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第10話
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ズドドドッ! と槍がまるでゲリラ豪雨のように、魔獣達に降り注ぐ。その光景は見る人の顔を引きつらせるのに十分なものだ。
現に、これをおこなっている才華を除いた雫に美鈴、魔獣たちは空を覆うほどの槍に顔を引きつらせていた。しかし、そんなの知らぬとばかりに槍は魔獣を襲う。
「ギャンッ! 」
「グオオオ! 」
魔獣たちは自らの血を撒き散らして踊る。
あるものは槍にくし刺にされ、あるものは足に受けた傷で動けなくなったところをさらに降ってきた槍に貫かれと、あっと言う間に死屍累々とした地獄が出来上がった。だがそれでも槍の雨は止まない。
すでに息絶えた魔獣に次々と槍が突き刺さる。グサ、グサっとそんな生々しい音が響き渡るなかで運良く、槍の雨の範囲外にいた魔獣たちは一歩二歩と後ずさりしていく。
殺戮を好み、知性が低い魔獣でもさすがにあそこは危ない! と感じているのかも知れない。
幸い、槍の雨はその範囲を広げることがないようで、魔獣たちはせめてもと才華達に威嚇をする。
「「「グルルル! 」」」
しかし、その魔獣の威嚇は才華たちには、正確に言えば雫と美鈴には届かなかった。雫と美鈴はそのあまりにグロテスクな惨状に、顔をそむけて口に手を当てていたのだ。
これは日本に生きてきた血生臭い事と無縁な高校生として、当たり前な反応だ。いや、このなかで吐かなかっただけでもまだマシな方と言えるだろう。
そんな2人に魔獣の相手をしている余裕はない。
才華は吐き気を必死に堪えている2人を見て、あちゃーっと額に手を当てた。
「こういうのは早めに経験した方がいいと思ってやったんだけど、まだ早かったかな? 」
「うっ こういうことってどういうこと、よ。」
「才華さん、もしかして私たちに耐性をつけようと? 」
雫は恨めしげな目を才華に送り、美鈴は雫と同様の目を送りつつも疑問をぶつけた。
才華はそれに頷く。
「そうだ。これからこの世界でやっていくとすれば、生き物を殺すことに戸惑うのは危険すぎる。こいつらみたいな危険生物から、盗賊なような悪党までがいるような世界でそれは命取りになるからな。」
そう、この世界は元の世界と比べて危険が多い。
魔獣、聖獣、盗賊、人族、勇者このように才華達に害を及ぼすであろうものたちは挙げればきりがない。
そこで才華は早い段階で雫と美鈴に、その時が来たら戸惑わないように死に対する耐性をつけておいて貰おうと思っていたのだ。
才華は”死”なんてもうなんとも思っていないので、本来であればこのようなことはする必要がない。しかし、才華はこの短い間で雫と美鈴を死んで欲しくない人たちという位置づけにしていた。
それ故の才華なりの心遣いがこれだ。
とても伝わり辛い心遣いだったが、それはどうやら雫と美鈴に届いたようで……
「才華さん…… 私やるわ。神器を止めてください。」
「気持ち悪いけど、やるしかないわね。覚悟を決めるわ。」
雫と美鈴は逸らしていた顔を再び地獄へと向けた。
でもやはり気分は悪いようで顔は真っ青、とても普通の状態とは言えない。
才華は2人のその姿を、なにを思っているのか数秒見つめた。
そしてふっと視線を外し、雫、美鈴と同じく前を向く。
「分かった。今から止めるけど、これを止めたら俺は手を出さないからな。」
雫と美鈴は才華の突き放すような言葉に頷く。
「そのくらい百も承知よ。それに私、これでも剣道でインターハイ行っているんだから、よ、余裕だわ。」
「私だって、祖父から格闘技を習っていたから大丈夫。護身程度だけど。」
「それじゃあ行くぞ? ほい。」
才華は2人の心の準備が整ったと判断して、指を鳴らす。
すると、降り注いでいた槍がピタリと止んだ。しかも、魔獣や地面に深く突き刺さっていた槍までもが、まるで霧のようにすーっと消えた。
魔獣達はそれを見て、驚きの表情を浮かべた後、才華達に威嚇しながら慎重に近づいていく。
ここで逃げるという選択を取らないのは仲間を殺した才華への復讐心からか、それともただ単に才華達たちを殺したいという欲求がそうさせているのか分からないが、魔獣達はしばらく才華達を睨みつけ、やがてチャンスだと思ったのか一部の魔獣が襲いかかる。
「グオオォォォ! 」
そのうちの一匹が雫に牙をむき出しにして飛びかかった。
鋭い牙が喉を噛み切る、そのところで雫が魔獣の顔面をガシッと鷲掴みにした。
雫はギリギリと音が聞こえるほどの力で魔獣を持ち上げている。
「あんた達が襲ってこなければこんなことには、ならなかったんだからね。恨まないでよっ! 」
雫は持ち上げていた魔獣を後ろから密かに忍び寄っていた魔獣にぶつける。
「「ギャンッ! 」」
魔獣たちは情けない悲鳴を上げた。雫はそれを聞いて顔をしかめながらも、腰を落とす。
拳と拳を合わせ、まるで刀を抜くような姿勢をとる雫。
そして、口震わせさせながら、言葉をつむいだ。
「《我に切れぬものなし》」
雫はそう言ってからなにも持っていない手を握るようにしたまま振り切る。
すると、途端に先ほどまで呻いていた魔獣たちの鳴き声が止んだ。
魔獣たちは時が止まったように動こうとしない。
才華達の周りを囲んでいた魔獣が一体どうしたんだろうか? と思い始めていると、止まっていた魔獣が動きを見せた。
ーー首が地面に落ちる形で。
現に、これをおこなっている才華を除いた雫に美鈴、魔獣たちは空を覆うほどの槍に顔を引きつらせていた。しかし、そんなの知らぬとばかりに槍は魔獣を襲う。
「ギャンッ! 」
「グオオオ! 」
魔獣たちは自らの血を撒き散らして踊る。
あるものは槍にくし刺にされ、あるものは足に受けた傷で動けなくなったところをさらに降ってきた槍に貫かれと、あっと言う間に死屍累々とした地獄が出来上がった。だがそれでも槍の雨は止まない。
すでに息絶えた魔獣に次々と槍が突き刺さる。グサ、グサっとそんな生々しい音が響き渡るなかで運良く、槍の雨の範囲外にいた魔獣たちは一歩二歩と後ずさりしていく。
殺戮を好み、知性が低い魔獣でもさすがにあそこは危ない! と感じているのかも知れない。
幸い、槍の雨はその範囲を広げることがないようで、魔獣たちはせめてもと才華達に威嚇をする。
「「「グルルル! 」」」
しかし、その魔獣の威嚇は才華たちには、正確に言えば雫と美鈴には届かなかった。雫と美鈴はそのあまりにグロテスクな惨状に、顔をそむけて口に手を当てていたのだ。
これは日本に生きてきた血生臭い事と無縁な高校生として、当たり前な反応だ。いや、このなかで吐かなかっただけでもまだマシな方と言えるだろう。
そんな2人に魔獣の相手をしている余裕はない。
才華は吐き気を必死に堪えている2人を見て、あちゃーっと額に手を当てた。
「こういうのは早めに経験した方がいいと思ってやったんだけど、まだ早かったかな? 」
「うっ こういうことってどういうこと、よ。」
「才華さん、もしかして私たちに耐性をつけようと? 」
雫は恨めしげな目を才華に送り、美鈴は雫と同様の目を送りつつも疑問をぶつけた。
才華はそれに頷く。
「そうだ。これからこの世界でやっていくとすれば、生き物を殺すことに戸惑うのは危険すぎる。こいつらみたいな危険生物から、盗賊なような悪党までがいるような世界でそれは命取りになるからな。」
そう、この世界は元の世界と比べて危険が多い。
魔獣、聖獣、盗賊、人族、勇者このように才華達に害を及ぼすであろうものたちは挙げればきりがない。
そこで才華は早い段階で雫と美鈴に、その時が来たら戸惑わないように死に対する耐性をつけておいて貰おうと思っていたのだ。
才華は”死”なんてもうなんとも思っていないので、本来であればこのようなことはする必要がない。しかし、才華はこの短い間で雫と美鈴を死んで欲しくない人たちという位置づけにしていた。
それ故の才華なりの心遣いがこれだ。
とても伝わり辛い心遣いだったが、それはどうやら雫と美鈴に届いたようで……
「才華さん…… 私やるわ。神器を止めてください。」
「気持ち悪いけど、やるしかないわね。覚悟を決めるわ。」
雫と美鈴は逸らしていた顔を再び地獄へと向けた。
でもやはり気分は悪いようで顔は真っ青、とても普通の状態とは言えない。
才華は2人のその姿を、なにを思っているのか数秒見つめた。
そしてふっと視線を外し、雫、美鈴と同じく前を向く。
「分かった。今から止めるけど、これを止めたら俺は手を出さないからな。」
雫と美鈴は才華の突き放すような言葉に頷く。
「そのくらい百も承知よ。それに私、これでも剣道でインターハイ行っているんだから、よ、余裕だわ。」
「私だって、祖父から格闘技を習っていたから大丈夫。護身程度だけど。」
「それじゃあ行くぞ? ほい。」
才華は2人の心の準備が整ったと判断して、指を鳴らす。
すると、降り注いでいた槍がピタリと止んだ。しかも、魔獣や地面に深く突き刺さっていた槍までもが、まるで霧のようにすーっと消えた。
魔獣達はそれを見て、驚きの表情を浮かべた後、才華達に威嚇しながら慎重に近づいていく。
ここで逃げるという選択を取らないのは仲間を殺した才華への復讐心からか、それともただ単に才華達たちを殺したいという欲求がそうさせているのか分からないが、魔獣達はしばらく才華達を睨みつけ、やがてチャンスだと思ったのか一部の魔獣が襲いかかる。
「グオオォォォ! 」
そのうちの一匹が雫に牙をむき出しにして飛びかかった。
鋭い牙が喉を噛み切る、そのところで雫が魔獣の顔面をガシッと鷲掴みにした。
雫はギリギリと音が聞こえるほどの力で魔獣を持ち上げている。
「あんた達が襲ってこなければこんなことには、ならなかったんだからね。恨まないでよっ! 」
雫は持ち上げていた魔獣を後ろから密かに忍び寄っていた魔獣にぶつける。
「「ギャンッ! 」」
魔獣たちは情けない悲鳴を上げた。雫はそれを聞いて顔をしかめながらも、腰を落とす。
拳と拳を合わせ、まるで刀を抜くような姿勢をとる雫。
そして、口震わせさせながら、言葉をつむいだ。
「《我に切れぬものなし》」
雫はそう言ってからなにも持っていない手を握るようにしたまま振り切る。
すると、途端に先ほどまで呻いていた魔獣たちの鳴き声が止んだ。
魔獣たちは時が止まったように動こうとしない。
才華達の周りを囲んでいた魔獣が一体どうしたんだろうか? と思い始めていると、止まっていた魔獣が動きを見せた。
ーー首が地面に落ちる形で。
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