……」(なっなんと!登録ですと⁉貴方たち、貴族じゃないの?)
彼女は驚きのあまり少し間が開いてしまった。
「登録はこの場ではないのか?」
男のつぶやきに我に返る。
「いえ。この場で登録できます!」
準備していた書類を、登録用に差し替えて筆記具と共にカウンターに差し出す。
(いけないイケナイ、せっかくのチャンスを逃すところだった……)
額に浮かんできた汗を思わず拭いそうになって思いとどまる、化粧が剥げてしまうかもしれないからだ……。
「一つ、教えて頂きたいのだが……」
「はい何でしょうか?どのような事でもお尋ねください」
食い気味に返事を返してしまった彼女に、カウンター直ぐに立っていた男が半歩後ろに足を引いてしまったようだ。
(いけないイケナイ、心の声が行動に出てしまっては……)
笑顔に一層力を込めて、男の質問を待つ。
「……あぁ……。登録できる年齢だが、10歳以上であればできるのであったかな?」
(10歳以上ってどう見てもあなたは10歳以上でしょ?)
へんな事を聞いてくるな、と一瞬思ったが、気がつけばというか初めから彼は子供を連れていた。すっかり目の中に入らず忘れていた。
(あっそうだった、男の子。はっ!……子供ってまさか⁉……弟か何かだよね……)
彼女が少し目線を下げるとじっ顔を見つめる男の子と目があった。何か心の奥底までのぞき込まれるようなそんな気がして彼女は直ぐに視線をはがす。
「はい。精霊契約の儀式がお済みであれば、冒険者登録をすることができます。されますか?」
一部しか渡していなかった登録用の書類をもう一部男に手渡す。
それを男は、横で彼女をまだ見つめていた男の子に渡した。
質問をしながらも書類記入は行っていたのか、筆記具も男の子に渡した男は、書き終わったらしい書類を彼女に差し出した。
そこにはやけに整った文字が整然と並んでいた。
(やはり、貴族ね。貴族じゃなかったら金持ちの商人の息子かしらね)
勝手に男の値踏みを澄ませて、書かれた内容の方に意識を移す。そこには名字のない名前と、得意な武器しか書き込まれていなかった。
そもそも冒険者登録とはそのようなものであるが、あまりの情報の少なさにがっかりしてしまう。
ため息をつきそうになったところで、男の子の方の書類も差し出された。
こちらもやけにきっちりとした書体で、とても10歳になったばかりの子供が書いた文字とは思えない。
こちらも先程のものと同じく、やけにあっさりとした内容で終わっていた。
「お名前と、得意な武器について登録をいたしておきます。連絡先のご記入が無いのですが、どのようにされますか?」
こ連絡先についても、B級以上の強制依頼を受けなければならない上位ランカー以外、ギルドから連絡を取る必要のないものであるから、記入については任意となっている。
「こちらから出向く以外連絡を取るような必要はないと思うが」
(私が個人的に知りたいから書いてくださいとはさすがに言えない……)
「かしこまりました。では、冒険者用のプレートを用意しますので、後ろの椅子におかけになって少しお待ちください」
彼女は残念な気持ちを顔には出さないようにして、くるりとカウンターに背を向けて冒険者用のプレートが仕舞われている棚に向かう。
後ろを向くと、比較的近くにこのギルドの中で一番鑑定能力の高い副ギルド長が立っていて驚いた。あまりこの一階の受付カウンターには顔を出さない吾人だからである。
副ギルド長は、そのまま彼女に仕事を続けろと目で指図している気がしたので、そのまま書類を持って冒険者登録の作業を続ける。
その彼女の後を副ギルド長もついてきて、カウンターの外からは見えないようなところまで来ると、おもむろに口を開いた。
「今受付している二人な」
「はい」
「だれ?」
何を言っているのだろうこの人は?
「誰も何も今日初めて来た人ですけど……」
「そんなことはわかっている……書類を見せろ」
ここに勤めだしてそんなに短い訳でもないが、このような行為に出られたことはなかったので驚いていると。
有無も言わせず手元から書類をひったくられた。
さっきとは違う涙に滲んだ先には、こちらに近づいてくる二つの影。
いつもの笑顔を顔に張り付けて、こちらもルーティーンの言葉を二つの影に投げかける彼女。
「こんにちは、冒険者ギルドにようこそ!本日は何の御用ですか?」
彼女のすぐ目の前までやってきた二つの影が陰でなくなった時に、顔に張り付けていた笑顔が違う意味で張り付いた……。
これまでこの場で見たこともないどう見ても上級な男が、これまた将来はいい男になりそうな子供を連れて立っていたからである。
(さっきまで欠伸してたけど……まさかよだれとか口元についていないよね……)
先ほどまでの自分の行動に後悔しつつ、いつもの営業笑顔ではない、心からの笑顔で接客に励むことにした彼女。
ただの依頼目的の人たちだとしても、依頼の書類から名前は知ることができるかもしれない。
それにもしかしたら……。と言う下心満載の接客だ。
十中八九、貴族街に近いこのギルドではこのように上品な人物の場合、平民のような恰好をした貴族で、少し厄介な依頼を出されることが多いのだが、厄介な思いをするのは依頼を受けた冒険者であって受付嬢である自分ではない、それに今はいつもならばこのような美味しい依頼の時に必ず邪魔をしてくるお局受付嬢が居ない。
(今日はなんていい日なの!)
心の中で歓喜して、いい男の発言を待つ。
「ここに来た目的は……」
(きたあぁ~!いい男は声もいい!)
変態な心の中を顔に出さないのはこれまでの積み上げてきたスキルのたまものか、表情を変えることなく男が必要であろう依頼用の書類を準備しながら、笑顔で待つ。
「……冒険者登録をしたくて来た。ここで受付してもらえるのか?」
「……」(なっなんと!登録ですと⁉貴方たち、貴族じゃないの?)
彼女は驚きのあまり少し間が開いてしまった。
「登録はこの場ではないのか?」
男のつぶやきに我に返る。
「いえ。この場で登録できます!」
準備していた書類を、登録用に差し替えて筆記具と共にカウンターに差し出す。
(いけないイケナイ、せっかくのチャンスを逃すところだった……)
額に浮かんできた汗を思わず拭いそうになって思いとどまる、化粧が剥げてしまうかもしれないからだ……。
「一つ、教えて頂きたいのだが……」
「はい何でしょうか?どのような事でもお尋ねください」
食い気味に返事を返してしまった彼女に、カウンター直ぐに立っていた男が半歩後ろに足を引いてしまったようだ。
(いけないイケナイ、心の声が行動に出てしまっては……)
笑顔に一層力を込めて、男の質問を待つ。
「……あぁ……。登録できる年齢だが、10歳以上であればできるのであったかな?」
(10歳以上ってどう見てもあなたは10歳以上でしょ?)
へんな事を聞いてくるな、と一瞬思ったが、気がつけばというか初めから彼は子供を連れていた。すっかり目の中に入らず忘れていた。
(あっそうだった、男の子。はっ!……子供ってまさか⁉……弟か何かだよね……)
彼女が少し目線を下げるとじっ顔を見つめる男の子と目があった。何か心の奥底までのぞき込まれるようなそんな気がして彼女は直ぐに視線をはがす。
「はい。精霊契約の儀式がお済みであれば、冒険者登録をすることができます。されますか?」
一部しか渡していなかった登録用の書類をもう一部男に手渡す。
それを男は、横で彼女をまだ見つめていた男の子に渡した。
質問をしながらも書類記入は行っていたのか、筆記具も男の子に渡した男は、書き終わったらしい書類を彼女に差し出した。
そこにはやけに整った文字が整然と並んでいた。
(やはり、貴族ね。貴族じゃなかったら金持ちの商人の息子かしらね)
勝手に男の値踏みを澄ませて、書かれた内容の方に意識を移す。そこには名字のない名前と、得意な武器しか書き込まれていなかった。
そもそも冒険者登録とはそのようなものであるが、あまりの情報の少なさにがっかりしてしまう。
ため息をつきそうになったところで、男の子の方の書類も差し出された。
こちらもやけにきっちりとした書体で、とても10歳になったばかりの子供が書いた文字とは思えない。
こちらも先程のものと同じく、やけにあっさりとした内容で終わっていた。
「お名前と、得意な武器について登録をいたしておきます。連絡先のご記入が無いのですが、どのようにされますか?」
こ連絡先についても、B級以上の強制依頼を受けなければならない上位ランカー以外、ギルドから連絡を取る必要のないものであるから、記入については任意となっている。
「こちらから出向く以外連絡を取るような必要はないと思うが」
(私が個人的に知りたいから書いてくださいとはさすがに言えない……)
「かしこまりました。では、冒険者用のプレートを用意しますので、後ろの椅子におかけになって少しお待ちください」
彼女は残念な気持ちを顔には出さないようにして、くるりとカウンターに背を向けて冒険者用のプレートが仕舞われている棚に向かう。
後ろを向くと、比較的近くにこのギルドの中で一番鑑定能力の高い副ギルド長が立っていて驚いた。あまりこの一階の受付カウンターには顔を出さない吾人だからである。
副ギルド長は、そのまま彼女に仕事を続けろと目で指図している気がしたので、そのまま書類を持って冒険者登録の作業を続ける。
その彼女の後を副ギルド長もついてきて、カウンターの外からは見えないようなところまで来ると、おもむろに口を開いた。
「今受付している二人な」
「はい」
「だれ?」
何を言っているのだろうこの人は?
「誰も何も今日初めて来た人ですけど……」
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