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追放宣言されちゃった・その2
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「アッシュさんが悪いわけじゃないんですから。どうか頭を上げて――」
「じゃあ、連いて来てくれますか」
土下座していたアッシュは顔を上げると、捨てられた子犬を思わせる縋るような視線で言った。
「見捨てないでください」
「何を言っているのだ! アッシュよ!」
シロウが応えるより早く、アランが余計なことを言う。
「戦えない役立たずに媚びるなど、それでも我がパーティの勇者か!」
「…………」
アランの言葉にアッシュは無言で真顔になると、どこからともなくペンと紙を取り出した。
「アッシュさん、なにを」
「辞表、辞表書きます」
「アッシュさん!?」
慌てて止めるシロウ。
「ちょ、思い留まって! 一度受けた依頼を勝手に辞めたらギルドからの罰則が!」
「シロウさん抜きで魔王迷宮に挑戦すること考えたら罰則受ける方がマシです」
「いやでも待ってください! まだ猶予はありますけどこのままだと敵性魔王が迷宮から孵化する可能性もありますし! そうなったらどれだけ危険か――」
「私も辞めます」
「キティさん!?」
パーティの回復役であるキティまで辞めると言い出し、シロウはさらに焦る。
「キティさん、貴女が居なくなったら命の危機に直結しちゃいます」
「それはシロウさんが居なくなっても同じじゃないですか」
半泣きになるキティ。
「ごはんもお風呂も、それに……トイレも無しとか死んじゃいますぅぅぅ」
「それは、皆さんもアイテムボックスありますからある程度はどうにか……トイレは、その、現地でその辺でどうにかするしかないですけども」
「やだぁぁぁぁぁ」
想像したのか、本気で泣き出すキティ。
まだ十五才の少女には色々とキツいようだ。
普段は聖女としての格を保とうとするあまり言葉遣いが高飛車な所があったりするが、完全に今は剝げ落ちている。そんなキティに、
「軟弱なことを言うな!」
アランが火に油をぶちまける勢いでのたまう。
「魔王討伐という偉業を前に何たる情けなさか! 王国の危機を未然に防ぐ栄誉を得る機会だというのに些末事にこだわるとは、恥を知れ!」
「……殿下、高き志しは感服いたします」
シロウは言葉を選びながらツッコミを入れる。
「尊き血の方々にとって、栄誉が何よりも価値があることだというのは、私のような俗物でも聞き及んでおります。されど我らの如き俗物は、それでは足らぬのです。尊き血よりも、俗な肉を必要とするのです」
慎重に、そして懸命にシロウはアランに呼び掛ける。
それは保身のためではなく、ひと時とはいえ仲間となった皆を護るためだった。
けれどアランは気付けない。
「はっ、正体を現しおったな」
アランは見下げ果てるような、あるいは拒絶するような表情の中に、一抹の苦悩を滲ませながら言った。
「自ら俗物などと言い切る浅ましさ、所詮は卑賤な輩よ。そのような者を魔王討伐の栄誉に加えることなど許されぬ。やはり汝を追放することは正しいのだな」
(……やはり?)
シロウはアランの言葉に違和感を覚える。
(やはりってことは、前々から考えていた? いや、そんなそぶりは無かった。とすると……誰かに吹き込まれた?)
シロウは十四才になったばかりの少年に、気付かれないよう視線を向けながら考える。
(拙い……これ俺じゃなくて、アラン殿下を嵌めるための流れだ)
嫌な予感が明確な形となって浮き上がる。
陰謀とすら言えない稚拙な悪意だが、それに巻き込まれるのはシロウの仲間だ。
(……どうにかしないと)
焦りながら打開策を考えていたが、それをアランが潰してしまう。
「これは決定だ、タカミネ・シロウ。汝のように戦うことも出来ぬ地図屋如きを、魔王討伐の栄誉に加えることはできぬ。我がパーティより追放する!」
アランが言い切った、その時だった。
「寝言は寝て言いなさいよ」
昏睡の魔術を魔女であるレイラがアランに放ち、アランは崩れ落ちると眠ってしまう。
「よし」
「いやダメでしょ!」
レイラにツッコミを入れるシロウ。
「今話し合いをしてる最中だったんだから」
「……そんなこと言ったって」
レイラは拗ねたように言った。
「こいつ話し合う気なんてないし。そんなことするより、全部無かったことにしちゃった方が良いと思う」
「……レイラさん、それは」
「通らない話です」
断言するように、酒場のマスターであり冒険者ギルドの重鎮であるギィが言った。
「じゃあ、連いて来てくれますか」
土下座していたアッシュは顔を上げると、捨てられた子犬を思わせる縋るような視線で言った。
「見捨てないでください」
「何を言っているのだ! アッシュよ!」
シロウが応えるより早く、アランが余計なことを言う。
「戦えない役立たずに媚びるなど、それでも我がパーティの勇者か!」
「…………」
アランの言葉にアッシュは無言で真顔になると、どこからともなくペンと紙を取り出した。
「アッシュさん、なにを」
「辞表、辞表書きます」
「アッシュさん!?」
慌てて止めるシロウ。
「ちょ、思い留まって! 一度受けた依頼を勝手に辞めたらギルドからの罰則が!」
「シロウさん抜きで魔王迷宮に挑戦すること考えたら罰則受ける方がマシです」
「いやでも待ってください! まだ猶予はありますけどこのままだと敵性魔王が迷宮から孵化する可能性もありますし! そうなったらどれだけ危険か――」
「私も辞めます」
「キティさん!?」
パーティの回復役であるキティまで辞めると言い出し、シロウはさらに焦る。
「キティさん、貴女が居なくなったら命の危機に直結しちゃいます」
「それはシロウさんが居なくなっても同じじゃないですか」
半泣きになるキティ。
「ごはんもお風呂も、それに……トイレも無しとか死んじゃいますぅぅぅ」
「それは、皆さんもアイテムボックスありますからある程度はどうにか……トイレは、その、現地でその辺でどうにかするしかないですけども」
「やだぁぁぁぁぁ」
想像したのか、本気で泣き出すキティ。
まだ十五才の少女には色々とキツいようだ。
普段は聖女としての格を保とうとするあまり言葉遣いが高飛車な所があったりするが、完全に今は剝げ落ちている。そんなキティに、
「軟弱なことを言うな!」
アランが火に油をぶちまける勢いでのたまう。
「魔王討伐という偉業を前に何たる情けなさか! 王国の危機を未然に防ぐ栄誉を得る機会だというのに些末事にこだわるとは、恥を知れ!」
「……殿下、高き志しは感服いたします」
シロウは言葉を選びながらツッコミを入れる。
「尊き血の方々にとって、栄誉が何よりも価値があることだというのは、私のような俗物でも聞き及んでおります。されど我らの如き俗物は、それでは足らぬのです。尊き血よりも、俗な肉を必要とするのです」
慎重に、そして懸命にシロウはアランに呼び掛ける。
それは保身のためではなく、ひと時とはいえ仲間となった皆を護るためだった。
けれどアランは気付けない。
「はっ、正体を現しおったな」
アランは見下げ果てるような、あるいは拒絶するような表情の中に、一抹の苦悩を滲ませながら言った。
「自ら俗物などと言い切る浅ましさ、所詮は卑賤な輩よ。そのような者を魔王討伐の栄誉に加えることなど許されぬ。やはり汝を追放することは正しいのだな」
(……やはり?)
シロウはアランの言葉に違和感を覚える。
(やはりってことは、前々から考えていた? いや、そんなそぶりは無かった。とすると……誰かに吹き込まれた?)
シロウは十四才になったばかりの少年に、気付かれないよう視線を向けながら考える。
(拙い……これ俺じゃなくて、アラン殿下を嵌めるための流れだ)
嫌な予感が明確な形となって浮き上がる。
陰謀とすら言えない稚拙な悪意だが、それに巻き込まれるのはシロウの仲間だ。
(……どうにかしないと)
焦りながら打開策を考えていたが、それをアランが潰してしまう。
「これは決定だ、タカミネ・シロウ。汝のように戦うことも出来ぬ地図屋如きを、魔王討伐の栄誉に加えることはできぬ。我がパーティより追放する!」
アランが言い切った、その時だった。
「寝言は寝て言いなさいよ」
昏睡の魔術を魔女であるレイラがアランに放ち、アランは崩れ落ちると眠ってしまう。
「よし」
「いやダメでしょ!」
レイラにツッコミを入れるシロウ。
「今話し合いをしてる最中だったんだから」
「……そんなこと言ったって」
レイラは拗ねたように言った。
「こいつ話し合う気なんてないし。そんなことするより、全部無かったことにしちゃった方が良いと思う」
「……レイラさん、それは」
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断言するように、酒場のマスターであり冒険者ギルドの重鎮であるギィが言った。
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