転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

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第一章 街を作る前準備編

5 転生仲間との話し合い その④

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「あいつら、お前らにちょっかい掛けて来たのか?」

 相手が相手なので、思わず声を硬くして俺は八雲に尋ねる。
 魔術協会は、名前の通り魔術に関わる者達が作り上げた組織なのだが、ことあるごとに俺たち転生勇者に突っかかって来る奴らだ。

 なぜかと言えば、そもそも俺たちが魔王を倒した事にさかのぼる。

 元々、最初の内は魔術協会が魔王を倒す予定だったらしいのだが、それが十数年にわたって失敗。
 王権に匹敵する権勢を持っていた魔術協会も、これのせいで民衆の支持が低下。そこに前王の一発逆転で、神々に祈り召喚された俺たち勇者が魔王を倒した事で、権力の低下が更に加速。

 そこに止めとばかりに、魔術協会が隠匿していた様々な技術を、俺たち勇者が解析し改良。特許として届け出ることで経済的にも没落している。
 王政府も、魔術協会を前々から苦々しく思っていた事もあり、それはそれはスムーズに話は進んだ。

 という事があったので、恨み骨髄なのだ。もっとも、それでも莫大な権勢と経済力を未だに保持しているが。
 ここ最近は大人しかった事もあって、他の案件に集中していたのだが、その隙を突かれたのかもしれない。

「すまない。もっとこちらで、注意しとくべきだった」

 頭を下げて謝ると、

「い、いいのだ! 別に陽色は悪くないのだ! 本当なら、もっと早くに私達が言っておけば良かったのだ……」

 出雲は慌てて頭を下げる俺を止め、気落ちした声で続ける。

「うちの工房の引き抜きとか、されそうになった時に、伝えておくべきだったのだ……」
「出雲たちの工房の職人が、魔術協会に引き抜かれそうになったってことか?」

 出雲と八雲は、魔王を倒した後、この世界で工房を開いている。それは2人の手にした神与能力チートスキルが「物を作ること」に特化している事もあったが、なによりも、自分達の能力でみんなの生活を楽にしてあげたい、という望みのためだ。

 下手に高度な技術を広めれば弊害が出る可能性があったので、既存の魔術的技術を応用する形で少しずつ発明品を広めているが、それと同時に弟子を取る形で新しい技術の普及にも力を入れている。

 もし、そういった弟子の職人たちが引き抜かれたのなら、放置はできない。だが、

「引き抜きって言っても、実際にうちの弟子の誰かが引き抜かれた訳じゃねぇんだ」

 八雲は俺の懸念を否定する。

「何人かは話を持ちかけられたみたいだが、全員断ってる」
「……そうか……それで、それだけか? 魔術協会の奴らの動きは」
「いや、それ以外にも、材料の確保が難しくなってきてる。こっちが手に入れたい魔術素材を買い占めたり、問屋に圧力を掛けてるらしい」
「引き抜きが出来なかったから、兵糧攻めで来たか……苦しいのか?」
「まだ大丈夫だ。いまは、だけどな。それもあるから、蒸気機関をこっちでやれないかと思ってな。あれなら魔術素材無しでも再現できる」
「なるほど……」

 八雲の話を聞いて、俺は考える。
 どうにもキナ臭いと。

(ここ最近大人しかったのに、急に動きが活発になったってのは、何かがあったのか? 長い計画で動いていて、それが動き出したのが、偶々いまだったってのも有り得るが……)

 幾つか可能性を考えながら、俺は偶然性を否定する。

(偶々、な訳がないよな……そんな気楽な相手じゃないし。今頃動き出したのは、理由があってのことだろうし……となると、やっぱ王から受けた領地開拓の命が関係してるんだろうな)

 事前に王の動きを知って、それに合わせて動いているのか、あるいはそれ以上の何かがあるのか?
 色々と想像は出来るけど、現状では判断できる決め手がない。
 となれば、ここは動くのも一つの手だ。

「分かった。蒸気機関の技術解放、他のみんなにも提案してみる」
「本当か!」
「やったのだ!」

 諸手を上げて喜ぶ出雲と八雲。喜んでくれるのは嬉しいが、くぎを刺しとかないと後が怖い。

「ただし、作るのは蒸気機関車だけにしてくれ」
「他はダメなのか?」
「ろ、ロボットは……」
「ダメに決まってんだろ」

 心底残念そうな八雲に俺はツッコミを入れる。

「な、何故ダメなんだ。スチームパンクと言えば巨大ロボットだろ」
「お前の中のスチームパンク感どうなってんだよ。蒸気機関からそんなオーバーテクノロジー作ろうとすんな」
「そんな……俺の中のロマンはどこにやれば」
「もっと余裕が出来てから、そういうのは満喫してくれ。生憎と今は、そこまで余裕が無いからな」

 そこまで言うと、思いっきり八雲はうなだれる。

「うぅ……俺の、俺のスチームパンくん28号の夢が……」
「大丈夫なのだ! 八雲! バレないように作っちゃえば良いのだ!」
「なに一つよくねぇよ!」
「え~」
「ダメなのか~?」

 ただをこねる2人に、俺はため息をつきながら、妥協点を口にする。

「……分かった。下手に禁止したら、制作意欲無くなるだろうし、実験レベルなら作っても良いぞ。そこまでなら、みんなの説得に俺も動くから」
「助かる!」
「さすが陽色なのだ!」
「ただし、蒸気機関車の方を先にしっかり作ってくれ。それも排気ガス対策をして、石炭みたいな化石燃料を使わずに、可能な限り森を食い潰さなくても済む物を頼む。元居た世界の技術だけじゃ難しいだろうから、こちらの技術も流用してくれて構わない」
「まかせろ! すでに試作型スチームパンくん6号で解決済みだ!」
「試作型って、いつの間にそんなの作ってたんだよ」
「なに言ってるのだ? さっき脱がしてくれたのがそうなのだ」
「さっきまで着てたのが、そうなのかよ。蒸気甲冑とか言ってなかったか?」
「いきなり巨大ロボットはハードル高いから、まずは着込める大きさで作ったのだ」
「すでにそこまで進んでるのに戦慄を感じるよ……とにかく、まずは蒸気機関車を頼む。これから、俺たちが開拓する領地は魔界の最接近領だからな。物資や人員の移動に必要になるだろうから」
「オッケーなのだ!」
「まかせとけ!」

 2人は力強く返してくれる。色々とかなり不安もあるが、それでもやっぱり頼りになる仲間だ。

(とはいえ、これから他のみんなの説得に行くのが、骨が折れるな……)

 心の中でため息一つ吐きながら、俺はそう思った。

 そうして、陽色が仲間の転生者達との話し合いに動いている頃、リリスも同じように、仲間の神々との話し合いを繰り広げていた。
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