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第二章 街予定地の問題を解決しよう編
5 王は真っ黒です その③
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「お断りします」
笑顔で俺は、アガト公の申し出を断った。
(あ、顔が引きつってる。割と腹芸が下手だな)
俺に断られるとは思わなかったのか、それとも断られるにしても、もっと穏当な返事だと思っていたのか。
アガト公は、笑顔に固まったまま言葉を無くす。
そこに、俺は畳み掛けた。
「果断なる申し出、まことに痛み入ります。ですが、わざわざお手をわずらわせる必要はありません。我々に、対応する術はありますので」
ちなみに嘘です。でまかせです。
ハッキリ言って、昨日シュオルに行って、新種の魔物の事を知ったのだ。
そんなすぐに、どうこう出来る方法を思いつける訳がない。
一応、勇者のみんなには連絡をして、どうにか良い考えがないか頼んでいる。
それに神々も、現世に訪れていたデミウルゴスに変わって、魔術神マゲイアが訪れ、彼の勇者のみんなと一緒に対応を考えてくれている。
けど、具体的な対応策は、まだ出来ていない。
大雑把な素案なら、近い内に出来るだろうけど、それ以上は無理だ。
この状況で、王政府の持っている戦力を断るのは痛い。
元々、いま俺が王に謁見しているのは、手を借りようと思って来ていたのだ。
ついでに、新種の魔物のこちらへの報告の不備やら何やらを、突いてやろうと思っていたのだけれど。
でも、最初っからこっちを陥れる気満々の相手が、こっちの言うことをまともに取り合う訳もない。
なにかあったの? へ~、ふ~ん。知らん知らん!
そんな塩対応されるのが関の山だ。
そもそも魔物の駆除自体、してたかどうかも、今となっては怪しい。
そんな相手に助力を頼めば、何をされるか分かった物じゃない。
一時的な兵の受け入れでは終わらず、半永久的に、兵を俺達の街に在中させる可能性さえある。
そこからじわじわと、こちらの自治に手を伸ばし、植民地化でもされたら冗談じゃない。
だから、王政府の手を借りるという手段は、すでに無い。
それ以外で、どうにかしないといけないんだ。
(とはいえ、どうしよう?)
頭の中で目まぐるしく考えていると、俺の考える猶予を奪うように、王は問い掛けてきた。
「ヒイロよ。我が軍団の力を借りずとも、問題に対処できることは分かった。
だが、具体的にどうするのだ? 答えよ」
有無を言わさぬ声で、王は言った。
はぐらす事は許さぬという、気迫が感じられる。
これは、答えなければならないだろう。
下手にとぼければ、そこから更に食いついてくる可能性が高い。
なにより、ここで舐められたらマズい。王だけでなく、他の重鎮達も居るのだ。
弱い所を見せる訳にはいかない。とはいえ――
(さて、どう返すか?)
幾つかの考えの内、一番可能性の高い物を思い浮かべる。
ただ、それを口にして、この場でどういう反応が出るかが怖い。
とはいえ、他に良い考えがある訳でもないので、それを口にした。
「魔術協会の皆さまの力を、お借りします」
俺の言葉に、今までにないざわめきが走る。
それは、旧勢力から生まれたものだ。
だから気付く。魔術協会とパイプを繋ごうとしていたのは、旧勢力だと。
俺達が王政府から、街を作るように命令されたのを魔術協会が知っていたので、王政府のどこかとパイプを繋いでいるのは分かっていたけど、この場でのざわめきから考えると旧勢力だったとしか思えない。
(ここまで想定してやがったな、王の野郎)
ざわめきを耳にしながら、俺は心の中で毒づく。
恐らく、王の考えとしてはこうだろう。
俺達が王政府の協力を求めたなら、兵を派遣し、そこから俺達の街の実質的な権限を侵食する事で力を付ける。
そうでなかったとしても、俺達が協力を求められる先は限られている。
魔術協会に助けを求め、両者の関係が深まれば、必然的に旧勢力との結びつきは弱まり政敵の力を削ぐことに繋がる。
どう転ぼうが損をしない。
そんな、したたかな考えで動いているように思えた。
そこまで思いついたので、俺は腹をくくる。
「此度の謁見は、それをお伝えするための物です。余計な混乱が起らぬよう、前々からの考えを、お伝えしたく参りました」
堂々と、前々から考えていたことを伝えるように、俺は言う。もちろん嘘だ。
交渉事をやっていて思うのは、基本的に人は言葉の内容よりも、話す相手が誰かや、態度で判断する。
どれだけ嘘くさかろうが、自信を持って言われた事に、人は弱いのだ。
実際、この場の空気は、俺の話の真偽を確かめることよりも、この後どう動けば一番得かという、損得勘定が広がっていくのが感じられる。
新勢力に付くべきか、それとも旧勢力との縁を繋いでおくか。
俺たち勇者の目論見に乗るのか、あるいは魔術協会を抱き込むのか。
それぞれがそれぞれの立場で、この後どう動くかを算段している。
そんな空気が広がる中、王は俺に言った。
「ヒイロよ。汝が言葉、理解した。では、シュオルの件、変わらず汝ら勇者に任せて良いのだな?」
「はい、委細変わりなく」
俺は、挑むように王に返した。
「シュオルの街は、我々が、治めてみせます。お任せください」
「許す。良きに計らえ」
見下ろすような王の眼差しを受け止めながら、俺は頭を下げた。
さて、これかどうしようと、考えながら。
笑顔で俺は、アガト公の申し出を断った。
(あ、顔が引きつってる。割と腹芸が下手だな)
俺に断られるとは思わなかったのか、それとも断られるにしても、もっと穏当な返事だと思っていたのか。
アガト公は、笑顔に固まったまま言葉を無くす。
そこに、俺は畳み掛けた。
「果断なる申し出、まことに痛み入ります。ですが、わざわざお手をわずらわせる必要はありません。我々に、対応する術はありますので」
ちなみに嘘です。でまかせです。
ハッキリ言って、昨日シュオルに行って、新種の魔物の事を知ったのだ。
そんなすぐに、どうこう出来る方法を思いつける訳がない。
一応、勇者のみんなには連絡をして、どうにか良い考えがないか頼んでいる。
それに神々も、現世に訪れていたデミウルゴスに変わって、魔術神マゲイアが訪れ、彼の勇者のみんなと一緒に対応を考えてくれている。
けど、具体的な対応策は、まだ出来ていない。
大雑把な素案なら、近い内に出来るだろうけど、それ以上は無理だ。
この状況で、王政府の持っている戦力を断るのは痛い。
元々、いま俺が王に謁見しているのは、手を借りようと思って来ていたのだ。
ついでに、新種の魔物のこちらへの報告の不備やら何やらを、突いてやろうと思っていたのだけれど。
でも、最初っからこっちを陥れる気満々の相手が、こっちの言うことをまともに取り合う訳もない。
なにかあったの? へ~、ふ~ん。知らん知らん!
そんな塩対応されるのが関の山だ。
そもそも魔物の駆除自体、してたかどうかも、今となっては怪しい。
そんな相手に助力を頼めば、何をされるか分かった物じゃない。
一時的な兵の受け入れでは終わらず、半永久的に、兵を俺達の街に在中させる可能性さえある。
そこからじわじわと、こちらの自治に手を伸ばし、植民地化でもされたら冗談じゃない。
だから、王政府の手を借りるという手段は、すでに無い。
それ以外で、どうにかしないといけないんだ。
(とはいえ、どうしよう?)
頭の中で目まぐるしく考えていると、俺の考える猶予を奪うように、王は問い掛けてきた。
「ヒイロよ。我が軍団の力を借りずとも、問題に対処できることは分かった。
だが、具体的にどうするのだ? 答えよ」
有無を言わさぬ声で、王は言った。
はぐらす事は許さぬという、気迫が感じられる。
これは、答えなければならないだろう。
下手にとぼければ、そこから更に食いついてくる可能性が高い。
なにより、ここで舐められたらマズい。王だけでなく、他の重鎮達も居るのだ。
弱い所を見せる訳にはいかない。とはいえ――
(さて、どう返すか?)
幾つかの考えの内、一番可能性の高い物を思い浮かべる。
ただ、それを口にして、この場でどういう反応が出るかが怖い。
とはいえ、他に良い考えがある訳でもないので、それを口にした。
「魔術協会の皆さまの力を、お借りします」
俺の言葉に、今までにないざわめきが走る。
それは、旧勢力から生まれたものだ。
だから気付く。魔術協会とパイプを繋ごうとしていたのは、旧勢力だと。
俺達が王政府から、街を作るように命令されたのを魔術協会が知っていたので、王政府のどこかとパイプを繋いでいるのは分かっていたけど、この場でのざわめきから考えると旧勢力だったとしか思えない。
(ここまで想定してやがったな、王の野郎)
ざわめきを耳にしながら、俺は心の中で毒づく。
恐らく、王の考えとしてはこうだろう。
俺達が王政府の協力を求めたなら、兵を派遣し、そこから俺達の街の実質的な権限を侵食する事で力を付ける。
そうでなかったとしても、俺達が協力を求められる先は限られている。
魔術協会に助けを求め、両者の関係が深まれば、必然的に旧勢力との結びつきは弱まり政敵の力を削ぐことに繋がる。
どう転ぼうが損をしない。
そんな、したたかな考えで動いているように思えた。
そこまで思いついたので、俺は腹をくくる。
「此度の謁見は、それをお伝えするための物です。余計な混乱が起らぬよう、前々からの考えを、お伝えしたく参りました」
堂々と、前々から考えていたことを伝えるように、俺は言う。もちろん嘘だ。
交渉事をやっていて思うのは、基本的に人は言葉の内容よりも、話す相手が誰かや、態度で判断する。
どれだけ嘘くさかろうが、自信を持って言われた事に、人は弱いのだ。
実際、この場の空気は、俺の話の真偽を確かめることよりも、この後どう動けば一番得かという、損得勘定が広がっていくのが感じられる。
新勢力に付くべきか、それとも旧勢力との縁を繋いでおくか。
俺たち勇者の目論見に乗るのか、あるいは魔術協会を抱き込むのか。
それぞれがそれぞれの立場で、この後どう動くかを算段している。
そんな空気が広がる中、王は俺に言った。
「ヒイロよ。汝が言葉、理解した。では、シュオルの件、変わらず汝ら勇者に任せて良いのだな?」
「はい、委細変わりなく」
俺は、挑むように王に返した。
「シュオルの街は、我々が、治めてみせます。お任せください」
「許す。良きに計らえ」
見下ろすような王の眼差しを受け止めながら、俺は頭を下げた。
さて、これかどうしようと、考えながら。
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