望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ

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【14】夫の企み/ルシウスside

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ここはセルマ王国の王都。貴族街の一等地に位置するクラーヴァル公爵家のタウンハウスだ。

庭園のガーデンテーブルに向き合っているのは、当主であるルシウス・クラーヴァル公爵と妖艶な美女――。
ところがその美女は、醜く顔を引きつらせてルシウスに訴えかけていた。

「あぁもう、ルシウス様、聞いてください! わたくしのフラメ商会が魔塩取引から締め出されるなんて……! こんなの、おかしいと思うでしょう!? 我が商会は国内最大級の資産を誇る大商会だというのに!」

この『美女』の名は、ローザ・フラメ女伯爵。ルシウス・クラーヴァル公爵の恋人だ。
悔しそうに歯噛みしているフラメ女伯爵に、ルシウスは冷静な眼差しを向けていた。

「ローザ、落ち着いて話を聞かせてくれないか? 『魔塩の取引から締め出された』というのは、この新聞にも書いてある【六領同盟】の魔塩流通に関することかい?」

ルシウスが新聞『レ・セルマ誌』の一面記事を指さすと、悔しそうな顔でフラメ女伯爵はうなずいた。
「ええ、そうですとも……」

災禍の竜に汚染され、灼血土塗れになってしまった南部六領。
作物の育たない不毛の地と化していたそれら六領が、2か月ほど前に【六領同盟】なるものを結成した。ルシウスは新聞でそれを見て、「借金まみれの田舎貴族どもめ。仲良く心中するために、無意味な同盟を組んだのか」と見下していた。

しかしその六領同盟が先日、と発表したのだ。

セルマ王国で採れるはずのない魔塩の製法を、彼ら六領の領主たちが発見したと新聞には報じられている。しかし彼らはその製法を機密としており、王家のみには忠誠のあかしとして開示したらしい。


フラメ女伯爵はヒステリックな声で言った。
「六領同盟は今、魔塩の流通体制を整えていますわ! フラメ商会も、もちろん買い付けるつもりでしたの。……でも、まさか交渉どころか、取り付く島もなく追い返されるなんて!!」

六領同盟は、認可を与えた商会だけにしか魔塩を売らないと表明している。現在は複数の商会と交渉を重ね、取引先を選定している最中らしい。
しかし、フラメ商会は交渉のテーブルに着くことさえできずに追い返された――。

「なにが六領同盟よ、生意気な!」

取り乱すフラメ女伯爵のことを、ルシウスは冷めた目で眺めていた。
(おそらく六領同盟は、社会貢献性の高い優良商会を選定する方針なのだろう。フラメ商会は大手だが、悪辣な経営手腕で有名だからな)


「ああ忌々しい……! きっと、復興支援のための貸し付けを断られたのを根に持っているのね!? 没落直前の貧乏貴族への貸し付けなんて、断るに決まっているじゃない。こっちは公益事業じゃないんだから!?」

ルシウスは静かに思いを巡らせていた。
(ふむ……いったいどうやって魔塩を作り出したのやら。汚染土まみれの田舎者どもめ)

商機ビジネスチャンスがあるのなら、もちろん自分もあやかりたい――それがルシウスの本音である。しかし、フラメ商会は使えなそうだ。

(裏でこっそり傭兵でも雇って、南部六領に潜入調査させるか? 魔塩の製造場所を突き止めて技術者を誘拐し、尋問にでも掛ければ製法を暴けるかもしれない。……しかし、王家が六領同盟を支援しているとなると、そういった不法行為は危険だな)

裏で汚いことをして、もし国王に知られたら――。
そう思うと、あまり過激なことはできない。国王にとってルシウスは、『優秀で信頼できる甥』なのだから。

「――うむ」

どうにかして、自分も魔塩特需にあやかりたい。どうするべきか? そのときふと、ルシウスの頭にヴィオラのことがよぎった。

(ああ、そうだ。ヴィオラはノイリス伯爵家の娘じゃないか。ノイリス伯爵家は、六領同盟の盟主だ。……これは使えそうだ)

思えば3か月前に夜会に呼び出したあと、領主邸に戻ったヴィオラとは一切接触を持っていない。夜会の席で【不貞騒ぎをでっちあげる計画】が失敗に終わり、その後ヴィオラとの接触は避けてきた。

フラメ女伯爵との共謀に関する証拠は一切残していないから、ヴィオラがルシウスを糾弾することはできない。夜会以後のヴィオラが気丈な態度に豹変したのは意外だったが、「どうせ虚勢を張っているだけだろう」とルシウスは甘く見ていた。

(よし。久々にヴィオラと接触してみるか。盟主の娘ヴィオラを有効活用すれば、魔塩特需に食い込めるに違いない)
そう思い至って、ルシウスはほくそ笑んだ。

(何の役にも立たない小娘との結婚を国王陛下から命じられて、不満で仕方がなかったが。思いも寄らないところで、利用価値が生まれたな)

利用価値ができたなら、今後はヴィオラの食事に薬を盛るのはやめよう――ともルシウスは考えた。

(料理人のトマス・ベッカーに連絡して、「あれ」の使用を中止させよう。まかり間違ってヴィオラに死なれたら、計画が台無しだからな。これまでは、死んだら死んだで構わないとも思っていたんだが……)

などと思っていた、そのとき。

「旦那様。失礼いたします」
家令が静かにルシウスのもとへ歩み寄り、用件があると告げてきた。
ルシウスはその場にフラメ女伯爵を待たせ、家令とともに執務室へ向かう。

「――それで、用件とは?」
「実は、こちらの書状がヴィオラ奥様宛に届いておりまして……」

差し出された書状を見て、ルシウスは目を丸くした。

「これは、王家の封蝋印じゃないか。なぜ王家の書状が、ヴィオラ宛に?」

差出人には、国王の名が綴ってある――何の用件だかまったく見当がつかないが、これは間違いなく重要な書状だ。開封して手紙の中身を確認してみよう。

ヴィオラ宛の手紙だとしても、構うものか。あんなものは所詮お飾りの妻、私の所有物だ)

やや緊張しながら手紙の封を開けたルシウスだったが――。文面に目を走らせるうちに、顔に笑みが刻まれていった。

「ほぅ。これは面白いことになった。ヴィオラが……そうか、」

陰湿な笑みを浮かべると、ルシウスは家令に命じた。

「馬車を用意してくれ。私は今から自領に戻る」
「今からでございますか? かしこまりました。しかし……本日はフラメ女伯爵閣下と観劇のご予定では?」

ルシウスは冷ややかに笑って答えた。
「そんなものは適当な理由を付けて延期すればいい。私はこれから、ヴィオラに会いに行かなければならないからな」
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