転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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閑話 ある冒険者の話 2

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  冒険者ギルドは閉まる時がない。夜中であってもその活動を行うことができる。

  それを利用して、家族が寝静まった後に起き出して朝起き出すまでに帰ってくる。体はきつかったが、俺はこれまでと同じ丁稚奉公の上に搾取される現在から抜け出すためにも頑張った。

  2番ん目の兄ちゃんがこの街で冒険者をしていた頃に世話になっていたギルドの兄さんに俺の事を頼んでくれたらしく、

「15歳になったらこの街で冒険者になってね!」

  と、それが条件と笑いながら、夜中に成人前の子供ができる仕事と言う難しい問題を解決してくれた。

  「火」魔法についても、ギルドの地下で指導してくれた。

「15になれば成人だ、親の言いなりになる事はない。親や雇い主が何か言ってきたとしても、今までの状況が明らかになれば、痛い腹を探られるのはあちらの方だ」

  だから君は自分の希望する道を行け……。

「あぁ、だけどそれはこの街での冒険者ね!」

「この街は特に冒険者活動を観光として見せる事で稼いでいるから、もっと定住する冒険者が、この街出身の生粋の冒険者が欲しいだよねー」

  俺に気を使わせないためか、それともこれが本音なのか……誰もが利己的に動くことが自然だからその方が安心できる。

  俺はそれほど擦れていた。疲れていた。

  そんなこんなで、15になり、スキル確認の結果「気配察知」と言う、食堂の主人には全く必要がないが冒険者には向いているかもしれないスキルと、風魔法が向いていることもわかった。

  貧乏人である極々一般市民の俺の家では、特に15歳になった祝いとか成人の祝いなんてものも全くない。

  長男だけは毎年誕生日を祝ってもらっているし、何年前だったか成人祝いもしていたな。 

  スキル確認が終わった夜に、俺は丁稚奉公先の親方に明日から働きには来ない事を告げた。

  俺の言葉に初めはあっけに取られた様な顔をしていた親方は、それも一瞬真っ赤になって怒鳴り付けた。

「何バカなこと言ってるんだ!お前はこれからもこの店で手足となって働くんだ!これからの行いで、この店をやらんこともないんだぞ!」

「うちの娘に不満があるのか!」

 まだ女将さんの腕の中で駄々をこねる様な歳の、確か今年7歳になるかと言う我儘な、俺を自分の下僕のごとく扱ってくる、鼻水垂れの親方にそっくりな娘を?

「……娘がお前を気に入らなければその話もないがな、お前の様な最底辺な店のあぶれた子供を預かって面倒見てやっていたのに……」

  真っ赤な顔で口から泡を飛ばす勢いのまま俺のことを罵る親方……。

  余りいい扱いを受けていない事は周りの同じ様な店で働く同じ様な年の丁稚達を見ればわかっていた。親父が何も口を出さないこともその扱いに拍車をかけていたことも……。

 いい加減悪口もネタが尽きたのか、口を閉じた親方は、俺達の様子を困った様子で窺っていた女将さんが差し出した水が入ったカップを一気に煽って喉を潤すと、一つ大きく息を吐いて俺の目を見て言った。

「お前の親父さんはそれを認めているのか?」

  と。

  なんでも、俺をこの店で働かせる時に、俺はこの店の「モノ」として親父から親方に「譲渡」されたらしい。

「口約束とはいえお前はうちの店のモノ!明日からも今まで道理に、イヤ今まで以上にこの店で働いてもらう!」

  そう言い置くと親方は店の二階にある家族の居室に上がっていってしまった。

  この場に残されたのは、俺と女将さん。

「……明日も顔を出してくれるかい」

  俺はその女将さんの言葉に答えを返す事は出来ない。

 そんな俺に女将さんは小さく息を吐き

「……来るはずないよね、今日からお前さんも大人だもの、誰も、親だとてこれからを決めつける事は出来ない。そんな事誰でも知っている常識だというのに……」

  さっき親方が言っていた俺をモノの様に扱う事をしたならば、逆に親方達が罰せられる、と女将さんは言う。

「うちのがあの様子だ、お前さんの親だと手が出ないとも限らない。子供は自分のモノだと考える親は多いのさ。子供はね守らなければいけないから、まぁその考えも間違えではないけど、大人になれば話は別。それがわかっていないんだよ……すまなかったねぇ……この5年お前さんはタダ働きだったんだろう……うちのは子供の頃からあんたの親父さんの親分みたいなものだったから、許しておくれ」

  そう言って前掛けのポケットから取り出した小銭を何枚か俺の手に握らせた。

「家には帰らずこのまま行ったほうがいい。明日1日だけだけど時間を稼ぐ事はできるから」

  閉められていた店の潜戸を開けて俺の背を押しながら、女将さんはポツリと言った。

「お前さんを息子にしたかったのは本当だよ」
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