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チュート殿下 96 キールの散歩の先で 2
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「田舎育ちのお前が知っていたようなこと、当事者でもある王都育ちの俺が覚えていないことはおかしい。歳だって15年前だとしても俺はもう初級学校には通っていた年齢だ。……今お前に言われて思い出した。確かに、継嗣である殿下の誕生をお祝いして、祭りがパレードのようなことまであったことを思い出した。ただ……ただ、その殿下誕生が、なぜか伯爵王子にその存在が変わっていたことに、今の今まで気が付いていなかったことに……俺は恐怖を感じている」
彼の言っていることの意味がよくわからないのだろう、残り二人の教師は黙ったままだ。
今まで空気のように自分の意識を消していたキールが薄く嗤った気配がした。
「王族がこの学園に通う。当たり前だろう、この国では貴族は、精霊契約を果たした貴族はこの学園に通うことになっているのだから。その貴族以上の存在の王族がこの学園に通ってくることを知らなかった?なぜ、このような異常事態に気付かずにいた……」
男の声音には恐怖の感情からか、次第に掠れ音量も耳を欹てないと聞き取れないほどに小さくなっていく。
「さっきも言ったように俺の家族はこの王城内で働いている。何人もだ。それなのに、継嗣である殿下の話、いやその存在を話したことが、全くない。まるでその存在を知らないように……、いや違うな、殿下とウインド伯爵子息を、取り違えて認識していたと思えるように……」
それきり、頭を抱えてその教師は黙ってしまった。
残りの二人も、今の発言の重要性に気付いたのか深刻な顔をして考え込んだ。
キールが何かやったのか、彼等の心の中の声が、話し声と変わらない調子で俺の中に入ってくる。
……これは一番若い教師の心の中か?
『……田舎の貴族としてこの学園に来るまで全く中央の貴族社会に関係も関心も持っていなかった……一年前からこの学園で教え始めたばかりでまだ周りのこと、この学園の中にある貴族の派閥のような物にも関わることなく、目の前のことに取り組むことに精一杯の状態で新学年を迎えた……そこで初めて今度入園する一年生に王子様が居ることに気付いたが、貴族の上を行く王族は、一般人の通う学校で学ぶことなどないのだろうと思い込んでいたから、入園したことには驚きを感じていたが、王子の存在そのものに関して疑問も何も持っていなかった……確かに、記憶の中には、15年前の継嗣である殿下の誕生はしっかりと残っていたからだ。それに、まだ直接王子の顔を見る機会もなかったから、今一つ先輩の言ったことの意味が……』
次に聞こえてきたのはもう一人の子爵家出身の教師か……
『……やけに伯爵王子と呼ばれているウインド伯爵家の長子の扱いが丁寧であることに疑問を感じてはいたが、何かしら中央貴族の中の派閥の力によるものなのだろうと、自分は関係がないスタンスを取り長いものに巻かれていた……周りに合わせた扱いをしておけば何も𠮟責を受けることは無いと思っていたからだ……』
「そう言えば……」
『……自分と同じころ自分と同じ様な爵位で、やはり田舎貴族の嫡男ではないから教師になった男が、入学したての伯爵王子に対してほかの生徒と同じように扱い罰を与えたその後に、この中央にある学園から地方に飛ばされたことがあった……あの時の左遷の理由がよくわからないものであり、同じ様に侯爵家の嫡男を注意し罰を与えても何もなかった教師が居たことを知った時に、「伯爵王子」というのは何かのあだ名のようなものでは無く、「王子」という尊称が重要なのだと、元々の爵位が低い田舎出身の教師たちに知らしめることとなったのだ……伯爵王子の扱いは、中央の爵位の高い者の方が露骨であることを何度も目にする機会を経て、自身もそのことについて何も疑問を持たなくなったのだたか……』
『……目の前で頭を抱えている先輩ほどではないにしても……』
誰もが黙り込み会話がなくなった空間を、くるりと一撫でするように回遊すると、キールはその空間から離脱したようで、そこでいったんキールからの情報は途切れた。
「う~ん……」
目で見えていることと違う情景を頭の中で処理をすることは、もう少し訓練がいるかもしれない。
結構疲れた。
この国、とくに王城内で起こってきたことは、なんとなく先程の教師たちからも、自分たちが推測してきたことが間違っていなかったことを教えてくれる会話であったような気がする。
「俺の存在を、異母兄に置き換えようとして、それが完全には成功はしていないというところかな?」
ダ女神が思っていたものと違う魂が入り込んでしまった俺を何とか抑え込もうとして、両親や関係の強い者達から関心というものを奪い、それがうまくいかなくて直接手を下そうとした帯剣の儀でも失敗して、逆に俺を表層に持ち上げることとなり、それでも女神の思い通りゲームのストーリーにしたくて、あがいている途中か?
それにしてもあれが『ヒロイン』であるとしたら、俺にかまけてあちらまでは注意がいかなかったからなのか、それともやはり女神のレベルがあの程度なのか、悩むところだが……どうなのだろう?
彼の言っていることの意味がよくわからないのだろう、残り二人の教師は黙ったままだ。
今まで空気のように自分の意識を消していたキールが薄く嗤った気配がした。
「王族がこの学園に通う。当たり前だろう、この国では貴族は、精霊契約を果たした貴族はこの学園に通うことになっているのだから。その貴族以上の存在の王族がこの学園に通ってくることを知らなかった?なぜ、このような異常事態に気付かずにいた……」
男の声音には恐怖の感情からか、次第に掠れ音量も耳を欹てないと聞き取れないほどに小さくなっていく。
「さっきも言ったように俺の家族はこの王城内で働いている。何人もだ。それなのに、継嗣である殿下の話、いやその存在を話したことが、全くない。まるでその存在を知らないように……、いや違うな、殿下とウインド伯爵子息を、取り違えて認識していたと思えるように……」
それきり、頭を抱えてその教師は黙ってしまった。
残りの二人も、今の発言の重要性に気付いたのか深刻な顔をして考え込んだ。
キールが何かやったのか、彼等の心の中の声が、話し声と変わらない調子で俺の中に入ってくる。
……これは一番若い教師の心の中か?
『……田舎の貴族としてこの学園に来るまで全く中央の貴族社会に関係も関心も持っていなかった……一年前からこの学園で教え始めたばかりでまだ周りのこと、この学園の中にある貴族の派閥のような物にも関わることなく、目の前のことに取り組むことに精一杯の状態で新学年を迎えた……そこで初めて今度入園する一年生に王子様が居ることに気付いたが、貴族の上を行く王族は、一般人の通う学校で学ぶことなどないのだろうと思い込んでいたから、入園したことには驚きを感じていたが、王子の存在そのものに関して疑問も何も持っていなかった……確かに、記憶の中には、15年前の継嗣である殿下の誕生はしっかりと残っていたからだ。それに、まだ直接王子の顔を見る機会もなかったから、今一つ先輩の言ったことの意味が……』
次に聞こえてきたのはもう一人の子爵家出身の教師か……
『……やけに伯爵王子と呼ばれているウインド伯爵家の長子の扱いが丁寧であることに疑問を感じてはいたが、何かしら中央貴族の中の派閥の力によるものなのだろうと、自分は関係がないスタンスを取り長いものに巻かれていた……周りに合わせた扱いをしておけば何も𠮟責を受けることは無いと思っていたからだ……』
「そう言えば……」
『……自分と同じころ自分と同じ様な爵位で、やはり田舎貴族の嫡男ではないから教師になった男が、入学したての伯爵王子に対してほかの生徒と同じように扱い罰を与えたその後に、この中央にある学園から地方に飛ばされたことがあった……あの時の左遷の理由がよくわからないものであり、同じ様に侯爵家の嫡男を注意し罰を与えても何もなかった教師が居たことを知った時に、「伯爵王子」というのは何かのあだ名のようなものでは無く、「王子」という尊称が重要なのだと、元々の爵位が低い田舎出身の教師たちに知らしめることとなったのだ……伯爵王子の扱いは、中央の爵位の高い者の方が露骨であることを何度も目にする機会を経て、自身もそのことについて何も疑問を持たなくなったのだたか……』
『……目の前で頭を抱えている先輩ほどではないにしても……』
誰もが黙り込み会話がなくなった空間を、くるりと一撫でするように回遊すると、キールはその空間から離脱したようで、そこでいったんキールからの情報は途切れた。
「う~ん……」
目で見えていることと違う情景を頭の中で処理をすることは、もう少し訓練がいるかもしれない。
結構疲れた。
この国、とくに王城内で起こってきたことは、なんとなく先程の教師たちからも、自分たちが推測してきたことが間違っていなかったことを教えてくれる会話であったような気がする。
「俺の存在を、異母兄に置き換えようとして、それが完全には成功はしていないというところかな?」
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