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チュート殿下 117 この世界の理に 5
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タリスマン帝国はその名の通りいくつかの小国を平らげてその版図を広げたこの大陸の中で一番大きな国だ。
この帝国ができた約300年ほど前のこの大陸の物語は、きっとこの帝国を一代でつくりあげたピートル大帝の英雄伝説が下地にあったのだろうとキールはいう。
『ピートル』って聞いたことがある名前に何となく似ているしな……。
「その出自に関しては謎の多い、体は大きくない、黒髪黒目。魔力量が非常に多く。扱う魔法も多岐。時々謎の言葉を話す、いつまでもその見た目がほとんど変わることがなかった。という伝説を持つ人物だったらしいですよ」
このタリスマン帝国からすればもともとこの街は辺境の国であり、大帝が版図を広げた最後の国。
ここから南には俺たちがやって来た現在のアミュレット王国があるわけだが、この魔の森が大きな壁となってここで帝国の南進が止まった。
そのようなこの街は、辺境で売っているためか、冒険者カードを使って何の障害もなく入国できた。
立派な城壁で街をクルリと取り囲んだそれなりの規模の街。
入国時に先程の大帝に関しての解説と,この街の観光案内をも書かれた冊子を手渡された。
「魔の森が観光地化されているのか?」
魔の森に面した城壁の上には物見台があり、入場料を払えば誰でもその物見台に上がれるようになっている。
帝国領の周りにももちろんアミュレット王国の時と同じように緩い結界の膜のようなものがあり、それを抜ける時の何ともいえないような感じは同じようにあったが、中に入って感じる空気は、(あの国に対しての俺の感情が限りなく負に近いからそうなのか)こちらに入った瞬間何かさらっとしているように感じたのはただの気の迷いだったのか……。
「この街は初めてですか?」
この街のメインストリート、俺たちがくぐった南門からまっすぐ伸びている道沿いにいくつも並んでいる屋台の親父さんにピンポイントで声をかけられた。
ガッツリ観光ガイドもどきの冊子を読んでいたからかな、決してきょろきょろと周りを見回してはいない……。
その屋台は魔獣の肉なのか結構独特なにおいのする大きな肉の塊を焼いている。縦にしたらケバブのようだ。
焼けたところからそぎ落とし、スパイシーなたれをかけてコッペパンに似た楕円形のパンにはさんで売っている。
小腹も空いたし、既に夕食時間だ、混む前に食事を済ませてしまうのもいいだろう、ということでキールと視線を交わして、そのおやじの手元にあるサンドイッチ?を二つ頼むことにする。
「毎度ありがとう!なんか無理やり勧めたみたいで悪いねぇ。だけどオレのパンコッペはこのあたりで一番といわれてるから、まぁ食べてみてくれよ」
飲み物はおまけだと言って、使い捨てではない木でできた大きめのカップにこの国でのお茶なのかウーロン茶ほどの茶色い飲み物を手渡しくれた。
座って食べることもできるのか、このあたりの屋台にはすぐ横にテーブルと椅子が二却ほど置いてある。
「……」
手にしたパンを鑑定して視れば、確かに『パンコッペ』と名が表示された。このパンにはさまれているものはどのようなものが挟まれていようともパンコッペらしい。
「やっぱりこの国を作ったピートル大帝って……。ただ、ピートルってとこにそこはかとなく残念な感じを持つのは俺だけかなぁ……」
口に入れたパンコッペの中の肉はやはり魔の森産の魔獣の物で、臭みを消すためにかけられたたれはやけにスパイシーだ。
最近はというか、この世界に生れ落ちてから食べなれてしまったアミュレット王国の食べ物は、この国に比べると薄味だったのかもしれない。食べ物の種類は乙女ゲームからなのかやけに甘味の方に力が入れられていたのだと気が付いた。このパンのようなワイルド系はなかったし、屋台での食事を食べ歩くという文化も見ることはできなかった。デザートの食べ歩きはアースクエイクとではない、2作目の攻略対象者とのデートで出てきたことは覚えているが……。
俺がそんなことに思考を飛ばしながらパンコッペにかぶりついている間にスマートに食べ終わっていたキールが、肉の焼けているところをそぎ終わって、出てきた面を焼始めた親父に声を掛けた。
「この街に入った時にもこのような冊子をもらったのだけど、この街は観光に力を入れているのかな?」
肉の焼けるのを見ているだけで少し手が空いた親父は、火の調整をしながらもこちらの方に気を向けて、キールの質問に答えてくれる。
「この街は魔の森に近いから、それを売るくらいしかないからなぁ。帝国ではそれぞれの街で自立することが求められているからねぇ。うまいこと町全体で稼ぐことができれば、国に納める一定額以上はこの街のものにしていいから、この街の者みんなができる中で頑張ってるのさ」
この街は一番最後に併合された国の街の一つであったし、魔の森のこともあり城壁の外で活動するのは冒険者くらい。街の広さも限られているから、この街だけで自給自足を実現することは難しい。特に食料の自足は魔獣の肉を手に入れることはまだしも、野菜や果物などの生鮮食品は難しかった。
そこでとにかく内需を拡大し、特に観光に力を入れることで国に納める税金と、他の街の方から食料を賄うことにしたのだと、親父が胸を張って言う。
だから、治安には特に力を入れているので、夜遅くとも街中を歩くことは保証する、と笑って言う親父に、おすすめの宿を聞いてその場を後にした。
この帝国ができた約300年ほど前のこの大陸の物語は、きっとこの帝国を一代でつくりあげたピートル大帝の英雄伝説が下地にあったのだろうとキールはいう。
『ピートル』って聞いたことがある名前に何となく似ているしな……。
「その出自に関しては謎の多い、体は大きくない、黒髪黒目。魔力量が非常に多く。扱う魔法も多岐。時々謎の言葉を話す、いつまでもその見た目がほとんど変わることがなかった。という伝説を持つ人物だったらしいですよ」
このタリスマン帝国からすればもともとこの街は辺境の国であり、大帝が版図を広げた最後の国。
ここから南には俺たちがやって来た現在のアミュレット王国があるわけだが、この魔の森が大きな壁となってここで帝国の南進が止まった。
そのようなこの街は、辺境で売っているためか、冒険者カードを使って何の障害もなく入国できた。
立派な城壁で街をクルリと取り囲んだそれなりの規模の街。
入国時に先程の大帝に関しての解説と,この街の観光案内をも書かれた冊子を手渡された。
「魔の森が観光地化されているのか?」
魔の森に面した城壁の上には物見台があり、入場料を払えば誰でもその物見台に上がれるようになっている。
帝国領の周りにももちろんアミュレット王国の時と同じように緩い結界の膜のようなものがあり、それを抜ける時の何ともいえないような感じは同じようにあったが、中に入って感じる空気は、(あの国に対しての俺の感情が限りなく負に近いからそうなのか)こちらに入った瞬間何かさらっとしているように感じたのはただの気の迷いだったのか……。
「この街は初めてですか?」
この街のメインストリート、俺たちがくぐった南門からまっすぐ伸びている道沿いにいくつも並んでいる屋台の親父さんにピンポイントで声をかけられた。
ガッツリ観光ガイドもどきの冊子を読んでいたからかな、決してきょろきょろと周りを見回してはいない……。
その屋台は魔獣の肉なのか結構独特なにおいのする大きな肉の塊を焼いている。縦にしたらケバブのようだ。
焼けたところからそぎ落とし、スパイシーなたれをかけてコッペパンに似た楕円形のパンにはさんで売っている。
小腹も空いたし、既に夕食時間だ、混む前に食事を済ませてしまうのもいいだろう、ということでキールと視線を交わして、そのおやじの手元にあるサンドイッチ?を二つ頼むことにする。
「毎度ありがとう!なんか無理やり勧めたみたいで悪いねぇ。だけどオレのパンコッペはこのあたりで一番といわれてるから、まぁ食べてみてくれよ」
飲み物はおまけだと言って、使い捨てではない木でできた大きめのカップにこの国でのお茶なのかウーロン茶ほどの茶色い飲み物を手渡しくれた。
座って食べることもできるのか、このあたりの屋台にはすぐ横にテーブルと椅子が二却ほど置いてある。
「……」
手にしたパンを鑑定して視れば、確かに『パンコッペ』と名が表示された。このパンにはさまれているものはどのようなものが挟まれていようともパンコッペらしい。
「やっぱりこの国を作ったピートル大帝って……。ただ、ピートルってとこにそこはかとなく残念な感じを持つのは俺だけかなぁ……」
口に入れたパンコッペの中の肉はやはり魔の森産の魔獣の物で、臭みを消すためにかけられたたれはやけにスパイシーだ。
最近はというか、この世界に生れ落ちてから食べなれてしまったアミュレット王国の食べ物は、この国に比べると薄味だったのかもしれない。食べ物の種類は乙女ゲームからなのかやけに甘味の方に力が入れられていたのだと気が付いた。このパンのようなワイルド系はなかったし、屋台での食事を食べ歩くという文化も見ることはできなかった。デザートの食べ歩きはアースクエイクとではない、2作目の攻略対象者とのデートで出てきたことは覚えているが……。
俺がそんなことに思考を飛ばしながらパンコッペにかぶりついている間にスマートに食べ終わっていたキールが、肉の焼けているところをそぎ終わって、出てきた面を焼始めた親父に声を掛けた。
「この街に入った時にもこのような冊子をもらったのだけど、この街は観光に力を入れているのかな?」
肉の焼けるのを見ているだけで少し手が空いた親父は、火の調整をしながらもこちらの方に気を向けて、キールの質問に答えてくれる。
「この街は魔の森に近いから、それを売るくらいしかないからなぁ。帝国ではそれぞれの街で自立することが求められているからねぇ。うまいこと町全体で稼ぐことができれば、国に納める一定額以上はこの街のものにしていいから、この街の者みんなができる中で頑張ってるのさ」
この街は一番最後に併合された国の街の一つであったし、魔の森のこともあり城壁の外で活動するのは冒険者くらい。街の広さも限られているから、この街だけで自給自足を実現することは難しい。特に食料の自足は魔獣の肉を手に入れることはまだしも、野菜や果物などの生鮮食品は難しかった。
そこでとにかく内需を拡大し、特に観光に力を入れることで国に納める税金と、他の街の方から食料を賄うことにしたのだと、親父が胸を張って言う。
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