女盗賊してたらある日偽装結婚の片棒を担ぐことになりました

笹村

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Ⅴ ウィルの覚悟、ソフィアの決意 その②

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 ウィルの言葉に、すっと俺の心は落ち着きを取り戻す。

 何がどうなってるのか、分からないのは変わらない。
 けど、ウィルは覚悟をしてるって言ったんだ。

 俺が勝手な事をしたっていうのに、それも全部飲み込んで、受け入れるように言ったんだ。
 それはウィルが俺を、信じてくれたように俺には思えた。

 だから、あとは俺がウィルを信じてやれるかどうかだけ。
 そんなもの、この部屋に来る前に決めている。

(ウィルが腹をくくるってのなら、俺も腹をくくらないとな)

 俺は改めて決意する。
 どれだけ分からない事があっても、ウィルを信じようって。
 それがきっと、俺を助けてくれたウィルに恩を返す一番の近道だと思う。
 仲間達の元に帰るためにも、そうしようって、俺は決めたんだ。

 決めてしまえば、少しだけど周囲の状況に気付く余裕が出来る。
 だから、俺は気付いた。
 サラがウィルじゃなく、俺を見詰めていた事に。

 ウィルに問い掛けた筈なのに、なぜだかサラは俺を見ていた。
 傷付いたかのような表情かおで、俺に何かを言いたげに口を震わせる。
 でも、サラは何も俺には言わなかった。代わりに、ウィルに言葉を重ねる。

「ソフィア様は、どちらの家の方なのですか?」

 その声は、小さく震えてた。
 どこか後ろめたそうな響きを滲ませて。
 無理やり絞り出すような苦しそうな表情で、サラは続けて言った。

「アダム王と、王党派の方々の意向をかわせるだけの家でなければ、ソフィア様にも害が及ぶかもしれません。
 それを分かっておられるのですか? ウィリアムさま」

 必死に言葉を口にするサラを見て、俺は思う。

(根本的に、悪人に向いてないな、サラって)

 きっと今サラは、俺の足を引っ張ろうとしてるんだと思う。
 それなら俺自身をなじればいいのに、そんなことはしない。
 むしろどこか俺にまで気を遣ってる感じがする。
 なのに、サラの表情かおには罪悪感が滲んでた。

(たぶん、俺自身じゃなくて、家とかそういう外堀に難癖つけるのが卑怯だとか思ってんだろうなぁ……かと言って俺の悪口を直接言うのは無理、というか、悪く思えるのかな? サラって……)

 なんと言うか、良い子過ぎて見てるこっちが不安になる。
 そんなサラに、ウィルは容赦なく返した。

「家は関係ない、サラ」

 びくりっと、ウィルに返されたサラは身体を震わせる。
 大人に怒られた小さな子供みたいだ。

 そんなサラを見て、ウィルは一瞬だけ苦しそうな表情かおになる。
 けどすぐに、無理やり硬い表情かおに戻し続けて言った。

「そもそもソフィアは壁内の生まれじゃない。壁の外の生まれなんだ」

 ウィルの言葉に、サラは息を飲むように黙ってしまう。
 何かを言おうとして、それでも何も言えないでいた。

 でもサラは、そこで諦めなかった。
 手を強く握りながら、絞り出すように言ったんだ。

「王党派に取り込まれないために、ソフィア様を……壁の外の方を、選ばれたのですか……だから、私では駄目なのですか……」

 サラの縋るような呼び掛けに、ウィルは拒絶で返した。

「そうだ。
 元よりサラと私の婚姻は、私の家を王党派に組み込むための画策の一つだ。
 そうだと分かっていて、受け入れることは絶対に出来ない」

 ウィルの拒絶に、サラは言葉もなく苦しむ。
 血の気を感じさせないほど顔は白くなって、身動き一つ出来ず固まってた。

(なんだよ、これ……)

 酷く、腹が立つ。
 サラが悲しんでるのが腹が立つ。サラが苦しんでるのにイライラする。そして、

(なに言ってんだよウィル)

 そうさせたウィルが一番許せない。
 いや、許すべきじゃない。

 だって、ウィルも苦しんでるんだ。
 苦しいのを無理やり飲み込んで、造り物の表情かおで隠してる。
 こんなの許すべきじゃないし、何より俺が許さない。

「ウィル」

 俺に呼び掛けられて、顔を向けたウィルの頬を、俺は摘まむ。

「ソ、そふひぁっ?」

 摘まんだまま引っ張ってやる。
 訳が分からなくなってるのか、それまでの造り物の表情かおが吹っ飛んじまったウィルに俺は言ってやる。

「違うだろっ、ウィル! 今はウィルと俺と、サラの話をしてんじゃないか!
 なのに、なに家だのなんだの小難しいこと言ってごまかしてんだよ!
 ちゃんと目の前に居るサラと俺のことを見ろ!
 今は誰が誰を好きかって話をしてるんだからな!」

 言うべきことを言い切って、俺はサラに身体を向ける。
 驚くのを通り越し、呆然とした表情かおのサラに俺は言ったんだ。

「サラ、喧嘩をしよう。どっちがウィルを取るかの喧嘩をさ」
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