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閑話 ある冒険者ギルド受付嬢「ベッキー」の話 3
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「副ギルド長?」
何か、あの二人に不都合があったのだろうか?間違えた対応はしていないはずであるが……。
じっくり見るほど書き込まれている内容はない。名前と、武器の種類くらいだ。
魔法に関しては両人とも纏っている色は薄い茶色。
そういえば、色以外は見た目も所作も貴族にみえる。
「完璧な隠蔽だな。俺の鑑定でも見破れない。結構使えるだろうな魔法も、それ以外も」
しっかり目をかけとけよ。と言いながら副ギルド長は二階の自分の執務室へ上がっていった。
(やっぱり副ギルド長も一目置くような人物なんだ。色も変えているとすればやっぱり貴族⁉)
これはきっと、これまでの人生の上で一番の玉の輿チャンスかもしれない。
乙女としていつも身に着けている化粧道具を出して、化粧直しをする。
やっぱり徹夜の影響か目の下のクマは隠すに隠せない。しかし、ここで時間を食って他の受付嬢、特にお局に見つかるものなら、専属というおいしい役割をかっさらわれる。
冒険者用のプレートを準備する。はじめは誰でも一番下のランクから。
このプレートの仕組みは発行する立場のギルド職員の誰も全く分からない。とにかく高性能な金属?で出来た板である。
このプレート専用の箱の上に置くことで様々な機能を発揮する不思議なプレート。
この仕事を始めた時には、とにかくこのプレートの仕組みが不思議で、色々と先輩に聞きまわっていたが、結局わかったことは、このプレートに関することは誰も何もわからないということだ。
いくら悩んでもわからないことに、頭を悩ませても仕方がない。最近はこのことについて考えることはやめた。
文字入力ができる大き目な箱の上において、提出された書類をもとに名前を入力する。
「キール……アース……」
このプレートには名前を入力するだけで本当は事足りる。
後必要なことは血液を一滴たらすこと。
すると本人確認はもちろんのこと、何故か魔獣討伐数など冒険者として申告が必要な個人情報をこのプレートから知ることができる、考えが及ばないほどの優れものなのだ。
名前を入力し終えた冒険者用のプレートを受付カウンターへ持っていく。
先ほど受付をしたカウンター前の椅子に、2人仲良く座っている。
ただ、不思議なことにいくらギルド内の人間の数が少なかったとしても、この様に見目麗しい人物が居れば男女問わず気にするはずなのに、誰もが全く二人の様子に気を止めない。
これが先程副ギルド長が言っていた隠蔽魔法のことなのかもしれない。
彼らから声をかけられて、そこにいると認識しているからその存在が分かるが、そうでなければそこにいることすら認識できない者なのか。声をかけられていないにもかかわらずその存在を認識した副ギルド長はやはり優れた魔術師なのでしょう。
「キール様、アース様」
彼らに聞き取れるくらいのあまり大きくない声で彼らの名を呼んだ。
はっと、顔を挙げてこちらへ視線を投げたキール様はこの行動の意図に気付いたようで、少し口角を上げてこちらにやってきた。
「冒険者証になるプレートの準備ができました。最後にこちらに血液を一滴お願いいたします」
きちんと消毒した針をプレートがセットされた専用の箱と共に差し出したが、こちらで用意したものがあるからと、針は受け取らなかった。
まず初めに箱の上に準備したのはキールと名が刻まれた方で、よく注意していたつもりであったのだが、気づいたときにはいつの間にかプレートは登録済みになっていた。
登録済みのプレートを本人に渡し、もう一枚アースと名が刻まれた方を専用の箱の上に。
アースの方も、今度こそその瞬間をと思っていたはずであるのに、プレートに目をやるとすでに登録済みとなっていた。
このようなことは初めてで、少し面食らいながらも、登録済みのプレートを渡さないわけにもいかないので、そのまま手渡す。
「冒険者ギルドの説明は必要ですか?」
いつもの手順でいつものように問いかけるが、返ってきた答えは知っているので必要がないというものだった。
そこは無理強いしても仕方がないので、これで最大のチャンスもおしまいかと、少し嫌大分気分を下げながら、おしまいの挨拶をしようとするとあちらから、
「まだ新人で生意気なことかもしれませんが、貴方を専属の受付嬢とさせていただいてもいいですか?」
などと、信じられない言葉がかけられて、そこでまた思考が飛んでしまった。
「あの……」
と心配そうな声で、意識を取り戻すと、さっき副ギルド長が言っていた、しっかり目をかけておけ、という言葉を勝手にいい用に解釈をして、一瞬の間に専属を引き受けることに決めた。
「はい。この青の冒険者ギルドでは、私「ベッキー」が専属の受付嬢ということで、これからもよろしくお願いします」
深々と頭を下げて、今日このシフトで受付嬢になった幸運を、居るかどうかもわからない神に感謝した。
それから、このギルド内で、嫌この国内でも、異常な若さと速さで冒険者ランクを上げていくこの二人の専属の受付嬢となった私、ベッキーであったが、そもそもこの二人の存在を認識できるものが、このギルド内では私の他にはそれこそ高い鑑定魔法を持っている副ギルド長ぐらいしかいない。
「専属のうまみって何?目に優しくない、イケメンを鑑賞できることくらいなの?」
と、自問自答しながら、いつの間にか5年が過ぎていることに気付いた。
「彼らの所為で行き遅れた」と、あれ程嫌っていたお局様に片足を突っ込んだ状態の受付嬢、私、ベッキーなのであった。
何か、あの二人に不都合があったのだろうか?間違えた対応はしていないはずであるが……。
じっくり見るほど書き込まれている内容はない。名前と、武器の種類くらいだ。
魔法に関しては両人とも纏っている色は薄い茶色。
そういえば、色以外は見た目も所作も貴族にみえる。
「完璧な隠蔽だな。俺の鑑定でも見破れない。結構使えるだろうな魔法も、それ以外も」
しっかり目をかけとけよ。と言いながら副ギルド長は二階の自分の執務室へ上がっていった。
(やっぱり副ギルド長も一目置くような人物なんだ。色も変えているとすればやっぱり貴族⁉)
これはきっと、これまでの人生の上で一番の玉の輿チャンスかもしれない。
乙女としていつも身に着けている化粧道具を出して、化粧直しをする。
やっぱり徹夜の影響か目の下のクマは隠すに隠せない。しかし、ここで時間を食って他の受付嬢、特にお局に見つかるものなら、専属というおいしい役割をかっさらわれる。
冒険者用のプレートを準備する。はじめは誰でも一番下のランクから。
このプレートの仕組みは発行する立場のギルド職員の誰も全く分からない。とにかく高性能な金属?で出来た板である。
このプレート専用の箱の上に置くことで様々な機能を発揮する不思議なプレート。
この仕事を始めた時には、とにかくこのプレートの仕組みが不思議で、色々と先輩に聞きまわっていたが、結局わかったことは、このプレートに関することは誰も何もわからないということだ。
いくら悩んでもわからないことに、頭を悩ませても仕方がない。最近はこのことについて考えることはやめた。
文字入力ができる大き目な箱の上において、提出された書類をもとに名前を入力する。
「キール……アース……」
このプレートには名前を入力するだけで本当は事足りる。
後必要なことは血液を一滴たらすこと。
すると本人確認はもちろんのこと、何故か魔獣討伐数など冒険者として申告が必要な個人情報をこのプレートから知ることができる、考えが及ばないほどの優れものなのだ。
名前を入力し終えた冒険者用のプレートを受付カウンターへ持っていく。
先ほど受付をしたカウンター前の椅子に、2人仲良く座っている。
ただ、不思議なことにいくらギルド内の人間の数が少なかったとしても、この様に見目麗しい人物が居れば男女問わず気にするはずなのに、誰もが全く二人の様子に気を止めない。
これが先程副ギルド長が言っていた隠蔽魔法のことなのかもしれない。
彼らから声をかけられて、そこにいると認識しているからその存在が分かるが、そうでなければそこにいることすら認識できない者なのか。声をかけられていないにもかかわらずその存在を認識した副ギルド長はやはり優れた魔術師なのでしょう。
「キール様、アース様」
彼らに聞き取れるくらいのあまり大きくない声で彼らの名を呼んだ。
はっと、顔を挙げてこちらへ視線を投げたキール様はこの行動の意図に気付いたようで、少し口角を上げてこちらにやってきた。
「冒険者証になるプレートの準備ができました。最後にこちらに血液を一滴お願いいたします」
きちんと消毒した針をプレートがセットされた専用の箱と共に差し出したが、こちらで用意したものがあるからと、針は受け取らなかった。
まず初めに箱の上に準備したのはキールと名が刻まれた方で、よく注意していたつもりであったのだが、気づいたときにはいつの間にかプレートは登録済みになっていた。
登録済みのプレートを本人に渡し、もう一枚アースと名が刻まれた方を専用の箱の上に。
アースの方も、今度こそその瞬間をと思っていたはずであるのに、プレートに目をやるとすでに登録済みとなっていた。
このようなことは初めてで、少し面食らいながらも、登録済みのプレートを渡さないわけにもいかないので、そのまま手渡す。
「冒険者ギルドの説明は必要ですか?」
いつもの手順でいつものように問いかけるが、返ってきた答えは知っているので必要がないというものだった。
そこは無理強いしても仕方がないので、これで最大のチャンスもおしまいかと、少し嫌大分気分を下げながら、おしまいの挨拶をしようとするとあちらから、
「まだ新人で生意気なことかもしれませんが、貴方を専属の受付嬢とさせていただいてもいいですか?」
などと、信じられない言葉がかけられて、そこでまた思考が飛んでしまった。
「あの……」
と心配そうな声で、意識を取り戻すと、さっき副ギルド長が言っていた、しっかり目をかけておけ、という言葉を勝手にいい用に解釈をして、一瞬の間に専属を引き受けることに決めた。
「はい。この青の冒険者ギルドでは、私「ベッキー」が専属の受付嬢ということで、これからもよろしくお願いします」
深々と頭を下げて、今日このシフトで受付嬢になった幸運を、居るかどうかもわからない神に感謝した。
それから、このギルド内で、嫌この国内でも、異常な若さと速さで冒険者ランクを上げていくこの二人の専属の受付嬢となった私、ベッキーであったが、そもそもこの二人の存在を認識できるものが、このギルド内では私の他にはそれこそ高い鑑定魔法を持っている副ギルド長ぐらいしかいない。
「専属のうまみって何?目に優しくない、イケメンを鑑賞できることくらいなの?」
と、自問自答しながら、いつの間にか5年が過ぎていることに気付いた。
「彼らの所為で行き遅れた」と、あれ程嫌っていたお局様に片足を突っ込んだ状態の受付嬢、私、ベッキーなのであった。
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