転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

文字の大きさ
60 / 115
第一章 街を作る前準備編

18 転んでもタダでは起きないよ その②

しおりを挟む
「それは、どういう意味なのか……?」

 探るように訊いてくる長老の一人に、俺は静かに返す。

「そのままの意味と受け取って下さい。私達は、今回の件で痛感しているのです。自分達だけでは足らない力を、貴方達からお借りするべきだと」
「……随分と、卑屈な事を言われる……魔王殺しの勇者殿の言葉とは思えませんな……我らの力が、必要か?」
「はい。ぜひ」

 即座に力強く返す俺に、長老は押し黙る。そこへ畳み掛けるように俺は言った。

「貴方達の力が、私達には必要なんです。どうか、お力をお貸しください」

 すぐには応えは返ってこない。じっくりと悩むような間を置いて、長老たちは返してきた。

「正直、信じられませんな。私達は、魔王を滅ぼせなかった。それを成し遂げた貴方達に、力が必要などと言われても……」
「本音を申し上げる。私達は今回の件で、貴方がたに利用される事を恐れているのだ」
「ただでさえ我らの権威は、魔王を滅ぼせず、そののち、貴方がたの推進した特許制度で権益を減らされることで、かなり下がっている」
「その上、ここでそちらの言われるままに力を貸すなど……」

 長老たちの言葉に、俺は実感する。確実に、魔術協会は自信を無くしている、と。

(……しまった。完全に失敗した……)

 今この場でのやり取りではなく、これまでの俺たちの行動の失敗を自覚する。

(もっと早く、魔術協会とは交流を持つべきだった……完全に、自信を喪失してる)

 魔術師、というよりは魔術協会の尊大さは普段から知っていたので、見誤ってしまった。
 
(ひょっとすると、魔術協会全体じゃなく長老達だけかもしれないけど、このままだとマズいな)

 過信を持たれても困るが、自信を無くされるのも問題だ。

(でも、まだマシか。本格的に手を組んでから気付いてたら遅すぎたからな。今の段階で気付けたのは助かる)

 俺は内心では冷や汗をかきながら、平静を装い返す。

「失礼ですが、貴方達はご自身を過小評価されている」

 本音を込めて、俺は続ける。

「貴方達が培ってきた歴史、そして人材。それらに支えられた技術と応用力。全て、私達にはない物です」

 何一つ隠さず、本心を口にする。今ここで必要なのは駆け引きじゃない。
 全力で口説き落すことだ。

「ハッキリと申し上げます。私達は貴方達の力が欲しい。
 ですがそれは、私達の下に就いて欲しい訳ではありません。
 むしろ逆です。貴方達には自主独立を保ったまま、私達に力を貸して頂きたい。
 私達が欲しいのは、共に手を携えることのできる同胞です」

 一言一言に想いを込めて、何一つはぐらかすことなく真意を告げる。
 それが俺たち勇者隊の本意だ。
 間違っても、奴隷や思い通りになる道具が欲しい訳じゃない。
 だから、俺は続ける。

「貴方達は私達に恐怖を感じると言われる。
 だが私達は、貴方達を称賛しているのです」
「……称賛?」

 窺うように聞き返す長老に、俺は力強く返す。

「当然です。貴方達は、私達がもたらした変化を乗り切った。
 素晴らしい事です! 容易く出来ることではない。そして今も、組織を崩壊させることなく維持している。
 これだけのことを成し遂げて、称賛しない訳がありません!
 私達は皆、貴方達の力量と在り様に、敬意を払っているのです!」

 褒める。とにかく褒める。褒めて褒めて褒めまくる。
 嘘は一つも口にはしない。心から想っている事だけを口にして、褒め続ける。

 そうでもしなければ、こちらの本意は伝わらない。
 いま俺は、自分達の手を取って貰うために必死なのだ。
 そんな相手を、褒めないでどうする。

「私達は貴方達の力を求めています。どうか、ぜひ、お願いします」

 深々と頭を下げ、心から頼む。
 それぐらいしか、今は出来ないのは情けないけれど、出来る事は何でもしてやる。
 みんなから交渉役として信じて託されているんだ。
 絶対に、長老達には、こちらの話を聞いて貰う。

 その意気込みが、少しは伝わって貰えたのか、

「……それは……本気で仰られているのか……ヒイロ殿」

 まだまだ距離を取るような慎重な声で、長老は応えてくれた。だから、

「はい! 心から、そう思っているのです!」

 俺は真っ直ぐに視線を合わせ、力強く返した。
 長老たちの間に、迷うような気配が滲む。
 それを急かすことなく、じっと待っていると、長老たちは少しだけ距離を縮めてくれるように、言葉を返してくれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...