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マーシュ・スリート 26 殿下を共に守る者 3
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もうじき殿下の午睡の時間が終わる。
キールはいつも殿下に四六時中くっついているわけでもないらしいが、私の私室にいる事が気づかれると何かしら感ぐることも出て来るだろう。
しばらくは私とキールが顔見知りである事は隠しておくつもりだから。
『お仕置きだしな』
できればキールの事については、殿下の口から直に聞きたいものだ。
今ひとつ理解はできないが、なんでもキールの姿は以前の、前世の殿下の姿もしくはよく似た者だと言う事だ、とすれば、今のキールの服装も以前の殿下の姿そのものであるとすれば……
「以前?前世?の殿下は、非常に貧しい立場にいる者であったのですか?」
上衣は清潔である事は確かだが、なんの飾りもついていない下着のような物にしか見えない、トラウザーズについては使われている生地は見たこともないもので如何とも判断できないが、色が抜け片膝の辺りが大きく破けているところを見ると、とても恵まれていたとは言えない生活を送っていたとしか見て取れないものだ。
「貧しい?」
キールは今一度自身の姿を確かめてから、私の質問に納得したように答えた。
「確かに今の感覚でいれば、どう見ても貧しいものですよね。上は白ティー、下はダメージジーンズ。まぁ名前なんてなんでもいいか……。とにかくこの格好はその当時の一般的な学生のファッションで、貧しいからこのような格好をしていたわけではないのです」
しかし、確かにこのような格好でこの離宮の中をフラフラするものでもないですよね、今まで全く気にしてませんでした。
そう言うと彼な一瞬で、リフルのような従者見習いと同じような衣装にその身を包んでいた。
「マーシュさましか見る事はできないとしても、きちんとした格好をとるに越した事はないですよね。アークが今の格好に疑問を持っても、それなりに言いくるめられますから」
そう言ってキールは笑った。
笑顔は見た目は全く似たところはないはずなのに、殿下の笑顔と全く重なって見えた。
キールは本人が話す以上に優秀で、アーク殿下の内面も全て把握できると言うことも嘘では無いようだ。
しかし、決してキールが殿下の内面について私に話すようなこともなかった。
そのような状況の中、私が、キールの姿を認識していることを知らない殿下は、時々ボロを出す。
以前は非常に不思議な行動と思えた宙を見ながらの独り言も、キールとの会話であると知れば、一応は他に誰もいないと殿下が思っている所で話しかけている姿はとても可愛らしいものだ。
私も、私以外の使用人も、もちろんリフルもその様子を度々目撃している事に、殿下は全く気付いていないのだから。
キールは私に顔を見せた時に、私に認識されたので行動範囲が広くなったと話していたが、その言葉の通りこの王宮の範囲内だけではなく王都のすべての範囲でも自由に見ることができるようになったと、報告に来た。
「マーシュさまは、この離宮の防護を固める事に専念して下さい。私は敵対陣営の情報収集を積極的に進めますから、これまではアークの興味のあるところだけでしたけど」
キールは本当にどこにでも入り込むことができるようで、この王宮の中で一番守りが固い所であるはずの陛下の執務室の中にも入る事は簡単だと言っていたし王妃のいる宮殿にも言ったことがあると言う。
実際今日陛下たちが何をしていたか、面白おかしく教えてくれることもある。
と言って、こちらが求めていること以上を私に話してくれる事はない。
以前一度行動範囲のことについて質問した折、殿下自身がこの離宮から抜け出して色々と見てきていたことを、言うでは無しに白状したことがあった。
「今は1人では行動させていない。以前もアーク自身も私を認識していなかっただけで、アークがこの世界に生まれ出た時から、私の根本は一緒にあったのです」と弁解をしていた。
キールは協力者ではあっても私の部下では無い。
「殿下は私のことをマーシュと呼ぶ」
何を話し出したのかと怪訝な顔で私を見上げるキールがいる。
キールは見せようと思えばどの様な姿も取ることができるそうであるが、今私にも見えている姿は、今の殿下が一番安心できる好んだ姿だと言うことだ。
今のキールは私が初めて目にした時のキールと同じ。ただ纏っている服装がリフルと同じものだと言うこと。ただし、離宮の中のお仕着せは紺色を基本にしているのだが、侍従長の私は黒を着ている。
リフルも紺色の見習い侍従のお仕着せで、半ズボンに長いソックスを履いているスタイルだ。
殿下もまだ半ズボン。本人は非常に嫌がるのだが、厳寒の時はいざ知らず、10歳の精霊の儀を受けるその時まで、半ズボン姿でいることが貴族の子息の基本的な服装だ。
「変なところにショタが入ってるところもだ女神の……」
そのことにすごく衝撃を受けているキールの様子に、こちらの方ではなぜそのことに衝撃を受けるのかわからない。
「リフルは10歳をとうに過ぎているのに、なぜ半ズボンのままなのですか?」
この国の歴史や法など私が知らない様なやけに本格的なことまで知識を持っているキールなのだが、ごく一般的な常識を知らないことが多い様に感じる。
彼の知っている常識と思われるものと、こちらの常識の齟齬は話していると頻繁に感じるところだ。その点を指摘すると、その度に驚愕の表情を浮かべる彼に、私はこの頃喜びを感じることに戸惑っている。
笑ってもいられないのは、キールは殿下自身でもあると言う説明が本当なのであれば、まぁ最近は疑っていないが、殿下の常識もそうであると言うことなので、殿下の教育は知識を詰め込むことではなく、常識を知らしめることなのかもしれない。
マナーも殿下は年齢相当はおできになるが、知識量と比べると大人と子供の様であり、学園のことを考えるとマナーに重点を置くべきであると考えている。
キールの服装についてであるが、彼は侍従見習いの服装をとることについて、殿下を除き私にしか見られていないにも関わらず、半ズボンを履くことをキッパリと拒否をした。
そもそも服を私が用意するわけでもなく、ちゃんと着ているのかどうか、キールの魔法の一つで見せたい様に見せているのだろうから、我々大人と同じ形のトラウザーズを履いていることを、訂正することはできないのだが……
キールはいつも殿下に四六時中くっついているわけでもないらしいが、私の私室にいる事が気づかれると何かしら感ぐることも出て来るだろう。
しばらくは私とキールが顔見知りである事は隠しておくつもりだから。
『お仕置きだしな』
できればキールの事については、殿下の口から直に聞きたいものだ。
今ひとつ理解はできないが、なんでもキールの姿は以前の、前世の殿下の姿もしくはよく似た者だと言う事だ、とすれば、今のキールの服装も以前の殿下の姿そのものであるとすれば……
「以前?前世?の殿下は、非常に貧しい立場にいる者であったのですか?」
上衣は清潔である事は確かだが、なんの飾りもついていない下着のような物にしか見えない、トラウザーズについては使われている生地は見たこともないもので如何とも判断できないが、色が抜け片膝の辺りが大きく破けているところを見ると、とても恵まれていたとは言えない生活を送っていたとしか見て取れないものだ。
「貧しい?」
キールは今一度自身の姿を確かめてから、私の質問に納得したように答えた。
「確かに今の感覚でいれば、どう見ても貧しいものですよね。上は白ティー、下はダメージジーンズ。まぁ名前なんてなんでもいいか……。とにかくこの格好はその当時の一般的な学生のファッションで、貧しいからこのような格好をしていたわけではないのです」
しかし、確かにこのような格好でこの離宮の中をフラフラするものでもないですよね、今まで全く気にしてませんでした。
そう言うと彼な一瞬で、リフルのような従者見習いと同じような衣装にその身を包んでいた。
「マーシュさましか見る事はできないとしても、きちんとした格好をとるに越した事はないですよね。アークが今の格好に疑問を持っても、それなりに言いくるめられますから」
そう言ってキールは笑った。
笑顔は見た目は全く似たところはないはずなのに、殿下の笑顔と全く重なって見えた。
キールは本人が話す以上に優秀で、アーク殿下の内面も全て把握できると言うことも嘘では無いようだ。
しかし、決してキールが殿下の内面について私に話すようなこともなかった。
そのような状況の中、私が、キールの姿を認識していることを知らない殿下は、時々ボロを出す。
以前は非常に不思議な行動と思えた宙を見ながらの独り言も、キールとの会話であると知れば、一応は他に誰もいないと殿下が思っている所で話しかけている姿はとても可愛らしいものだ。
私も、私以外の使用人も、もちろんリフルもその様子を度々目撃している事に、殿下は全く気付いていないのだから。
キールは私に顔を見せた時に、私に認識されたので行動範囲が広くなったと話していたが、その言葉の通りこの王宮の範囲内だけではなく王都のすべての範囲でも自由に見ることができるようになったと、報告に来た。
「マーシュさまは、この離宮の防護を固める事に専念して下さい。私は敵対陣営の情報収集を積極的に進めますから、これまではアークの興味のあるところだけでしたけど」
キールは本当にどこにでも入り込むことができるようで、この王宮の中で一番守りが固い所であるはずの陛下の執務室の中にも入る事は簡単だと言っていたし王妃のいる宮殿にも言ったことがあると言う。
実際今日陛下たちが何をしていたか、面白おかしく教えてくれることもある。
と言って、こちらが求めていること以上を私に話してくれる事はない。
以前一度行動範囲のことについて質問した折、殿下自身がこの離宮から抜け出して色々と見てきていたことを、言うでは無しに白状したことがあった。
「今は1人では行動させていない。以前もアーク自身も私を認識していなかっただけで、アークがこの世界に生まれ出た時から、私の根本は一緒にあったのです」と弁解をしていた。
キールは協力者ではあっても私の部下では無い。
「殿下は私のことをマーシュと呼ぶ」
何を話し出したのかと怪訝な顔で私を見上げるキールがいる。
キールは見せようと思えばどの様な姿も取ることができるそうであるが、今私にも見えている姿は、今の殿下が一番安心できる好んだ姿だと言うことだ。
今のキールは私が初めて目にした時のキールと同じ。ただ纏っている服装がリフルと同じものだと言うこと。ただし、離宮の中のお仕着せは紺色を基本にしているのだが、侍従長の私は黒を着ている。
リフルも紺色の見習い侍従のお仕着せで、半ズボンに長いソックスを履いているスタイルだ。
殿下もまだ半ズボン。本人は非常に嫌がるのだが、厳寒の時はいざ知らず、10歳の精霊の儀を受けるその時まで、半ズボン姿でいることが貴族の子息の基本的な服装だ。
「変なところにショタが入ってるところもだ女神の……」
そのことにすごく衝撃を受けているキールの様子に、こちらの方ではなぜそのことに衝撃を受けるのかわからない。
「リフルは10歳をとうに過ぎているのに、なぜ半ズボンのままなのですか?」
この国の歴史や法など私が知らない様なやけに本格的なことまで知識を持っているキールなのだが、ごく一般的な常識を知らないことが多い様に感じる。
彼の知っている常識と思われるものと、こちらの常識の齟齬は話していると頻繁に感じるところだ。その点を指摘すると、その度に驚愕の表情を浮かべる彼に、私はこの頃喜びを感じることに戸惑っている。
笑ってもいられないのは、キールは殿下自身でもあると言う説明が本当なのであれば、まぁ最近は疑っていないが、殿下の常識もそうであると言うことなので、殿下の教育は知識を詰め込むことではなく、常識を知らしめることなのかもしれない。
マナーも殿下は年齢相当はおできになるが、知識量と比べると大人と子供の様であり、学園のことを考えるとマナーに重点を置くべきであると考えている。
キールの服装についてであるが、彼は侍従見習いの服装をとることについて、殿下を除き私にしか見られていないにも関わらず、半ズボンを履くことをキッパリと拒否をした。
そもそも服を私が用意するわけでもなく、ちゃんと着ているのかどうか、キールの魔法の一つで見せたい様に見せているのだろうから、我々大人と同じ形のトラウザーズを履いていることを、訂正することはできないのだが……
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