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第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負
4 食材を買い付けに行ったら因縁を付けられました。なので自力でどうにかします その②
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「なんで、よりにもよってお前が居るんだ、アルベルト」
人ごみの中から現れた、灰色掛かった銀髪と灰色の目をした壮年の男、アシュラッドが、げんなりとした声を上げる。
それに、アルベルトは肩をすくめるようにして返す。
「それは私の言葉ですな、アシュラッド。冒険者ギルド、灰狼の群れのギルドマスターが、ヤクザの真似事というのは、笑えませんな」
「しょうがねぇだろ。近場の村で魔物ぶっ潰したは良いが、ろくに報酬を支払えないから難儀してる所に、横合いから気前よく払ってやるってのが居てよ。食客扱いで付いて行ったら、ヤクザの下請けみたいな仕事を頼まれたんだよ」
「なにをしてるんですかな」
「しょうがねぇだろ。助けた村のヤツらは義理堅くてな。自分らの蓄え全部差し出してきそうな勢いだったんだよ。娘どもなんぞ、身を売ってでも払うとか言い出すし」
「相変わらず人が好いですな」
「うっせー! テメェーん所だって似たようなもんだろうがよ!」
「あいにくと我輩、ギルドマスターは辞めておりますので。今はしがない一介の料理人ですぞ」
「風の女神の翼は、そうは思ってないぞ。知ってるか? お前をとっ捕まえて連れていったら、賞金出るんだぜ」
「……マジですかな?」
「マジだよ。よーし、決めた。お前をとっ捕まえて、村のヤツらの借金の肩代わりにしてやる。おいっ、お前ら出てこい!」
アシュラッドが声を上げると、周囲の人だかりから、若い男女が10人近く現れる。
「え、ええっ!? ちょ、嘘でしょ! こんな大勢に囲まれてたわけ?! 全然気づかなかったんだけど!」
「港に入った時から居たぜ。俺達の跡を付けて来たってより、元からここに居て待ち受けていたんだろ」
慌てるレティシアに、五郎は落ち着いた声で返す。
「待ち伏せて狩るって感じだな。かなり慣れてるから、実戦つんでんだろ。こういうのに気付けるのは、慣れてないと無理だからな。気付けなくても気にするこたねぇよ」
そこまで言うと、今度はアシュラッドに顔を向け声を掛ける。
「おーい、ちょっと良いか?」
「ん? ああ、なんだ?」
気楽に声を返すアシュラッドに、五郎は続ける。
「話が見えねぇんだけどな、説明してくれねぇか? なんでアンタらが、俺らの邪魔してんだ?」
「いやがらせだよ」
そっけなくアシュラッドは返し、続ける。
「アンタらが雇われてる商人と敵対してる所が、いやがらせしろとさ。そこの野郎は、そこの小間使いみたいなもんさ。ま、本人自体にも、そうしたい理由があるみたいだけどな」
「ん? どういうこった?」
「なんでも昔、こっぴどく振られた恨みがあるんだとよ」
これに五郎は一瞬考え込んだあと、
「ああっ! クリスに結婚を申し込んだけど、引っぱたかれて断られたって奴か」
大きな声で言った。それに、筋ものを連れていた男は、顔を真っ赤にして声を上げた。
「貴様っ! クリスを呼び捨てにするとはどういうことだっ!」
「…………」
なに言ってんだ? というような表情になる五郎。
呆れて声を出せずにいると、更に男は顔を真っ赤にして口汚く声を荒げた。
「ま、まさか、貴様もあの女にたぶらかされたんじゃあるまいなっ。あの尻軽女がっ、人の恩も忘れて次から次に男を咥え込みやがって……」
「なに言ってんだ、お前?」
あまりの口汚さに、思わず返した五郎に男は続けて言った。
「知らんのか! あの女の家が傾いた時に、私が援助してやった上に、妻にしてやろうとまで言ったのだぞ! だというのにあの女は、ガストロフのような成り上がりに金をせびり落して、私がやった金を叩き返して来たんだぞ!」
「それはかなり、脚色してるのではないですかな?」
一方的に言い散らす男に、アルベルトが横から口を挟んだ。
「クリス殿はガストロフ殿から資金援助を受けて、それを元手に商いで成功し、やむにやまれずした借金は返した女傑と聞いておりますぞ。決して、譲り受けた金を右から左に動かしただけではない筈ですが」
「あーっと、つまりこれはあれか」
アルベルトの言葉を引き継ぐ形で、五郎は言った。
「弱みに付け込んで女をものにしようとしたけど、相手が自力でどうにかして失敗したと」
「うわっ、めっちゃダサいっすね」
「貴様らーっ!」
赤くなるのを通り越して、どす黒くなる男。
それを見ていた五郎は、ため息をつくとアシュラッドに顔を向け言った。
「こんなのに巻き込まれて、同情するよ」
「そりゃどうも。でもな、それでも仕事なんでな。きっちり、いやがらせはさせてもらうぜ」
「いや、そんなことを真顔で言われてもな……」
五郎は、2度目のため息をつくと、1つの提案を口にした。
「なぁ、あんたら、俺がそっちの必要な金を払うって言ったら、こっちに就いてくれるか?」
これにアシュラッドは目を細めると、声を落として返す。
「あいにくと、そりゃ無理だな。こちとら、信用は大事でな。幾ら気に喰わない相手でも、一度受けた依頼を途中で反故にする訳にはいけねぇんだよ。ましてや、金で転べと言われて、はいそうですか、とは言えねぇからな」
「おや、そんな性分でしたかな? 貴方は」
横からアルベルトが口を挟んでくる。
「道理の通った相手ならともかく、気に喰わない相手の約束など、食い破る人でしょうに。どうせ、貴方たちへの依頼料を肩代わりした相手に、断れば村に利子を付けて依頼料を取り立てに行くとか言われたのでしょう? 依頼を受けただけの村を人質にされたぐらいで、相変わらずですな」
「……うっせー。そんなのこっちの勝手だろうが」
「おや、図星でしたか」
「テメェっ、かま掛けやがったな!」
「こんなのに引っかかる方が悪いんですぞ。それはそれとして、それなら村ごと守って貰えば良いのでは?」
「はぁ? 誰にだよ」
「それはもちろん、五郎殿に。魔王を倒した勇者殿なのですから、造作もないことですぞ」
アルベルトの言葉に、五郎が眉を寄せて何か言おうとするが、それよりも早く周りがざわめく。
「ゆ、勇者、だと? なにを訳の分からん事を……」
それまで顔を赤らめていた男が、アルベルトの言葉に血の気を引かせていく。そこに、五郎は返した。
「勇者って言っても、100人以上いる中の1人だからな。そこまでご大層なもんじゃねぇぞ」
平然とした口調で返す五郎。それが逆に、真実味を感じさせる。
「う、嘘だ。聞いてないぞ、そんなことは……」
顔を引きつらせる男を、五郎は一瞥すらせず、アシュラッドに言う。
「村が人質にとられてるってんなら、俺だけじゃなく、俺たち勇者全員でどうにかするよ。でも、それでも一度受けた依頼は、断れねぇんだろ?」
「……そうだな。特に、そっちの約束が守られるか、分からねぇ今の内は、特にな」
「だったら良いよ。いやがらせするならしてくれても良い」
「どういうこった?」
訝しげに尋ねるアシュラッドに、五郎はふてぶてしい笑みを浮かべて応えた。
「市場で買えねぇってんなら、直接海に出て、獲りに行くって事さ」
人ごみの中から現れた、灰色掛かった銀髪と灰色の目をした壮年の男、アシュラッドが、げんなりとした声を上げる。
それに、アルベルトは肩をすくめるようにして返す。
「それは私の言葉ですな、アシュラッド。冒険者ギルド、灰狼の群れのギルドマスターが、ヤクザの真似事というのは、笑えませんな」
「しょうがねぇだろ。近場の村で魔物ぶっ潰したは良いが、ろくに報酬を支払えないから難儀してる所に、横合いから気前よく払ってやるってのが居てよ。食客扱いで付いて行ったら、ヤクザの下請けみたいな仕事を頼まれたんだよ」
「なにをしてるんですかな」
「しょうがねぇだろ。助けた村のヤツらは義理堅くてな。自分らの蓄え全部差し出してきそうな勢いだったんだよ。娘どもなんぞ、身を売ってでも払うとか言い出すし」
「相変わらず人が好いですな」
「うっせー! テメェーん所だって似たようなもんだろうがよ!」
「あいにくと我輩、ギルドマスターは辞めておりますので。今はしがない一介の料理人ですぞ」
「風の女神の翼は、そうは思ってないぞ。知ってるか? お前をとっ捕まえて連れていったら、賞金出るんだぜ」
「……マジですかな?」
「マジだよ。よーし、決めた。お前をとっ捕まえて、村のヤツらの借金の肩代わりにしてやる。おいっ、お前ら出てこい!」
アシュラッドが声を上げると、周囲の人だかりから、若い男女が10人近く現れる。
「え、ええっ!? ちょ、嘘でしょ! こんな大勢に囲まれてたわけ?! 全然気づかなかったんだけど!」
「港に入った時から居たぜ。俺達の跡を付けて来たってより、元からここに居て待ち受けていたんだろ」
慌てるレティシアに、五郎は落ち着いた声で返す。
「待ち伏せて狩るって感じだな。かなり慣れてるから、実戦つんでんだろ。こういうのに気付けるのは、慣れてないと無理だからな。気付けなくても気にするこたねぇよ」
そこまで言うと、今度はアシュラッドに顔を向け声を掛ける。
「おーい、ちょっと良いか?」
「ん? ああ、なんだ?」
気楽に声を返すアシュラッドに、五郎は続ける。
「話が見えねぇんだけどな、説明してくれねぇか? なんでアンタらが、俺らの邪魔してんだ?」
「いやがらせだよ」
そっけなくアシュラッドは返し、続ける。
「アンタらが雇われてる商人と敵対してる所が、いやがらせしろとさ。そこの野郎は、そこの小間使いみたいなもんさ。ま、本人自体にも、そうしたい理由があるみたいだけどな」
「ん? どういうこった?」
「なんでも昔、こっぴどく振られた恨みがあるんだとよ」
これに五郎は一瞬考え込んだあと、
「ああっ! クリスに結婚を申し込んだけど、引っぱたかれて断られたって奴か」
大きな声で言った。それに、筋ものを連れていた男は、顔を真っ赤にして声を上げた。
「貴様っ! クリスを呼び捨てにするとはどういうことだっ!」
「…………」
なに言ってんだ? というような表情になる五郎。
呆れて声を出せずにいると、更に男は顔を真っ赤にして口汚く声を荒げた。
「ま、まさか、貴様もあの女にたぶらかされたんじゃあるまいなっ。あの尻軽女がっ、人の恩も忘れて次から次に男を咥え込みやがって……」
「なに言ってんだ、お前?」
あまりの口汚さに、思わず返した五郎に男は続けて言った。
「知らんのか! あの女の家が傾いた時に、私が援助してやった上に、妻にしてやろうとまで言ったのだぞ! だというのにあの女は、ガストロフのような成り上がりに金をせびり落して、私がやった金を叩き返して来たんだぞ!」
「それはかなり、脚色してるのではないですかな?」
一方的に言い散らす男に、アルベルトが横から口を挟んだ。
「クリス殿はガストロフ殿から資金援助を受けて、それを元手に商いで成功し、やむにやまれずした借金は返した女傑と聞いておりますぞ。決して、譲り受けた金を右から左に動かしただけではない筈ですが」
「あーっと、つまりこれはあれか」
アルベルトの言葉を引き継ぐ形で、五郎は言った。
「弱みに付け込んで女をものにしようとしたけど、相手が自力でどうにかして失敗したと」
「うわっ、めっちゃダサいっすね」
「貴様らーっ!」
赤くなるのを通り越して、どす黒くなる男。
それを見ていた五郎は、ため息をつくとアシュラッドに顔を向け言った。
「こんなのに巻き込まれて、同情するよ」
「そりゃどうも。でもな、それでも仕事なんでな。きっちり、いやがらせはさせてもらうぜ」
「いや、そんなことを真顔で言われてもな……」
五郎は、2度目のため息をつくと、1つの提案を口にした。
「なぁ、あんたら、俺がそっちの必要な金を払うって言ったら、こっちに就いてくれるか?」
これにアシュラッドは目を細めると、声を落として返す。
「あいにくと、そりゃ無理だな。こちとら、信用は大事でな。幾ら気に喰わない相手でも、一度受けた依頼を途中で反故にする訳にはいけねぇんだよ。ましてや、金で転べと言われて、はいそうですか、とは言えねぇからな」
「おや、そんな性分でしたかな? 貴方は」
横からアルベルトが口を挟んでくる。
「道理の通った相手ならともかく、気に喰わない相手の約束など、食い破る人でしょうに。どうせ、貴方たちへの依頼料を肩代わりした相手に、断れば村に利子を付けて依頼料を取り立てに行くとか言われたのでしょう? 依頼を受けただけの村を人質にされたぐらいで、相変わらずですな」
「……うっせー。そんなのこっちの勝手だろうが」
「おや、図星でしたか」
「テメェっ、かま掛けやがったな!」
「こんなのに引っかかる方が悪いんですぞ。それはそれとして、それなら村ごと守って貰えば良いのでは?」
「はぁ? 誰にだよ」
「それはもちろん、五郎殿に。魔王を倒した勇者殿なのですから、造作もないことですぞ」
アルベルトの言葉に、五郎が眉を寄せて何か言おうとするが、それよりも早く周りがざわめく。
「ゆ、勇者、だと? なにを訳の分からん事を……」
それまで顔を赤らめていた男が、アルベルトの言葉に血の気を引かせていく。そこに、五郎は返した。
「勇者って言っても、100人以上いる中の1人だからな。そこまでご大層なもんじゃねぇぞ」
平然とした口調で返す五郎。それが逆に、真実味を感じさせる。
「う、嘘だ。聞いてないぞ、そんなことは……」
顔を引きつらせる男を、五郎は一瞥すらせず、アシュラッドに言う。
「村が人質にとられてるってんなら、俺だけじゃなく、俺たち勇者全員でどうにかするよ。でも、それでも一度受けた依頼は、断れねぇんだろ?」
「……そうだな。特に、そっちの約束が守られるか、分からねぇ今の内は、特にな」
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