転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

文字の大きさ
82 / 115
第二章 街予定地の問題を解決しよう編

5 王は真っ黒です その①

しおりを挟む
 シュオルを訪れた次の日。謁見を申し出た俺に、王は許しを与えた。

「それで、如何なる用件で来たのか。元勇者隊ヒイロよ」

 その声には、疑問の響きは無い。
 玉座に座り、俺を見下ろすような眼差しで、確認するように言った。
 俺は王の声の響きに、心が冷えていくのを感じながら返していく。

「昨日、元魔王都市シュオルに、私と他の勇者で訪れました。その際、現地にはびこる魔物と接触し戦いとなりました」
「ほう、それは難儀であったな。それで、倒したのであろうな」
「いえ、叶わず逃げ出しました」

 王の周囲がざわめく。魔王を殺した勇者の1人である俺の口から出た言葉とは信じられなかったのか、疑いと怯えが入り混じった気配が滲む。
 けれど、王は僅かたりとも揺らがなかった。
 平然とした口調で、攻めるために問い掛けてくる。

「遺憾である、ヒイロよ。魔王を殺した汝らの力をもってしても、倒せぬ魔物であったのか?」
「いえ。あのまま留まり戦えば、可能でした。ですが、不測の事態と判断し、一時撤退を行いました」
「不測とは? 汝らほどの者が、予測しえなかったとは、よほどのことであろうな」
「こちらが予測していた魔物より、強力な魔物でした。また、その魔物は、他の魔物を支配下に置き指揮する能力を持っていると思われます」

 ざわめきが更に広がる。
 それを耳にしながら、変わらず王は平然と言った。

「まるで魔王のようであるな」
「はい。恐らくは、我らが倒した魔王、あるいは眷属の在り様を真似て、発生した新種の魔物だと思われます」

 ざわめきが、一瞬止まる。 
 それは恐怖のせいだ。
 かつて王都を蹂躙した魔物の軍勢。
 苦痛を与える、という魔物の本能に従い、死者こそ少なかったものの、大勢の人達が傷を負わされた記憶は、まだ残っている。
 この場に居る貴族たちは比較的安全だったとはいえ、その恐怖から逃れられたわけでもない。

「な、なぜ、何故そんな物が居るのだ! 魔王とその眷属は、お前達が倒したのではないのか!」

 王の傍に居ることを許された大貴族の1人、ブロシェ大公が引きつった声を上げる。
 王政府の財務に関わる彼は武官ではないが、魔王が現れるまでは勇猛さで知られていた人物だ。
 その勇猛さが祟って、魔王の眷属が率いる魔物の軍勢が攻めて来た時には私兵を率い戦って、全滅させられた人物だ。

 死者は無く、けれど無傷な者など一人たりとも無く。
 ブロシェ公は、両手足を身動きできぬよう固定された上で、下の奥歯を砕かれ続けたと聞いている。

 その豪胆さから、今では日常生活を送るのに問題は無いらしいが、それでもその時の恐怖を忘れた訳ではないだろう。
 だからこそ、俺を責めるように声を荒げる。

「お前が! お前達が! すべて倒したというから、私は……私は……」
「倒しました。全て」

 はっきりと俺は言い切る。
 この場に居る誰もが安心してくれるよう、力強く、俺は続けた。

「断言します。魔王は既に存在しません。その眷属も、尽くを滅ぼしました。
 たとえまた、現れたとしても、我ら勇者が倒します。
 我らが神々に懸けて、誓います」

 ここで揺らぐ訳にはいかない。
 恐怖に囚われた人々に勇気を与える。
 それが勇者だ。それを望まれて、俺達はこの世界に召喚された。

 葛藤もあったけど、今ではそれを俺たちみんなが受け入れている。
 だから、誰もが安心し、勇気を持てるように、力強くなけりゃいけないんだ。

 その想いが、少しは伝わってくれたのか、周囲のざわめきが静まる。
 けれど、それを掻き乱すように、王は言った。

「ヒイロよ、汝の言葉、疑う訳ではない。
 確かに、汝ら勇者は、魔王とその眷属を滅ぼしたのであろう。
 だが、それは過去の話だ。いま新たに表れた脅威の話ではない。
 だからこそ、我は王として問おう。
 ヒイロよ。汝ら勇者たちは、新たなる脅威に、どう対処するつもりだ?」

 空手形を切らせるように、王は俺に問い掛ける。
 まるでこの世すべての責任が、俺達にあるかのような物言いだ。 
 自分達の責任は、知らぬとばかりに投げ捨てて。

 だから俺は、攻め返すように問い掛けた。

「お答えする前に、一つお聞きしたい事があります」
「許す。言ってみよ」
「我らにあの土地を下賜される前は、王政府直轄地でした。
 だからこそ、今まであの地にはびこる魔物の対処は、王政府が行われていた筈です。
 どうやって、今まで対処されていたのか、お聞きしたい」

 今までとは違うざわめきが走る。
 それは、王の意図を読もうとするざわめきだ。
 先ほどまでの恐怖と怯えではなく、損得に彩られている。
 そのざわめきを斬り裂くように、自信に満ちた声が響いた。

「もちろん、我らが倒し続けていました。一匹残らず、勇猛果敢に」

 声は、王のすぐ傍から。
 傍らに居ることを許された1人。
 王直属の近衛軍団長である、アガト大公の声だった。

「何の問題も、ありませんでしたとも」

 どこか揶揄するように、金髪碧眼の美青年であるアガト公は、続けて言った。
 それを聞いて俺は、

(ヤロー。最初っから、こっちをハメる気だったな)

 王を見詰めながら確信した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...