女盗賊してたらある日偽装結婚の片棒を担ぐことになりました

笹村

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Ⅳ ライバルはお姫さま その③

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(……王さまのしょしって……え? しょしって、よく分かんないけど、子供ってことだよな……って本物のお姫さまじゃんか!)

 思わず表情が引きつりそうになるほどの驚きを無理やり飲み込む。
 相手はもう臨戦態勢なのに、ここで弱気を少しでも見せる訳にはいかない。
 俺は、にっこりと笑いながらお姫さまなサラに返す。

「ありがとな、名前教えてくれて。俺は、ただのソフィアだよ。元婚約者さん」

 まずは軽い口撃で相手の出方を探ってみる。
 俺の露骨な挑発に、サラは黙って俺を見詰め続けていた。

(あ、これ……逆にこっちのこと探ってるな……)

 返事は何もなく黙ったままのサラに、俺はにっこりと笑ったまま無言で応える。
 しんっ、と重苦しい沈黙が続く。
 俺とサラは見詰めあったまま、言葉もなくお互いを牽制し合ってた。

(……完全に修羅場だよな、これ。傍から見たら)

 俺は視線は外さないまま、ぽつりと思う。

 今まで、盗んだ物を売り払う盗賊市とかで出来た縁で繋がってる、他の盗賊団や商会の連中と関わる中で、何度かこういう男女の修羅場は見た事はあったけど、まさか自分がその当事者になるとは思わなかった。

 大抵そういう時は、叩いたり殴ったり罵り合ったりしてたけど、一番怖かったのは、むしろ無言のまま睨み合ってるのを見た時だ。

(傍で見てるだけで、胃が痛くなるような感じだったんだよな、アレ……)

 だから多分、俺とサラだけでなく、アーシェやジュリアもキツイんだろうなぁ、と思ってた時だった。

「……2人とも、まずは座らないか?」

 よりにもよってウィルのヤツが、横から口を挟みやがった。

(こいつヘタレやがったなーっ!)

 お前が原因でこうなってんだからなーっ!

 思わず口に出かかった言葉を俺は飲み込む。
 その時、ウィルに顔を向ける途中でアーシェの表情かおが見えたけど、すっげーイイ笑顔をしてた。
 完全に楽しんでやがる。

(本気でイイ性格してやがんなアーシェのヤツ)

 ひきつりそうになった表情かおを無理やり笑顔で押さえ、俺はアーシェに突っ込みたい気持ちを抑える。

 そんな状態なのに、ウィルは更に声を掛けてきた。

「ひとまず座ろう、ソフィア」

 俺は反射的に、その言葉に言いかえしそうになる。けど、ギリギリで止まっちまう。
 だって、本気で俺のことを心配してるウィルの表情かおを見詰まったからだ。
 どこか泣き出しそうなぐらい苦しそうな表情かおで、俺を見詰めてる。そして、

「足、痛いでしょ? 昨日痛めたばかりなんだから、無理しちゃダメだよ」

 自分を取り合いう修羅場の真っ最中だってのに、そんな事なんかお構いなしに、気遣う言葉をかけて来た。

 ものすごく、気まずい気分になる。
 自分一人だけが盛り上がって大騒ぎをしちゃってた、そんな気持ちになっちまう。

(今はそれどころじゃないだろ。こっちのことなんか、いちいち気にしなくても良いっての)

 本当にお人好しだ、ウィルのヤツ。お互いが自分の都合で相手を利用し合うだけなんだから、俺のことなんか気にする必要なんかないのに。

(優しくしようとすんなよ……ばか)

 言葉には出来ず俺が黙っていると、そこに声を掛けてきたのはサラだった。

「……怪我を、されているのですか?」

 それはウィルと同じ、俺のことを心配する声だった。
 憎ったらしい筈の泥棒猫に、向けるような声じゃない。

(……お人好しだらけだな、ここ……) 

 敵意や嫌悪なら幾らでも言葉を返せる自信があるのに、こんなのに返せる言葉は浮かばない。
 何を言えば良いのか、分からないでいた俺の傍に、サラは静かに近づく。
 そして触れ合えるぐらい傍に近付くと、腰を落として俺の痛めた足首に視線を向けた。

「ちょ、なにしてんだよっ。せっかく綺麗な服着てるのに、汚れちまうぞ」

 酷く居たたまれない。止めようと俺は声を上げたけど、

「かまいません。気にしないで下さい。私は、したい事をしているだけですから」

 サラは迷いなく返して来ると続けて、

「痛めたのは、右足ですね? ごめんなさい、少し触ります」

 そう言うと、ほっそりとした指で痛めた俺の足首を確かめる。

「……大分、脹れています。熱もありますし、相当痛いんじゃありませんか?」
「大丈夫だよ」

 反射的に俺は返すけど、

「嘘です、そんなの。無理しちゃダメです」

 年下のサラにたしなめられる。
 ちょっとだけ怒った表情かおで、でもそれよりもずっと大きく心配を滲ませて俺を見詰めるサラに、返す言葉が浮かばない。
 するとサラは、力を抜くようにして小さく笑う。

「……おかしな表情かお、してた?」

 きまり悪げに俺が言うと、

「はい……困った表情かおを、されていました」

 見ていて心が落ち着くような、そんな優しい笑顔をサラは浮かべてくれた。そして、その笑顔を残したまま、俺に提案してくれる。

「怪我、完全には無理ですけれど、魔法を使えば癒せると思います。だから、魔法を使っても良いですか?」
「魔法って、使えるのか?」
「はい。テト、出て来てくれる?」

 サラが、自分の近くの何も無い場所に向かって呼び掛けると、滲み出るようにして一匹の子猫が現れた。
 それだけでもオカシなことだってのに、

「どうしたの、サラ。なんの用なの?」

 若い女の声で、その子猫は喋りやがった。
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