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Ⅴ ウィルの覚悟、ソフィアの決意 その③
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俺の言葉に、サラはすぐには返せなかった。
惚けたように、自分を見詰める俺をじっと見ている。
だから最初に口を開いたのは、サラではなく後ろに控えていたジュリアだった。
「何を仰られてるのですか! 姫さまに害を加えるおつもりなら、私が相手になります!」
「過保護だな、アンタ」
静かに、俺はジュリアに返す。
「ダメだよ、それじゃ。それじゃ、サラが自分の言葉で話せない。
俺はサラと話したいんだ。アンタじゃない」
俺の言葉に、ジュリアは黙ってしまう。
別にそれは、俺の言葉が響いた訳じゃない。
ただ、ジュリアがサラのことを強く想っているからこそ、いま自分が出しゃばるべきじゃないって、思っただけなんだろう。
そう思えるぐらい、ジュリアがサラのことを大切に想ってるのは、見ているだけでも伝わってくる。
でもそれと同じくらい、心配で不安が一杯になってるのも見ていて分かる。
だから俺は安心して貰えるよう、やわらかな声で続けて言った。
「大丈夫。別に、手を出してどうこうするつもりじゃないんだ。
腹の中に溜まってるもん、出し合おうってだけだよ」
俺の言葉にサラは、俺の意図を理解しようとするように真っ直ぐに見つめてくる。
だから俺は視線を合わせて、言ったんだ。
「サラ。サラはウィルのこと、好き?」
「…………」
俺の言葉に、サラは何かを返そうとして、けれど押し留めるように黙ってしまう。それが、俺は何だかすごく嫌だった。
腹の奥にずっと溜め込んで、吐き出すことが出来ないでいる。
(……それとも、誰にも許して貰えなかったのかな……)
自分の気持ちを、自分で吐き出せる奴だっているだろう。
でも、ずっと誰かに抑え続けられて、押し殺し続けるヤツだっている筈だ。
そんなヤツは、誰かに許して貰えるまでずっと、そのまんまで居続けちまう。
そういうものだって、俺は知っている。
昔の俺も、そうだったから。
だから、俺は先に想いを語る。
サラが自分の想いを口にして良いって、自分で自分を許せるくらい、俺は自分の想いを口にする。
どうしようもなく嘘で固められた造り物の想いを、本気で口にする。
「俺は、ウィルのことが好きだよ」
言葉だけでなく、身体も使い、サラに見せつける。
「……っ」
ウィルの手を取る。掌を重ね、指と指を絡めるように繋ぐ。
身体を硬くしたウィルの気持ちなんかお構いなしに、俺は身体を預けるように、しなだれかかる。
そして腕も絡め、胸が歪むぐらい強く抱き着いた。
「ウィルが欲しいんだ、俺。だから幾らでも好きだって言うし、ウィルになら、何をされたって構わない」
俺はサラを見詰めながら、促すように、呼び掛けるように言ったんだ。
「サラも、そうなんだろ?」
サラは唇を震わせて、何も言えないでいた。
でもどうしようもない激情に、そのままで居続ける事なんて出来ない。
精一杯苦しみながら、自分の想いを吐き出そうとしていた。
だから、俺は待ち続ける。そうするべきだと、俺は思った。
そうして俺は待ち続け、やがてサラは想いを口にしてくれた。
「わ……わた……私、だって……」
懸命に振り絞るように、積み重なった想いを吐き出していく。
必死に涙をこらえながら、サラは自分の気持ちを口にしてくれたんだ。
「私だって! 私だって愛しています! 貴女なんかよりずっとずっと前から! 好きで……ずっとずっと好きなんです!」
訴えかけるように、切なげに声を上げサラは続ける。
「愛してるんです、ウィリアムさま……貴方に優しくして貰えて、褒めて貰えて……私が、私のままで良いんだって言って貰えて……好きで……好きなんです……ウィリアムさま……」
苦しむほどに真剣に、身を切るような想いを込めて、サラは俺に感情をぶつけてくれる。
「ズルい……ズルいです……なんで、なんで貴女なんです……私の方がずっとずっと前からウィリアムさまのことを愛していたのに……なんで……」
振り絞られたサラの言葉。
その想いがどれだけ重いのか、ウィルとサラの過去を知らない俺には分からない。
けれどそれでも、受け止めなきゃいけないって、俺は想った。
だから本気で、サラに止めを刺すように、俺は言った。
「ウィルが、俺を選んでくれたからだよ」
そして俺は、ウィルに呼び掛ける。
「そうだろ、ウィル」
それは賭けだった。サラに諦めさせるため、ウィルを信じて託す。
嘘で固められた、けれど本気の言葉をウィルが口にしてくれることを信じて、俺は待ち続けた。そして、
「愛している、ソフィアを」
ウィルは覚悟を込め言った。
「サラ。お前よりも、愛しているんだ」
惚けたように、自分を見詰める俺をじっと見ている。
だから最初に口を開いたのは、サラではなく後ろに控えていたジュリアだった。
「何を仰られてるのですか! 姫さまに害を加えるおつもりなら、私が相手になります!」
「過保護だな、アンタ」
静かに、俺はジュリアに返す。
「ダメだよ、それじゃ。それじゃ、サラが自分の言葉で話せない。
俺はサラと話したいんだ。アンタじゃない」
俺の言葉に、ジュリアは黙ってしまう。
別にそれは、俺の言葉が響いた訳じゃない。
ただ、ジュリアがサラのことを強く想っているからこそ、いま自分が出しゃばるべきじゃないって、思っただけなんだろう。
そう思えるぐらい、ジュリアがサラのことを大切に想ってるのは、見ているだけでも伝わってくる。
でもそれと同じくらい、心配で不安が一杯になってるのも見ていて分かる。
だから俺は安心して貰えるよう、やわらかな声で続けて言った。
「大丈夫。別に、手を出してどうこうするつもりじゃないんだ。
腹の中に溜まってるもん、出し合おうってだけだよ」
俺の言葉にサラは、俺の意図を理解しようとするように真っ直ぐに見つめてくる。
だから俺は視線を合わせて、言ったんだ。
「サラ。サラはウィルのこと、好き?」
「…………」
俺の言葉に、サラは何かを返そうとして、けれど押し留めるように黙ってしまう。それが、俺は何だかすごく嫌だった。
腹の奥にずっと溜め込んで、吐き出すことが出来ないでいる。
(……それとも、誰にも許して貰えなかったのかな……)
自分の気持ちを、自分で吐き出せる奴だっているだろう。
でも、ずっと誰かに抑え続けられて、押し殺し続けるヤツだっている筈だ。
そんなヤツは、誰かに許して貰えるまでずっと、そのまんまで居続けちまう。
そういうものだって、俺は知っている。
昔の俺も、そうだったから。
だから、俺は先に想いを語る。
サラが自分の想いを口にして良いって、自分で自分を許せるくらい、俺は自分の想いを口にする。
どうしようもなく嘘で固められた造り物の想いを、本気で口にする。
「俺は、ウィルのことが好きだよ」
言葉だけでなく、身体も使い、サラに見せつける。
「……っ」
ウィルの手を取る。掌を重ね、指と指を絡めるように繋ぐ。
身体を硬くしたウィルの気持ちなんかお構いなしに、俺は身体を預けるように、しなだれかかる。
そして腕も絡め、胸が歪むぐらい強く抱き着いた。
「ウィルが欲しいんだ、俺。だから幾らでも好きだって言うし、ウィルになら、何をされたって構わない」
俺はサラを見詰めながら、促すように、呼び掛けるように言ったんだ。
「サラも、そうなんだろ?」
サラは唇を震わせて、何も言えないでいた。
でもどうしようもない激情に、そのままで居続ける事なんて出来ない。
精一杯苦しみながら、自分の想いを吐き出そうとしていた。
だから、俺は待ち続ける。そうするべきだと、俺は思った。
そうして俺は待ち続け、やがてサラは想いを口にしてくれた。
「わ……わた……私、だって……」
懸命に振り絞るように、積み重なった想いを吐き出していく。
必死に涙をこらえながら、サラは自分の気持ちを口にしてくれたんだ。
「私だって! 私だって愛しています! 貴女なんかよりずっとずっと前から! 好きで……ずっとずっと好きなんです!」
訴えかけるように、切なげに声を上げサラは続ける。
「愛してるんです、ウィリアムさま……貴方に優しくして貰えて、褒めて貰えて……私が、私のままで良いんだって言って貰えて……好きで……好きなんです……ウィリアムさま……」
苦しむほどに真剣に、身を切るような想いを込めて、サラは俺に感情をぶつけてくれる。
「ズルい……ズルいです……なんで、なんで貴女なんです……私の方がずっとずっと前からウィリアムさまのことを愛していたのに……なんで……」
振り絞られたサラの言葉。
その想いがどれだけ重いのか、ウィルとサラの過去を知らない俺には分からない。
けれどそれでも、受け止めなきゃいけないって、俺は想った。
だから本気で、サラに止めを刺すように、俺は言った。
「ウィルが、俺を選んでくれたからだよ」
そして俺は、ウィルに呼び掛ける。
「そうだろ、ウィル」
それは賭けだった。サラに諦めさせるため、ウィルを信じて託す。
嘘で固められた、けれど本気の言葉をウィルが口にしてくれることを信じて、俺は待ち続けた。そして、
「愛している、ソフィアを」
ウィルは覚悟を込め言った。
「サラ。お前よりも、愛しているんだ」
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