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チュート殿下 118 この世界の理に 6
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「やっぱり出てきてよかったなぁ……、あそことは全然違って面白い」
屋台の親父の教えてくれた宿は、宿代の割にきれいで従業員の質も良く、ガイドブックには出ていない穴場だった。
一本裏に入っているため目立つような建物ではないが、そのおかげで表通りの喧騒も聞こえず静かだ。
冒険者であれば自分のことは自分でするのが当たり前なので、冒険者同士である今、キールは直接的には俺の世話をすることは無い。
ただ、冒険者レベルも年齢も上ということになっているので、対外的な交渉事や手続きはキールの方がやることになっている。
その国の根幹をなしているらしい物語が違うからか、あの国に思う気持ちのそもそもが違うからか、とにかくこの国タリスマン帝国に入って来た時から、体も心も軽いのだ。
キールもその存在自体を許されているこの国の居心地はいい様で、表情が柔らかいのは気のせいではないと思う。
「タリスマン帝国はその成り立ちからも、もう少し荒れているというか、何かにつけて「差」が大きい国かと思っていたが、以前少し立ち寄った時は気にもしていなかったということがあったとしても、随分と印象が違うな」
各部屋に風呂が付いている事にも驚いたが、部屋のリネン類もそう悪いものでは無い。ベッドに腰掛けて濡れた髪を拭きながらこれからのことに思いをはせる。
「この国の物語が乙女ゲームでないだけで俺としてはポイントが高いよ。もしかしたら、転移者か転生者である今は大帝と呼ばれる男の英雄譚だとしたら、それから300年後の今は、どのような物語が進んでいるのだろう?。問題無さそうだったら、この国来ることも頭に入れておこう」
夕食を食べた後キールに「これからは大人の時間だからと」部屋に戻されてふてくされ気味に先に風呂に入ったが、思いのほか風呂がいい気持ちで子ども扱いされてささくれ立っていた心が少し柔らかくなって風呂から出てきたところ、まだしばらくは戻ってこないと思っていたキールが、ほんのりとアルコールの匂いをさせながらも部屋に戻ってきていた。
この国では一冒険者でただのモブ。
頭のてっぺんから足の先までまとわりついていた得体のしれない物から解放された喜びで、自分でも思わないほどハイになっているのかもしれない。
それはキールもある意味同様で、俺のように役割を拒否することからかかってくるプレッシャーとは違うが、何も存在しないはずの自身をこの世界の理に逆らって存在させるだけの力を維持することは、一秒一秒が戦いだったのかもしれない。
あの国を出た瞬間から、キールはそのような命を削られるような圧力を感じることがなくなったそうだ。
「存在を認められるということはそれだけで大きな喜びなのですね」
アミュレット王国内で街中を歩いているとき。まぁお忍びのようなものであるし、勝手な城出ともいえるが、護衛としてキールが実体を持って同道していた時も、今のような感覚はなかったという。
「力技で周りに自分の存在を認めさせるというのは思っていた以上に負担は大きかったようです」
何と言ってもその世界の理たる神がその存在を認めようとしていないのだから、そこを抗うことのいかに難しいことかは、役割を何とか変えようとしている俺と、ある意味困難さにおいては変わらないのかもしれない。
まぁ究極、キールは俺でもあるわけだけど……。
キールも俺もこのタリスマン帝国においては、いかなる役割もないいわゆるモブで、一般的な常識に反しない限り自由に過ごすことができるのかもしれない。
キールに至っては、周りと全く変わらず一般人と認識されている分、息のしやすさは比べることができないほどだという。
屋台の親父の教えてくれた宿は、宿代の割にきれいで従業員の質も良く、ガイドブックには出ていない穴場だった。
一本裏に入っているため目立つような建物ではないが、そのおかげで表通りの喧騒も聞こえず静かだ。
冒険者であれば自分のことは自分でするのが当たり前なので、冒険者同士である今、キールは直接的には俺の世話をすることは無い。
ただ、冒険者レベルも年齢も上ということになっているので、対外的な交渉事や手続きはキールの方がやることになっている。
その国の根幹をなしているらしい物語が違うからか、あの国に思う気持ちのそもそもが違うからか、とにかくこの国タリスマン帝国に入って来た時から、体も心も軽いのだ。
キールもその存在自体を許されているこの国の居心地はいい様で、表情が柔らかいのは気のせいではないと思う。
「タリスマン帝国はその成り立ちからも、もう少し荒れているというか、何かにつけて「差」が大きい国かと思っていたが、以前少し立ち寄った時は気にもしていなかったということがあったとしても、随分と印象が違うな」
各部屋に風呂が付いている事にも驚いたが、部屋のリネン類もそう悪いものでは無い。ベッドに腰掛けて濡れた髪を拭きながらこれからのことに思いをはせる。
「この国の物語が乙女ゲームでないだけで俺としてはポイントが高いよ。もしかしたら、転移者か転生者である今は大帝と呼ばれる男の英雄譚だとしたら、それから300年後の今は、どのような物語が進んでいるのだろう?。問題無さそうだったら、この国来ることも頭に入れておこう」
夕食を食べた後キールに「これからは大人の時間だからと」部屋に戻されてふてくされ気味に先に風呂に入ったが、思いのほか風呂がいい気持ちで子ども扱いされてささくれ立っていた心が少し柔らかくなって風呂から出てきたところ、まだしばらくは戻ってこないと思っていたキールが、ほんのりとアルコールの匂いをさせながらも部屋に戻ってきていた。
この国では一冒険者でただのモブ。
頭のてっぺんから足の先までまとわりついていた得体のしれない物から解放された喜びで、自分でも思わないほどハイになっているのかもしれない。
それはキールもある意味同様で、俺のように役割を拒否することからかかってくるプレッシャーとは違うが、何も存在しないはずの自身をこの世界の理に逆らって存在させるだけの力を維持することは、一秒一秒が戦いだったのかもしれない。
あの国を出た瞬間から、キールはそのような命を削られるような圧力を感じることがなくなったそうだ。
「存在を認められるということはそれだけで大きな喜びなのですね」
アミュレット王国内で街中を歩いているとき。まぁお忍びのようなものであるし、勝手な城出ともいえるが、護衛としてキールが実体を持って同道していた時も、今のような感覚はなかったという。
「力技で周りに自分の存在を認めさせるというのは思っていた以上に負担は大きかったようです」
何と言ってもその世界の理たる神がその存在を認めようとしていないのだから、そこを抗うことのいかに難しいことかは、役割を何とか変えようとしている俺と、ある意味困難さにおいては変わらないのかもしれない。
まぁ究極、キールは俺でもあるわけだけど……。
キールも俺もこのタリスマン帝国においては、いかなる役割もないいわゆるモブで、一般的な常識に反しない限り自由に過ごすことができるのかもしれない。
キールに至っては、周りと全く変わらず一般人と認識されている分、息のしやすさは比べることができないほどだという。
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