バカ王子さんが勝手に追放宣言しちゃったので一旦パーティから離脱することにしました

笹村

文字の大きさ
1 / 3

追放宣言されちゃった・その1

しおりを挟む
 全ての始まりは、バカ王子さんの宣言だった。

「タカミネ・シロウ! 汝を栄えある我がパーティより追放する!」

 よく通るバカ王子さんの声が冒険者酒場に響くと、波が引くように喧騒が消えていく。
 滅多に無いことだ。
 いつもなら多少の騒動は酒の肴とばかりに囃し立て、エールのジョッキを片手に盛り上げるぐらいのことをする冒険者達が、皆一様に事態の推移を見守るように見つめている。
 その視線は大きく分けて二種類。
 追放宣言をしたバカ王子さんこと、人類主権国家のひとつであるライト王国第二王子であるアラン・ホワイトの真意を見極めようとしている用心深い者と、その他大勢だ。
 ちなみに、その他大勢の向けている視線は大体同じ。それは、

「おいおいおい」
「あいつ死んだわ」

 これである。
 けれどそんな視線を向けられているアランは、意気揚々と言葉を続けた。

「タカミネ・シロウ、汝が追放される理由が分かるか」
「え?」

 間の抜けた声が返ってくる。
 それは追放宣言されたシロウが零したものだ。
 シロウは強張った表情で応える言葉を探しているが、中々出てこない。
 追放宣言されたのがショックだったから、というわけじゃない。
 この場を巧く取り繕って、アランをフォローするにはどうすれば良いか思考を巡らせていたからだ。
 けれどアランは考えなしに、致命的に口を滑らせた。

「汝が役立たずだからだ!」
「アラン殿下!? ちょっとお待ち――」

 必死にシロウは止めようとしたが、アランの言葉の方が早かった。

「地図屋など、何の役に立つ!」

 二度目の沈黙が広がる。
 それは血の気が引くような冷め醒めとした物だった。

(……拙い)

 シロウは血の気が引くような感覚を覚えながら、冒険者酒場のカウンターに視線を向ける。
 そこに居たのは酒場の店主であり、冒険者ギルドの重鎮の一人であるギィ・スロートだ。
 齢五十を超える彼は無言でグラスを磨いている。
 一見すると我関せずといった様子だが、シロウには処刑道具を磨いている執行人のように見えた。

「アラン殿下、どうか考えなおしていただけませんか。地図屋は無くてはならない重要な職業です」

 シロウは懸命に、アランに思い直して貰えるようアピールするが、バカ王子さんは残念ながら気づけなかった。

「笑止! 無くてはならないだと? 地図屋など、こそこそ見て回るだけではないか!」
「それは斥候としての意味もありますし。それに地図屋は物資を用立てる役割も持ってます」
「言い訳をするな! 汝が言っていることは、ネズミのように臆病に嗅ぎまわる荷物持ちという事ではないか!」
「……」

 思わず言葉に詰まるシロウ。
 反論できないから、というわけじゃない。
 言っても無駄だと、否応なしに理解したからだ。
 それでもどうにかしようと、必死に考えていた時だった。

「シロウさん、どうかしたんですか?」

 一人の偉丈夫、アランのパーティのタンク役であるジル・コードが近づいてきて声を掛けて来た。

「……アラン殿下も、どうされたんです?」

 先に声を掛けたのがシロウな時点で、どちらを信頼しているか伝わってくる。

「……なんか、随分と静かですし」

 気のせいか、冷汗をかいているように見える。
 中々見れない様子だ。
 戦闘となれば、いかなる攻撃も鉄壁の如く弾き、あるいは受け止める守護者の彼が、嫌な予感に不安を滲ませている。
 そしてその予感が正しいことを、アランが教えてくれた。

「ジルよ、聞くがよい。つい先ほど、シロウを我がパーティから追放したのだ!」

 アランの言葉を耳にした途端、

「終わった……」

 竜の息吹ドラゴンブレスすら受け止めたジルは足元から崩れ落ちた。

「もうダメだ……おしまいだぁ……」
「ジルくん!?」
 
 思わず駆け寄るシロウ。

「ちょ、しっかりして。どうしたの」
「うぅ……だって、これもう詰んでるじゃないですか」

 慰められるジルに、どうにかして励まそうとするシロウ。
 そこに残りのパーティメンバーもやって来た。

「どうした?」
「え? なに?」
「あらあら」

 一人は、冒険者ギルドから勇者認定をされた男性、アッシュ・バロン。
 残りの二人の女性は、特級魔女の認定をされたレイラ・スカーレットと、聖女認定をされたキティ・レゾだ。
 そんな三人にも、アランは状況を教えてあげた。

「汝らも聞くがよい。つい先ほど、シロウを我がパーティから追放したぞ!」
「……は?」
「????」

 話を聞いて、レイラは漠然と言葉をもらし、キティは意味が分からないと言わんばかりに固まっている。
 あまりのことに二人はすぐに反応できなかったが、勇者の二つ名を持つアッシュは違った。シロウに体を向けると

「すみません。勘弁してください」

 流れるような所作で土下座した。

「ちょ、止めてください! 勇者の土下座とか見たくないです!」

 すぐに止めに入るシロウであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...