転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

文字の大きさ
159 / 196

チュート殿下 117 この世界の理に 5 

しおりを挟む
 タリスマン帝国はその名の通りいくつかの小国を平らげてその版図を広げたこの大陸の中で一番大きな国だ。

 この帝国ができた約300年ほど前のこの大陸の物語は、きっとこの帝国を一代でつくりあげたピートル大帝の英雄伝説が下地にあったのだろうとキールはいう。

『ピートル』って聞いたことがある名前に何となく似ているしな……。

「その出自に関しては謎の多い、体は大きくない、黒髪黒目。魔力量が非常に多く。扱う魔法も多岐。時々謎の言葉を話す、いつまでもその見た目がほとんど変わることがなかった。という伝説を持つ人物だったらしいですよ」

 このタリスマン帝国からすればもともとこの街は辺境の国であり、大帝が版図を広げた最後の国。

 ここから南には俺たちがやって来た現在のアミュレット王国があるわけだが、この魔の森が大きな壁となってここで帝国の南進が止まった。

 そのようなこの街は、辺境で売っているためか、冒険者カードを使って何の障害もなく入国できた。

 立派な城壁で街をクルリと取り囲んだそれなりの規模の街。

 入国時に先程の大帝に関しての解説と,この街の観光案内をも書かれた冊子を手渡された。

「魔の森が観光地化されているのか?」

 魔の森に面した城壁の上には物見台があり、入場料を払えば誰でもその物見台に上がれるようになっている。

 帝国領の周りにももちろんアミュレット王国の時と同じように緩い結界の膜のようなものがあり、それを抜ける時の何ともいえないような感じは同じようにあったが、中に入って感じる空気は、(あの国に対しての俺の感情が限りなく負に近いからそうなのか)こちらに入った瞬間何かさらっとしているように感じたのはただの気の迷いだったのか……。

「この街は初めてですか?」

 この街のメインストリート、俺たちがくぐった南門からまっすぐ伸びている道沿いにいくつも並んでいる屋台の親父さんにピンポイントで声をかけられた。

 ガッツリ観光ガイドもどきの冊子を読んでいたからかな、決してきょろきょろと周りを見回してはいない……。
 
 その屋台は魔獣の肉なのか結構独特なにおいのする大きな肉の塊を焼いている。縦にしたらケバブのようだ。

 焼けたところからそぎ落とし、スパイシーなたれをかけてコッペパンに似た楕円形のパンにはさんで売っている。

 小腹も空いたし、既に夕食時間だ、混む前に食事を済ませてしまうのもいいだろう、ということでキールと視線を交わして、そのおやじの手元にあるサンドイッチ?を二つ頼むことにする。

「毎度ありがとう!なんか無理やり勧めたみたいで悪いねぇ。だけどオレのパンコッペはこのあたりで一番といわれてるから、まぁ食べてみてくれよ」

 飲み物はおまけだと言って、使い捨てではない木でできた大きめのカップにこの国でのお茶なのかウーロン茶ほどの茶色い飲み物を手渡しくれた。

 座って食べることもできるのか、このあたりの屋台にはすぐ横にテーブルと椅子が二却ほど置いてある。

「……」

 手にしたパンを鑑定して視れば、確かに『パンコッペ』と名が表示された。このパンにはさまれているものはどのようなものが挟まれていようともパンコッペらしい。

「やっぱりこの国を作ったピートル大帝って……。ただ、ピートルってとこにそこはかとなく残念な感じを持つのは俺だけかなぁ……」

 口に入れたパンコッペの中の肉はやはり魔の森産の魔獣の物で、臭みを消すためにかけられたたれはやけにスパイシーだ。

 最近はというか、この世界に生れ落ちてから食べなれてしまったアミュレット王国の食べ物は、この国に比べると薄味だったのかもしれない。食べ物の種類は乙女ゲームからなのかやけに甘味の方に力が入れられていたのだと気が付いた。このパンのようなワイルド系はなかったし、屋台での食事を食べ歩くという文化も見ることはできなかった。デザートの食べ歩きはアースクエイクとではない、2作目の攻略対象者とのデートで出てきたことは覚えているが……。
 
 俺がそんなことに思考を飛ばしながらパンコッペにかぶりついている間にスマートに食べ終わっていたキールが、肉の焼けているところをそぎ終わって、出てきた面を焼始めた親父に声を掛けた。

「この街に入った時にもこのような冊子をもらったのだけど、この街は観光に力を入れているのかな?」

 肉の焼けるのを見ているだけで少し手が空いた親父は、火の調整をしながらもこちらの方に気を向けて、キールの質問に答えてくれる。

「この街は魔の森に近いから、それを売るくらいしかないからなぁ。帝国ではそれぞれの街で自立することが求められているからねぇ。うまいこと町全体で稼ぐことができれば、国に納める一定額以上はこの街のものにしていいから、この街の者みんなができる中で頑張ってるのさ」

 この街は一番最後に併合された国の街の一つであったし、魔の森のこともあり城壁の外で活動するのは冒険者くらい。街の広さも限られているから、この街だけで自給自足を実現することは難しい。特に食料の自足は魔獣の肉を手に入れることはまだしも、野菜や果物などの生鮮食品は難しかった。

 そこでとにかく内需を拡大し、特に観光に力を入れることで国に納める税金と、他の街の方から食料を賄うことにしたのだと、親父が胸を張って言う。

 だから、治安には特に力を入れているので、夜遅くとも街中を歩くことは保証する、と笑って言う親父に、おすすめの宿を聞いてその場を後にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...