双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼

HIROTOYUKI

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31 魔素と魔法とテリオの心

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 空気中の魔素濃度が高いところでは、人間の放つ魔法の威力も上がる。

 テリオに言わせれば劣化版の人間の魔法でも、街中で使う場合と魔獣が発生するような場所で放つ場合は、同じような感覚で使った魔法の威力が、明らかに街中よりも高くなる。

 ルフェルが使っている魔法は主にカーラから習った簡単な治癒魔法、のようなもの。

 人前で使うのは人間の魔法ということになっているので、ルフェル自身が魔法を使うことはほとんどなかった。

 いつもとは少し近くにいてくれるテリオが、魔の森に入ったらすべてやってくれるので……。

 この魔素の高い場所で放つ魔法は人間の言うそれではなく、テリオの使っている諸元の魔素操作。

 どうも人間はその場の魔素を使用することなく、生物の持つ体内に取り込んだ魔素を使って、魔法という形で体外に放出しているらしいのだ。

 だから、体内に取り込める魔素の濃度が高いところの方が、同じ感覚で強い魔法を使うことになるらしい。

 テリオも魔素を使ってそれを形を変えて放っているので、一見同じように感じるが、体内に取り込んだ魔素を使うわけではないので、本質的に違うようだ。

 魔力量の高い人間とは、体の中に魔素をためて置ける容量が大きく、かつ魔素を取り込める能力が高いもののことを言うようだ。

 テリオはそもそもが魔素の塊なので比較にならないけれど、育った環境が魔素の高い魔の森の縁だったからか、生まれながらの何かなのか、ルフェルの魔力量は長い間人間を見てきたテリオからしても比べるものがあまりいないくらい高かった。
 
 一度体に取り込んだ魔素は変質する。それはテリオからすれば何かしらの劣化で、人間からすれば自分の魔力属性に合わせるために必要な変質であるわけだが、そこで何割かの魔素が魔法としては使用できないものになり、放たれる魔法の威力も落ちるのだという。

 今ルフェルが使おうとしているのはテリオ仕込みの魔素操作に近い根源の魔法のようなもの。

 魔素の中でも一番操りやすい組成を取り出して操作すると、ルフェルの場合色にすればそれは『赤』それももっと濃い『紅』、性質は『火』。

 目の前の風景が紅蓮の炎に包まれて、まるで夕焼け空に見える。

 放ったルフェルには一切熱は感じない。

 しかし、色が収まったその場には、空気がゆらゆらと陽炎のように揺蕩っているのが見えて、その場の高熱具合を物語っていた。

 少し体から力が抜けた感じがして、体内魔素も外部の魔素操作に使われたようだ。

 テリオに言われればまだまだというところだろうが、もしこの場面を人間の魔導士と呼ばれるような、一応魔法を扱うことに自負を持つ者たちが見たら……。

 納得することができず、ルフェルを排除する方を選ぶことだろう、自分の精神と立場の保全のために。

 テリオはもっと効率よく魔素を取り込む方法や、体の中の魔素だけで放つ人間の魔法の使い方についてもルフェルに教授した。

 テリオの中の危機察知能力が何かテリオにとって良からぬことが起ころうとしていることをビンビンと伝えてくるのだ、不機嫌に陥るほどに。

 テリオは今まで予知に関する能力を磨いてこなかったことを後悔していた。

 自分のことに関心のあまりないテリオは、これからのことについても興味がほとんどなかった。それが人間世界のことになればなおさらで、予知の力を磨くことで人間にうまくすり寄り、その地位を万全のものにしている同族もいるらしいが、危機察知もそれほど得意ではないほど、周りのことに関心がなかったのだ。

 危機察知で、これから自分につまりルフェルにとってもあまりありがたくないことが起ころうとしていることはわかっても、何が起こるかまでは予知がほぼできないテリオにはわからない。

「人間は身体だけ守るのではだめだからな……心も守らないと壊れて死んでしまうことがあるから」

 目の前でテリオの言われたことを一生懸命反復練習しているルフェルのことを優しい心で見つめるテリオ。

「これが愛しいということなのか?」

 何百年前にかそれよりももっと前にか、その時近くにいた人間が「愛しい……」といいながら、目の前で儚くなったことを思い出した。

 その時には全く愛しいという気持ちなどわからなかった、確かに彼は特別ではあったけどそれは彼の纏う魔力に興味を持ったことで、一種の気まぐれ……。

 長い時間をただ存在している『モノ』である魔素の塊は、人の感情というものにやけに疎かった。

 知識といえるものは人間からすれば無限といえるほど持っているのかもしれないが、感情というものに関しては薄いというよりも、そのものを拒否していえるほど関心を持てなかった。もしかしたら、それは心を持つことを拒否しているが如く……。

 持てば壊れることがあることを知っている本能が、壊れることを恐れて持っていなかったのかもしれない。

 今、「愛しい」という心がわかったような気がするテリオは、「恐れ」という感情も同時に知ることになる。
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