168 / 196
閑話 ある冒険者の話 4
しおりを挟む
俺は中堅どころと言うにはまだ随分とレベルが足りないとは思うが、この街出身の冒険者はそう多く居ないので、最近はそれなりの責任がある役所を任されることもある。
その日も魔獣討伐のを城壁の上に造られている見張り台から見られるように、魔の森の浅いところから強そうに見えるがそんなに手のかからない魔獣を引っ張ってくる役を仰せつかった。
これまでも何回かやったことがあるので、そう意気込んでもいなかった。
ボアはとても図体がでかいので、見た目的にもこのショウには最適な生き物で、真っ直ぐに突っ込んで来るだけなので、倒し方を知っていればそう難しくない魔獣だ。味も悪くない。ただ肉以外は余り旨味がない魔獣なのでわざわざそれだけを狩りに行く事はしない。
気配察知もそれなりに使いこなせるようになったので、数匹の群れを探して城壁の近くまで引っ張ってくることがその日の俺の仕事だった。
御誂え向きの群れを見かけて、相棒数人と興奮させることなく城壁の方へ誘導する。
ボアの好みの木の実を獣道に沿うように蒔き誘き寄せるのだ。
このままいけば程よい時間に行けると思ったその時に、俺の気配察知の感じることができる範囲の一番外側に、今まで感じたことがない厄介な気配を感じてしまったのだ。
「オイ!魔の森西奥……あれは人間?馬?……馬車?……馬車が魔物を引き連れてる!」
「速度がやばいぞ、このままでは追いつかれて巻き込まれる!」
人の足と馬の脚考えるまでもない、こちらで釣っていたボアも意識しながら逃げる事は難しい。
余り距離を取ることができないと、冒険者だけが城郭の中に入る事は難しくなる。
つまり、このままでは追い込まれて俺たちが魔獣にやられるショウになると言うことか⁈
魔の森西奥ばかり気にしていたら、魔の森南奥からサウスエンドに向けて、後ろのやつらなんぞ歯牙にも掛からないほどの強い気配が近づいてくるのを察知した。
あっという間に近づいてくる強敵の気配に、俺はパニックに!
隣を走る冒険者も、気配察知のスキルなど持っていなくても感じるのだろう、俺に合図を送るも、俺はそれに応えることもできない。
俺の足が自然に止まる。
ボアの足も自然に止まる。
背後から迫っていた馬車とそのトレインしていた魔物の群れも止まる。
誰もが、敵味方を問わず、魔の森南奥から急接近してくる遥かに恐ろしい魔力の塊に息をひそめる。
それは空を飛んできているのか?全く足音の様なものが、音が聞こえない。
もしかしたら、このままサウスエンドが襲撃されるのか?
さっきまで死ぬのは俺達だと思っていたのに、このままではとても太刀打ちできない何かが俺の故郷を襲うのか?
震える足を叱咤してなんとか街に向かって走りだす。
それは他の冒険者も同じこと、気配を断つとか、音を出さないとか、ボアを刺激しないとか、心に浮かぶも何もすることができず、ただただ足を運ぶ。
気づけばボアの群れは街に向かう獣道から外れて、元来た方向に全力で逃げて行く。
あの先にはトレインされた魔獣が居るはずだが。
……馬車以外の者達の気配は、回れ右をしたように魔の森の奥に向けて消えていった。
俺の意識が背後に向かったのは一瞬。ボアと魔獣の群れの気配を追って街の方角に近づいてくるモノから意識を離したのも一瞬のはずであったのに……。
どこを探してもあれほど感じていた圧力が……。
慌てて街までなんとかたどり着けば、普段開け放たれている門がピタリと閉ざされ、その前にしっかりと装備を整えた姿で立っている冒険者たちは、俺よりもランクが高い者達ほど顔色が悪かった。
門のある城壁の上方に造られている見張り台は、今この時間は沢山の観光客にあふれているところだが、下から仰ぎ見ると乗り出す様にこちらを見ている、やはり武装を整えた先輩冒険者達の姿が若干認められるだけだ。
門の前に立っていた中で一番偉い副ギルド長が、汗だくで震えている俺たちの元にやってきて、状況を問いただす。
俺たちも本当のところ何が起こったのか理解できないが、取り敢えずボアをいつものように誘い出した後から、今までの普段とは違った状況を、わかる限り説明した。
その話の途中、見張り台の方からこちらに合図が送られてきた。
「馬車が一台、魔の森西の方角からこちらに近づいて来ています!」
そうだ魔物をトレインして来た馬車があったのだ。あの時は目視したわけではなかったからその馬車の拵え等全くわからなかったが、この辺境の街には全くふさわしくない、やけに華美な装飾を施された立派な馬車であった。
馬車の表れた一方向が、これまた普段この街にやってくる人の方角とは異なることから、この門の前の我々と、城門の上の見張り台の同輩も、警戒態勢をとりながら馬車の近づいてくるのを待つ。
門がしまっているからか、もちろん城内に入ることのできない馬車はゆっくりと近づき我々の目と鼻の先にその車体を乗り付ける。
御者台から御者が降り、馬車の扉を開けることを待つまでもなく、馬車が停車するや否や、ものすごい勢いでその豪奢な扉が中から開けられた。
大人数がいるにもかかわらず、物音1つしない緊張感が漂う中、大きな音を立て側面にぶち当たり跳ね返るその音を立てる扉の音よりも大きく耳に突き刺さるような金切り声が飛び込んできた。
「どこ?私の勇者は!魔獣に襲われている姫を助けた勇者は‼︎どこにいるの!!!」
それは、俺が全く見たこともないピラピラしたドレスを着た、これまた見たこともない氷柱のような棒を頭から何本も垂らしたような髪型をしたド派手な女が、馬車の扉から乗り出す姿だった。
その日も魔獣討伐のを城壁の上に造られている見張り台から見られるように、魔の森の浅いところから強そうに見えるがそんなに手のかからない魔獣を引っ張ってくる役を仰せつかった。
これまでも何回かやったことがあるので、そう意気込んでもいなかった。
ボアはとても図体がでかいので、見た目的にもこのショウには最適な生き物で、真っ直ぐに突っ込んで来るだけなので、倒し方を知っていればそう難しくない魔獣だ。味も悪くない。ただ肉以外は余り旨味がない魔獣なのでわざわざそれだけを狩りに行く事はしない。
気配察知もそれなりに使いこなせるようになったので、数匹の群れを探して城壁の近くまで引っ張ってくることがその日の俺の仕事だった。
御誂え向きの群れを見かけて、相棒数人と興奮させることなく城壁の方へ誘導する。
ボアの好みの木の実を獣道に沿うように蒔き誘き寄せるのだ。
このままいけば程よい時間に行けると思ったその時に、俺の気配察知の感じることができる範囲の一番外側に、今まで感じたことがない厄介な気配を感じてしまったのだ。
「オイ!魔の森西奥……あれは人間?馬?……馬車?……馬車が魔物を引き連れてる!」
「速度がやばいぞ、このままでは追いつかれて巻き込まれる!」
人の足と馬の脚考えるまでもない、こちらで釣っていたボアも意識しながら逃げる事は難しい。
余り距離を取ることができないと、冒険者だけが城郭の中に入る事は難しくなる。
つまり、このままでは追い込まれて俺たちが魔獣にやられるショウになると言うことか⁈
魔の森西奥ばかり気にしていたら、魔の森南奥からサウスエンドに向けて、後ろのやつらなんぞ歯牙にも掛からないほどの強い気配が近づいてくるのを察知した。
あっという間に近づいてくる強敵の気配に、俺はパニックに!
隣を走る冒険者も、気配察知のスキルなど持っていなくても感じるのだろう、俺に合図を送るも、俺はそれに応えることもできない。
俺の足が自然に止まる。
ボアの足も自然に止まる。
背後から迫っていた馬車とそのトレインしていた魔物の群れも止まる。
誰もが、敵味方を問わず、魔の森南奥から急接近してくる遥かに恐ろしい魔力の塊に息をひそめる。
それは空を飛んできているのか?全く足音の様なものが、音が聞こえない。
もしかしたら、このままサウスエンドが襲撃されるのか?
さっきまで死ぬのは俺達だと思っていたのに、このままではとても太刀打ちできない何かが俺の故郷を襲うのか?
震える足を叱咤してなんとか街に向かって走りだす。
それは他の冒険者も同じこと、気配を断つとか、音を出さないとか、ボアを刺激しないとか、心に浮かぶも何もすることができず、ただただ足を運ぶ。
気づけばボアの群れは街に向かう獣道から外れて、元来た方向に全力で逃げて行く。
あの先にはトレインされた魔獣が居るはずだが。
……馬車以外の者達の気配は、回れ右をしたように魔の森の奥に向けて消えていった。
俺の意識が背後に向かったのは一瞬。ボアと魔獣の群れの気配を追って街の方角に近づいてくるモノから意識を離したのも一瞬のはずであったのに……。
どこを探してもあれほど感じていた圧力が……。
慌てて街までなんとかたどり着けば、普段開け放たれている門がピタリと閉ざされ、その前にしっかりと装備を整えた姿で立っている冒険者たちは、俺よりもランクが高い者達ほど顔色が悪かった。
門のある城壁の上方に造られている見張り台は、今この時間は沢山の観光客にあふれているところだが、下から仰ぎ見ると乗り出す様にこちらを見ている、やはり武装を整えた先輩冒険者達の姿が若干認められるだけだ。
門の前に立っていた中で一番偉い副ギルド長が、汗だくで震えている俺たちの元にやってきて、状況を問いただす。
俺たちも本当のところ何が起こったのか理解できないが、取り敢えずボアをいつものように誘い出した後から、今までの普段とは違った状況を、わかる限り説明した。
その話の途中、見張り台の方からこちらに合図が送られてきた。
「馬車が一台、魔の森西の方角からこちらに近づいて来ています!」
そうだ魔物をトレインして来た馬車があったのだ。あの時は目視したわけではなかったからその馬車の拵え等全くわからなかったが、この辺境の街には全くふさわしくない、やけに華美な装飾を施された立派な馬車であった。
馬車の表れた一方向が、これまた普段この街にやってくる人の方角とは異なることから、この門の前の我々と、城門の上の見張り台の同輩も、警戒態勢をとりながら馬車の近づいてくるのを待つ。
門がしまっているからか、もちろん城内に入ることのできない馬車はゆっくりと近づき我々の目と鼻の先にその車体を乗り付ける。
御者台から御者が降り、馬車の扉を開けることを待つまでもなく、馬車が停車するや否や、ものすごい勢いでその豪奢な扉が中から開けられた。
大人数がいるにもかかわらず、物音1つしない緊張感が漂う中、大きな音を立て側面にぶち当たり跳ね返るその音を立てる扉の音よりも大きく耳に突き刺さるような金切り声が飛び込んできた。
「どこ?私の勇者は!魔獣に襲われている姫を助けた勇者は‼︎どこにいるの!!!」
それは、俺が全く見たこともないピラピラしたドレスを着た、これまた見たこともない氷柱のような棒を頭から何本も垂らしたような髪型をしたド派手な女が、馬車の扉から乗り出す姿だった。
34
あなたにおすすめの小説
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる