転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

文字の大きさ
81 / 115
第二章 街予定地の問題を解決しよう編

4 すたこらさっさと逃げますよ その② 嫌な事に気が付いた

しおりを挟む
「気にしなくても大丈夫ですよ、デミウルゴス」

 魔物に強力な新種が出た原因が、俺たち勇者と魔王との戦いにあると口にしたデミウルゴスに、俺は軽い口調で返す。

「それはそれ、これはこれってヤツですよ。あの時は、どのみち、ああするしかなかったんですし」
「そうなのだ! だからデミウルゴスが気にする事は無いのだ!」
「事前に気付けなかった自分達のせい、とか言うなよ。神だからって、何でもかんでもできるって訳じゃないんだし。自分達が出来ないことをするために、俺達をこっちに喚んだんだろ? だから、まぁ、今も俺達に頼っとけ」
「……そうか」

 俺や出雲、そして八雲の言葉に、デミウルゴスは涙ぐむ。
 とりあえず、自分達を責めることは止めたみたいだけど、しめっぽくなっちゃったのはしょうがない。

 なので雰囲気を変えるために、気楽な声で言ってみる。

「なにはともあれ、アレを排除しなくちゃ街は作れないんだし、まずは対策を考えていこう」
「対策ねぇ。どうするの? 魔王の時みたいに、爆弾作って吹っ飛ばしちゃう?」

 俺の声に合わせるように、気楽な声で返した薫に、デミウルゴスが応える。

「それは、止めた方が良いだろう。というよりは、あまり勇者たちが本気を出して戦わない方が良い」
「どういうことです?」

 俺の問い掛けに、デミウルゴスは考えを纏めるような間を空けて返してくれた。

「今回の新種の魔物だが、ほぼ間違いなく、魔王と勇者の戦いが影響して発生している。勇者という、それまで存在しなかった強力な存在。それに対抗するために、魔物は自らを進化させたのだ。だから、ここで更に勇者が強力な力を振るえば、それに対抗するために、魔物は更に強力に進化しかねん」
「なんか、害虫駆除みたいだな。強い殺虫剤使って駆除すればするほど、より強力になった害虫がはびこるってヤツ」
「そんな感じかも……」

 八雲の言葉に、俺は頷く。
 今シュオルの中にはびこっている魔物を排除するだけなら、正直どうとでもなるんだけど、そのために手段を選ばず強力な手を使えば、後々しっぺ返しを食らうのが目に見えている。
 だから必要なのは、これ以上魔物が進化しない程度の戦力で、魔物を排除できる力だ。

「勇者っていう、強力な『個人の力』が使えない以上、残っているのは平均的な個人の力を巧く運用する『集団の力』なんだけど……」

 あいにくと、そんな都合の良いものは持っていない。
 俺達がこちらの世界に来て10年。
 必死に頑張ったけど、だからって、そんな短期間で軍隊みたいな物を持てる余裕なんてどこにもない。
 それ以前に、そんな物を持ってたら、王政府に喧嘩を売るようなものだし。
 どうしたものか? と悩んでいると、五郎が言った。

「どっかから、借りるしかねぇんじゃないか?」
「……それしかないよね。問題は、どこから借りるかだけど」
「王政府の奴らにやらせれば良いんじゃない? 元々、あそこの魔物をどうにかするのは、あいつらの仕事だった筈なんだし」
「それはそうだけ……あっ!」

 薫との会話で俺は、ようやく一つの事に気付ける。

(馬鹿か、俺は。もっと早く気付け!)

「どうしたのよ。いきなり叫んで」

 訝しげに聞く薫に、俺は返した。

「……王政府の奴らなんだけど、多分、知ってたんじゃないかな。シュオルに強力な魔物が居ることを」

 俺の言葉に、皆は一瞬無言になる。そして、

「そうよ! あいつら知ってたに決まってるわよ!」
「言われてみれば、そうじゃな……」
「……だな。あいつらの性格の悪さ、甘く見てた」
「知ってたくせに、こっちには教えなかったってことっすか……やりかねないっすね、あいつらなら」

 皆は口々に、王政府に向かって文句を言う。
 それを耳にしながら考えをまとめていた俺は、更に嫌な考えに辿り着く。

「ねぇ、もしかしてなんだけど……強力な魔物が発生して来たから、俺達にあそこの運営をぶん投げて来たってことじゃないかな……それだと、色々とつじつまが合うし」

 またしても皆は無言になる。そして、

「それだー!」
「嫌、もう! あいつら信じられない! 絶対そうに決まってるわ!」
「ふっ、ふふふふ……イイ性格しとるのぅ、あいつら……殺す」
「ここまできたら、そうとしか思えないっすね」

 完全に敵対モードで王政府の悪口を口にする。
 ちなみカルナとミリィは、聞いちゃいけない事を聞かされたというように、表情が強張ってたりする。
 俺は小さくため息をつきながら呟く。

「魔王の呪いさえなければ、菊野さんにシュオルの状況を覗いて貰って、こうならずに済んだんだけどなぁ……」

 魔王との戦いの時、菊野さんには神与能力チートスキルを使って、シュオルと魔王の周辺を調べて貰っていたんだけど、戦う直前に気付いた魔王が「遠隔視でシュオルを見ることを阻害する」という呪いを街全体に掛けたのだ。
 そのせいで未だに、菊野さんでさえ現地に訪れないと、遠隔視でシュオルを見ることは出来ない。

 魔王戦の時は、逆にそれが幸いして、シュオルに入ったこちらの動きも魔王に察知されずに済んだので良かったけど、今では完全に邪魔な呪いでしかない。
 その解呪のために、薫には来て貰ってたんだけど、新種の魔物のせいで解呪するどころじゃなくなったのは、正直かなり痛い。

 とはいえ、無い物ねだりしてもしょうがない。手元にある札で勝負するしかないんだ。
 それが嫌なら、手札を増やすしかない。

「とりあえず、屋敷に戻ったら、王政府に事情を聞きに行く事にするよ。対策は、それからにしよう」

 俺の提案に、みんなは頷いてくれた。

 そんな事があった次の日。
 早速俺は、王政府の元に訪れていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...