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マーシュ・スリート 27 殿下を共に守る者 4
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キールの姿は衣装も含め、まるで私のミニチュアのようだ。そもそもが侍従見習いの服装も侍従のそれをもとに作られている、
見習いつまりまだ子供の服装であると言う考えから、侍従の服を可愛らしくしたものだ。その一部が半ズボンである。
しかし、キールは半ズボンを完全拒否し、服の色も紺では無く黒を纏う事にしたようだ。髪の色も相まって遠くから見ればまるで私のミニチュア。
殿下と共にいる姿を見ると、尻が少しこそばゆく感じる時がある。
もちろん、殿下には私がキールの姿が見えていることは秘密なので、知らんぷりを決め込むが……
キールは協力者であって、私の部下ではない。
キールの言葉を信じるのであれば、キールは殿下でもあると言える存在。
長々とキールの服装に意識を持っていかれていたが、キールに言いたかったことは……
「殿下は私のことをマーシュと呼ぶ」
それは当たり前だ、私は殿下の僕で殿下の侍従長。殿下が名を呼び捨てるのもそれが普通だ。
「キールは殿下と同じ存在であるのだろう?」
散々聞かされて見せられて、そのことに関しては初めから納得しているようなのだ、私の心の中では……
「しかし、キールは私に『さま』をつける、それも言いにくそうに」
キールは私の言葉に、少し困ったような顔をした。
きっと殿下と話す時には、敬称など取っ払って話しているのだろう。
「君は殿下と同心なのだろう。ならば私を呼びつけにしても全く問題はないんだ」
逆にキールから取り付けたような『さま』を言われるほうが、そこはかとない違和感がある上に、なにかの拍子に殿下の前で、敬称つけて私のことを呼びかねないのだから。
キールはすでに敬称については失敗をしているようで、その時は
「自分より年上の方には敬称をつけるものですよ」と、ケムに巻いた。
「そもそもが君は部下では無いのだから、言ううなれば、殿下を守ると言う点では同志だろう?」
私と会ってることが殿下に知られてしまったとしても別に構わないのだが、これも言いくるめるための一つの手段。
見た目の年齢にはそぐわない、とても賢いキールでも、そもそも殿下が前世でも私よりは随分と若くして儚くなったようで、「よくあるトラックでドーンです」と、それ以上は聞いてくれるなと言いたげなキールの表情で、それっきり詳しいことは聞いていないが、私よりも年齢は重ねていないだろう、まだまだ可愛いところはこのままに私の手のひらで転がされていてほしいと思う。
結局私の作戦は功を奏して、キールは私のことを敬称無しで呼んでくれるようになった。
会って話していても早々名前を呼ばれるような状況は訪れないのだが、呼び方について約束してもらえたので、その場面が現れても、顔に出すことなく流していこうと考えている。
殿下は非常に素直で、機嫌を損ねるようなことも我儘を言うこともほぼ無いのだけれど、基本的には照れ屋であり、褒められ慣れしていないところが顕著。
照れてしまうと、そのことから時たまヘソを曲げてしまうこともあるので、そうなると少しだけ面倒くさい、とは年齢の近いリフルの弁だ。
ありがたい事に、殿下は私に表面上を取り繕っていても、根本は甘えてくれているので、私に対して拗ねたとしても、簡単に言えば頭を撫でて差し上げれば、その機嫌が直ってしまうから、リフルの言うような面倒なことにはならない。
リフルに対してヘソを曲げたとしても、それも甘えていることの裏返しであるから、究極は私と同じようにすればいいだけなのだが、男子の矜持と言うのかそう年も変わらない者に頭を撫でられること自体を良しとしないのだろう。
こんな時は、殿下を直ぐそばで見守り、心のうちまで手に取るように分かっているだろうキールが、機嫌をとってくれそうなものなのだが、殿下にとって軽くは無い出来事で拗ねてしまった時、キールも殿下自身だと言っていたことが裏目に出て、おもてに出てこなくなってしまったこともあったりしたのだ。
まだ、キールはリフルには姿を見せてはいないので、表向きは全く変化はないし、私も見ることができないことに殿下の中ではなっているので、何の手を打つこともできなかった。
時間が経って、殿下の中で折り合いがついたのだろう、もしかしたら私の気がつかない見えなかったところできちんとキールが働いていたのかもしれないが、閉じこもってしまった殿下より少し大人になって出てきてくれた時には、胸を撫で下ろしたものだ。
このようなことがあった時、私もキールもこのままではいけないと二人で話し合いを行って、殿下に私がキールのことを認識していると言うことを、わざわざ宣言はしないが、隠すことなく接触したところを見られてもいいのではないか、という結論に達した。
殿下は初めてそのような私たちの姿を見た時に、非常に驚いた様子であったが、その時のことを後からキールに聞けば、
「アークの自分に対して過小評価なところが出ているんです。私はアークであると口が酸っぱくなるほど言い聞かせているんですが……私のすることに対して、自分が口を出してはいけないと思っているところがあるようで……」
それは裏を返せば、キールのことを非常に評価して信頼していることに他ならない。
しかしこのままでは、あまりいい状況は産みそうにないので、私もキールも殿下自身に自信を持ってもらうことを目標に掲げ、殿下の御身は元のこと、心もしっかりと守っていこうと誓い合ったのだ。
そのためにも、このような殿下の理不尽な状況の打開を図るべく、私の中に燻っている陛下を含め昔は友と呼んだ彼等への心残りもしっかりと絶って、この国に蔓延している呪いのようなモノの正体を掴み、殿下の幸せを一番に考えて行動していくことを、改めて確認した。
キールにその思いを伝えた時、キールはすでにこの何か理不尽な出来事の原因がなんなのか、どうしてこのようになっているのかも知っているのではないかと、私の心に小さな疑念が生まれたのだった。
見習いつまりまだ子供の服装であると言う考えから、侍従の服を可愛らしくしたものだ。その一部が半ズボンである。
しかし、キールは半ズボンを完全拒否し、服の色も紺では無く黒を纏う事にしたようだ。髪の色も相まって遠くから見ればまるで私のミニチュア。
殿下と共にいる姿を見ると、尻が少しこそばゆく感じる時がある。
もちろん、殿下には私がキールの姿が見えていることは秘密なので、知らんぷりを決め込むが……
キールは協力者であって、私の部下ではない。
キールの言葉を信じるのであれば、キールは殿下でもあると言える存在。
長々とキールの服装に意識を持っていかれていたが、キールに言いたかったことは……
「殿下は私のことをマーシュと呼ぶ」
それは当たり前だ、私は殿下の僕で殿下の侍従長。殿下が名を呼び捨てるのもそれが普通だ。
「キールは殿下と同じ存在であるのだろう?」
散々聞かされて見せられて、そのことに関しては初めから納得しているようなのだ、私の心の中では……
「しかし、キールは私に『さま』をつける、それも言いにくそうに」
キールは私の言葉に、少し困ったような顔をした。
きっと殿下と話す時には、敬称など取っ払って話しているのだろう。
「君は殿下と同心なのだろう。ならば私を呼びつけにしても全く問題はないんだ」
逆にキールから取り付けたような『さま』を言われるほうが、そこはかとない違和感がある上に、なにかの拍子に殿下の前で、敬称つけて私のことを呼びかねないのだから。
キールはすでに敬称については失敗をしているようで、その時は
「自分より年上の方には敬称をつけるものですよ」と、ケムに巻いた。
「そもそもが君は部下では無いのだから、言ううなれば、殿下を守ると言う点では同志だろう?」
私と会ってることが殿下に知られてしまったとしても別に構わないのだが、これも言いくるめるための一つの手段。
見た目の年齢にはそぐわない、とても賢いキールでも、そもそも殿下が前世でも私よりは随分と若くして儚くなったようで、「よくあるトラックでドーンです」と、それ以上は聞いてくれるなと言いたげなキールの表情で、それっきり詳しいことは聞いていないが、私よりも年齢は重ねていないだろう、まだまだ可愛いところはこのままに私の手のひらで転がされていてほしいと思う。
結局私の作戦は功を奏して、キールは私のことを敬称無しで呼んでくれるようになった。
会って話していても早々名前を呼ばれるような状況は訪れないのだが、呼び方について約束してもらえたので、その場面が現れても、顔に出すことなく流していこうと考えている。
殿下は非常に素直で、機嫌を損ねるようなことも我儘を言うこともほぼ無いのだけれど、基本的には照れ屋であり、褒められ慣れしていないところが顕著。
照れてしまうと、そのことから時たまヘソを曲げてしまうこともあるので、そうなると少しだけ面倒くさい、とは年齢の近いリフルの弁だ。
ありがたい事に、殿下は私に表面上を取り繕っていても、根本は甘えてくれているので、私に対して拗ねたとしても、簡単に言えば頭を撫でて差し上げれば、その機嫌が直ってしまうから、リフルの言うような面倒なことにはならない。
リフルに対してヘソを曲げたとしても、それも甘えていることの裏返しであるから、究極は私と同じようにすればいいだけなのだが、男子の矜持と言うのかそう年も変わらない者に頭を撫でられること自体を良しとしないのだろう。
こんな時は、殿下を直ぐそばで見守り、心のうちまで手に取るように分かっているだろうキールが、機嫌をとってくれそうなものなのだが、殿下にとって軽くは無い出来事で拗ねてしまった時、キールも殿下自身だと言っていたことが裏目に出て、おもてに出てこなくなってしまったこともあったりしたのだ。
まだ、キールはリフルには姿を見せてはいないので、表向きは全く変化はないし、私も見ることができないことに殿下の中ではなっているので、何の手を打つこともできなかった。
時間が経って、殿下の中で折り合いがついたのだろう、もしかしたら私の気がつかない見えなかったところできちんとキールが働いていたのかもしれないが、閉じこもってしまった殿下より少し大人になって出てきてくれた時には、胸を撫で下ろしたものだ。
このようなことがあった時、私もキールもこのままではいけないと二人で話し合いを行って、殿下に私がキールのことを認識していると言うことを、わざわざ宣言はしないが、隠すことなく接触したところを見られてもいいのではないか、という結論に達した。
殿下は初めてそのような私たちの姿を見た時に、非常に驚いた様子であったが、その時のことを後からキールに聞けば、
「アークの自分に対して過小評価なところが出ているんです。私はアークであると口が酸っぱくなるほど言い聞かせているんですが……私のすることに対して、自分が口を出してはいけないと思っているところがあるようで……」
それは裏を返せば、キールのことを非常に評価して信頼していることに他ならない。
しかしこのままでは、あまりいい状況は産みそうにないので、私もキールも殿下自身に自信を持ってもらうことを目標に掲げ、殿下の御身は元のこと、心もしっかりと守っていこうと誓い合ったのだ。
そのためにも、このような殿下の理不尽な状況の打開を図るべく、私の中に燻っている陛下を含め昔は友と呼んだ彼等への心残りもしっかりと絶って、この国に蔓延している呪いのようなモノの正体を掴み、殿下の幸せを一番に考えて行動していくことを、改めて確認した。
キールにその思いを伝えた時、キールはすでにこの何か理不尽な出来事の原因がなんなのか、どうしてこのようになっているのかも知っているのではないかと、私の心に小さな疑念が生まれたのだった。
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