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チュート殿下 95 キールの散歩の先で 1
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二日間の休暇で何ができるというわけでもないかと思うが、取り敢えずマーシュは学園に初日の不届きな職員のことについて正式に抗議をしたようだ。
あの酔っ払いの用務員は勿論のこと、あの時何もしなかった担任にもそれなりの処置があるのではないか?と通学してきてみたが、朝何事もなく教室に顔を出してきたときには、少し驚いた。
正式な王子からの抗議に対して、何のリアクションも取らなかったのか?
公正公平の観点から、一生徒の抗議など一々聞かないというスタンスなのか、アースクエイクからの抗議だから、無かったことにでもしたのか、少し探る必要があるかもしれない。
俺にべったり付いて来ていたキールは早速、行動を起こしたようで、いつものように俺の机周りに最強な結界を張ると、俺にもわからないくらい気配を消してどこかに行ってしまった。
今日は入園式後の初登校日であるし、初日にできなかった授業の説明や、授業登録の方法の最終確認など、事務的なものを担任教師がするようだ。
「今日からの5日間は、必修科目以外の授業は体験をしてから登録することができます。今日の午後から特別教室棟で行われ…………」
音声拡張魔法が使われているのか、ぼそぼそと話す担任の話も、一番教室の後ろの俺の席までしっかりときこえてくる。
話の所々で、全く関係のない俺のところにやたらと視線を送ってくる担任。
あの様子から、全く何もなかったということでもないのかも知れないことは、想像できるが、さてどうだったのか。
今日の出席に関しては、必ず一学年全員が来る事とされていたので、このようなことまで反発はしないから……。
キールがどこまで行っているかわからないが、とりあえずはこの結界の中で担任の話を聞くだけなので危険なこともないだろう。
色々とこれからの授業についての説明を続けている担任。全く面白くないので、キールに念話で話しかけることにした。
『キール!こっちは何事もなくつまらない!今何してるの?』
キールからは間髪入れずに視力の共有で返事があった。
たくさん机が並んでいる教室?イヤ、室内に居るのは教師たちか?職員室⁉
視力だけでなく聴力の共有も始まった。
「いきなり王族が通われるとか言われてもなぁ。それも忘れられていた王族?王子様だっけ?」
「王子様って、三学年の伯爵王子様だけじゃなかったのかよ」
「えぇ?先輩たち何を言ってるのですか?15年前に王子殿下が誕生された時に、大々的に発表があったじゃないですか。私は田舎育ちだから、町の広場に張られた号外のようなものだけでしか知りませんけど、この王都では大々的にお祭りのようなものがあったと、聞いていましたけど。だから私は本物の王子様は学園には来ないと思っていましたよ、中級学校からも何の情報も来ていなかったので」
職員室らしい机がいくつか並べられている部屋の外れの方に置かれている、ソファセットに三人の男が座って声を抑えることもせずに話し合っているのが見える。
どのクラスの担任にも付いていないのだろう。年齢的にも若手の方に分類される教師たちかもしれない。
机の数からしてここはいくつかある職員室の一つなのだろう、もしかしたら、教える教科ごとに部屋が分かれているのかもしれない。
「俺は王都育ちだから……う~ん確かに、思い起こせばそんなこともあったような気もしないことも……あれが、伯爵王子の誕生を祝った、なんてことは……あるわけないか……」
「いくらなんでも、一般の国民に妾?が王子を生みました。と大々的に祝うわけないものな」
「伯爵王子のご母堂って、妾扱いなのです?側妃とかいうものでもなくて?」
「お前、いくら田舎の男爵家の三男坊だからと言ってこの学園の教師なのだから、この国では王と言えども側妃を持つことは許されていないこと知らないのか?」
「えっ?王様は別だと思ってましたよ。私の専門は土属性の実技なのですから、そんなこと知らなくてもこの学園の教師になれたんですよ」
「俺だってしがない子爵家の四男坊だが、さすがにこの国が一夫一婦制であることは知っているぞ。それだからと言って妾や愛人を持つことまで禁止されているわけでないことも知っているがな」
この部屋は魔法の実技担当のあまりベテランではない教師が居る部屋のようだ。
話している三人の中で一番年長に見える、王都出身と言っていた教師が、考え込むような声音のまま、次第に話がずれていった残りの二人の話に割って入った。
「俺は自慢じゃないがお前たちと違い王都育ちの上級貴族出身だ。と言っても貧乏伯爵家ではあるがな……」
ちょっとした自慢話に聞こえなくもないが、声音からそのようなものでないと判断したのだろう、残りの二人も真面目に話を聞くことにしたようだ。
俺の視線はキールと同じだから、彼が動くたびにその視線が変わるわけだが、キールは見られていないことをいいことに、三人が座っているソファーの空いた席にちゃっかり座って、彼らの話を聞き始めたのだ。
「俺の家は爵位はあるが領地がない所謂法衣貴族だから、今の俺のように男はみな学園を出れば宮仕えする。祖父も父も兄も、親戚もほとんどがいろいろな部署でこの王城内で仕事をしている。……国を維持する上で継嗣は非常に重大な問題だ。いくら今の国の情勢が落ち着いていたとしても、継嗣がきちんと決まっていなければ、それが国の乱れになることは良くあることだ」
いきなり始まった授業のような話にも、茶化すことなく残りの二人も真剣に耳を傾けている。
一見チャラそうに見えるこの伯爵家出身らしいこの教師は、それなりに後輩に慕われている存在であることがうかがい知れる。
「今の陛下の継嗣は?今まで何の疑問も持たず伯爵王子がそうであると思い込んでいた。なぜか?お前が妾の子供と思っているような、殿下と呼ぶこともできない人物をだ。……それは、陛下にはそれ以外の継嗣たるお子様がいらっしゃらないと思い込んでいたからだ」
誰も言葉を挟まない、さっきまで声を抑えることなく話していたのに、今は部屋の外に声が漏れることを恐れでもするように小声で、心なしかソファーテーブルに近づき固まって話し込んでいる。
あの酔っ払いの用務員は勿論のこと、あの時何もしなかった担任にもそれなりの処置があるのではないか?と通学してきてみたが、朝何事もなく教室に顔を出してきたときには、少し驚いた。
正式な王子からの抗議に対して、何のリアクションも取らなかったのか?
公正公平の観点から、一生徒の抗議など一々聞かないというスタンスなのか、アースクエイクからの抗議だから、無かったことにでもしたのか、少し探る必要があるかもしれない。
俺にべったり付いて来ていたキールは早速、行動を起こしたようで、いつものように俺の机周りに最強な結界を張ると、俺にもわからないくらい気配を消してどこかに行ってしまった。
今日は入園式後の初登校日であるし、初日にできなかった授業の説明や、授業登録の方法の最終確認など、事務的なものを担任教師がするようだ。
「今日からの5日間は、必修科目以外の授業は体験をしてから登録することができます。今日の午後から特別教室棟で行われ…………」
音声拡張魔法が使われているのか、ぼそぼそと話す担任の話も、一番教室の後ろの俺の席までしっかりときこえてくる。
話の所々で、全く関係のない俺のところにやたらと視線を送ってくる担任。
あの様子から、全く何もなかったということでもないのかも知れないことは、想像できるが、さてどうだったのか。
今日の出席に関しては、必ず一学年全員が来る事とされていたので、このようなことまで反発はしないから……。
キールがどこまで行っているかわからないが、とりあえずはこの結界の中で担任の話を聞くだけなので危険なこともないだろう。
色々とこれからの授業についての説明を続けている担任。全く面白くないので、キールに念話で話しかけることにした。
『キール!こっちは何事もなくつまらない!今何してるの?』
キールからは間髪入れずに視力の共有で返事があった。
たくさん机が並んでいる教室?イヤ、室内に居るのは教師たちか?職員室⁉
視力だけでなく聴力の共有も始まった。
「いきなり王族が通われるとか言われてもなぁ。それも忘れられていた王族?王子様だっけ?」
「王子様って、三学年の伯爵王子様だけじゃなかったのかよ」
「えぇ?先輩たち何を言ってるのですか?15年前に王子殿下が誕生された時に、大々的に発表があったじゃないですか。私は田舎育ちだから、町の広場に張られた号外のようなものだけでしか知りませんけど、この王都では大々的にお祭りのようなものがあったと、聞いていましたけど。だから私は本物の王子様は学園には来ないと思っていましたよ、中級学校からも何の情報も来ていなかったので」
職員室らしい机がいくつか並べられている部屋の外れの方に置かれている、ソファセットに三人の男が座って声を抑えることもせずに話し合っているのが見える。
どのクラスの担任にも付いていないのだろう。年齢的にも若手の方に分類される教師たちかもしれない。
机の数からしてここはいくつかある職員室の一つなのだろう、もしかしたら、教える教科ごとに部屋が分かれているのかもしれない。
「俺は王都育ちだから……う~ん確かに、思い起こせばそんなこともあったような気もしないことも……あれが、伯爵王子の誕生を祝った、なんてことは……あるわけないか……」
「いくらなんでも、一般の国民に妾?が王子を生みました。と大々的に祝うわけないものな」
「伯爵王子のご母堂って、妾扱いなのです?側妃とかいうものでもなくて?」
「お前、いくら田舎の男爵家の三男坊だからと言ってこの学園の教師なのだから、この国では王と言えども側妃を持つことは許されていないこと知らないのか?」
「えっ?王様は別だと思ってましたよ。私の専門は土属性の実技なのですから、そんなこと知らなくてもこの学園の教師になれたんですよ」
「俺だってしがない子爵家の四男坊だが、さすがにこの国が一夫一婦制であることは知っているぞ。それだからと言って妾や愛人を持つことまで禁止されているわけでないことも知っているがな」
この部屋は魔法の実技担当のあまりベテランではない教師が居る部屋のようだ。
話している三人の中で一番年長に見える、王都出身と言っていた教師が、考え込むような声音のまま、次第に話がずれていった残りの二人の話に割って入った。
「俺は自慢じゃないがお前たちと違い王都育ちの上級貴族出身だ。と言っても貧乏伯爵家ではあるがな……」
ちょっとした自慢話に聞こえなくもないが、声音からそのようなものでないと判断したのだろう、残りの二人も真面目に話を聞くことにしたようだ。
俺の視線はキールと同じだから、彼が動くたびにその視線が変わるわけだが、キールは見られていないことをいいことに、三人が座っているソファーの空いた席にちゃっかり座って、彼らの話を聞き始めたのだ。
「俺の家は爵位はあるが領地がない所謂法衣貴族だから、今の俺のように男はみな学園を出れば宮仕えする。祖父も父も兄も、親戚もほとんどがいろいろな部署でこの王城内で仕事をしている。……国を維持する上で継嗣は非常に重大な問題だ。いくら今の国の情勢が落ち着いていたとしても、継嗣がきちんと決まっていなければ、それが国の乱れになることは良くあることだ」
いきなり始まった授業のような話にも、茶化すことなく残りの二人も真剣に耳を傾けている。
一見チャラそうに見えるこの伯爵家出身らしいこの教師は、それなりに後輩に慕われている存在であることがうかがい知れる。
「今の陛下の継嗣は?今まで何の疑問も持たず伯爵王子がそうであると思い込んでいた。なぜか?お前が妾の子供と思っているような、殿下と呼ぶこともできない人物をだ。……それは、陛下にはそれ以外の継嗣たるお子様がいらっしゃらないと思い込んでいたからだ」
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