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第一章 街を作る前準備編
18 転んでもタダでは起きないよ その③
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「一体、貴方がたは私達に、何を望まれるというのか?」
探るような長老の言葉に、即座に俺は返す。
「2つあります。1つ目は、今回私達を襲った犯人を捜す手助けをお願いしたいのです」
「……犯人、ですか。それはつまり、我ら魔術協会の中に居ると……そう思われているのですな」
「その思い込みは危険です」
俺は視線を合わせたまま、懸念を口にする。
「正直に言います。確かに、貴方たち魔術協会の中に、今回の犯人となり得るだけの能力を持った方達が居るのは事実です。
ですが、それはあくまでも手段を持ち得ているというだけで、動機を伴う物ではありません。
いたずらに決めつけ、他の可能性を考慮に入れないのは、あまりにも危険すぎると私達は思っています」
「……つまり、どういうことなのですかな?」
どこか期待するような響きを込め尋ねる長老に、俺はその意思をくみ取りながら返す。
「私達は、まだ犯人の目星すらつけられないでいます。誰かを疑う、それ自体が出来る段階にありません。
いえ、正しく言えば、それを行える能力が無い。
今回の件を調べるには、多くの人材と人脈、そして経験が必要になります。それを持っているのは、貴方達しか居られない。
だからこそ、私達は貴方達の力をお借りしたいのです」
「それは、つまり……我らに今回の件の犯人を捜し出して欲しいと、そう言われるのですな」
「はい、その通りです。
私達は貴方達を信頼し、捜査をお任せしたいのです」
俺の応えに、長老たちは目くばせと軽い頷きだけで、意思の統一を図っていく。
言葉にせず、この場で即興でそれが出来る辺り、伊達に魔術協会のトップに就いていない。
いま俺が口にした事は、ただ協力要請を頼んでいるだけじゃない。
むしろ、それはついでだ。
より重要なのは、魔術協会の権利を侵すつもりが無いことを、表明する事だ。
今回の件で、もし俺たちが直接、魔術協会に犯人が居ないかを調べたなら、それは捜査権の侵害に当たる。
例えるなら、外国人に犯罪を犯されたかもしれないと思っただけで、その国の警察を無視して勝手に外国に侵入した挙句に捜査するようなものだ。
これをされて黙っていられる訳がない。万が一許せば、権威の失墜は大き過ぎる。
だからこそ、それを避けるためにも、俺たちが勝手に調べて回る訳にはいかないのだ。
今後、協力し合いたい相手の面子も権威も潰しておいて、手を貸してね、と言える訳がない。
それを俺は今、明確に口にしたのだ。
もちろん、そのまま口にすれば、それはそれで相手の面子を潰すことになる。
だから極力、遠まわしに言ったのだが、これだと相手に察する能力が無ければどうにもならない。
けれどそこは、魔術協会のトップ達はさすがだった。
「ヒイロ殿……お気遣い感謝する。
その上で申し上げる。我々には、貴方の要請に応える事は可能です。
ですが、そのためには、一つ我らからもお願いがある」
「はい。応えられる物でしたら、何でも仰られて下さい」
「そうか……では、1つ。今回の件、我らで捜査を行うことはできる。ですが、その中で犯人を見つけた際、確保する戦力がいささか心もとない。ゆえに、それを補う意味でも、貴方がたにも捜査協力をお願いしたい。どうで、あろうか?」
自分達の権威を確保した上で、こちらの立場も考えて協力を求めてくれた。
非常に助かる。これなら、俺たちが勝手に捜査するという形が崩れ、正統性が出てくる。
こちらが差し出した手を取って、握り返してくれたようなものだ。
だからこそ、俺は明るい声で応えた。
「もちろんです。むしろ私の方からもお願いしたい。
いつでも私達の方から、人員を派遣できます。その詳細については、こちらにまとめてありますので、ご参考にして下さい」
そう言って、俺は持って来ていた書類を鞄から取り出し、長老たちに渡す。
「……随分と、用意が良いのですな。今回は何やら鞄を持って来られていたので、なにが入っておるのかと思っておりましたが」
「根が小心なものですから。出来る準備は、なんであろうと取っておきたい性質をしていますので」
「……不要な準備であろうとも、ですかな?」
「はい。その苦労で、少しでも良い方向へ行けるのなら、惜しむのは損ですから」
「……なるほど……単純に、勇者としての能力にかまけていた訳ではなかったのですな……」
どこか噛み締めるように長老は呟くと、渡された書類に軽く目を通す。そして、
「詳しく精査するには、多少時間がかかります。協会内の調整も必要となりますので。ですが、3日以内に必ず、ご連絡申し上げる」
「感謝します」
表情には出さず、心の中でほっと一息つく。
ひとまず、これで懸念の一つは片付いた。犯人の目星を付ける段階にもないけれど、十分に心強い。
(最悪、魔術協会と全面闘争しなきゃならない可能性もあったからな……ほんっっっとに、好かった)
そうして、俺が安堵していると、長老は尋ねてきた。
「ヒイロ殿。そちらの求められた2つの内、1つはこれで目処が立ちましたな。ですので、残り1つをお聞かせ願いたい。我らに、何を望まれるのですかな?」
「交流です」
ある意味、今回魔術協会に来た、本命の願いを口にする。
「ぜひ、お願いしたいのです。
これまで私達は、あまりにも関わり合うことを避けて来ました。
正直に言って、私達は怖かったのです。突然、異世界に転生召喚され、同胞といえるのは100人足らずの勇者達のみ。
この中で、私達も自分達の身を守るために、攻撃的になっていました。
ですが、今は違う。ようやく、私達も、この世界の方達と本当の意味で関わることのできる余裕を持つことが出来たのです。
だからこそ、私達はその先を目指したいのです。この世界の方達から、より多くのことを学び、そして私達のことも伝えていきたい。
そのためにも、ぜひ、私たちと交流して頂きたいのです」
熱を込めて言った俺に、長老たちは少し黙っていたが、
「……我々と交流、ですか……そこまで、我らの価値を認められると?」
僅かに、本人達も気づいていない自信なさげな響きを滲ませ訊いて来るので、
「もちろんです!」
思いっきり本気で力強く、俺は言い切った。
「貴方達には、素晴らしい価値がある! だからこそ私達は、貴方達との交流を望むのです!
この先の未来を共に発展するためにも、ぜひお願いします!」
すぐには応えは返ってこなかった。けれど、僅かに迷うような間を空けて、
「……そこまで言われると、面はゆいですな」
「我らとて、それだけ言われて、意固地になるつもりもない」
「……色々とありましたが、確かに将来を考えれば、悪くは無い」
「前向きに、検討させて頂こう」
こちらの提案に、応えてくれるように返してくれた。
「ありがとうこざいます! では、早速ですが、まずは私達の元に、出向という形で来て頂きたい方が居られるのですが、ご助力をお願いできますか?」
「それは、かまいませんが……多少急すぎですな……」
「誰を、望まれるのか?」
「まずは、カルナ殿と、彼と懇意にある若い魔術師の方達をお願いしたいのです」
「カルナ、ですかな?」
僅かに疑念の眼差しをカルナに向ける長老に、俺は続ける。
「はい。カルナ殿とは、この場で既に話させて頂きましたが、照明用の魔導具の生産権利を買い取らせて頂く話をさせて頂いていました。それを推し進めるためにも、カルナ殿と、彼と親しい若手の魔術師たちの助力が必要なのです」
「……それほどまでに、照明用の魔導具に御執心なのですか? カルナの作り出したそれは、確かに安価に作れますが、それでも庶民には高い買い物になる。その上で、耐用年数が数年では、とても手が出るものでは……」
長老の懸念も一理ある。カルナから聞いた話から推測しても、一つに付き金貨5枚程度は掛かる。元の世界だと、ちょっと高めのテレビを買うぐらいの価値だ。
それで数年で壊れます、となっては堪らないって話だ。
とはいえ、それはそれで色々とやりようがあるってなもんである。
「ご心配いただき、ありがとうございます。ですがそれに関しても、幾つか考えております。その実現のためにも、まずは大量生産を行う必要があるのです。交流で来て頂く、若い魔術師の皆さんには、それに対する助力もお願いしたいのです」
自分で言っててなんだけど、若い労働力を食い潰すブラック会社の社長みたいなので、気を付けたい所だ。なんて思ってると、
「なるほど。色々と考えがあるようだ。確かにそれなら、若い魔術師の方が適任でしょう。幾らでもお使い下さい」
「さよう。若い内は、苦労させねばならん」
「良き経験になるじゃろう」
「我らの若い時も――」
長老たちは、なぜだか自分達の苦労話をし出す。
(うわぁ、なんか思ってたけど、本人たち自覚なしでブラック経営者だな。全体的にそういう社会体制なんで、長老たちだけが悪いとは言えないんだけど。
……うん、ウチに若い魔術師の子達が来たら、やさしくしてあげよう……)
などと、心の中で決意しながら、俺は続けて言った。
「ありがとうございます。では、すぐにでも私達の元に派遣をお願いします。
その代償として、一つご提案させて頂きたい事があるのですが、よろしいですか?」
「代償、ですか?」
「はい。交流が目的ですが、それと同時に御助力いただく以上、それに見合った物はお返ししたいのです。
先日、私たちが新しく作る街の資材購入の打診をさせて頂きましたが、その買取りを、市場価格の2倍でさせて頂きたいのです」
「に、2倍……!」
「そ、それは……街を一つ作るだけの資材では、相当な額になるが……」
「構いません。あるだけ全て買わせて頂きます。これは、特許制度に伴ういざこざで、貴方達の権益を損ねた謝罪の意味も込めております。ですので、今回の買取りで出た利益は、私たちの活動で不利益を被った方達に優先で行き渡るようにもお願いしたいのです」
元々これは、以前から考えていた事だ。
自分達の権威を高めるためにも進めた特許制度だけど、それで被害を受けた所は確実にある。
先々のことを考えて、そういった所で受ける恨みは払っておきたかったのだ。
俺たちが直接、そういった所を見極めて援助していくというやり方もあるけれど、これだと勢力拡大に動いているように取られかねない。
下手をすれば、それで軋轢を生む可能性も高い。
なので、間に入って調整してくれる所が欲しかったのだ。
そこまでのことを、長老たちが察してくれたのかは分からないけれど、
「……承知した。ヒイロ殿の望まれる通り、我らも可能な限り便宜を図ろう」
長老たちは、こちらの申し出を受け入れてくれた。
そこに続けて、俺は付け加えるように言う。
「ありがとうございます。ここまで便宜を図って頂き恐縮なのですが、更にもう一つ、お願いできますか?」
「……なんですかな?」
身構える長老に、俺は続けた。
「魔術協会から買い取らせて頂く素材ですが、恐らくすぐに足らなくなると思います。その後は、市場などから調達する事になるかと思いますが、これでは一般に出回る資材の価格が一時的に跳ね上がりかねません。ですので、市場から新たに確保することなく、あくまでも今ある素材の在庫のみ、2倍の価格で買い取らせて頂く、という形にして頂きたいのです」
「……なるほど、それは確かに……我々としても、市場での素材価格の乱降下は望む所ではありません。その御提案、受け入れさせて頂きましょう」
「ありがとうございます。今回の提案は、あくまでも市場価格の乱降下を防ぐことが目的ですので、すでに資材を確保されている魔術師の方達がおられましたら、そちらから資材を前もって集めることは含みません」
「ほぅ……それはつまり、魔術協会だけでなく、こちらが選んだ魔術師から資材を集めることは止めないと、そういうことですかな?」
「はい。私達が魔術協会から、資材の買取りを始めさせて頂く期日までに、集められた資材に関しては、すべて市場価格の2倍で買い取らせて頂きます」
魔術協会だけじゃなく、そっちの仲の好い魔術師個人にも美味い汁を吸わせるよ!
端的に言うと、そういうことをいま俺と長老は話し合っている。
なんか時代劇でよくある、お代官と越後屋みたいな会話だけど、こういう部分も上手くやっていかないと世の中回らないので仕方ない。
長老たちは、慣れた感じで話を合わせてくる。
「よく分かりました、ヒイロ殿。しかし、買取りの開始時期に関しては、まだ話に出ておりませんが、いつなら良いですかな?」
「お任せします」
ここは全力で丸投げする。欲張られ過ぎると問題だけど、今までの話し合いで、長老たちはその辺りの線引は巧いと期待して任せてみた。すると、
「2週間、待って頂けますかな。それまでには確実に、巧くまとめてみせましょう」
「助かります。では、お任せします」
俺の応えに、長老たちの間に弛緩したような空気が広がる。それを読んで、俺は最後に一つの要求をねじ込んだ。
「最後に一つだけ、お願いできますか?」
終わったと思った所に追加で来たので、長老たちがぎょっとする中、俺は続けて言った。
「カルナ殿から、直接資材を買い取ることをお許し願いたいのです」
「カルナから、ですか……」
「はい。カルナ殿には、これから照明用の魔導具などで、若い魔術師を集めて頂き協力して頂きますが、それらに関わる費用を捻出して頂く為にも、なんらかの形でこちらからも協力させて頂きたいのです」
「……つまり、そちらに出向する魔術師の報酬は、カルナを通して貴方がたが払いたいと、そう仰られるのですな」
「はい、その通りです」
人材派遣はして貰うけど、給与払いはこっちでするね。
簡単に言うと、こうである。
(さて、どう出るかな?)
こちらの申し出は、向こうとしても利がある。
なにしろ、自分達で若手魔術師の報酬を払わないで良いのだ。
それはそれで、自分達の権威が損なわれると思うかもしれないが、若い魔術師であれば構わない、と思ってくれるかもしれない。
実際、長老たちはそう思ったようで、
「承知した、ヒイロ殿。そちらに直接関わる魔術師に関しては、こちらは一切かかわらぬ。費用面でも、命令上に置いてもだ。
ただし、あくまでも今、カルナに関わっている若い魔術師のみにして頂きたいが」
くぎを刺しつつもこちらの要求を飲んでくれた。
(好しっ! こちらの望み通りになった!)
表情には出さず、俺は心の中で思いっきり拳を振り上げる。
それぐらい、こちらの望み通りになった。
(これも全部、魔物が襲ってくれたからだな)
この件が無ければ、ここまでスムーズに物は進まなかっただろう。
(これが、魔物で襲ってきたヤツらの目的だったりして……)
ちらりと思うが、それはそれ。仮にそうだとしても、こちらはその思惑を飲み込んで、更にやりたい事を進めるだけだ。
(転んでもタダで起きる気はないからな。利用できるモノは、何でも利用させて貰うよ)
未だ見えない敵対者に挑むように想いながら、俺は長老たちと更に話を詰めていった――
――その日から2週間後。俺たちは自分達の街になる予定地に行く事になるんだけど、その時には予想以上の障害が発生してることを、この時の俺はまだ知らなかった。
探るような長老の言葉に、即座に俺は返す。
「2つあります。1つ目は、今回私達を襲った犯人を捜す手助けをお願いしたいのです」
「……犯人、ですか。それはつまり、我ら魔術協会の中に居ると……そう思われているのですな」
「その思い込みは危険です」
俺は視線を合わせたまま、懸念を口にする。
「正直に言います。確かに、貴方たち魔術協会の中に、今回の犯人となり得るだけの能力を持った方達が居るのは事実です。
ですが、それはあくまでも手段を持ち得ているというだけで、動機を伴う物ではありません。
いたずらに決めつけ、他の可能性を考慮に入れないのは、あまりにも危険すぎると私達は思っています」
「……つまり、どういうことなのですかな?」
どこか期待するような響きを込め尋ねる長老に、俺はその意思をくみ取りながら返す。
「私達は、まだ犯人の目星すらつけられないでいます。誰かを疑う、それ自体が出来る段階にありません。
いえ、正しく言えば、それを行える能力が無い。
今回の件を調べるには、多くの人材と人脈、そして経験が必要になります。それを持っているのは、貴方達しか居られない。
だからこそ、私達は貴方達の力をお借りしたいのです」
「それは、つまり……我らに今回の件の犯人を捜し出して欲しいと、そう言われるのですな」
「はい、その通りです。
私達は貴方達を信頼し、捜査をお任せしたいのです」
俺の応えに、長老たちは目くばせと軽い頷きだけで、意思の統一を図っていく。
言葉にせず、この場で即興でそれが出来る辺り、伊達に魔術協会のトップに就いていない。
いま俺が口にした事は、ただ協力要請を頼んでいるだけじゃない。
むしろ、それはついでだ。
より重要なのは、魔術協会の権利を侵すつもりが無いことを、表明する事だ。
今回の件で、もし俺たちが直接、魔術協会に犯人が居ないかを調べたなら、それは捜査権の侵害に当たる。
例えるなら、外国人に犯罪を犯されたかもしれないと思っただけで、その国の警察を無視して勝手に外国に侵入した挙句に捜査するようなものだ。
これをされて黙っていられる訳がない。万が一許せば、権威の失墜は大き過ぎる。
だからこそ、それを避けるためにも、俺たちが勝手に調べて回る訳にはいかないのだ。
今後、協力し合いたい相手の面子も権威も潰しておいて、手を貸してね、と言える訳がない。
それを俺は今、明確に口にしたのだ。
もちろん、そのまま口にすれば、それはそれで相手の面子を潰すことになる。
だから極力、遠まわしに言ったのだが、これだと相手に察する能力が無ければどうにもならない。
けれどそこは、魔術協会のトップ達はさすがだった。
「ヒイロ殿……お気遣い感謝する。
その上で申し上げる。我々には、貴方の要請に応える事は可能です。
ですが、そのためには、一つ我らからもお願いがある」
「はい。応えられる物でしたら、何でも仰られて下さい」
「そうか……では、1つ。今回の件、我らで捜査を行うことはできる。ですが、その中で犯人を見つけた際、確保する戦力がいささか心もとない。ゆえに、それを補う意味でも、貴方がたにも捜査協力をお願いしたい。どうで、あろうか?」
自分達の権威を確保した上で、こちらの立場も考えて協力を求めてくれた。
非常に助かる。これなら、俺たちが勝手に捜査するという形が崩れ、正統性が出てくる。
こちらが差し出した手を取って、握り返してくれたようなものだ。
だからこそ、俺は明るい声で応えた。
「もちろんです。むしろ私の方からもお願いしたい。
いつでも私達の方から、人員を派遣できます。その詳細については、こちらにまとめてありますので、ご参考にして下さい」
そう言って、俺は持って来ていた書類を鞄から取り出し、長老たちに渡す。
「……随分と、用意が良いのですな。今回は何やら鞄を持って来られていたので、なにが入っておるのかと思っておりましたが」
「根が小心なものですから。出来る準備は、なんであろうと取っておきたい性質をしていますので」
「……不要な準備であろうとも、ですかな?」
「はい。その苦労で、少しでも良い方向へ行けるのなら、惜しむのは損ですから」
「……なるほど……単純に、勇者としての能力にかまけていた訳ではなかったのですな……」
どこか噛み締めるように長老は呟くと、渡された書類に軽く目を通す。そして、
「詳しく精査するには、多少時間がかかります。協会内の調整も必要となりますので。ですが、3日以内に必ず、ご連絡申し上げる」
「感謝します」
表情には出さず、心の中でほっと一息つく。
ひとまず、これで懸念の一つは片付いた。犯人の目星を付ける段階にもないけれど、十分に心強い。
(最悪、魔術協会と全面闘争しなきゃならない可能性もあったからな……ほんっっっとに、好かった)
そうして、俺が安堵していると、長老は尋ねてきた。
「ヒイロ殿。そちらの求められた2つの内、1つはこれで目処が立ちましたな。ですので、残り1つをお聞かせ願いたい。我らに、何を望まれるのですかな?」
「交流です」
ある意味、今回魔術協会に来た、本命の願いを口にする。
「ぜひ、お願いしたいのです。
これまで私達は、あまりにも関わり合うことを避けて来ました。
正直に言って、私達は怖かったのです。突然、異世界に転生召喚され、同胞といえるのは100人足らずの勇者達のみ。
この中で、私達も自分達の身を守るために、攻撃的になっていました。
ですが、今は違う。ようやく、私達も、この世界の方達と本当の意味で関わることのできる余裕を持つことが出来たのです。
だからこそ、私達はその先を目指したいのです。この世界の方達から、より多くのことを学び、そして私達のことも伝えていきたい。
そのためにも、ぜひ、私たちと交流して頂きたいのです」
熱を込めて言った俺に、長老たちは少し黙っていたが、
「……我々と交流、ですか……そこまで、我らの価値を認められると?」
僅かに、本人達も気づいていない自信なさげな響きを滲ませ訊いて来るので、
「もちろんです!」
思いっきり本気で力強く、俺は言い切った。
「貴方達には、素晴らしい価値がある! だからこそ私達は、貴方達との交流を望むのです!
この先の未来を共に発展するためにも、ぜひお願いします!」
すぐには応えは返ってこなかった。けれど、僅かに迷うような間を空けて、
「……そこまで言われると、面はゆいですな」
「我らとて、それだけ言われて、意固地になるつもりもない」
「……色々とありましたが、確かに将来を考えれば、悪くは無い」
「前向きに、検討させて頂こう」
こちらの提案に、応えてくれるように返してくれた。
「ありがとうこざいます! では、早速ですが、まずは私達の元に、出向という形で来て頂きたい方が居られるのですが、ご助力をお願いできますか?」
「それは、かまいませんが……多少急すぎですな……」
「誰を、望まれるのか?」
「まずは、カルナ殿と、彼と懇意にある若い魔術師の方達をお願いしたいのです」
「カルナ、ですかな?」
僅かに疑念の眼差しをカルナに向ける長老に、俺は続ける。
「はい。カルナ殿とは、この場で既に話させて頂きましたが、照明用の魔導具の生産権利を買い取らせて頂く話をさせて頂いていました。それを推し進めるためにも、カルナ殿と、彼と親しい若手の魔術師たちの助力が必要なのです」
「……それほどまでに、照明用の魔導具に御執心なのですか? カルナの作り出したそれは、確かに安価に作れますが、それでも庶民には高い買い物になる。その上で、耐用年数が数年では、とても手が出るものでは……」
長老の懸念も一理ある。カルナから聞いた話から推測しても、一つに付き金貨5枚程度は掛かる。元の世界だと、ちょっと高めのテレビを買うぐらいの価値だ。
それで数年で壊れます、となっては堪らないって話だ。
とはいえ、それはそれで色々とやりようがあるってなもんである。
「ご心配いただき、ありがとうございます。ですがそれに関しても、幾つか考えております。その実現のためにも、まずは大量生産を行う必要があるのです。交流で来て頂く、若い魔術師の皆さんには、それに対する助力もお願いしたいのです」
自分で言っててなんだけど、若い労働力を食い潰すブラック会社の社長みたいなので、気を付けたい所だ。なんて思ってると、
「なるほど。色々と考えがあるようだ。確かにそれなら、若い魔術師の方が適任でしょう。幾らでもお使い下さい」
「さよう。若い内は、苦労させねばならん」
「良き経験になるじゃろう」
「我らの若い時も――」
長老たちは、なぜだか自分達の苦労話をし出す。
(うわぁ、なんか思ってたけど、本人たち自覚なしでブラック経営者だな。全体的にそういう社会体制なんで、長老たちだけが悪いとは言えないんだけど。
……うん、ウチに若い魔術師の子達が来たら、やさしくしてあげよう……)
などと、心の中で決意しながら、俺は続けて言った。
「ありがとうございます。では、すぐにでも私達の元に派遣をお願いします。
その代償として、一つご提案させて頂きたい事があるのですが、よろしいですか?」
「代償、ですか?」
「はい。交流が目的ですが、それと同時に御助力いただく以上、それに見合った物はお返ししたいのです。
先日、私たちが新しく作る街の資材購入の打診をさせて頂きましたが、その買取りを、市場価格の2倍でさせて頂きたいのです」
「に、2倍……!」
「そ、それは……街を一つ作るだけの資材では、相当な額になるが……」
「構いません。あるだけ全て買わせて頂きます。これは、特許制度に伴ういざこざで、貴方達の権益を損ねた謝罪の意味も込めております。ですので、今回の買取りで出た利益は、私たちの活動で不利益を被った方達に優先で行き渡るようにもお願いしたいのです」
元々これは、以前から考えていた事だ。
自分達の権威を高めるためにも進めた特許制度だけど、それで被害を受けた所は確実にある。
先々のことを考えて、そういった所で受ける恨みは払っておきたかったのだ。
俺たちが直接、そういった所を見極めて援助していくというやり方もあるけれど、これだと勢力拡大に動いているように取られかねない。
下手をすれば、それで軋轢を生む可能性も高い。
なので、間に入って調整してくれる所が欲しかったのだ。
そこまでのことを、長老たちが察してくれたのかは分からないけれど、
「……承知した。ヒイロ殿の望まれる通り、我らも可能な限り便宜を図ろう」
長老たちは、こちらの申し出を受け入れてくれた。
そこに続けて、俺は付け加えるように言う。
「ありがとうございます。ここまで便宜を図って頂き恐縮なのですが、更にもう一つ、お願いできますか?」
「……なんですかな?」
身構える長老に、俺は続けた。
「魔術協会から買い取らせて頂く素材ですが、恐らくすぐに足らなくなると思います。その後は、市場などから調達する事になるかと思いますが、これでは一般に出回る資材の価格が一時的に跳ね上がりかねません。ですので、市場から新たに確保することなく、あくまでも今ある素材の在庫のみ、2倍の価格で買い取らせて頂く、という形にして頂きたいのです」
「……なるほど、それは確かに……我々としても、市場での素材価格の乱降下は望む所ではありません。その御提案、受け入れさせて頂きましょう」
「ありがとうございます。今回の提案は、あくまでも市場価格の乱降下を防ぐことが目的ですので、すでに資材を確保されている魔術師の方達がおられましたら、そちらから資材を前もって集めることは含みません」
「ほぅ……それはつまり、魔術協会だけでなく、こちらが選んだ魔術師から資材を集めることは止めないと、そういうことですかな?」
「はい。私達が魔術協会から、資材の買取りを始めさせて頂く期日までに、集められた資材に関しては、すべて市場価格の2倍で買い取らせて頂きます」
魔術協会だけじゃなく、そっちの仲の好い魔術師個人にも美味い汁を吸わせるよ!
端的に言うと、そういうことをいま俺と長老は話し合っている。
なんか時代劇でよくある、お代官と越後屋みたいな会話だけど、こういう部分も上手くやっていかないと世の中回らないので仕方ない。
長老たちは、慣れた感じで話を合わせてくる。
「よく分かりました、ヒイロ殿。しかし、買取りの開始時期に関しては、まだ話に出ておりませんが、いつなら良いですかな?」
「お任せします」
ここは全力で丸投げする。欲張られ過ぎると問題だけど、今までの話し合いで、長老たちはその辺りの線引は巧いと期待して任せてみた。すると、
「2週間、待って頂けますかな。それまでには確実に、巧くまとめてみせましょう」
「助かります。では、お任せします」
俺の応えに、長老たちの間に弛緩したような空気が広がる。それを読んで、俺は最後に一つの要求をねじ込んだ。
「最後に一つだけ、お願いできますか?」
終わったと思った所に追加で来たので、長老たちがぎょっとする中、俺は続けて言った。
「カルナ殿から、直接資材を買い取ることをお許し願いたいのです」
「カルナから、ですか……」
「はい。カルナ殿には、これから照明用の魔導具などで、若い魔術師を集めて頂き協力して頂きますが、それらに関わる費用を捻出して頂く為にも、なんらかの形でこちらからも協力させて頂きたいのです」
「……つまり、そちらに出向する魔術師の報酬は、カルナを通して貴方がたが払いたいと、そう仰られるのですな」
「はい、その通りです」
人材派遣はして貰うけど、給与払いはこっちでするね。
簡単に言うと、こうである。
(さて、どう出るかな?)
こちらの申し出は、向こうとしても利がある。
なにしろ、自分達で若手魔術師の報酬を払わないで良いのだ。
それはそれで、自分達の権威が損なわれると思うかもしれないが、若い魔術師であれば構わない、と思ってくれるかもしれない。
実際、長老たちはそう思ったようで、
「承知した、ヒイロ殿。そちらに直接関わる魔術師に関しては、こちらは一切かかわらぬ。費用面でも、命令上に置いてもだ。
ただし、あくまでも今、カルナに関わっている若い魔術師のみにして頂きたいが」
くぎを刺しつつもこちらの要求を飲んでくれた。
(好しっ! こちらの望み通りになった!)
表情には出さず、俺は心の中で思いっきり拳を振り上げる。
それぐらい、こちらの望み通りになった。
(これも全部、魔物が襲ってくれたからだな)
この件が無ければ、ここまでスムーズに物は進まなかっただろう。
(これが、魔物で襲ってきたヤツらの目的だったりして……)
ちらりと思うが、それはそれ。仮にそうだとしても、こちらはその思惑を飲み込んで、更にやりたい事を進めるだけだ。
(転んでもタダで起きる気はないからな。利用できるモノは、何でも利用させて貰うよ)
未だ見えない敵対者に挑むように想いながら、俺は長老たちと更に話を詰めていった――
――その日から2週間後。俺たちは自分達の街になる予定地に行く事になるんだけど、その時には予想以上の障害が発生してることを、この時の俺はまだ知らなかった。
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43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
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山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
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拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
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しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
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※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
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仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
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「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
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