転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

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第一章 街を作る前準備編

13 帰り道で襲撃されました その②

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(魔物? こんな場所に?)

 瞬時に意識を切り替え戦闘体勢を取る。
 いつ、何があっても動けるように脱力しつつ、周囲に意識を向ける。

 いま居る場所は、街道の右手に開けた荒地。左手には林が広がっている。

(荒地は、見通せる限り何かが居るように見えない。林は、奥に隠れているなら、なにか居ても気づくのは遅くなるな……)

 俺は状況判断と同時に、身体強化系の魔術を起動。即座に、その場から逃げ出せる準備をする。
 だが準備が整うより前に、前方の林から、何かが近付いてくる音が。

(四足……じゃないな。音の響きが違う。人型か? 単なる俺の勘違いで、ただの人って可能性もあるけど)

 油断はせず、周囲を探る。
 後方からは音がしないが、前方に気を取られた瞬間に後方から不意打ちを食らったのではたまらない。
 そうして、いつでも逃げ出せる準備をする中、現れたのは――

「おっ、陽色じゃん」
「お前かよ」

 連絡が取れないでいた勇者の一人、運命の女神メグスラの勇者である小鳥遊和真だった。
 20代前半の年頃に見える和真は、へらへらと笑みを浮かべながらこっちに近付いてくる。

「好かったー。ラッキーだわ。ちょうど会いに来てたんだよ」

 ぞわりと、和真の言葉に嫌な予感が走る。

(運が良い? こいつが? そんな訳が――)

「ちょっと待て!」

 こっちに近付いてくる和真を、俺は止める。

「え? なんでさ?」

 のんきに訊いてくる和真に、

「お前、今も神与能力チートスキルは発動してるんだよな?」

 これに和真は、へらへら笑いながら、

「大丈夫大丈夫。お前なら、俺の神与能力チートスキルに巻き込まれても、どうにかなんだろ?」

 言い終ると同時に、和真は荒地側に向かって大きく跳ぶ。
 その瞬間、俺も同様にその場を跳んだ。
 間髪入れず、俺が居た場所を斬撃が貫く。
 反射的に跳んでいなければ、心臓を貫かれていたその一撃に、冷たいものが走る。

「お~、なんだアレ? 魔物か?」

 相も変わらずのんきに言う和真の視線を追えば、その先に居たのは歪な人型だった。
 全身におうとつの無いのっぺりとした身体を、夜闇に沈みこむような漆黒のそれは、明らかに人間じゃあない。
 右腕に当たる部分を刃物のように鋭く伸ばし攻撃して来たそれは、全身から殺意を垂れ流している。

「アレ、お前が連れてきたのか?」

 魔物から視線をそらさず和真に訊けば、

「いんや。アレは俺じゃねぇよ。今回のは、俺に不幸が来たっつうよりは、不幸が訪れてるお前に会えちゃったのが俺の不運、ってことなんだと思うぞ」
「……不運のメインは俺ってことか……」

 和真の言葉を聞いて、俺は判断する。
 俺の不幸に、今回は和真が巻き込まれただけなんだな、と。
 こう思うのは、和真の神与能力チートスキルが関係している。

 和真の神与能力『不運と踊れ。今こそ乗り越える時ハードラック・ダンシング』は、運命に干渉する能力だ。
 これは、不幸を呼び込む代わりに、それを乗り越えた時に、本来なら受けずに済んだはずの不運分の幸運や成果を手に入れられるようになる能力だ。
 不運というハンデを受ける代わりに、リターンの大きいギャンブルが出来るようになる能力、と言ったら良いかもしれない。

 凶悪な強制力を持ったこの能力は、使用者である和真のみならず、周囲の人間にすら影響を及ぼす。
 要は、周りに居るだけでもれなく不幸が舞い込んでくるようになるかもしれない神与能力チートスキルなのだ。

「お前、ひょっとして俺に会いに来たのか?」

 和真の神与能力チートスキルは、縁が深ければ深いほど巻き込まれ易く、そして和真が関わろうとする相手であればあるほど、影響を受けやすい。
 だから訊いたのだけど、和真は視線を逸らしながら、

「博打で有り金全部すっちゃってさぁ。薫のヤツにたかりに行ったら、アイツ男に逃げられて機嫌が悪くて貸してくれなくてよ。
 だからお前にたかりに行こうと思って屋敷に行ったんだけど、菊野に追い返されてさ。
 しょうがないから、どこかでふらっと会えないかと思って、お前の帰り道になりそうな所を適当に歩いてたんだけど、運良く会えたってわけよ」
「この状況で運が良いって言えるお前が心底すごいよ」

 微妙に頭痛がしそうになる和真の応えに、俺は状況を整理する。

(目の前の魔物は、和真の神与能力チートスキルの影響で、たまたま出遭ったんじゃない。
 だとしたら、なんだ? 純粋に俺の運が悪くて、たまたま偶然発生した魔物に、不幸にも襲われたってことか?
 ……在り得ない。どんだけ不運だったら、そんなことになる。
 だとしたら、必然ってことになるんだけど……)

「よぉ、何が目的だ?」

 試しに、応える訳がないと分かっていても、魔物に訊いてみる。すると、のっぺりとした魔物の表面に、無数の切れ目が自然に発生すると、一斉にそれは開き、

「き、キキ、キハハハハハヒャヒヒヒヒヒ!」

 全ての開いた切れ目から、耳障りな笑い声が垂れ流される。

「あいっ変わらずキモいな、こいつら」
「生き物の負の感情を取り込む生態してるからな」

 俺が、周囲に伏兵が居ないか探っている中で、目の前の魔物は右腕だけでなく左腕も薄く鋭く伸ばし、予備動作も無く鞭のように振るう。
 風切り音と共に、俺たちの居た場所を斬撃が切り裂く。
 そして引き戻される事すらなく、左右に散った俺と和真を追うように、連続で襲い掛かってくる。

「念のために訊いとくが、こいつを拘束できる手段持ってるか?」

 途切れることなく振るわれる斬撃を避けながら和真に訊くが、

「ねぇよ。だから、始末は頼んだ」

 へらへらと笑いながら、のんきに斬撃をかわし続けている。

「……しょうがないか」

 軽くため息一つ。それで気持ちを切り替え、戦闘へと意識を集中。そして、

「武具召喚。銘刀、村正」

 戦うための力を、呪文と共に引き出した。
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