転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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マーシュ・スリート 28 殿下を共に守る者 5

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  我々が『呪』と呼ぶ何か、そのお陰ともいえる無関心に守られる様に、殿下の住まわれるこの離宮の要塞化を着々と進めつつ、殿下の外界との関わりを進めなければならないと言うわたしの考えは、その始めの段階から頓挫したと言えるものになってしまった。

 精霊契約の日は、想定外の事が起ころことは織り込み済みで、十分に計画を立て冷静に事を進めたつもりであったが、殿下に不快な思いをさせてしまった事は残気に絶えない。

 その中で特に、そう殿下の言葉によれば『ムカつく』になるのだろうか、「モイヒェルメルダー」と思われるけど集団に襲撃された事だ。

 確かに「王の手」先の者と、言い換えればその通りなのだろうが、組織としての「モイヒェルメルダー」は私が先代から受け継いだものなのだから、殿下を襲撃などする訳が無いのだ。

 今の陛下は王国の半分も、先代から受け継ぐ事が叶わなかったのだから……。

 先代の陛下がその息子である当時の王太子を廃して、その子である現陛下を王太子に指名してしばし……。

 この王都を包む空気ががおかしいと感じはじめた王立学園に入園してすぐの頃、その後の事を予見していたかの様な先代陛下から王国統治の裏側の根幹とも言える王の手モイヒェルメルダーを託されたのだ。

 思い起こせば、幼馴染でもあった公爵令嬢との仲が不穏になり「青」や「赤」の側近達も、いままででは考えられない様な言動が現れはじめたのは、陛下の隣にあの令嬢髪色がピンクの姿があるのが私すら当たり前に感じる様に成った頃であったか……。

 その頃の私は勿論今の様に結界を扱う事に長けてはおらず、自身に何とか意識をすれば張ることが叶うかどうかと言う程度であった。

 結界に長があるのは土属性であるが、建物などの結界は魔道具などが使われ、戦闘中に盾として使用できる様な結界を張るには詠唱を必要とするそれは、使用する利点が余り無いものと考えられている為、土属性自体が貴族には不遇な属性であった。

 私の様に、常時発動する結界を身につけようとする者など皆無であった。

 攻撃系の魔法を一度は瞬時に弾き返す様な術式を嵌め込んだ装身具も、高価であるが存在していたこともあるのだろう。

 まだ無意識に常時発動の結界を展開する事などできなかった当時、結界が張られている王城の中にある学園の中などでは、結界を見に纏う事など皆無であったのだが、先代陛下から仕事を請け負っているときには、身の危険がある為に結界を張ることにしていたのは必定でもあった。

 その当時の私には、結界を張っている時と、張っていない時があった訳だが、それぞれの時間の中での自分の認識の間に、大きな齟齬が生まれてくるいる事に気付けたのは、何時であったのか、なぜ早く気づけなかったのか、自分の未熟さ加減に、思い出しても腹が立つ。

 気付いた時には、すでに私の手には負えない程大きなモノになっており、最終的には先王陛下の下知に従うしかなかった。

『今まで通りに奴の近くに侍り、その動向に注視せよ。自身の力を磨き蓄え、その時に備えよ。我の身は元々この国の礎として存在するモノである。……この後の理は神のみぞ知るか…いや、このセカイの理は人が成すものぞ……』

 最後の先代陛下の呟きを聴けた者は、近くにいた『王の手』の中で私だけであったかも知れない。

 不穏な空気に包まれた王城から、土属性でそれなりに結界を扱う者以外の王の手仲間を王都以外に逃す事以外私にはできる事はなく。

 
 王太子は言った。

「陛下の悪政を糾す」と

 王太子は言った。

「人品下劣な公爵令嬢と婚約破棄をする」と

 王太子ヒーローの思い通りに世の中は巡って行く。

 糾弾された先代陛下は倒され、公爵令嬢もこの世を去った。

 ただ一つ、ヒーローが望み出来なかった事、それは望んだ令嬢を正妃にすること。
 
 ただ一つ、私達王の手が出来た事、かの令嬢が禁忌の『魅了』もどきを使用していた事を突き止められた事。

 流石のヒーローも、その事で正妃を勝手にすることが出来ず、正妃は同じ公爵家の令嬢を据え、後継を儲ける事を強制されたのだ。

 それからも、頭の中に二人の自分が居るような、何とも気持ちが悪い時間が過ぎて行き、表向きには悪政をを正した王太子ヒーローがこの世を導いて行く、というストーリーが進む。

 ときどき、目が醒めたように頭の中の霧が晴れるを繰り返しながら、私はその時を迎えた。
 
 悪政を廃して即位した今上陛下を中心とした物語が頭の中の表装を占めながら進んで行く中で、時々頭痛のように痛みをもって現実が見えるを繰り返す中、産月たらずの小さな赤子を手渡された時、頭の中の霞がうっすらと晴れて光が差す光景を見た。

 この世の歪みを正すが如く、かの赤子に接している時には霧が晴れるのだ。

 全く反応を示さず、言葉を発する事もできないような赤子が、私には確かに希望の光であったのだ。

 今までもこの世の理不尽を感じて生きて来たが、真実、矛盾が見えると思える今、呪のような何かの中心地で、与えられた理不尽をも利用して、この小さい命を守る事に腐心した。

 殿下の5歳の時のあの事件で、あの光で、私の頭の中の霞は綺麗さっぱりと吹き飛ばされて、私の力結界殿下の力キールで要塞化した離宮を中心として、例の呪いのようなモノが及ばない人員範囲を強化、広げて行く事に。

 殿下の成長と共に、いくつかの懸案事項も発生したが、結局殿下自身で解決されて行った。

 殿下は「キール」のお陰、と心の底から信じているが、キールがいうには全て殿下の能力スキルなのだと。

 私が、この離宮の中だけでは無く、同年代の者と触れ合う事に拘った為、いらぬ心労を殿下に及ぼした事は私の大きな後悔の一つだ。

 私自身があの当時の王子達、仲間と思っていた者に出会えた事が、確かに生きて行く上の支えであった事は事実であり、心の底では彼等を信じたい想いが消えていなかった為の、拘りであったのかもしれない。

 そして、今殿下たちはこの国頸木から解き放たれ、この国の呪い深淵に到達するための旅に出ている。

 以前、私の眼を掻い潜って、内緒で行っていた冒険は、七日間という時間制限で、強制終了されたらしい。

 それはこのセカイの理に敗北した結果起こった事で、今回初めてその事を教訓として、この離宮を『神であっても治外法権』にした、とキールが胸を張る。

「マーシュの結界はこの国では最強だけれど、この世界の創造主にはどうとでも出来るかもしれない。それはこの世界のどの様なモノに対しても言えること。けれど、アークの根本はこの世界の創造主だ女神の上位存在の神の加護を授けられているから、離宮ここには手を出すことが出来ないんだ」

 殿下の力をレベルを上げることが、殿下に課せられた運命理不尽を打ち砕くために必要だから、この世界を旅するのだ。

 以前の殿下やキールとは違う、成長した今、前のような事は起きない。

 それでも離宮に残る我々の心配事は無くすべく、一日と開けず実体なきキールは戻ってきているが……。

 『殿下を共に守る者』ただ一人から始まった戦いは、志を同じくする者を増やしながらこの離宮の中に殿下がいる事をカモフラージュしながら、私に出来る手札を増やす為に日々精進をすることに努めている。


 
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