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Ⅳ ライバルはお姫さま その④
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「魔霊……」
思わず俺が声を上げると、
「魔霊じゃなくて魔人なのよ、アタシは。見た目が猫だからって、バカにしないでちょうだい」
どこか得意げに、テトと呼ばれた喋る猫は返してきた。
艶のある黒一色の毛並が綺麗で触りたくなるけど、それを我慢して言葉を返す。
「それ、アーシェにも言われたけど、俺には何がどう違うのかが分かんないって」
テトの口調が気安かったのもあって、俺も気安い感じでテトに返す。
するとテトは、尻尾をくねくねさせながら、
「分からないって、アンタの家じゃそんな事も教えてないの?
ダメねぇ。なんなら、教えてあげても良いわよ」
すました感じにテトは言う。
小さな子が、更に小さな子に何かを教えてやろうとするみたいで、なんか微笑ましい。
苦笑しちゃいそうになるのを我慢して、俺は返した。
「うん。教えてくれよ、頼む」
「しょうがないわねぇ。そんなに頼むなら教えてあげるわよ」
鼻をぴくぴくと動かして、得意げにテトは教えてくれた。
「人間が魔法を使えるようにしてあげるのはどっちも同じだけど、魔霊は頭が悪いのよ。
アイツら、お頭は動物なんだから。本を読む事だってできないわ。
その点アタシ達みたいな魔人なら、難しい本だって読めちゃうんだから」
「へ~、すごいんだな、テトって」
「ふふん。分かればいいのよ分かれば」
得意満面に教えてくれるテト。
気のせいか、全身から「褒めろ!」という気配が出てる気がする。
(完全に子供だな、テトって)
なんか、かわいい。
そんな風に微笑ましい気持ちになっていると、
「テト、治癒魔法を使うから力を貸してくれる?
ソフィア様に、貴女のすごい所を見せてあげて」
サラが、小さな子供にお手伝いをさせるような声でテトを呼ぶ。
するとテトは、尻尾をぴんっと立てながら俺の足元までやって来る。そして、
「良いわよ、サラ。細かい調整は私がするから、貴女は魔法を使ってちょうだい」
テトは自分の肉球を、ぴとりと俺の痛めた足首に当てながら言った。
「ありがとう、テト」
サラは優しく笑いながらテトに返すと、
「ソフィア様、今から魔法を使います。
その時に痛めた場所が、少し熱く感じられるかもしれません。
でも、害はありませんから、心配されなくても大丈夫ですよ」
サラは俺を見上げ、安心させるような柔らかな笑顔で言ってくれた。
(……マズい……嫌われなきゃダメなのに……)
少なくとも俺は、サラのことを嫌いになれそうにない。
今だって、サラの申し出を断ることなんて出来なくて、受け入れちまう。
「気にしてくれてありがとな。俺なら大丈夫だから、頼むよ」
俺の言葉に、サラは小さく笑顔を浮かべて返してくれると、魔法で俺の痛みを消してくれた。
「苦痛よ彼方に消えよ」
呪文らしい言葉をサラが唱えると、テトの肉球が触れている場所からじんわりと熱が広がる。
熱い、というよりは温かい。その温かさが広がると、すっと痛みが消えていく。
(うわっ、なんだこれ、すごい)
痛みが消えてなくなるのは、あっという間だった。
代わりに、ポカポカした温かさだけが残ってる。
「すごい。すごいなこれ! サラもテトも、すごいんだな!」
痛みを消して貰えたのが嬉しくて、つい、俺は声を上げちまう。すると、
「よく分かってるじゃない、貴女。そうよ~、サラもアタシもすごいんだから。そう思うなら、もっと褒めちゃってもいいのよ」
テトは尻尾をくねくね動かしながら自慢げに返し、
「……その、そんなに大したことじゃ、ないですから……気にされなくても……」
サラは恥ずかしそうに顔を俯かせる。
2人とも、すっごくかわいい。
(……って、そんなこと思ってちゃダメなんだけどな、俺)
自分で自分に突っ込みを入れつつも、
(でも、ま、しょうがないか。サラのこと、嫌いになれそうにないし)
むしろ好きになったと断言してもいい。
そんな風に開き直っちまった俺は、俺の足元で跪いたままのサラに手を差し出し、
「ありがとう。もう痛くないから、これ以上はいいよ。
それより、そのままでいたらサラの膝の方が痛くなっちゃうだろ? だから」
サラが何か言うよりも早く、サラの手を取り引き寄せるようにして立ちあがらせる。
勢い良く引き寄せちゃったので、よろけそうになったサラを支えるようにして腰に腕を回して受け止める。
「え~と、汚れてる所は無いよな」
念のため、ドレスが床についてた部分を手ではたいてやると、
「ぁ……だ、大丈夫です。その、大丈夫ですから」
サラは顔を赤くしながら俺から離れた。
そんなサラを見て苦笑している俺に、呆れたような声を掛けてきたのはアーシェだった。
「子猫? アナタ、その子とウィルを取り合う仲だって分かってる? 口説いてる場合じゃないでしょ」
「しょうがないじゃん。だってサラかわいいもん」
開き直った俺は、思った事をそのまま口にする。
「嫌な奴ならともかく、サラは好い子じゃんか。嫌いになんかなれねぇよ」
「……まさか、好い子だからウィルを譲る、とは言わないでしょうね?」
「言わねぇよ、そんなこと」
キッパリと俺は言い切った。
「それはそれ、これはこれ。
ウィルを譲る気はないよ。
別に、俺がサラのこと嫌いにならないってだけで、嫌われずにいようなんて虫の良いことは考えてないさ」
俺は、サラに視線を合わせ提案する。
「とりあえず、座って話そうか。
長い話に、なるかもしれないからさ」
これにサラは、勢いを付けるような間を空けて返した。
「……はい。私も、ソフィア様と、話したい事はありますから」
俺とサラは、向かい合ってソファに座る。
座ると同時にお互いが相手を見つめ合い、何を言うべきか迷っていると、
「ウィリアム……さま……」
俺の隣に座ったウィルに、サラは僅かにふるえるような声を上げた。そして、
「ソフィア様を……妻にされるというのは、本当なのですか……?」
サラは苦しそうに、ウィルに問い掛けたんだ。
思わず俺が声を上げると、
「魔霊じゃなくて魔人なのよ、アタシは。見た目が猫だからって、バカにしないでちょうだい」
どこか得意げに、テトと呼ばれた喋る猫は返してきた。
艶のある黒一色の毛並が綺麗で触りたくなるけど、それを我慢して言葉を返す。
「それ、アーシェにも言われたけど、俺には何がどう違うのかが分かんないって」
テトの口調が気安かったのもあって、俺も気安い感じでテトに返す。
するとテトは、尻尾をくねくねさせながら、
「分からないって、アンタの家じゃそんな事も教えてないの?
ダメねぇ。なんなら、教えてあげても良いわよ」
すました感じにテトは言う。
小さな子が、更に小さな子に何かを教えてやろうとするみたいで、なんか微笑ましい。
苦笑しちゃいそうになるのを我慢して、俺は返した。
「うん。教えてくれよ、頼む」
「しょうがないわねぇ。そんなに頼むなら教えてあげるわよ」
鼻をぴくぴくと動かして、得意げにテトは教えてくれた。
「人間が魔法を使えるようにしてあげるのはどっちも同じだけど、魔霊は頭が悪いのよ。
アイツら、お頭は動物なんだから。本を読む事だってできないわ。
その点アタシ達みたいな魔人なら、難しい本だって読めちゃうんだから」
「へ~、すごいんだな、テトって」
「ふふん。分かればいいのよ分かれば」
得意満面に教えてくれるテト。
気のせいか、全身から「褒めろ!」という気配が出てる気がする。
(完全に子供だな、テトって)
なんか、かわいい。
そんな風に微笑ましい気持ちになっていると、
「テト、治癒魔法を使うから力を貸してくれる?
ソフィア様に、貴女のすごい所を見せてあげて」
サラが、小さな子供にお手伝いをさせるような声でテトを呼ぶ。
するとテトは、尻尾をぴんっと立てながら俺の足元までやって来る。そして、
「良いわよ、サラ。細かい調整は私がするから、貴女は魔法を使ってちょうだい」
テトは自分の肉球を、ぴとりと俺の痛めた足首に当てながら言った。
「ありがとう、テト」
サラは優しく笑いながらテトに返すと、
「ソフィア様、今から魔法を使います。
その時に痛めた場所が、少し熱く感じられるかもしれません。
でも、害はありませんから、心配されなくても大丈夫ですよ」
サラは俺を見上げ、安心させるような柔らかな笑顔で言ってくれた。
(……マズい……嫌われなきゃダメなのに……)
少なくとも俺は、サラのことを嫌いになれそうにない。
今だって、サラの申し出を断ることなんて出来なくて、受け入れちまう。
「気にしてくれてありがとな。俺なら大丈夫だから、頼むよ」
俺の言葉に、サラは小さく笑顔を浮かべて返してくれると、魔法で俺の痛みを消してくれた。
「苦痛よ彼方に消えよ」
呪文らしい言葉をサラが唱えると、テトの肉球が触れている場所からじんわりと熱が広がる。
熱い、というよりは温かい。その温かさが広がると、すっと痛みが消えていく。
(うわっ、なんだこれ、すごい)
痛みが消えてなくなるのは、あっという間だった。
代わりに、ポカポカした温かさだけが残ってる。
「すごい。すごいなこれ! サラもテトも、すごいんだな!」
痛みを消して貰えたのが嬉しくて、つい、俺は声を上げちまう。すると、
「よく分かってるじゃない、貴女。そうよ~、サラもアタシもすごいんだから。そう思うなら、もっと褒めちゃってもいいのよ」
テトは尻尾をくねくね動かしながら自慢げに返し、
「……その、そんなに大したことじゃ、ないですから……気にされなくても……」
サラは恥ずかしそうに顔を俯かせる。
2人とも、すっごくかわいい。
(……って、そんなこと思ってちゃダメなんだけどな、俺)
自分で自分に突っ込みを入れつつも、
(でも、ま、しょうがないか。サラのこと、嫌いになれそうにないし)
むしろ好きになったと断言してもいい。
そんな風に開き直っちまった俺は、俺の足元で跪いたままのサラに手を差し出し、
「ありがとう。もう痛くないから、これ以上はいいよ。
それより、そのままでいたらサラの膝の方が痛くなっちゃうだろ? だから」
サラが何か言うよりも早く、サラの手を取り引き寄せるようにして立ちあがらせる。
勢い良く引き寄せちゃったので、よろけそうになったサラを支えるようにして腰に腕を回して受け止める。
「え~と、汚れてる所は無いよな」
念のため、ドレスが床についてた部分を手ではたいてやると、
「ぁ……だ、大丈夫です。その、大丈夫ですから」
サラは顔を赤くしながら俺から離れた。
そんなサラを見て苦笑している俺に、呆れたような声を掛けてきたのはアーシェだった。
「子猫? アナタ、その子とウィルを取り合う仲だって分かってる? 口説いてる場合じゃないでしょ」
「しょうがないじゃん。だってサラかわいいもん」
開き直った俺は、思った事をそのまま口にする。
「嫌な奴ならともかく、サラは好い子じゃんか。嫌いになんかなれねぇよ」
「……まさか、好い子だからウィルを譲る、とは言わないでしょうね?」
「言わねぇよ、そんなこと」
キッパリと俺は言い切った。
「それはそれ、これはこれ。
ウィルを譲る気はないよ。
別に、俺がサラのこと嫌いにならないってだけで、嫌われずにいようなんて虫の良いことは考えてないさ」
俺は、サラに視線を合わせ提案する。
「とりあえず、座って話そうか。
長い話に、なるかもしれないからさ」
これにサラは、勢いを付けるような間を空けて返した。
「……はい。私も、ソフィア様と、話したい事はありますから」
俺とサラは、向かい合ってソファに座る。
座ると同時にお互いが相手を見つめ合い、何を言うべきか迷っていると、
「ウィリアム……さま……」
俺の隣に座ったウィルに、サラは僅かにふるえるような声を上げた。そして、
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