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第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負

4 食材を買い付けに行ったら因縁を付けられました。なので自力でどうにかします その③

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「獲りに行くって、船に乗ってか?」
「おう。釣りでもして、なんか獲るさ」

 アシュラッドの問い掛けに、明るい声で返す五郎。
 これにアシュラッドは、軽く眉を寄せると聞き返す。

「本気で言ってるのか? 素人が獲りに行ったって、大したものは獲れねぇぞ」
「良いよ、そこは。それでも美味い物を作るのが、腕の見せ所ってな。どうにかしてみせるさ」

 これに、アルベルトとカリーナも、

「腕が鳴る所ですな。それに、こういうものは巡り合わせ。意外に、珍しい物が採れるかもしれませんぞ」
「そうですよ。私も、釣りってしたことないですけど、手伝います!」

 前向きに賛同する。これに五郎は、笑顔で返した。

「おっ、好いな! だったら、大物獲りに行こうぜ! そうなると、早速船を借りねぇと、だな」

 そうして五郎たちは、あっさりとその場を去ろうとする。そこに、筋ものを連れた男は声を上げた。

「ま、待てっ、貴様ら! 本気で言ってるのか!」
「ああ。それが、どうかしたか?」

 平然と返す五郎に、男は一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに負け惜しみのように言った。

「好きにしろ! だが後になって、この市場で買おうとしても無駄だからな! いや……そうだな、骨でも良いなら持って行けば良い!」
「ん? マジか!?」

 いきなり話に食いついて来た五郎に、男はすぐには返せなかったが、尊大な態度で言った。

「はっ! 犬や猫でもあるまいに! そんな物で目を輝かせるとはな! どれだけ貧乏人だ、貴様!」

 嘲笑うように言う男。
 それもその筈。この世界では、骨を料理に使うというのは貧乏人、というのが常識だからだ。

 元々は、食中毒予防を目的として、骨やその周り、そして内臓を食べないようにしたのが始まりである。
 実際に、それで効果があったかどうかは別として、王侯貴族や豪商など、いわゆる上流階級がそれを支持した為、今ではそれが常識になっているのだ。
 今ではそれが行き過ぎて、魚などは小骨まで取ってあるのが、上流階級のステータスにまでなっている。

 それを知っている五郎は、それでもにっと笑うと、

「勿体ねぇこと言うな。キッチリ料理すりゃ、美味いんだぜ。なんなら俺が作るから、食べてみねぇか?」

 心の底から本気で言った。けれど、

「馬鹿なことを言うな! そんな畜生の餌みたいな物を食べさせるなどとおぞましい! ええいっ、とっとと、どこぞに行ってしまえっ!」

 顔を赤くした男は、野良犬でも追い払うように手を振った。
 それに五郎は肩をすくめると、苦笑しながら皆とその場を後にする。

 その後を、アシュラッド達は追いかけようとする。それに男は、顔を赤くしたまま声を上げた。

「待て! どこに行くつもりだ!」
「見張りだよ。俺達の見てない所で、市場から何か手に入れるかも知れねぇだろ」

 アシュラッドは、冷めた声で男に返す。

「それとも、そっちがずっと見張っとくか? 勇者なんだろ? あの男」
「くっ……ええいっ、好きにしろ!」
「へいへい……一応確認しとくが、俺達が受けた依頼は、あいつらが市場で何かを手に入れることを邪魔する、で良いんだな? 船を出して獲りに行くのまで邪魔して来いとは、聞いてないからな」
「そうだ! それ以外は知らん! せいぜい好きにさせるが良い! はっ、素人が何を獲れるか、見物だな!」

 嘲笑うように言いながら、筋ものを引き連れて男はその場から去って行った。
 それを見詰めるアシュラッドに、ギルドメンバーな少年が問い掛けた。

「オヤジ、どうする? あいつら、本気で帰っちまったから、後は何してもバレやしないと思うんだが」
「だからって、仕事に手は抜けねぇよ」

 アシュラッドは、少年の頭をガシガシ撫でると、

「仕事は仕事、引き受けたからにはキッチリこなさねぇとな。それはそれとしてだ。別段、それ以外で俺達があいつらを手伝うのは勝手だからな。どうする? お前ら、付いて来るか?」

 にっ、と笑うアシュラッドに、ギルドメンバーな少年少女たちは、笑顔で返した。

 そうしてアシュラッドたちは、五郎たちの後を追いかける。
 しばらくして、漁師の1人と交渉している五郎達を見つけるが、なにか話が進んでいなさそうな気配が漂っていた。

「よお、どうしたい?」

 気軽に声を掛けたアシュラッドに、五郎は返した。

「いや、船を出せねぇってんだ」
「へぇ? 漁師にまで、圧力かけてたのか、あの野郎」
「いや、そうじゃなくて――」

 五郎は手をパタパタ振って言った。

「クラーケンが出たんで、海に出たくないんだってさ」
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