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チュート殿下 124 タリスマン帝国の冒険者 2
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「もしかして、あの時に気になるところに顔でも出したら……」
「そうだね、もしかしたらただの冒険者ではいられなくて、このタリスマン帝国の英雄譚の中の人になったかもしれないね』
宿屋の前を通り過ぎて目指す門のある方向に歩き出した俺達。
キールは笑っているけど、巻き込まれたとしたらそれは俺ではなくキールだと思うけどな。
「スペックおばけだし……」
「何か言った」
声に出さなくても、俺の心のうちなんて丸見えなくせに。
俺達のことを気にしているような人もいないし、念話の必要もないよね。
「まだまだ、この世界については分かっていなくて推測の点は多いから、他の世界の他のお話に巻き込まれかねないと言うことがわかった点で、収穫は大きいよね」
英雄譚で、魔獣もしくは盗賊たちに襲われて大ピンチなところに現れる勇者ってのはテンプレのうちの一つだよね。
あのキンキン声の魔力の燻んだ女性が一応英雄譚を担う?聖女?なのだとしても……
「聖女?も電波な気がするんだけど……そういえば髪の毛の色ピンクぽかったし……」
もしそうだとしたら、タリスマン帝国の神も頭に「だ」がつく人だとしたら 、この世界は……やってられない……。
「あの時の危機察知は良かったね、このままただの冒険者として、タリスマン帝国を旅することができるよ」
ぼちぼち開き始めた屋台を冷やかしながら、目的の門へ。
この街では依頼を受けることはしなかったから、護衛としてキャラバンの中に入るようなことなく、と言って乗合馬車を使うこともなく、徒歩で近くの街まで行くふりをする予定だ。
なんとなくこの街で冒険者ギルドの誰がしに記憶されることは悪手な気がしたのだ。
もしかしたら、さっきのピンク関係の何かに出会う確率が上がる切っ掛けになるかもしれない、かも?
悪いことはよく当たるのだ、危機察知能力は高いと自負する。
勘と言われるものは、一種の経験からくる確率論といってもいいと思うから、俺よりもキールの方が確かな答えを出せると思うが、もっと曖昧な『野生の勘』はもしかしたら俺の方が優れているのかもしれないな。
サウスエンドは、この国では特殊な位置にある街であるから、特殊なことが起こる確率が高い場所であると言えなくはないだろう。
「もしかしたらまだまだ今回の様なことがあるかもしれないから、気を引き締めていこうか」
目的の門が見えてきた。
街から出る者に関しては特に誰何されることなく、ただ門をくぐり出て行くだけ。
それはどの街でもほとんど同じで、街の中で事件が起きて検問される様なことがなければ、一方通行の門の扉を行くだけだ。
「ここは門の前が広場的な草原で、すぐに林となっている。だからこちら側の門の上にも見張り台があるんだ。これは魔獣用というより人間用。それぞれの街が一つの国だった時の遺構みたいなものだね」
この街程度の大きさにしては随分と厳しい城壁は、魔獣対策だけでなく、この街の成り立ちにもあるのか。
「立派な城壁はこの土地にとって必要なものだけれど、街を大きくすることに対しては弊害しかないよね。昔のように隣の街から襲撃されるようなことはなくなったけど、この立地では、壁の外で作業をすると言うことは難しいから、大昔の人が苦労して作ってくれたこの城壁以上のものは作ることができないのだろうね」
金さえ出せば足りないものの調達はできる、命をかけてまでこの街の周りで作物を育てる必要はないだろう。
その金を稼ぐ手段が、この規模の街ではなかなか難しいものだ。どこにでも特産品があるわけではないから。
「それをこの街を広げられない原因でもある立地を逆手にとって、魔獣討伐を観光にってことにしたこの街のえらかった人、もしかしたら……」
余計なことを考えることはやめて、この国に入って初めての1日を世話になった街の立派な城壁の門をくぐる。
たった二人だけで徒歩で街の外に出る者は、変な意味で目立つようだ。それに2人のうち1人はどう見てもスキル確認が終わったばかりの少年に見える。
親切なのだろう、城門を守っている衛士の一人が、門を潜り終えた俺達に態々声をかけようと持ち場を離れるのが目の端に見えた。
その衛士がもう一歩俺たちの方に歩みを進めようとしたその時、門の向こう街中の方で、ガシャンと何かがぶつかり合う大きな音がした。
その音に衛士が振り返えり、足を止めて意識が背後の門の中に向かったその隙に、俺たちは気配を薄くして先をいっていたキャラバンの最後尾に紛れた。
目の前に広がった大きな背中の冒険者たちはすぐ背後でくっつくように歩く俺たちに気付くことはない。
『 何したの?』
俺は涼しい顔のキールに念話で問いかけた。
『ちょっとね』
背後の壁の中、門の中の広場に意識を飛ばすと。街を出るために並んでいたキャラバンの馬車が一頭突然暴れ出して、違うキャラバンの中に突っ込んだらしい。
『誰も怪我してないし、何も壊してない』
肩をすくめるように上げながら、何も悪びれないキール。
『それよりも、林に差し掛かったら道を逸れるよ』
そう言うキールの指示に従って、俺たちは街道を直ぐに外れて、弱いながらも魔獣の反応のある林の中に歩みを進めた。
「そうだね、もしかしたらただの冒険者ではいられなくて、このタリスマン帝国の英雄譚の中の人になったかもしれないね』
宿屋の前を通り過ぎて目指す門のある方向に歩き出した俺達。
キールは笑っているけど、巻き込まれたとしたらそれは俺ではなくキールだと思うけどな。
「スペックおばけだし……」
「何か言った」
声に出さなくても、俺の心のうちなんて丸見えなくせに。
俺達のことを気にしているような人もいないし、念話の必要もないよね。
「まだまだ、この世界については分かっていなくて推測の点は多いから、他の世界の他のお話に巻き込まれかねないと言うことがわかった点で、収穫は大きいよね」
英雄譚で、魔獣もしくは盗賊たちに襲われて大ピンチなところに現れる勇者ってのはテンプレのうちの一つだよね。
あのキンキン声の魔力の燻んだ女性が一応英雄譚を担う?聖女?なのだとしても……
「聖女?も電波な気がするんだけど……そういえば髪の毛の色ピンクぽかったし……」
もしそうだとしたら、タリスマン帝国の神も頭に「だ」がつく人だとしたら 、この世界は……やってられない……。
「あの時の危機察知は良かったね、このままただの冒険者として、タリスマン帝国を旅することができるよ」
ぼちぼち開き始めた屋台を冷やかしながら、目的の門へ。
この街では依頼を受けることはしなかったから、護衛としてキャラバンの中に入るようなことなく、と言って乗合馬車を使うこともなく、徒歩で近くの街まで行くふりをする予定だ。
なんとなくこの街で冒険者ギルドの誰がしに記憶されることは悪手な気がしたのだ。
もしかしたら、さっきのピンク関係の何かに出会う確率が上がる切っ掛けになるかもしれない、かも?
悪いことはよく当たるのだ、危機察知能力は高いと自負する。
勘と言われるものは、一種の経験からくる確率論といってもいいと思うから、俺よりもキールの方が確かな答えを出せると思うが、もっと曖昧な『野生の勘』はもしかしたら俺の方が優れているのかもしれないな。
サウスエンドは、この国では特殊な位置にある街であるから、特殊なことが起こる確率が高い場所であると言えなくはないだろう。
「もしかしたらまだまだ今回の様なことがあるかもしれないから、気を引き締めていこうか」
目的の門が見えてきた。
街から出る者に関しては特に誰何されることなく、ただ門をくぐり出て行くだけ。
それはどの街でもほとんど同じで、街の中で事件が起きて検問される様なことがなければ、一方通行の門の扉を行くだけだ。
「ここは門の前が広場的な草原で、すぐに林となっている。だからこちら側の門の上にも見張り台があるんだ。これは魔獣用というより人間用。それぞれの街が一つの国だった時の遺構みたいなものだね」
この街程度の大きさにしては随分と厳しい城壁は、魔獣対策だけでなく、この街の成り立ちにもあるのか。
「立派な城壁はこの土地にとって必要なものだけれど、街を大きくすることに対しては弊害しかないよね。昔のように隣の街から襲撃されるようなことはなくなったけど、この立地では、壁の外で作業をすると言うことは難しいから、大昔の人が苦労して作ってくれたこの城壁以上のものは作ることができないのだろうね」
金さえ出せば足りないものの調達はできる、命をかけてまでこの街の周りで作物を育てる必要はないだろう。
その金を稼ぐ手段が、この規模の街ではなかなか難しいものだ。どこにでも特産品があるわけではないから。
「それをこの街を広げられない原因でもある立地を逆手にとって、魔獣討伐を観光にってことにしたこの街のえらかった人、もしかしたら……」
余計なことを考えることはやめて、この国に入って初めての1日を世話になった街の立派な城壁の門をくぐる。
たった二人だけで徒歩で街の外に出る者は、変な意味で目立つようだ。それに2人のうち1人はどう見てもスキル確認が終わったばかりの少年に見える。
親切なのだろう、城門を守っている衛士の一人が、門を潜り終えた俺達に態々声をかけようと持ち場を離れるのが目の端に見えた。
その衛士がもう一歩俺たちの方に歩みを進めようとしたその時、門の向こう街中の方で、ガシャンと何かがぶつかり合う大きな音がした。
その音に衛士が振り返えり、足を止めて意識が背後の門の中に向かったその隙に、俺たちは気配を薄くして先をいっていたキャラバンの最後尾に紛れた。
目の前に広がった大きな背中の冒険者たちはすぐ背後でくっつくように歩く俺たちに気付くことはない。
『 何したの?』
俺は涼しい顔のキールに念話で問いかけた。
『ちょっとね』
背後の壁の中、門の中の広場に意識を飛ばすと。街を出るために並んでいたキャラバンの馬車が一頭突然暴れ出して、違うキャラバンの中に突っ込んだらしい。
『誰も怪我してないし、何も壊してない』
肩をすくめるように上げながら、何も悪びれないキール。
『それよりも、林に差し掛かったら道を逸れるよ』
そう言うキールの指示に従って、俺たちは街道を直ぐに外れて、弱いながらも魔獣の反応のある林の中に歩みを進めた。
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