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第12話

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「あの、2人ともなにをやっているのかしら? 」

 美鈴はお互いの頬を引っ張り合っている才華と雫の2人を見てそう言った。
 2人の頬は美鈴が戦っている間にも攻防を繰り広げていたという証拠がしっかりと刻み込まれている。真っ赤に腫れた頬がなによりの証拠だろう。

「このバカの口にお仕置きしているのよ! 痛っ! 」

 美鈴の問いかけに答えた雫のホッペを才華はさらに引っ張った。

「俺はバカじゃないぞ! バカと天才は紙一重っていうだろうが! 」
「そういうことを言う奴ほどバカなのよ! あんたは無神経バカだわ! 」
「バカバカって言う奴がバカなんだよ! バーカ! 」
「自分もバカって言ってんじゃない! 」

 2人の口からはとめどなくしょうもない言葉が飛び出す。方や高校生、方や鬼才とは考えられない会話内容だ。もしかしたらこの2人は口喧嘩となると頭が小学生いや幼稚園児まで退化するのかもしれない。

「ほらほら2人とも、いつまでそんなことをやっているの? いい加減にここを移動した方がいいと思うけど。血の匂いでいつまた魔獣が来るかわからないわよ? 」

 美鈴はそんな2人に呆れながら、手をパンパンと叩く。
 才華と雫はその言葉を聞いて渋々とお互いの頬から手を離した。

「そう言われたら仕方ないな。今回だけは見逃してやる。」
「それはこっちのセリフよ。今回だけは見逃して上げるわ。」
「「ふん! 」」

 お互いに至近距離で睨みつけ合い同時にソッポを向いた才華と雫に、この2人仲良いなと思う美鈴だった。

---

 雲ひとつない青い空の下、みずみずしい草が太陽の光を反射している。そんな綺麗なエメラルドグリーンが目を引く草原を才華たちは歩いていた。
 才華たちが落下した場所から西に進んだところにこの草原はあるのだが、ここに着くまでに約2時間ほど歩いている。そうなるとやはり湧いてくるものがあるようで……

ーーグ~~

「あ、お腹なった。」

 才華がなんとなしに呟いた。才華はなにも考えずに口にしたのだろうが、その無神経な言葉は空腹の鬼を目覚めさせたようだ。

「悪かったわね! 仕方ないじゃない! お昼ご飯前にここに連れてこられて、お腹空いているのよ! 」

 雫は顔を真っ赤にさせて、声を荒らげた。どうやら雫があの音の犯人らしい。

「まあまあ、そんなにかりかりしてたらさらにお腹が空くわよ? 落ち着いて。」
「……分かっているわよ。そのくらい。」

 美鈴に言われて雫は才華にキッと鋭い視線を送ってから答えた。
 雫にもそれは分かっている。だがそれでも好きな男性にお腹の音を聞かれて恥ずかしい気持ちで一杯だったところに、その男性から『あ、お腹なった』などという言葉が出てきたらムカッとくると言うもの。
 そこにお腹が減っているイライラも加わるとその怒りは相当なものだ。
 抑えられなかったのだろう。

 それを美鈴も分かっているので、なんで怒っているのかまるで分かっていない表情を浮かべている才華に雫と同じく鋭い視線を送った。
 しかし、やはり才華は分からないのか首を傾げた。

「なんで2人してそんなに睨んでくるんだ? 俺なにかやったか? 」
「「いいえ、別に。」」
「ふ~ん 不機嫌なのは丸わかりなんだけど、まあいいか。提案なんだけど、空腹を紛らわす意味も込めて、それぞれの神器と加護を教え合わないか? 連携とかでそういう情報は必要だと思ってさ。」

 雫と美鈴は才華のその提案に視線を少し緩めて頷く。

「分かりました。確かに才華さんの言う通り情報の共有は必要だわ。」
「そうね、じゃあ私から。おっほんっ! 私の神器はこの黒い鎧と私以外には見えない刀よ。黒い鎧はあなたたちと同じものね。身体強化と魔力と聖力による攻撃を大幅にカットする能力が主なところかしら。

 そして、刀だけど、魔力や聖力で起こされた現象を切ることで完全に無効化することが出来るわ。あと私が直接触れたものと、その半径5メートル以内に目で見えるところからならどこからでも攻撃を加えることが出来るの。

 私に合っている神器と言えるかしらね。
 まあ便利過ぎる神器だからか知らないけど、魔法は使えないみたい。

 加護は身体能力の向上と戦闘の時に得られる経験を上げるものよ。あとは少しの魔力が付与されることね。

 私の神器と加護は以上よ。」

 雫はお腹をこっそりとさすりながら、自分の神器と加護の説明をした。才華と美鈴はほーっと驚いているのかいないのかよく分からない反応をする。反応が薄い、この2人を言葉で表すならこれがピッタリだろう。
そんな2人を見て雫は思った。

「やっぱり驚かなかったか 私はこれ結構強力だと思っていたんだけど、2人も同じようなのを持っているのよね。それは反応が薄いわけだわ 」
「いや、驚いてはいるわよ? ただ雫さんの言う通り私もそれなりの神器と加護だったからちょっと感覚がおかしくなっているみたい 」

 美鈴は頭をぽりぽりと掻く。
 才華はそれを黙って見つめていた。額に汗を掻き、そわそわとしている。動き回っている目がとても怪しいが、雫と美鈴は気づいていない。
 普段であれば、バッチャバッチャと激しく泳ぐ目を見逃す事はないが、ここに空腹から注意力が散漫になっている影響が出ているようだ。
 50mクロールを終わり、100mバタフライに移った才華の目をよそに美鈴は神器と加護の説明を始めた。

「じゃあ私も話すわね。私の神器は才華さん雫さんと同じ黒い鎧と、二丁の銃、デザートイーグル。

 黒い鎧は雫さんが説明してくれたから省くわ。肝心な銃の能力は私の魔力で銃弾を作ることが出来ること。これは例えば私が炎を思い描いて銃弾を作った場合、その銃弾は被弾したとき爆発するわ。威力は込める魔力によって大きくも小さくもすることが可能。

 加護で魔力を大量に付与されているから、正直どれほどの威力が出るか分からないわ。いろいろと実験する必要があるわね。

 加護は魔力だけだから、これで終わりね 」

 雫は美鈴の説明を聞いて、目を輝かせ飛びついた。

「ねえそれって魔法が使えるってこと!? 雷とか氷とか炎とかを出せるってこと!? 」
「え、ええそうよ。でも結構な制限があるみたい。この銃を使う以外では一切魔法を使えないようになっているの。
この世界の人はこんな制限、ないようだけど。なんでかしら? 」
「それでも凄いわよ! 魔法よ! 魔法! 夢じゃない! 」

 尋常じゃないはしゃぎ方をする雫。実は雫、子供の頃から魔法を一度でいいから使ってみたいなと思っていた結構なメルヘンな子である。そのメルヘンな子の前に魔法というものを持ってきたら、言うまでもない。
 美鈴は雫に言われてまんざらでもないようで、頬を少し赤らめながらすーっと視線を逸らした。

「そ、そうかしら。 でも才華さんの方が凄いんじゃない? もともとは才華さんを呼ぶためだったそうだし……」

 美鈴は雫の視線に耐えられなくなって才華に話題を移した。
 苦し紛れに行ったその行動。美鈴はなんら故意を持たずに行ったのだが、それをやられた才華は慌てふためく。

「い、いや! 俺のなんて全然あれだからな! 2人に比べたらカスだからな! よく言ってトントンだよ! ほんとこれマジで! 」

 声が裏返っている才華を雫と美鈴は怪しいとようやく気づいたようで目をジト目にし、ずいっと詰め寄った。

「才華あんたなに目で競泳大会開いてんのよ。吐きなさい 」
「今なら軽い罪ですみますよ? 」

 どうやら雫と美鈴の中では才華がやましいことをやったと確定しているようだ。
 才華はえ!? とあらぬ疑いをかけられて、慌てて手を横に振る。

「いやいや! やましいことしてないから! 誤解だから! 」
「ほんとかしら? 怪しいわね 正直にゲロっちゃいなさい 楽になるから」
「な、なるほど、ゲロを吐いてた人が言うと説得力があるな」

 才華はぎこちなく手をポンと打ってなるほどと頷いた。すると才華の顔のすぐ横を物凄い速度で拳が通り過ぎ、頬をかすめる。

「……あんたぶっ殺すわよ? 」

 雫は目に殺気を宿らせながらドスの効いた声で、言った。その目は雫の言っていることが本気だと分からせるには十分な程恐ろしいものだ。
 才華は顔を恐怖で引きつらせる。

「すいません! 冗談です! 冗談ってことゲロったんで許して下さい! 」
「死ねぇぇぇ! 」

 雫のアッパーカットは才華の顎に見事に直撃し、綺麗な放物線を描いて吹っ飛ばしたのだった。
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