女盗賊してたらある日偽装結婚の片棒を担ぐことになりました

笹村

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Ⅳ ライバルはお姫さま その②

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 綺麗な子だった。

 一目見ただけで、心が奪われる。
 それぐらい綺麗で、かわいい子。

 部屋に入って何よりも目を惹かれたのは、そんな子だった。

 年の頃は俺よりも少しだけ下に見える。15、6歳ってところだ。
 やさしい月の光みたいな色をした髪は、絹糸よりも柔らかそうな質感をしてる。
 手入れも良いんだろう。背中に届くほどの長さのそれは、さらさらしてた。

 透き通るような白い肌は滑らかで、ほんのり健康そうな朱を帯びている。
 そして瞳の色は、澄み渡る空のような青。少しだけ、ウィルに似てる気がした。

 見た目だけでも美人だと、そう思う。
 でもそれ以上に綺麗だと思ったのは、見に纏っている雰囲気くうきだった。

 ただ静かに、ソファに座ってる。それだけなのに、目を惹かれてまう。
 凜としているのにかわいくて、近付きたくなるほど心惹かれるのに、触れるのをためらうような清んだ気配。
 やわらかな明るい色合いのドレスを着こなしている、その子を見た瞬間、

御伽噺デモンズテールに出て来る、お姫さまみたい……)

 自然と、俺は思った。
 隠さず正直に言えば、俺はその子に見とれていたんだ。

 だから勢い良く部屋に入ってきた俺は、一瞬言葉を無くしちまった。
 部屋に入ったら、ウィルのヤツに文句の一つも言ってやる。
 そう思っていたのに、何も言えないでいた。

(マズい……)

 正直、焦りまくる。
 なんとか表情かおには出さないでいるけれど、焦り過ぎて何をするべきかが空回りしまくる。

 それを止めてくれたのは、ウィルの声だった。

「ソフィア!」

 胸の奥に響くような良く通る声。
 それはほんの少しだけ、震えてるような気がした。

(心配して、くれてるのかな……?)

 意識するよりも早く、俺はウィルの声を聞いて想ってしまう。
 だって、俺の名前を呼んでくれたウィルの声は、俺だけに向けられたように感じられたからだ。

 思わず苦笑する。
 ウィルが必死になってくれてるのが声だけで分かってしまい、なんだかくすぐったい気持ちになる。

 それが俺に余裕をくれた。
 焦りが消え失せ、落ち着きを取り戻した心で、俺は周囲の状況を確認した。

 俺が入った部屋には、俺を含めて5人が居た。

 2人はウィルとアーシェ。
 ウィルは質の良いソファに座りアーシェはその後ろで控えるように立っている。

 それに向かい合うようにして残りの2人が居る。

 1人は、俺が見とれちまったお姫さまみたいな女の子。
 ウィルと向き合うようにしてソファに座ってる。
 俺が部屋に入ってすぐは、驚いたように俺を見てたけど、今はどこか呆然とした様子でウィルを見詰めてた。

 そんなお姫さまみたいな女の子の背後には、メイド服を着たヤツが立っている。
 年は俺と同じくらいだろう。本当はもっとずっとかわいい筈なのに、無理矢理に作ったような厳しい表情で台無しになってる。
 亜麻色の髪を結い上げ纏め、夕焼けみたいな茜色の瞳で俺を睨んでた。

(……って、これはひょっとしなくても、ムカつかれてる?)

 突然どこの誰とも分からない俺が部屋に入って来たんだから、驚いたりするのは当然だと思うけど、ここまで剥き出しの敵意を向けられるのは、ちょっと理由が分からない。

 でも、そんなに嫌な気持ちは湧かない。
 だって、俺のことを憎んでるんじゃなくて、自分じゃない誰かのために怒ってるような感じがしたからだ。

 そう思ったのは、俺も同じような怒り方をした事があるから。
 仲間や子供達のことを他の盗賊団に馬鹿にされた時、同じように怒った事があったから。
 だから、つい、俺は苦笑しちまう。

「なにが可笑しいのですか」
「かわいいから」

 ……ヤバい。反射的に返しちまった。
 そのせいで、俺を睨みつける眼差しは余計に強くなる。

(さて、どうすっかな……?)

 そのつもりは無くても挑発しちまったみたいな状況に、何をするべきか悩んでいると、

「ジュリア、止めて。失礼ですよ」

 お姫さまみたいな子が、俺をにらみ付けてたジュリアって子の名前を呼んで間に入ってくれた。だから、

「ありがとな。あと、ごめん。別に馬鹿にした訳じゃないんだ」

 俺は2人に謝る。そして続けて、

「仲が好いなぁって思って、見てて気分が良くなっただけなんだ。
 その子のこと、大事に想ってんだろ?」

 俺はジュリアに呼び掛けた。

 すると、お姫さまみたいな子は不思議そうな眼差しで俺を見詰め、ジュリアは余計に表情かおを強張らせる。
 その表情かおのまま、ジュリアは硬い声でウィルに問い掛けた。

「ウィリアム様。こちらの方はどなたなのですか?」
「ソフィア。ウィルの妻になる子よ」

 返したのはウィルじゃなく、アーシェだった。

 その途端、場の雰囲気くうきがギシリと軋む。

 ジュリアには完全に敵意を向けられて、お姫さまみたいな子には、それまでとは違うハッキリとした意志を感じさせる瞳で見つめられる。

 それに、俺は逃げずに返す。
 真正面から受け止めたくて、お姫さまみたいな子に真っ直ぐ視線を合わせる。

(……この子、本気なんだ)

 視線を合わせても目をそらさず、逆に見つめ返して来る。
 きっとこの子が、ウィルの婚約者だ。
 詳しいことを聞いてなかったから、どんな嫌な奴なのかと思ってたけど、全然違う。

(好きだな、こういう子)

 自然と、そう思う。
 こんな風に真っ直ぐ自分をぶつけてくる子は嫌いじゃない。でも――

(ちゃんと、嫌われないとな)

 俺は決意する。
 この子にとって俺は、自分の欲しい相手を横からかっさらう泥棒猫だ。
 そうでなくちゃいけない。
 だからこの子にとって俺は悪者だ。
 なら悪役は悪役らしく、自分の役をこなさないと。

「アンタがウィルの言ってた、何度も断ってるのにしつこく言い寄ってくる女なんだろ?」
「なっ……なんて口のきき方ですか貴女はっ!」

 俺の言葉に激昂したジュリアは声を上げる。でも、

「ジュリア、黙って」

 俺から視線を外さないまま、お姫さまみたいな子が止める。
 それに一瞬、泣き出しそうな表情になったジュリアに、

「ごめんなさい、ジュリア。でも、私は大丈夫だから。
 ちゃんと、私に言わせて」

 お姫さまみたいな子は、苦しそうな、そして親しいからこそ言える、甘えるような声で返す。
 そして座っていたソファから、すっと立ち上がり、俺と視線を合わせたまま自分の名を告げた。

「初めまして、ソフィア様。私はアダム王が第3庶子、サラ・ゾーイ・ソロモンと申します」

 そして勢いを乗せるような間を空けて言い切った。

「ウィリアムさまの婚約者です」
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