異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

文字の大きさ
27 / 28
第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負

4 食材を買い付けに行ったら因縁を付けられました。なので自力でどうにかします その④

しおりを挟む
「クラーケンって、マジか?」

 アシュラッドは眉をひそめて返す。
 海の魔獣の1つであるクラーケンは、浮き島とも呼ばれる。
 その異名の通り、移動する島と言えるほどの巨体を海面に浮かせ、海中にはその更に倍以上の巨体があるという。
 普段は水中に沈んでいるが、時折浮き上がり、船の航路の邪魔になるのだ。
 しかも近づく者があれば、海中から伸ばす巨大な触腕で、大型の帆船すら沈めるという。

「ついさっき、出たらしくてな。大きさはそれほどじゃなくて、100メートルあるかないかぐらいなんだが」
「いや十分デカいだろ、それ」
「クラーケンとしちゃ、小物なんだと。とにかくそれが出たから、海に出るのを断られてな」
「そいつは、運が無かったな」
「なんでだ?」

 心底不思議そうに言う五郎に、アシュラッドが訊き返すより早く、アルベルトとカリーナが続けて言った。

「運が無いとはとんでもない。むしろ逆ですな。噂に聞くクラーケン、この機会を逃すべきではないのですぞ」
「そうですよ。食べたことが無いから、どんな味なのか気になります」
「……マジか、お前ら」

 呆れたように返したアシュラッドは、あることに気付き続けて言った。

「待て。ひょっとして、漁師が嫌がってるのって、クラーケンを獲りに行こうとしてるからじゃねぇだろうな?」
「ああ、そうだけど」

 平然と返す五郎に、同じく平然としているアルベルトにカリーナ。
 傍にいる有希やレティシアも、苦笑するような表情はしているが、拒絶するような気配は無い。

「よくやるよ、お前ら」

 アシュラッドは呆れたように言うと、続けて問い掛ける。

「で、どうするんだ? さすがに諦めるだろ?」
「いや、こんな絶好の機会、滅多にないからな。物にしねぇと。だから頼むよ、な? 船、出してくれよ」
「……勘弁してくれねぇか。そんな恐ろしい真似出来ねぇよ」

 漁師は乗り気なさげに返す。

「うちの船よりでっけぇのが沈められる所を見た事があるんだよ。あんなの見せられたら、獲りに行く気にゃなれねぇよ」
「そこをなんとか頼む!」

 五郎は諦めきれずに食い下がるが、それでも漁師は渋る。
 自分の命が掛かってるのだから、妥当な反応だった。

 それを見ていたアシュラッドは、にやりと笑うと、1つの提案を口にする。

「だったら、船だけ借りれば良いんじゃねぇか?」
「船を借りるって……誰が操縦すんだ?」

 漁師の言葉に、アシュラッドは返す。

「俺らがするよ。前に、海上警備で雇われた時に、船の動かし方も幾らか習ったんでな。風があれば、船の帆を張って進めることぐらい出来るさ」
「風って、今は無風だぞ」

 眉を寄せて返す漁師に、アシュラッドは気楽な声で返す。

「そこは心配しなくても、大丈夫だ。そういうのが、得意なのが居るからな。アルベルト、出来るだろ?」
「こき使われそうですな」

 アルベルトは肩をすくめるようにして返す。

「風を操作する魔術は得意ですから、出来ないことはないですぞ。その分、船の操縦はお任せですが」
「ああ、任せとけ。という訳だ。どうだ? これならあんたは、クラーケンを獲りに行く酔狂なヤツらに巻き込まれずに済む。その間に、あんたは船の貸し賃を貰ってこずかいが稼げる。悪くない話だと思うぜ」

 自分の身の安全は保障され、少しは欲が出たのか、漁師は少し考え込んでから五郎に言った。

「……船の貸金とは別に、補償金を出してくれるなら、考えても良い。クラーケン相手だ。船が壊されりゃ直す金が要るし、万が一にも沈められたら、買い替える金が要るからな」
「いいぜ。有希、頼む」
「はいっすよ」

 有希は気軽に応えると、持っていた木箱に手を突っ込んで、重そうな革袋を取り出す。

「あの船の大きさなら、金貨400枚ってとこっすかね。この中には、金貨500枚入ってるっす。補償金で400枚は、なにかあったら持って行って貰うとして、残りの100枚から、船の貸し賃を出すっすよ。幾らが良いっすか?」

 平然と大金を出した有希に、漁師は一瞬生唾を飲むように黙っていたが、

「そ、それなら、金貨10枚は貰おうかな。他人に船を任せるんだ、それぐらいは――」
「高いっす。金貨5枚っすね」
「安い! うちの船で魚獲りに行ったら、その倍は稼ぐんだぜ!」
「でも、今はクラーケンのせいで出れないんっすよね? 6枚でどうっすか?」
「くっ……9枚!」
「じゃ、間を取って8枚っすよ。それでダメなら、他の船を探すっす」 

 そう言うと、木箱に金貨の入った革袋をしまおうとする有希。それに漁師は慌てて、

「分かった! それで良い! ったく、ケチクセーなぁ」
「金貨7枚。ホントは、それぐらいで良いと思ったんじゃ、ないんっすか?」

 ズバリと、本音を言い当てられ、言葉に詰まる漁師。そんな彼に肩をすくめるようにして、

「ボルこと考えるのは、気を付けた方が良いっすよ。相手によっちゃ、ただじゃすまないっすから」

 有希はそう言うと、皮袋から10枚金貨を取り出し、

「この金貨10枚と、補償金の400枚。オレっち達が戻るまで、誰かが持ってて欲しいっす」

 アシュラッド達に向け言った。するとアシュラッドは、にっと笑い言った。

「良いぜ。もちろん、その分の報酬は貰えるんだよな?」
「もちろんっすよ。ここでお金の番をして貰う人と、クラーケンを獲りに就いて来てくれる人。一人頭、金貨5枚は出すっすよ」
「そりゃ良い。しっかりと稼げそうだ」

 有希との交渉をあっさりと終らせたアシュラッドは、五郎に尋ねる。

「ま、そういうこった。クラーケン漁の依頼、請け負った。いつから出るんだ?」
「もちろん今すぐに。よろしく頼むぜ」

 にっと笑い、返す五郎だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...