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第9話
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「美鈴っ! 美鈴っ! ねえしっかりしてよ! 目を開けてっ! 」
雫はグッタリとしている美鈴を抱き抱え、涙声でそう言った。顔は涙でグッシャリと濡れていて、とても人に見せられるものではない。
だが、雫はそのようなことは気にせずに、なにかに取り憑かれたかように自分の腕に抱いている美鈴を揺すり続ける。その甲斐あってか、目を閉じていた美鈴が目を開けた。
「美鈴っ! 」
「うる、さいわね。あなたの声がうるさすぎて、行くに行けないじゃない。」
美鈴は腕を震えさせながらも雫の頬に手を当てて、涙を拭う。
「美鈴ダメだからね! 絶対に死ぬことなんて許さないんだから! 」
「それは無理な相談ね。私にはもう時間がないの。
だから最後に1つだけ言わせて? 今までありがとう 」
美鈴は儚げに微笑んだ。その笑顔は今にも枯れそうな花が最後の輝きを放つようであり、とても綺麗なものだ。しかし、花はいずれ枯れる。そして、美鈴も……
美鈴の雫に当てていた手が、ダランと地面に垂れ下がった。
「嘘……嘘よ、ねえなにかの冗談よね? 美鈴? 」
雫は目を閉じた美鈴の顔に手を当てた。
すると、雫の手に美鈴の感触が伝わってくる。それはいやでも雫に美鈴が、死んでしまったことを分からせるには十分な程、冷たいものだった。
「いや、いや、嫌ァァァ!! 」
雫は叫ぶ、ただひたすらに叫び続ける。
なにも食べず、なにも飲まずただ、ただ……
美鈴が死んでしまったことをかき消すように、こんなこと認められないと世界に訴えるように。
だが残酷な現実は変わらない。いくら叫び続けても、美鈴の死は変わらなかった。
雫はいつしか叫び疲れてしまったのか、美鈴の上に横たわり安らかな顔を浮かべて、目を瞑っていた。
そして、雫は目覚めることはなかった。
ずっと、ずっと雫は目覚めなかった。
時は流れ、時代は巡り、誰も雫と美鈴のことを覚えていないそんなあるとき、雫と美鈴が最後まで共にいた場所に一本の大きな木が生えたという。
fin
「おい満足したか? 」
才華は目の前で折り重なって寝ている雫と美鈴の2人に呆れ顔で声を掛けた。
今まで才華は雫と美鈴の本格的な演技を見せられていたのだ。
最初は思い通りになるものかとやった行動だが、今では少しだけ、見ることにしてよかったと思わなくないとは本人の弁。
才華もまさか、ここまでのを見せつけられるとは思ってもみなかったらしい。
因みにナレーションは美鈴が腹話術でしていた。
それはともかく、雫と美鈴は才華に声を掛けられてモゾモゾと起き上がる。
「チッ! 最後まで突っ込まなかったか。やるわね。」
雫は立ち上がってパンパンと土ボコリを落とし、そう言った。
しかし、顔には悔しいといった表情は一切見受けられず、むしろやりきったという清々しさが伺える。
才華は思わずなんでだよ! と言いたくなってしまったが、堪えてうーんと背伸びをしている美鈴に目を向けた。
「それにしても凄い演技だったな。思わず見入っちゃったぜ。
見惚れるほどの完璧な腹話術だったぞ。」
「それはよかったわ。でも才華さんに突っ込んで欲しかったんだけどね。」
「いやだ。なんか負けた気がするからな。まあ、それはいいとして2人も神器の確認、したほうがいいんじゃないのか? どうやらお客さんららしいぞ? 」
「え……それって……」
美鈴が顔を強張らせているのをよそに才華は視線を上げて、辺りを見回す。
すると遠くの方にこちらを伺う影が見えた。
数は少なくとも20。
大きさから見て動物かそれとも、この世界特有の生物の”あれ”か? と才華が考えていると、隠れている必要がないと判断したのか、影が出てきた。
「「「グルルル」」」
そいつらは頭に2本の角を生やした全長3メートルを誇る巨大な、4足歩行の獣だった。
その獣はナイフのような牙を何本も生やした口に、鋭い爪を備えた強靭な四肢をしている。
見た目は角が生えた、巨大なオオカミといったところか。
どうやら、この世界特有の生物の方だったらしい。
「あ、あれはまさか。魔獣……」
雫は巨大なオオカミを見て、そう言葉を漏らした。
『魔獣』
邪神の世界において魔力を体に宿した凶暴な生物の総称。
性格は極めて残忍で、殺戮を何より楽しむ。
ちなみにこれとはまた別の聖獣という、体に聖力を宿した生物がいるが、これも才華たちの世界で有名なものとは異なり、残忍な性格をしている。
それはともかく、そんな魔獣が今才華達を取り囲むように何十匹と才華たちを見下ろしている。
才華はこの現状にニヤリと笑みを浮かべた。
「面白くなってきたじゃないか。雫、美鈴2人とも今すぐに神器を! 」
「「は、はい! 」」
雫と美鈴は才華の覇気を伴った声に押されながらも頷いた。
「「《我は邪神の使徒なり》」」
すると才華の時と同じように雫と美鈴の体を黒い霧が包んだ。
その霧はしばらくうごめいていたが、これまた才華の時と同じように黒い鎧の形状になった。
雫と美鈴は各々自分を包んでいる鎧を確かめる。
「これが神器なのね。凄い力を感じるわ。扱いきれるかどうか不安だけど。」
「ふ~ん 神器っていう感じがしませんね。
神器というより、魔具のほうが見た目的にいいと思うわ。」
「よし、神器を身につけたな。さて先陣は俺が切らせて貰うぞ。」
才華は2人が神器を身に纏ったのを見て、そんなやり取りをしている間にジリジリと詰め寄っていた魔獣達に目を向けた。
才華達と魔獣達の距離は大体100mあるかないかと言うところだろう。
才華達に流し込まれた知識の中に、この程度の距離であれば、魔獣は一拍も必要とせずに駆けることができるとある。
つまり、一瞬の油断が命取りになる。
そんな空気が張り詰める中で、才華はゆっくりとそれはもうゆっくりと手を挙げた。
魔獣達は状況に似つかわしくない才華の行動に目を奪われる。
なにをやっているんだこの人間はと。死にたいのかと。
そして、奴はバカなのだという結論に至った。
魔獣達は才華をあざ笑うように、口元を歪ませる。
それが自らの命取りだと知らずに……
「《槍よ》」
才華は大きくも小さくもない声で、そう言った。
その言葉は石を水に投げ込んだように戦場に広がっていく。
そして、才華達を囲むようにして槍が降り注いだ。
雫はグッタリとしている美鈴を抱き抱え、涙声でそう言った。顔は涙でグッシャリと濡れていて、とても人に見せられるものではない。
だが、雫はそのようなことは気にせずに、なにかに取り憑かれたかように自分の腕に抱いている美鈴を揺すり続ける。その甲斐あってか、目を閉じていた美鈴が目を開けた。
「美鈴っ! 」
「うる、さいわね。あなたの声がうるさすぎて、行くに行けないじゃない。」
美鈴は腕を震えさせながらも雫の頬に手を当てて、涙を拭う。
「美鈴ダメだからね! 絶対に死ぬことなんて許さないんだから! 」
「それは無理な相談ね。私にはもう時間がないの。
だから最後に1つだけ言わせて? 今までありがとう 」
美鈴は儚げに微笑んだ。その笑顔は今にも枯れそうな花が最後の輝きを放つようであり、とても綺麗なものだ。しかし、花はいずれ枯れる。そして、美鈴も……
美鈴の雫に当てていた手が、ダランと地面に垂れ下がった。
「嘘……嘘よ、ねえなにかの冗談よね? 美鈴? 」
雫は目を閉じた美鈴の顔に手を当てた。
すると、雫の手に美鈴の感触が伝わってくる。それはいやでも雫に美鈴が、死んでしまったことを分からせるには十分な程、冷たいものだった。
「いや、いや、嫌ァァァ!! 」
雫は叫ぶ、ただひたすらに叫び続ける。
なにも食べず、なにも飲まずただ、ただ……
美鈴が死んでしまったことをかき消すように、こんなこと認められないと世界に訴えるように。
だが残酷な現実は変わらない。いくら叫び続けても、美鈴の死は変わらなかった。
雫はいつしか叫び疲れてしまったのか、美鈴の上に横たわり安らかな顔を浮かべて、目を瞑っていた。
そして、雫は目覚めることはなかった。
ずっと、ずっと雫は目覚めなかった。
時は流れ、時代は巡り、誰も雫と美鈴のことを覚えていないそんなあるとき、雫と美鈴が最後まで共にいた場所に一本の大きな木が生えたという。
fin
「おい満足したか? 」
才華は目の前で折り重なって寝ている雫と美鈴の2人に呆れ顔で声を掛けた。
今まで才華は雫と美鈴の本格的な演技を見せられていたのだ。
最初は思い通りになるものかとやった行動だが、今では少しだけ、見ることにしてよかったと思わなくないとは本人の弁。
才華もまさか、ここまでのを見せつけられるとは思ってもみなかったらしい。
因みにナレーションは美鈴が腹話術でしていた。
それはともかく、雫と美鈴は才華に声を掛けられてモゾモゾと起き上がる。
「チッ! 最後まで突っ込まなかったか。やるわね。」
雫は立ち上がってパンパンと土ボコリを落とし、そう言った。
しかし、顔には悔しいといった表情は一切見受けられず、むしろやりきったという清々しさが伺える。
才華は思わずなんでだよ! と言いたくなってしまったが、堪えてうーんと背伸びをしている美鈴に目を向けた。
「それにしても凄い演技だったな。思わず見入っちゃったぜ。
見惚れるほどの完璧な腹話術だったぞ。」
「それはよかったわ。でも才華さんに突っ込んで欲しかったんだけどね。」
「いやだ。なんか負けた気がするからな。まあ、それはいいとして2人も神器の確認、したほうがいいんじゃないのか? どうやらお客さんららしいぞ? 」
「え……それって……」
美鈴が顔を強張らせているのをよそに才華は視線を上げて、辺りを見回す。
すると遠くの方にこちらを伺う影が見えた。
数は少なくとも20。
大きさから見て動物かそれとも、この世界特有の生物の”あれ”か? と才華が考えていると、隠れている必要がないと判断したのか、影が出てきた。
「「「グルルル」」」
そいつらは頭に2本の角を生やした全長3メートルを誇る巨大な、4足歩行の獣だった。
その獣はナイフのような牙を何本も生やした口に、鋭い爪を備えた強靭な四肢をしている。
見た目は角が生えた、巨大なオオカミといったところか。
どうやら、この世界特有の生物の方だったらしい。
「あ、あれはまさか。魔獣……」
雫は巨大なオオカミを見て、そう言葉を漏らした。
『魔獣』
邪神の世界において魔力を体に宿した凶暴な生物の総称。
性格は極めて残忍で、殺戮を何より楽しむ。
ちなみにこれとはまた別の聖獣という、体に聖力を宿した生物がいるが、これも才華たちの世界で有名なものとは異なり、残忍な性格をしている。
それはともかく、そんな魔獣が今才華達を取り囲むように何十匹と才華たちを見下ろしている。
才華はこの現状にニヤリと笑みを浮かべた。
「面白くなってきたじゃないか。雫、美鈴2人とも今すぐに神器を! 」
「「は、はい! 」」
雫と美鈴は才華の覇気を伴った声に押されながらも頷いた。
「「《我は邪神の使徒なり》」」
すると才華の時と同じように雫と美鈴の体を黒い霧が包んだ。
その霧はしばらくうごめいていたが、これまた才華の時と同じように黒い鎧の形状になった。
雫と美鈴は各々自分を包んでいる鎧を確かめる。
「これが神器なのね。凄い力を感じるわ。扱いきれるかどうか不安だけど。」
「ふ~ん 神器っていう感じがしませんね。
神器というより、魔具のほうが見た目的にいいと思うわ。」
「よし、神器を身につけたな。さて先陣は俺が切らせて貰うぞ。」
才華は2人が神器を身に纏ったのを見て、そんなやり取りをしている間にジリジリと詰め寄っていた魔獣達に目を向けた。
才華達と魔獣達の距離は大体100mあるかないかと言うところだろう。
才華達に流し込まれた知識の中に、この程度の距離であれば、魔獣は一拍も必要とせずに駆けることができるとある。
つまり、一瞬の油断が命取りになる。
そんな空気が張り詰める中で、才華はゆっくりとそれはもうゆっくりと手を挙げた。
魔獣達は状況に似つかわしくない才華の行動に目を奪われる。
なにをやっているんだこの人間はと。死にたいのかと。
そして、奴はバカなのだという結論に至った。
魔獣達は才華をあざ笑うように、口元を歪ませる。
それが自らの命取りだと知らずに……
「《槍よ》」
才華は大きくも小さくもない声で、そう言った。
その言葉は石を水に投げ込んだように戦場に広がっていく。
そして、才華達を囲むようにして槍が降り注いだ。
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