異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

文字の大きさ
28 / 28
第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負

5 クラーケンをハントして食べよう その①

しおりを挟む
「やっぱ、デケェな」

 100メート以上離れた先に居るクラーケンを見て、五郎は船の上から思わず声を上げた。

 水面から出ているのは、高さにして数メートルといった所だが、それでも視界を遮るほどに大きい。
 元居た世界の、最大級のタンカーなどに比べれば、長さはそれほどでもないが、ぐるっと円状に広がっているのが圧巻だ。
 見ているだけで、その巨大な質量が圧し掛かってくるような圧迫感さえある。

 それを見ながら、五郎は呟いた。

「やっぱ天ぷらか」
「余裕あんな、にぃさんよ」

 アシュラッドが、呆れたようにツッコミを入れる。

「ん? さっぱりした料理の方が良いか?」
「料理の話してねぇから。それより、あのデカ物どうするか、そっちの方が先だぜ」
「近付いてガーッてやってズバッと斬って、持って帰りゃ良いんじゃねぇか?」
「どんだけ雑な作戦だよ。あんたよく、それで魔王倒したな」
「そういう作戦は陽色たち、あー、要はうちのリーダーとか参謀だな。そっちに任せてたからな」
「苦労したのが目に浮かぶぜ。ったく、どうやって狩りとるかな……?」

 アシュラッドは、使える戦力を口にしながら考える。

「こっちが使えるのは、にぃさんらと俺たち。船にゃ、魚用の網と大物用の銛があるけどよ、こんなんじゃどうにもなんねぇな」
「おっ、銛はあんだな」

 五郎は、能天気なお気軽な声で、アシュラッドが示した銛を手に取る。
 巨大海獣用の金属製の銛は、大人でも1人で持つのは無理がある大きさと重さだ。

 返しの付いたそれは、獲物に突き刺さると抜けないようになっている。
 縄を通す穴も付けられ、それにより、突き刺した獲物を引っ張っていくことが出来る。
 射出は、巨大な機械式の固定弓が使われていた。

「持って帰るのは、これを使えば良いんじゃねぇか?」
「あのデカ物を、仕留められたらな」

 渋い表情で、アシュラッドは五郎に返す。

「どうやって仕留めるんだ? 単純に殺すだけなら、俺たちでも遠距離の攻撃魔術を使えるのが居るからな。炭にして良いってんなら、射程距離ギリギリの200m離れた場所から、延々と撃ち続けるが。でも、食うために仕留めるんだよな? それだと拙いだろ?」
「ああ。料理する前から焦げてちゃ、切ねぇからな。だから、直接切り取りに行くよ」
「……は? ちょっと待て。切り取るって、あのデカ物をか?」
「おう。さすがに全部は、食べ切れそうにないからな。余計な部分まで持って帰ったら、逆に勿体ないだろ」
「いや、気にするところ、そこじゃねぇだろ。どうやって切り取るのかの方が、大変だろうよ」
「そっか? 海に跳び込んで、泳いで近付いてぶった切るつもりなんだが」
「……正気か?」

 胡散臭い物を見る眼差しで、アシュラッドは言った。

「あんなの相手に、泳いでどうにかしようってのは、控えめに言っても自殺行為だぞ」
「大丈夫だって。力場系の魔術防御があるから。あれ、使い手の身体の周りを覆うように発生させられるからな。あれを球状に展開して、その中に入って海の上をぷかぷか浮く感じで近付いて斬るから」
「……いい的だと思うんだが、それだと。動きが遅いから、向こうの狙いたい放題だろ」
「そこはまぁ、気付かれないように近付いて、ザックリ切り取ってすぐに逃げりゃ良いんじゃねぇか? 魔術防御使ってたら、少々打撃受けても平気だし」
「あの大きさの時点で、少々じゃないと思うがな……」

 頭痛を堪えるように、能天気な五郎にアシュラッドはため息をつく。
 そこに、助け舟を出す形で声を上げたのは、レティシアだった。

「ねぇねぇ。海の上で、機敏に動けないのが問題なんでしょ? だったら、どうにか出来るよ」
「マジか?!」

 聞き返してきたアシュラッドに、レティシアは返す。

「水上歩行の魔術を掛けたら、たぶん大丈夫だと思う」
「それ、アンタが掛けられんのか? 生憎と、俺は聞いた事も無いんで、説明してくれるか?」

 アシュラッドの問い掛けに、レティシアは応える。

「大元は、水を弾く魔術なの。この魔術だと、弾く水の量が多ければ多いほど、反発力が大きくなるから。小さな水たまりだと、水を弾くだけで沈んじゃうんだけど。海ぐらい水のある所なら、陸上と大差ないぐらいに動けると思う」
「思うって、試した事はないのか?」
「前に湖で試した時は成功したから、海なら余計に大丈夫。ただ、効果時間は30分が限度だから、そこは気を付けて貰わないとダメだけど」
「時間制限有りの水上歩行か……確かにそれなら、いけるか?」

 安全性と確実性を考えるアシュラッド。そんな彼とは対称的に、五郎は気楽な声で言った。

「じゃ、ひとっ走り行って、切り取って来るよ。悪ぃけど、水上歩行っての、掛けてくれるか?」
「……おいおい、にぃさんよ。独りで突っ込む気かよ。それじゃ、こっちの立つ瀬がねぇってもんだぜ。雇われてんだ、危ないことは俺たちがするよ」
「おう、あんがとな。でもさ、あんたらにゃ、この船の操縦を任せてるし、切り取った後のアレを持って帰るのに、苦労して貰わなきゃなんねぇんだ。それ以外のことは、俺たちでやるさ」
「そうっすよ。それに、どっちかというと、船の上で待機して貰った方が助かるっすよ」

 五郎の言葉を引き継ぐようにして、有希は言った。

「遠距離攻撃が出来るんっすよね? だったら、オレっち達が切り取りに行ってる間に、なにかあったら援護射撃して欲しいんすよ。その方が、安心っすから」
「俺たちって、あんたも行く気か?」
「もちろんっすよ。1人より2人の方が、作業ははかどるっすよ」
「だったら、私も行きます」

 意気込むような声で、カリーナは言う。

「船の上で待ってるだけなんて、嫌です。私は魔術師でもありますから、このくらいのことならへっちゃらです」
「おおっ、それは頼もしいですな。ならば、折角ですから我輩もお供しましょう」
「そうだな。盾になっとけアルベルト」
「我輩には辛辣ですな。アシュラッド」
「テメーは、これぐらいで死にゃしねぇだろ。生き汚なさは、超一流だし」
「嫌な信頼のされ方ですぞ」
「うっせー。信頼されてるだけマシだと思っとけ……さて、それなら4人でクラーケンを切り取りに行って来るってことか。ま、なんかあったら、こっちで援護するけどな。それでも、気を付けろよ」
「おう。いざって時は、頼りにしてるぜ」

 にっと笑いながら、五郎はアシュラッドに返した。

 そうして、レティシアに水上歩行の魔術を掛けられた4人は、クラーケン料理を目指して、船の上から海へと降りた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...