転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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チュート殿下 132 タリスマン帝国の旅 8

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 メルヘンでちょっとシュールな空間での美味しい朝食を堪能して、チェックアウトと共にこの街も旅立つつもりでいた俺たちは、同じタイミングで宿屋を出たおやっさんに手招きされて、行く予定のなかったこの街のギルドに足を運ぶ事になった。

 キールにはすでになぜ呼ばれたのかがわかっている雰囲気があるが、俺にはさっぱりだ。

『帝国に入ってすぐにエンカウントした、でかいの居たでしょ。あれを出してみて』

 帝国の薄い幕を通り抜ける事ができた興奮も醒めないうちに、飛びかかって来たグリズリー並みに大きな魔獣をレーザー一発、脳天を撃ち抜いたアレ?

『でもアレは、水じゃなくて光使っちゃったから表に出せないんじゃなかったっけ……』

 何食わぬ顔で、念話で会話する俺たち。

 朝早い事もあって、ギルドの依頼受付には列が出来ていた。

 そう大きくないこの規模の街でもアミュレット王国の王都で見た冒険者彼等より多いくらい居る。

 この街も魔の森に十分近い場所にあるからな。

 体格も立派な奴等が多い。

 ただ、これだけ集まると、ギルド内の空気が……。

 まぁ、日本人であった記憶も影響していることはわかってる。腐っても王子様であるので毎日風呂の入る事も当たり前のように出来たし、個人的には体臭も特に濃くないようで、思春期である現在も香水を使う必要性を感じないですんでいる。

 このセカイの人々は、見た目も向こうのヨーロッパ系の感じが強い。

 アミュレットは、乙女ゲームの事もあって、なーロッパである。

 ここタリスマンも予測では勇者の国、RPGのセカイかもなぁってところで、同じくなーロッパ風味のようだ。

 ガタイもデカいし香水文化が発達した理由はしっかりあるのだから……今それを実感してる。

 究極の肉体労働者の野郎の集団で、あまり入浴文化が発達していないとしたら……。

『じ・ご・く……』

 ギルドに足を踏み入れたは良いが、あまりの臭害にムサイ野郎の列の向こうにある買取受付おやっさんのテリトリーに近づく事ができない……いや近づきたくない!

 そんな俺の気持ちは十二分にわかっているはずのキールは、俺の顔をチラ見してから、男どもの壁に臆すること無く突入して行く。

 彼等からしてみれば十分に優男に見えるだろうキールに、絡もうとする強者馬鹿者は今この時間のギルドにはいなかったようだ、受付嬢昨日の人とは違ってる。

 ある程度のレベルになると本能的に強者はわかる者なのだろう、おやっさんの立つ窓口まで道ができていた。

 先を行くキールに遅れないようについて行く。キールとは眼を合わせlないようにする男達も、後をピヨピヨついて行く様に見えるだろう俺には、腰を屈めてまで眼を見てガンを切ってくる奴もいたりした。

 ……あぁ今日奴は無事に依頼達成は出来ないんだろうなぁ……キールの視界は360度だからね……

 おやっさんが用があったのはキールでは無くて俺であったようで、窓口のカウンターの向こうとこっちから俺を見ている。

 メンチを切ってきた男に気を取られて少し遅れてしまったようだ、狭いギルド内、キールの長い足だとあんな距離すぐ辿り着くよな。

 足早に窓口に近づくと、俺はギルド入った時に言われたキールの言葉に従って、肩にかけたマジックバックから出したふうにして、アイテムボックスからどでかいグリズリーもどきの足を持って引っ張り出そうとした。

 俺のことを気にする視線と言うか気配が背後からビンビン感じているが、出せと言われればやぶさかでは無い。

 一旦止めた腕の動きを再開しようと、足首を持った拳に力を入れようとしたところで、おやっさんの逞しい掌が俺の目の前で振られた。

「ストップ?」

 その瞬間キールの腕も俺の肩の動きを止めるように動いていた。

『殊の外注目を集めているみたいだし、ギルド長がここでは無い方がいいて判断した様だから……あそこのドアから裏に回る様だね』

 魔獣大熊から手を離して顔を上げると、おやっさんはカウンターの奥の扉に手を掛けて、目線で俺の左後方にある扉に向かうように促している。

 キールは今一度俺の後方に視線をやると、さっきまで突き刺さっていた殺気にも似た視線は感じなくなった。

「オイ!お前!どうしたんだ?」

 ドサっと何かが床に落ちる様な音と、の太い男の声が響いた。

 ……あえて背後は見ません……

 足早におやっさんに示された扉から外に出る。普段はあまり使用されない扉なのか、蝶番がキーっと小さく悲鳴をあげた。

「何やってるのキール。うざいのはわかるけど……そういえばさっきギルド長って……」

 キールへの質問タイムは目的地到着で打ち切られた。

 ギルドの建物の裏側には、もう一つ石造りの頑健な建物が建っているようだ。表の道からは全く見る事ができない建物だ。

「この裏には用水路があって、この剥取り専用の倉庫は主に水路で荷駄のやり取りをするみたいだね」

 この街に来たのは同じタイミングで同じ時間を過ごしたはずなのに、どこに行ってもきっとキールはその街で生まれ育ったが如く街の様子を把握しているのだろうなぁ、と少し呆れた。

「何してる?入って来い」

 おやっさんの声を初めて聞いた気がする……
「おやっさん話せるんだ……」

 馬鹿な事言ってないで入って来いとその顎のしゃくりが言っている。

 中に入ると、がらんとした空間に大きな作業台のような物がいくつか並んでいて、そのいくつかにはこんもりと何かのシルエットが見える。

 解体中の魔獣?それにしては血の臭いのようなものが全くしない。さっきのギルドの本館よりも全く臭く無い!?

「ここには臭いを分解する魔道具が設置されてるからな」

 何も置かれていない作業台の横でおやっさん改めギルド長が立っている。

 想像通りの渋い声だ。

 ギルド長って偉そうな格好と態度で、大きな執務卓を前にふんぞり返っていると思っていたから。勝手な想像だけど……

 声を出さないのも別に大した意味はなく、面倒だかららしい。

 キールは昨夜俺が寝た後、おやっさんと話をしたらしい。

 だからアイコンタクトも出来たわけか……。
 






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