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10 ヴォラスの戦い
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帝国の範疇にはない山脈向こうの辺境の村は、高ランクの冒険者でないとギルドも紹介しないような厳しい環境にあるところで、ヴォラスのような商人には向かうことは進めないとその冒険者は言う。
「確かに。あそこに行けば一儲けどころかうまくいけば大儲けできるが、そこに行くまでがいけない。高ランクの冒険者でなければ超えることのできない山があるし、魔の森に入ることのできる度量がなければ、おいしいこともそうないしな」
確か、あそこの村にも冒険者崩れの行商人が時々訪れているようだ。俺も今回結局はそれと似たような者になったわけだしな。
山越えしないで裾野をグルリと回っていく道もあるにはあるが、そっちは魔獣ではなくあの治安が悪い小国連合を通る道だ、知っての通りキャラバンなんぞ組んで行ったら山向こうにたどり着く前に丸裸、命も危ねぇ。と言って逆回りはそれこそ未知の道程だ。おっと俺うまいこと言ったな!
そう言うと、その男は自分の腰につけているカバンを撫ぜて、ヴォラスから受け取ったポーションの代金をそれに投げ入れると、上機嫌でギルドの酒場から出ていった。
ヴォラスは今掴んだかもしれないカーラに続く細い糸を、切れないように、逃がさないように、これからの行動のひとつひとつがとても大切なものであるから、とにかく冷静に行動をしなければと、大きく深呼吸をした。
ヴォラスはもちろん冒険者ではない。ただ、この10年間今回のように尋ねた先の冒険者ギルドに顔を出すことで、この国のみならず、ギルドとの繋ぎが個人としてもそれなりにできているし、商会としては更に太いパイプも持っている。
この辺境に近いギルドには初めて顔を出したわけであるが、この国の上層部には公爵家に知られていない反公爵家の繋ぎもあり、そこからの話をつけることで、一般的にされていない辺境の村のことについても情報を得ることができるだろう。
使い込まれたテーブルの上で、光り輝いている数本のポーションを見つめながら、残っていたぬるい気の抜けたエールで喉を湿らせると、「ヨシ!」とひとつ気合を入れて、勢いそのままにギルドを後にした。
それから、エクサルファ帝国内といういわば敵国の中で、この10年でますます力を増している公爵家に、一切気取られることなく行動することは、はやる気持ちを抑えることと同様難しくもあった。
また、物理的な問題として、今のヴォラスの商売の形、キャラバン隊で山脈を超えるのは、絶対に出来ないということが分かっていること。
かと言って、少人数で行商人として山を越えることも、ヴォラス本人が参加することは難しいだろう、と、何回も山越えを経験している冒険者に指摘されている。
ここで、死んでもいいから行きたい、というのは簡単であるが、自分が死んでしまっては目的のため、カーラの消息を確かめるために行うということの、大目標が達成できないことで、却下である。
キャラバン隊を一つの街にずっと留め置くのは目立つので、ヴォラスと腹心の部下一人を残して、今まで通りの行動をさせることにした。
いつものようなスケジュールでとりあえずこの帝国の外に出て、商会の支店のある街で待機させることとした。
ヴォラスは大金を積んで、なかなか手に入れることが難しい、このあたりの詳しく描かれた地図を手に入れた。
この辺りは険しい山脈と、その向こう側に広がる魔の森と、そこ以外には隣接する国力のある国もないところから、全く注視されていない土地であり、軍事的な対象になりえないので、そっち関係の地図はない。
今回手に入れたのは、山登りが趣味である団体の、興味の赴くままにやたらとく詳しい山越えのルートが書かれた地図で、作った数が少なかったことから手に入れることが困難だった物だ。
山脈のふもとのギルドはあるが大きくないこの町に、隠れ家のような拠点を作り、商会の本店とも連絡を取りながら、何とか山向こうの消息を掴もうと努力している。
今も隠れ家の大きさには不釣り合いな大きいテーブルの上に地図を広げて、何とか踏破できる道がないか探す。
「山登りは、やはり我々のような一般人には無理ですね。趣味で登っている人の中には、我々と変わらないような体躯の人もいますけど、あれは別の意味普通じゃないから、我らが同じようにするなら最低5年は掛かるかもしれませんね」
ヴォラスの手足となるべく、キャラバン隊から残った一人セーヴェルは、鼻の上にしわを寄せながら地図を睨むように見ている。
「山を越えるのが無理なら、周って行けばいいのかなぁ……」
この地図ではもちろん山の部分が中心であるから、山の向こう側に広がる魔の森も、その近くにあるという辺境の村も書かれていない。
山脈の端、この町から一番遠い山の端は、海まで続いているようで、注釈には海まで絶壁が続くと書かれている。海とは反対の山の端は、治安の悪い小国連合を通ることになる。
海側のそこはこの大陸の一番端でもある。この大陸のこの海の向こう側には、人の住む島なり大陸なりがあるのかまだわからない。
だから、この大陸の山脈を挟む海側の開発は全く手が付けられていない状態で、この町より海側には村すら存在はない。
山ばかり詳しく書かれている地図の山を挟み両方とも海までは、深い森なのか緑色に塗られている。
山脈のふもとぐるっと囲むように緑に塗られ、行きつく先は海の青。この山は標高が高いからか、この町も平地よりは高いところにあり、この町より上の山には草木はない。とすれば、この緑この境の所は?絶壁というわけだはないだろう?
森の先に書かれている海。その海と森との境は?山のように絶壁なのか?
「副会頭!ここ!森と海の境目、よく見ると細かい点が……」
なんてこだわりの詰まった地図なのだろうか。そこには、うっすらと砂浜が描かれているのだった。
そして、山脈と一番遠い森と海の境目の所、大陸の形をかたどった線の先に、小さく小さく注釈が……
「……砂浜。満潮では見えなくなる」
その細い道は山脈の絶壁の下にも、その砂模様が薄らと描かれ、山脈の向こう側まで続いていた。
「確かに。あそこに行けば一儲けどころかうまくいけば大儲けできるが、そこに行くまでがいけない。高ランクの冒険者でなければ超えることのできない山があるし、魔の森に入ることのできる度量がなければ、おいしいこともそうないしな」
確か、あそこの村にも冒険者崩れの行商人が時々訪れているようだ。俺も今回結局はそれと似たような者になったわけだしな。
山越えしないで裾野をグルリと回っていく道もあるにはあるが、そっちは魔獣ではなくあの治安が悪い小国連合を通る道だ、知っての通りキャラバンなんぞ組んで行ったら山向こうにたどり着く前に丸裸、命も危ねぇ。と言って逆回りはそれこそ未知の道程だ。おっと俺うまいこと言ったな!
そう言うと、その男は自分の腰につけているカバンを撫ぜて、ヴォラスから受け取ったポーションの代金をそれに投げ入れると、上機嫌でギルドの酒場から出ていった。
ヴォラスは今掴んだかもしれないカーラに続く細い糸を、切れないように、逃がさないように、これからの行動のひとつひとつがとても大切なものであるから、とにかく冷静に行動をしなければと、大きく深呼吸をした。
ヴォラスはもちろん冒険者ではない。ただ、この10年間今回のように尋ねた先の冒険者ギルドに顔を出すことで、この国のみならず、ギルドとの繋ぎが個人としてもそれなりにできているし、商会としては更に太いパイプも持っている。
この辺境に近いギルドには初めて顔を出したわけであるが、この国の上層部には公爵家に知られていない反公爵家の繋ぎもあり、そこからの話をつけることで、一般的にされていない辺境の村のことについても情報を得ることができるだろう。
使い込まれたテーブルの上で、光り輝いている数本のポーションを見つめながら、残っていたぬるい気の抜けたエールで喉を湿らせると、「ヨシ!」とひとつ気合を入れて、勢いそのままにギルドを後にした。
それから、エクサルファ帝国内といういわば敵国の中で、この10年でますます力を増している公爵家に、一切気取られることなく行動することは、はやる気持ちを抑えることと同様難しくもあった。
また、物理的な問題として、今のヴォラスの商売の形、キャラバン隊で山脈を超えるのは、絶対に出来ないということが分かっていること。
かと言って、少人数で行商人として山を越えることも、ヴォラス本人が参加することは難しいだろう、と、何回も山越えを経験している冒険者に指摘されている。
ここで、死んでもいいから行きたい、というのは簡単であるが、自分が死んでしまっては目的のため、カーラの消息を確かめるために行うということの、大目標が達成できないことで、却下である。
キャラバン隊を一つの街にずっと留め置くのは目立つので、ヴォラスと腹心の部下一人を残して、今まで通りの行動をさせることにした。
いつものようなスケジュールでとりあえずこの帝国の外に出て、商会の支店のある街で待機させることとした。
ヴォラスは大金を積んで、なかなか手に入れることが難しい、このあたりの詳しく描かれた地図を手に入れた。
この辺りは険しい山脈と、その向こう側に広がる魔の森と、そこ以外には隣接する国力のある国もないところから、全く注視されていない土地であり、軍事的な対象になりえないので、そっち関係の地図はない。
今回手に入れたのは、山登りが趣味である団体の、興味の赴くままにやたらとく詳しい山越えのルートが書かれた地図で、作った数が少なかったことから手に入れることが困難だった物だ。
山脈のふもとのギルドはあるが大きくないこの町に、隠れ家のような拠点を作り、商会の本店とも連絡を取りながら、何とか山向こうの消息を掴もうと努力している。
今も隠れ家の大きさには不釣り合いな大きいテーブルの上に地図を広げて、何とか踏破できる道がないか探す。
「山登りは、やはり我々のような一般人には無理ですね。趣味で登っている人の中には、我々と変わらないような体躯の人もいますけど、あれは別の意味普通じゃないから、我らが同じようにするなら最低5年は掛かるかもしれませんね」
ヴォラスの手足となるべく、キャラバン隊から残った一人セーヴェルは、鼻の上にしわを寄せながら地図を睨むように見ている。
「山を越えるのが無理なら、周って行けばいいのかなぁ……」
この地図ではもちろん山の部分が中心であるから、山の向こう側に広がる魔の森も、その近くにあるという辺境の村も書かれていない。
山脈の端、この町から一番遠い山の端は、海まで続いているようで、注釈には海まで絶壁が続くと書かれている。海とは反対の山の端は、治安の悪い小国連合を通ることになる。
海側のそこはこの大陸の一番端でもある。この大陸のこの海の向こう側には、人の住む島なり大陸なりがあるのかまだわからない。
だから、この大陸の山脈を挟む海側の開発は全く手が付けられていない状態で、この町より海側には村すら存在はない。
山ばかり詳しく書かれている地図の山を挟み両方とも海までは、深い森なのか緑色に塗られている。
山脈のふもとぐるっと囲むように緑に塗られ、行きつく先は海の青。この山は標高が高いからか、この町も平地よりは高いところにあり、この町より上の山には草木はない。とすれば、この緑この境の所は?絶壁というわけだはないだろう?
森の先に書かれている海。その海と森との境は?山のように絶壁なのか?
「副会頭!ここ!森と海の境目、よく見ると細かい点が……」
なんてこだわりの詰まった地図なのだろうか。そこには、うっすらと砂浜が描かれているのだった。
そして、山脈と一番遠い森と海の境目の所、大陸の形をかたどった線の先に、小さく小さく注釈が……
「……砂浜。満潮では見えなくなる」
その細い道は山脈の絶壁の下にも、その砂模様が薄らと描かれ、山脈の向こう側まで続いていた。
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